初代DP-2は子供 |
2016年10月30日日曜日
2016年10月23日日曜日
190cmないと良いGKとは言えない
日本代表のハリルボジッチ監督は、「現代フットボールでは身長が190cmないと、良いGKとは言えない」という発言をして、論議が起こっています。実際、ヨーロッパの強豪クラブで活躍しているGKは190cm以上ですので、この意見は正しいと言えます。ただ日本のGKに当てはまるかというと。
先々週から暇を見つけて読んでいる本があります。「孤高の守護神 ゴールキーパー進化論」(白水社、2014)で著者はサッカージャーナリストのジョナサン・ウィルソンという方で、385ページという大著で、これほどGKだけを主題とした本は知りません。よくこれだけ調べたというのが率直な感想で、サッカーの始まりから現在までのGKの歴史、名選手、国によるGKの扱いなど、実に詳細に書かれており、さすがサッカー発祥の地、イギリスの作家だと思いました。
この本にはGKの身長について書かれているところがありますので、一部、抜萃します。
『「ゴールキーパーは身長183cmでなくてはならない。その身長なら強いという印象を与え、垂直、水平両方向の広い範囲を易々とカバーできる。その身長より低く小柄であることはハンディになる。反対にそれ以上あまり背が高くてどっしりした体型のゴールキーパーは、小柄で敏捷性のある相手に俊敏に走り込まれたり、低いシュートを打たれたりすると不利だ。そして若さが持つ敏捷性と、ベテランの賢さを合わせ持たねばならない」1906年のザ・タイムズ紙でリー・リッチモンド・ルースが書いたゴールキーパーの条件から、今もあまり大きく変わっていない。今なら理想とする身長を、あと七、八センチ足したほうがいいだろうが、本質的な部分では同じだ。ピーター・シルトン(注:イギリスの代表的なGK)は183cmで、近代サッカーが強迫的にとらわれる高身長にはこだわらなかった。「190cm以上ないといけないという説もあるが、個人的にはそうは思わない」と彼は言った。「196cmになると、183cm以下の選手より敏捷性があって、足がよく動くというわけにはいかない。ただ身長が低すぎるとこれまた困難だが、190cmを越える必要はない。」』
多くの名GKを輩出してイギリスの意見を反映しています。ここでイギリス人に平均身長を調べますと、177.6cmに対して日本人の平均身長は170.7cmです。ちなみにアジアでは韓国が173.7cm、 中国は172.1cmです。大体7cmくらい低いことになります。となると日本人では身長190c以上の男子の割合は非常に少なく、さらに瞬発力、反応能力はまでいれると、該当する人はほとんどいないことになります。であれば185cmくらいのGKで戦うしかありません。
ただ残念なことにアジア人は身長が低いだけでなく、手の長さも短く、「孤高の守護神」の本の中には、アジア人のGKとしてはオマーンのアル・ハブシしか取り上げられていません。アル・ハブシ選手は身長、194cmで、GKでも大型の選手です。日本のGKの歴史をひもとくと、メキシコ五輪で活躍した横山謙三選手は175cm、松永成立選手は180cm、川口能活選手は179cm、楢崎正剛選手が187cm、川島永嗣選手が185cmで、最近の西川周作選手が183cmとなっています。本では取り上げられていませんが、アジアで最も優れたGKはサウジアラビアのデアイエと思っています。デアイエの身長は188cmで、ヨーロッパの強豪クラブに行かなかったので取り上げられていませんが、その反応、瞬発力は驚異的です。
最初に戻りますが、確かにGKの身長は高い方が有利でしょうが、世界最高のGKであるスペインのイケル・カシージャス選手の身長が185cmであることを考えると、185cm前後の日本のGKでも正確なポジショニングと反応性、広い守備範囲を持てば、世界的なGKになれる可能性があります。多くの日本人フィールドプレーヤーが海外で活躍しています。ただ川口選手、川島選手のように海外に挑戦したGKもいますが、成功していません。言葉の問題だけでなく、GKの出番は正GKが怪我をしたといった緊急の出場に活躍し、その後も一回でもミスをしないという極めて厳しい条件がつきます。FWではイージーシュートを失敗しても誰も責めませんが、GKの場合は交代され、使ってもらえません。精神的な強さと頭のよさも現代のGKには求められています。
私は、名古屋グランパスの楢崎選手が好きですが、動画で示すシルトン選手の最後のシーンのようなセービングができれば、彼も世界で通用したと思っています。
