2008年3月2日日曜日
ムーンシールド
昨日のテレビ番組(スマステーション)で最新の医療技術が特集され、矯正治療関連として見えない矯正治療としてクリアライナーと、あごの整形ができる治療?としてムーンシールドが取り上げられていました。
クリアライナーは以前このブログで取り上げたインビザラインのパクリで、原理はほとんど同じです。症例の適用範囲が少なく、また終日装着しなくてはいけないため、治療途中で脱落するひとが多いことを述べました。簡単な症例なら、こんな装置を使うより通常の矯正装置を使う方がよほど早くできますし、確実です。
ムーンシールドについては、これまで何度か開発者の柳澤先生の講演会や発表を見ることがありました。非常に紳士的で控えめな先生です。講演の中でもこの装置だけで治ると誤解しないようにと強調されているにもかかわらず、テレビではやはりこの装置だけで治るように伝えられていたことが残念です。当院にもこういった番組がある度に「ムーンシールドの治療していますか」といった電話がかかってきます。「していません」と答えるだけです。
ムーンシールドは、機能的矯正装置の一種です。反対咬合の患者さんの特徴として、上くちびるの中に押し込む力が強いこと、逆に下くちびるは弛緩していること、舌が通常の位置より低いことが挙げられます。上くちびるの力が強いため上の歯が中に入り、下くちびるの力が弱いため下の歯が前に出、舌の位置が低く、下あごを前に押し出すため、噛み合わせが逆になるというものです。ムーンシールドは上くちびるの力を排除し、舌を上に持ち上げ、下くちびるの力を強めることで反対咬合を治します。ドイツのフランケルというひとの開発したFRIIIという装置で概念は似ています。
当院ではこれまで800人以上の反対咬合の患者さんをみてきましたが、乳歯からの治療は積極的にはしていません。反対咬合の治療のポイントは成長が終了するまで安心できないことです。たとえ、乳歯で反対咬合が治っても、そのまま正常に発育するかという保証はありません。そうなると男子では5歳ころから18歳ころまで経過を見ていかないといけないことになります。乳歯列、混合歯列、永久歯列の三期に分けた治療計画が必要になってきます。これは患者および家族も結構飽きてくると思います。また乳歯列からの治療は、今のところ必ずしも成長が完全に終了した時点で効果があったか実証されておらず、むしろ早期に治療をしても、しなくても結果は同じだという研究の方が多いくらいです。柳澤先生の論文(インターネット上で閲覧できるもの、http://ejo.oxfordjournals.org/cgi/content/full/28/4/373#TBL1)でも症例数が少なく、今はやりのEBMに基づいた研究ではありませんし、6歳ころまでの評価しかしていません。柳澤先生もさらに長期の研究が必要としていますが、先に述べたように成長終了までのデータを集めるにはあと10年はかかるでしょうし、脱落も多いことでしょう。今後の研究を期待します。
ムーンシールドは既成品で商品単価も安く、矯正の知識がなくても使えるため今後、開業医の先生でも使うところも増えていくでしょう。ただこれだけは言っておきたいのですが、治った、治ったと喜んでいても、永久歯が生える時にはふたたび反対咬合になったり、でこぼこになったり、思春期成長を迎えるころにまた後戻りすることもあり、この装置だけで理想的な歯並びになることはかなり少ないと思えます。この装置だけで理想的な歯並びが獲得できるなら、みんな使いますし、矯正臨床で最もやっかいな問題が解決されたことになりますが、実際にそんなことはありません。まして外科症例になるような重度の反対咬合が乳歯列にこの装置で治しておけば、そうならなかったということは絶対にありません。
ムーンシールド、クリアライナーや同番組で取り上げられた3-MIX治療やオゾン治療にしても、テレビではおもしろ、おかしく報道されますが、そんな便利なものがあればみんなもう使っていると思いますし、使わないのは何らかの理由があるからでしょう。
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