2025年9月21日日曜日

大学病院の教授

 



大学教授というと、世間からは名前は知っていてもそれほど実態は知らない存在だと思う。とりわけ医学部、あるいは歯学部の教授は、それ以外の理学部、工学部、文学部などの教授とは全く違っている。高校の同級生にも、多くの大学教授がいるが、友人の理学部教授Nくんについて言えば、教室は確か教授1名、助手2名、そして大学院生が5名くらい、留学生が2名くらいであった。ゆるい上下関係はあったが、年齢差からくるくらいのもので、助手以上になると同じ研究者という関係であった。それに比べて、医学部、歯学部では、教授とぺいぺいの助手では立場が全く異なり、ほぼほぼ絶対服従の関係であった。基本的には教授に楯突くことはない。

 

私が直接、働いたことのある、研究指導してもらった教授は、小児歯科1名、生化学1名、矯正歯科1名、口腔外科2名であるが、同級生や後輩、友人も含めると、20名以上の教授についてはよく知っている。ほとんどは歯学部の教授である。

 

医学部、歯学部の教授の仕事というと、研究、臨床、教育と言われているが、それ以外の重要な仕事は管理能力、つまり研究費をとり、学会などで重要なポジションをとる能力も求められる。これら4つを完璧にこなす教授はおらず、2つあれば合格、3つあれば優れた教授といえよう。

 

ある教授は、臨床はあまりできなかったが、研究、管理能力が優れており、研究費を取ってくるのがうまかった。研究費が多いと研究成果も上がり、結果的には学会でも有名となってくる。大学の研究費は、科研費という国からに研究費で賄われるが、この仕組みを十分に知り尽くし、まず金になる研究テーマを選び、提出書類を徹底的に直す。さらに年度末になると、必ず文科省から余った予算を使い切らないといけないので、緊急の予算がつく。それに合して、大中小の予算の研究書類も即日出せるように準備していた。あるいは一般企業とのコラボ研究も盛んで、そこからも予算を取ってきたり、積極的に海外留学生を受け入れていた。最終的には学会の会長になったし、日本学術会議第7部の幹事もしていた。別の教授は、医学部の口腔外科というマイナー科でありながら副病院長になったり、各種の全国的な委員会に理事になったりした。こうした管理能力が上手であった。

 

一方、教育に長けた教授は、門下生の多くを教授にした。例えば、東北大学医学部の赤崎兼義教授は、病理学の大家で、多くの門下生が全国の医学部教授となって散らばっていた。私が鹿児島大学にいたときも、たまたま来られた東北大学歯学部口腔外科の教授が一緒に来いと、鹿児島大学の医学部に表敬訪問した。ここでも2名の教え子がいて、全国では相当いると言っていた。昔は、外科の先生は病理で学位をとる先生が多く、赤崎先生のもとで研究したのであろう。大阪大学の矯正科の作田先生も、その門下生の多くが全国の歯科大学の教授となった。人脈だけでなく、臨床、研究などバランスよく教えるのが上手な先生だったのだろう。また東京医科歯科の三浦教授などは、全国に国立大学の矯正学講座ができたときに大量の教授を送り出した。

 

最近では、教授選挙が、特に臨床教授については、教育、臨床、研究、管理のうち、臨床と管理能力を求められることが多く、あまり研究を重視されなくなった。昔は基礎研究だけして臨床は全くできない教授も多くいたが、今や大学病院も独立採算制となり、患者をたくさん呼べる先生を教授にしたい。アメリカでは、完全に基礎と臨床教授が別れていて、日本もそうした方向で進んでいる。一般病院から大学教授になるケースもあり、臨床重視の流れは主流になろう。そうした意味では、医学部、歯学部の大学院大学は、基礎で博士号を取らすという制度で、時間の無駄であり、全く意味を持たない。

 

昔であれば、医学部の外科教授になれば、薬のプロパーが出張費や飲食費を払ったり、果ては講演会を開いて多額の講演代を払ったり、患者からの謝礼、薬の治験など、税金のかからない副収入があったが、今はほとんどなくなった。国立大学の医学部教授と言っても収入はそれほど多くない。一方、アメリカでは、有名な医師になると比例して治療費が高くなり、医師本人の収入も多くなる。昔に比べて、お金の面での旨みはなくなり、下の医局員からの突き上げや、患者からのクレームなど、教授となっても苦労が多い。優秀な臨床医は、教授にならないで、開業するかもしれない。


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