2011年4月11日月曜日

津軽百年食堂



 映画「津軽百年食堂」が封切られたので、久しぶりに家内と映画館に行った。一緒に行ったのは「真夏のオリオン」以来だから、2年ぶりである。

 弘前に住んでいる私から見ると、あちこちに見知った風景が出てきて結構楽しめた。友人の薬局、結婚式場や、ついこの間倒産したデパートも登場し、後2、30年すると弘前の町並みを伝える貴重な映像になるかもしれない。

 一方、映画に対する地元の思い入れが強すぎたのか、弘前市が広告主となったCMのような案配となり、観光宣伝の側面が強い。もともとは違う監督が決まっていたが、急遽大森一樹監督に変更され、撮影された。十分に脚本が練られた訳でもなく、撮影準備期間も短いため、撮影は大変だったと思う。それでも何とかまとめた手腕はすばらしい。

 新幹線の駅は全国どこでも同じで、駅前からの風景もどうも似通っている。駅から降り、町にでると、初めてなのに、以前来たような錯覚を覚える。町のたたずまい、特に県庁所在地は、日本中で均質化されている。そういった点では、弘前は1970年代の、黒石は1960年代の日本の姿を留めていて、どこか懐かしいところがある。映画でも取り上げられた弘前桜祭りの情景、オートバイショーやお化け屋敷、民謡ショーなどは子供のころ近所の神社で見た光景で、今はそんなものはどこにも全く見かけないものである。同様に舞台となった「大森食堂」(三忠食堂)もセットではなく、今現在そのままの状態で、これも古い。東京、大阪などの都会から来ると、まずこういったノスタルジーなものに引きつけられるし、弘前にはあちこちにこんなものがあり、現にこの映画でも監督がここにはまっている。

 大森一樹監督は、六甲学院の27期で私が32期だから、文化祭などで高校生のころの作品は見たかもしれないが、思い出さない。先日、NHK BSで山田洋次監督が選ぶ日本映画100本で黒沢清監督の「トウキョウソナタ」を見た。黒沢清監督は31期で、この監督の処女作を文化祭で見たのははっきり記憶している。かなり大人っぽい作品であったし、何より驚いたのは女子高生を主役に使っていたことで、男子校でよく見つけてきたなあと思った。「トウキョウソナタ」とは言うものの、東京でもなさそうだし、どうも時代も今とは違うようで、もし黒沢清監督が「津軽百年食堂」を撮れば、百年後の食堂を描くかもしれないし、主人公が弘前のそばを大阪で売ろうとして失敗するような内容かもしれない。

 実を言うと、私自身はこの映画を見た後、紀伊国屋書店で買った「川島小鳥写真集 未来ちゃん」の方がよほど充実し、楽しめた。川島小鳥さんの写真は雑誌ブルータス(2010 12.15)で初めて知り、早く写真集が出ないかと待っていたのだが、こうやって手に入れると中身は濃い。確かこの未来ちゃんは川島さんの友人の子供で、佐渡島に住んでいる。本当にこれこそ田舎の家という設定で撮影されているが、その存在感は抜群で、画面のメインから外れていても、強い光線を放つ。もう少し年齢が高いと、多少は写真に撮られるという演技が散見できるが、ここにはほとんどそういった要素はなく、地のままの未来ちゃんが写っている。気持ちが明るくなる最高の写真集である。

 もしこの「未来ちゃん」のノスタルジックな世界が、映画で表現できたら、これは傑作となろう。写真集を見ていると、佐賀島を宣伝しているわけではないが、しっかりと佐渡島、あるいはそこに住む人々、家族が写されている。こういった感覚が映画「津軽百年食堂」で足りないし、感激が薄い理由かもしれない。おそらく大森監督も神戸を描かせれば、こういった感覚は写し込めたかもしれない。

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