2021年6月1日火曜日

最近の美術館について

奈良美智さんのこの作品には独特な雰囲気がある

工藤正市さんの写真はもはやアートである。


 青森県には2006年に青木淳設計の青森県立美術館、2008年に西沢立衛設計の十和田現代美術館、2020年には田根剛設計の弘前レンガ倉庫美術館、そして2021年には西澤徹夫設計の八戸市新美術館ができる。すべて現代アートの美術館で、ここ15年ほどで4つの美術館ができたことになる。すごいラッシュである。いずれの美術館の設計も、現代、日本で最も活躍している設計者によるもので、とりわけ田根剛はあまり日本に建築作品がないだけに、弘前レンガ倉庫美術館は田根の日本における作品としても注目されている。最近もフランス国外建築賞グランプリを受賞している。田根は過去にも“エストリア国立博物館”でも受賞しており、二度目の受賞となる。

 

 弘前レンガ倉庫美術館もコロナ感染下、二度ほど見に行ってきたが、正直に言えばあまり面白くなかった。昔、見た奈良美智の”A to Z”など、弘前のこのレンガ倉庫で行われた3部作の個展、これは全く違った世界に迷い込んだ奇妙な経験をした展覧会で、私の観た展覧会の中でもベスト10にはいるものである。これに比べると弘前レンガ倉庫美術館の展覧会は、これの数十分の一の感動しかなかった。一つには現代絵画は、一つの作品だけでは、なかなかインパクトを持つことができず、作家の世界のきちんと伝えるには、同じ作家の作品を多く見せる必要があるように思える。

 

 奈良の作品は一点でも、その少女の眼差しに引き込まれそうになるが、とりわけ”A to Z“展でレンガ倉庫二階に作った、少女のオブジェ(Gummi Girl)を暗闇の海に置いた大型の作品は、最高にすばらしい。どこかアフリカの沖合にこんな景色があるかもしれない。もう一つは、レンガ倉庫内にあったタイル部屋に大きな少女のオブジェがあり、上からの水滴が涙のようにオブジェを伝わり、涙のように悲しいと同時に艶かしいものであった。こうしたオブジェも奈良の作品では面白いし、展覧会でした会えない作品となっている。

 

 大正、昭和に日本の美術シーンを見ていると、当時、日本で人気のあった作者のうち、いまだに人気があり、高値で取引されている作者は本当に少ない。当時の作品の多くが掛け軸であったため、床の間のなくなった日本では、ますます人気がなく、中には昭和初期には今の価値で100万円以上していた作品が今では数千円で売買されているケースの多い。当たり前のことだが、大正、昭和のこうした作品は、当時の現代絵画であり、人気があったことを考えると、今の現代絵画が数十年後の何の価値も持たない二束三文の評価を得るようになっても驚くことではない。新規性、現代性は時代がたつと、陳腐化し、より古臭くなるのが一般的で、そうした意味では今のような現代絵画、作家を中心として美術館は将来的には厳しい。

 

 ここ半年、何度も見る写真がある。東奥日報の元記者、工藤正市さんが撮った写真を彼の子供がインスタにあげている。主として1950年代の青森市を中心に、その周辺を撮った作品集で、そのレベルは非常に高く、当時の津軽の雰囲気、季節、人々を圧倒的な迫力で伝えている。もはや個人の写真というよりは、全体としてアートと呼ばれるものであり、年配に方が懐かしいというレベルを超えて、コメントを見ると海外の方からのものも多く、普遍的なアートになっている。こうした一群の、数百枚の写真と著名は現代作家、仮に奈良美智さんでもいい、彼の一つの作品を比較すると、そのパワーや感動など勝ち目はない。そうした意味では、現代作家の作品もいいのだが、こうした工藤さんの作品を芸術作品としてきちんと管理、展示するのも大事であり、是非、弘前レンガ倉庫美術館として、いちど着手してほしい企画である。奈良美智さんの作品とのコラボも面白いが、一点では負ける。



この工藤正市さんのインスタは本当に楽しく、これぞ青森である。


https://www.instagram.com/shoichi_kudo_aomori/


 

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