2011年4月17日日曜日
仮設歯科医院
今回の大震災で、宮城県、岩手県の沿岸部を中心に多くの歯科医院が壊滅的な被害にあった。津波で医院自体が完全に流されたところもあるし、海水につかり医療機器が使い物にならなくなった所も多いと聞く。
震災から1か月過ぎ、少しずつだが、復興も始まっている。現地では、震災直後の外傷、骨折などの緊急性の高い疾患から、現在は慢性疾患の治療にニーズは移行しており、それに伴い地元の医療機関でも少しずつであるが、内科を中心に仮診察所を再開し始めた。
ところが歯科医院では、いまだ再開のメドが全く建っていない。というのは歯科医院では歯科用ユニットなど診療機器がないと治療は何もできない一方、コンプレッサーの配管や重量のあるユニットなどはすぐに設置できない事情による。もちろん金銭的な問題も当然ある。さらに沿岸部の町のように町全体が津波で流されたところでは、復興計画として町全体の移転もあるようなので、メドがたつまで簡単に元のところに診療所を再開することはできない。
仮設の診療所を作り、新たな町作りが決まった時点で新診療所をそこに建てるのが望ましいが、先に述べたように例え2、3年の仮設のものであっても、診療できる施設にするためには配管など本格的な工事が必要である。
現地では、入れ歯が無くなり、満足に食べられない老人も多い。そのため、青森の歯科医師もボランティアで避難所に赴き、そこで口の型を採り、後日新しい入れ歯を作ってきて装着しようという試みもなされている。2回の訪問で無くなった入れ歯を作ろうとするものである。ただ通常新しい入れ歯がそのまま使えるわけではなく、痛いところを削って調整する必要がある。場合によっては何度も調整しないと痛くて使えない。そういうことを考えると、歯科の場合も痛い歯を治す、抜くといった応急処置は、初期の派遣歯科チームによってある程度は出来るが、本格的な処置、大部分であるが、これは現地の診療所が開設されないとできない。また被災された歯科医院においても住民のニーズだけでなく、経営的な問題からも早期の再開を望んでいる。
ひとつの方法として、野戦病院の歯科診療所の形態が考えられる。テント内、プレハブ住宅にポータブルの歯科器材を持ち込み、そこを仮の診療所として機能させる。映画「マッシュ」でもそういった場面があった。ここで使われていた歯科ユニットがアメリカのエーデックのポータブル歯科ユニットである。基本的には電気があれば、動く。ひとつはケースに入っている機械を組み立て、自家発電で小型のコンプレッサーを動かして使用するもので、もう一つは分解はできないがコンプレッサーが内蔵しているタイプである。機械自体は非常に古いモデルで、すでに20,30年は全く変わっていない。逆にいうと数々の災害地、未開発国で活躍したもので、故障は非常に少ないと思われる。一種のミリタリー仕様となっている。持ち運び可能な訪問診療用小型歯科ユニットは国産のものを数多くあるが、実践での経験値は低く、劣悪環境下での故障が心配である。
椅子はどんなものでもいいかと思われるが、これもエーデックの折りたたみ歯科用椅子は頑丈にできており、重量のある患者さんにも安心して使えるものである。今回、ビデオをみて改めて折り畳み歯科用椅子とはこんなものだと感心した。
電気が通じていれば(なければ発電機)、安い小型のコンプレッサーとエーデックのポータブル歯科ユニットと椅子があれば、全く配管なし、水道なしでも治療可能である。新品の値段はわからないが、中古価格ではユニットが安い場合2000ドルくらい、椅子は900ドルくらいで、アメリカでネットで売っている。ただ日本では医療法の改訂に伴い原則的には中古の歯科ユニットは売ることができないし(メーカが完全のレストアし、保証したもののみが売ることができ、使用できるが、大変な手間と費用がかかるため、古いユニットがほとんど廃棄されている)、また廃棄されるため、すぐに中古の安いユニットが欲しいといってもメーカ自体には在庫がない。
こういった医療法については、被災した歯科医院では緩和してもらい、仮設診療所開設を希望する者には、アメリカを中心とした中古歯科器材社を通じて、格安の費用でこういった歯科ユニットなどを購入する方法を検討したらどうであろうか。比較的安い費用で、仮設でもいいから歯科診療所を作ることは、住民にとっても望ましいことだし、何より歯科医自身の復興の一歩となろう。義援金やボランティア活動も重要であるが、長期の復興を考える場合、こういった復興まで取りあえず、どうするかを考えることも必要と思われる。
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