前回の続きであるが、歯科大学が学生の国試対策に追われ、臨床研修に力を注ぎきれないのは、歯科医師免許という点から考えると、いたしかたない面もある。私立の場合、高い授業料をもらいながら、歯科医師になれないのであれば、それこそ父兄から叱られる。質の低い学生を教えるには6年間でも足りない。そこで医学部の研修医制度に便乗したのが、歯科の研修医であった。
もともと学生運動でも問題になったインターン制度というのが、医科ではあった。医師免許がなければ患者を見せられないので、医師免許取得後に患者を実際にみて経験を積むという流れによる。これは欧米の大学でも古くからある制度である。一方、歯科ではこういったインターン制度はなかった。歯科の場合、昔は教養2年間、専門4年間、さらに戦前では旧制中学校5年を卒業後に、4年あるいは5年(最初の2年は基礎医歯学教育、その後2、3年は臨床歯学教育)の歯科教育を受けた。つまり歯科教育は戦前の4、5年から、私達の世代の6年、そして今は研修医期間も含めて7年となっている。今は教養部がなく、1年目から専門教育がはいっているので、実質的にはさらに長くなっていると言えよう。
アメリカでは4年大学卒業後に歯科大学に入学することになる.歯科大学の4年間の最初の1、2年は基礎医学、3年は専門教育、4年は患者を配当され臨床教育となる.国試に相当するのは3年に上がる時と、卒業時にある。ペーパー試験であるが、必要なケース数が確保していないと大学が卒業できない。さらに働く場合は、州の試験を受ける。ここでの試験は実際の患者の治療を診査する。イギリスでは歯科大学は日本と同じく高校卒業後に入学でき、5年間の歯科大学教育(2年間の基礎教育と3年間の臨床教育)で約100名の患者を見る。ケース数は冠が20症例以上、歯内療法が20症例以上。ノルウェーの歯科大学は5年間、スウェーデンも5年間、ドイツも5年間で同じく数十名の患者を配当する。
日本では研修医制度を含めると、歯科教育は高校卒業の歯科大学の6年間と研修医の1年間の実質7年制度となっている。まあ7年もいるかなあとは思うが、問題は他の国の最終学年の臨床実習の内容および試験との比較である。歯科大学の研修医教育の内容については研修機関の多様さを反映して具体的な到達目標がはっきりしないし、第三者のよる終了試験はない。他国に準じるなら、この研修機関中にケース数を決め、患者を使った最終試験が課されるべきである。ただ厚労省には研修医に対して全国的な試験を課すような制度はなく、本来なら歯科大学に課されるべき責任を放棄していることになる。基礎科目、臨床科目の座学に6年、臨床実習に1年かけるとすれば、6年目の国家試験で知識のチェックを、研修医終了後に臨床技術のチェックをすべきであり、他国に準ずれば実際の患者を対象とした臨床試験が必要となる。おそらくはほぼ合格とはなろうが、プレッシャーになると思う。
比較的、研修教育が優れている広島大歯学部の研修医教育では、予防歯科は2ケース、保存は抜去歯でレジン充填が3ケース、レジンインレーが2ケース、アマルガム1ケース、メタルインレーが1ケース、臨床ケースでメタルインレーが2ケース、レジン充填が6ケース(前歯3、臼歯)、歯周科では歯髄保存が8ケース、歯髄除去が5ケース、感染根管治療が10ケース、知覚過敏が5ケース、歯周治療(初期治療)が5ケース、歯周外科が1ケース(介助2ケース)、その他、補綴についても点数制度を設けており、まずまず充実している。またマネキンを使ったものであるが臨床試験もある。一方、私立歯科大学については修得ケース数があまりはっきりせず、一部の歯科大学では研修医になっても見学が多い。少なくとも最低限のケース数は統一すべきであろう。ハーバード大学歯学部3年、4年生(最終)の最低履修ケース数はType1,2(初期治療、補綴物を含まない歯内療法、歯周治療な)が7ケース、Type3,4(補綴物を含む治療)が4ケース、Type5,6(部分床、全部床)が4ケースの計15ケースが最低履修ケース数で、20ケースになると優秀となる。形成、印象、製作のすべてを含むケース数で、指導教官のチェックを受けるとすれば結構大変であろう。
ここまで書いて、頭が混乱しているが、結局は臨床を重視した世界の標準的な歯科教育法にすることが必要であろう。実質7年の日本の歯科教育のレベルは4、5年の欧米、アジアに比べて最高のはずであるが?
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