私は、名古屋グランパスの楢崎選手が好きですが、動画で示すシルトン選手の最後のシーンのようなセービングができれば、彼も世界で通用したと思っています。
*「孤高の守護神」にはおもしろいエピソードがたくさんあります。笑ったのは、ノーベル物理賞をもらったニールス・ボアはデンマークの代表GKであったが、何でもないシュートを取り損ねた上、「数学的問題に熟考中」だったと打ち明けたので、代表メンバーから外されたという話や、カシージャスの母親が妊娠中、アパートの外で物乞いをしていた靴職人から「あなたの息子は偉大なゴールキーパになる。偉大なゴールキーパを輩出するバスクの殿堂に入るだろう」と予言された話などがあります。またGK出身の有名人には多くの知識人がいます。フランスの作家アルベート・カミュー、アンリ・モンテルラン、ロシアの詩人のウラジミール・ナバコフ、エフゲニー・エフトゥシェンコ、イギリスの作家コナン・ドイル、変わったところではチェ・ゲバラや教皇ヨハネ・パウロIIもいます。
2016年10月13日木曜日
横浜共立女学校 一期生のこと
2016年10月12日水曜日
矯正歯科の診断支援システムの開発を ビッグデーターの活用
前回、上顎前突の矯正治療ガイドラインについて述べたが、おそらく将来的にはこうしたガイドラインの作成よりは、コンピューターによる診断支援システムの方が主流となるであろう。
すでにアメリカで開発された人工知能による診断システム「ワトソン」のことがニュースでも取り上げられ、実際の医療分野での診断にも活用されつつある。こうしたビッグデーターを用いた診断支援は今後、ますます発展すると思われる。
もう30年ほどになるが、鹿児島大学名誉教授の伊藤学而先生が、全国の歯科大学矯正科のレントゲンフィルムを一元的に集めて、頭蓋骨形態のパターン化、成長方向、量の予想に役立てようとするシステムを作ろうとしていた。当時はビッグデーターのクラウド化もなかったし、画像分析をするためのコンピューター自体あるいはシステムも未熟で、何よりどこの大学も自分のところの資料を出すのをいやがったので、何時の間にか立ち消えになった。
矯正歯科では、患者が来れば、検査を行う。少なくとも初診時、治療終了時、保定2年後の側方頭部X線規格写真、写真、模型をとる。実際、レントゲン写真はもっと頻回に撮るであろうし、顎運動、筋電図、その他の機能検査も行う。こうしたデーターは一大学だけで、毎年数百名、全国で数千名、これまでのデーターを累積すると数十万名、さらに専門開業医の協力を得られれば、100万人単位のデーターを集めることは可能である。レントゲン写真について言えば、多少の拡大率は大学間で違うものの、ここ八十年以上は全く同じ、規格したサイズで撮られているおり、こうした同質の莫大なデーターは他の医療分野でも少ない。
また治療計画、経過、治療結果の検査データー(模型、レントゲン、写真)、学術論文を組み込むことで、診断ツールとしてはかなり精度の高いシステムが構築できる。例えば、男女、年齢(発達年齢)、レントゲン、模型あるいは写真を、メールで送ることで、今後の顎発育の予想、治療方針、治療結果などの類似ケース、文献を知ることができる。さらに上顎前突治療のガイドラインでも少し述べたが、個々の患者により治療に対する反応は異なり、そうした鑑別も容易となる。また今までのガイドラインではその根拠となる研究は多くて数百名、大概は数十名の対象であったの対して、こうしたビッグデーターを使うことで、数万人単位の比較研究ができ、より精度が高くなる。また法医学、人類学、形成外科にも活用が期待できる。
おそらく数十億円程度の研究費があれば、診断システムの開発はできると思われるし、そうした研究は世界でもあまりない。一挙に日本の矯正歯科学研究を進めることができるし、何より、我々歯科医だけでなく、患者にも役立つ。さらに言うなら、各大学とも過去の資料は捨てることはなく、どこかの倉庫に保存され、一部の研究を除いて、誰にも見向きもされずに眠っている。こうした資料をデーター化して活用することは、火事や地震による資料の喪失に対するバックアップともなる。
30年前と違い、こうした矯正治療資料などビッグデーターを活用するハード、ソフトは、かなり発展している。学会で新たなガイドラインを作ることも大事であるが、こうしたより次元の高い研究、調査を日本矯正歯科学会は目指すべきであり、ひいては矯正臨床の飛躍的な発達にも繋がる。各大学でもメンツがあろうが、近年の日本の矯正歯科学の世界的な後れを取り戻せる壮大な計画となろう。