以前のブログで「不動産Gメン滝島」を取り上げたが、この中で、以前、大手ワンルームマンション販売会社に勤務していた人がゲスト出演し、その闇について話していた。その中で、騙されてワンルームマンションを買わされた被害者の多くが、その加害者、営業担当者のことをいい人だったという。この不思議な現象について、元ワンルームマンション営業マンは、現役時代まったく悪いことをしていない、むしろお客様の利益になっていると信じているからだ。毎日、朝から晩までひたすら電話勧誘し、月に15件くらいのアポを取り、2、3ヶ月に一人、投資向けのマンションを買わせると年間1000−1500万円の収入になるので、詐欺をしているという感覚は一切ないと思っており、自信を持って客に勧めていた。
この構図は、なんだか、矯正分野におけるインビザラインの勧誘に似ている。一般歯科の先生、特に若い先生はインビザラインによる治療を診療項目の中に入れている。ところが矯正歯科専門医から見ると成人の不正咬合患者のうち歯を抜かなくても良い症例は全症例の10-20%で、他の80-90%は小臼歯抜歯や外科矯正などを必要とする。インビザラインでも抜歯症例も治療できるが、これは一部の先生ができることで、一般歯科の先生で、成人の抜歯症例をインビザラインで治療できる人はほとんどいない。つまりインビザラインによる治療は80-90%失敗することを意味する。
内科でも外科でも、あるいは眼科、耳鼻科、あらゆる医療において、80-90%が失敗する治療法を患者に勧めるのは犯罪であり、さらに高額な治療費を要求するのは詐欺である。日本臨床矯正歯科医会では、患者さんからのクレームを受け付けているが、近年ますます相談件数が増え、なおかつインビザランによるクレームが多い。多くの場合は治療が終わらない、あるいは思った結果が得られないなどで、通常のワイヤー矯正であれば解決する問題である。
それではインビザラインをしている先生は、自分が犯罪、詐欺を働いていると思っているかというと、最初に述べたワンルームマンションの営業マンと同じなのである。治療をしている先生は、全くひどい治療をしているとは思っていないからである。例えは難しいが、体操初心者が鉄棒で大車輪を成功すれば、大したものだと言われるし、自分でもすごいと思うが、これが全日本体操大会に出場となると、話にならないレベルである。開業医の先生がインビザラインで成功したという症例を日本矯正歯科学会の専門医試験に提出してください。多分、専門医の審査官からボロクソに言われ、しまいには即刻矯正歯科医を辞めなさいと言われるであろう。
結局は、どこをゴールにするかが決定的に違うのである。体操の鉄棒で、大回転をできるのをゴールにするのと、オリンピックのJ難度をゴールにするのとは違う。患者からすれば矯正歯科専門医で治療するのも一般歯科医で治療するのも同じと思うかもしれない。4軒の歯科医院、3軒の矯正専門医は抜歯しないと治療できないと言われたが、1軒の一般歯科医では歯を抜かない、インビザラインで治療できると言われれば、そちらで治療をするだろう。ところが3軒の矯正歯科専門医と一般歯科医のゴールは全然違うのである。一般歯科医はとにかく並べることをゴールにしており、口元の突出感やかみ合わせは気にしていない。歯科治療は医療であり、審美は対象にしていないと言う。口元の突出感のために健康な歯を抜くのはとんでもないと思っている。矯正歯科医は、修練期間を通じて、綺麗な歯並び、美しい口元、緊密な咬合を言われ続けるので、常のこの3つを中心に治療を考える。一方、一般歯科の先生は、患者の主訴がでこぼこだとすると、これの改善、綺麗な歯並びにすれば主訴は治った理解する。主訴が治ったのになぜ文句を言うのかと言うことである。
古い論文でタイトルは忘れたが、いろんな横顔のシルエット、鼻と顎の位置はそのままで、口元を入れた場合から口元が出た場合の数種類の白人、黒人、アジア人のシルエットを、一般男女、一般歯科医、矯正歯科医に見せて、どの横顔が一番綺麗かと調査をした。結果は、一般人、矯正歯科医はほぼ同じ、口元が少し中に入った横顔を選んだが、一般歯科医は少し口元が出ている横顔を選んだ。特に黒人、アジア人の場合はかなり口元が入った横顔を選んだ。
美の基準は地域や時代によって違うが、どうも白人顔が好かれるようで、鼻が高く、顎が少し出て結果的に口元が中に入っている顔が好まれる。そのため黒人、アジア人で矯正治療を始める患者さんの多くは、口元を入れて白人の顔に近づけたと思う。中国、韓国、べトナム、台湾では抜歯して口元を入れる矯正治療を行う。欧米に比べてアジアではインビザラインの普及は遅い。特に日本人では、でこぼこと口元の突出が同時にある場合が多く、非抜歯、インビザラインの適用は少ない、歯科経営コンサルタントが言うほどインビザラインの患者はいない。ところが一般歯科医では、口元を入れるという考えがそもそもないので、ディスキングをしてでこぼこが取れれば、多少、口元が出ても成功と考える。患者が、口元が出ていると言っても、そんなことない、気にしない、気にしないと相手にされない。そのまま患者は納得しないまま、矯正歯科医院を相談に行くと、これは上下顎前突で、治すのは小臼歯の抜歯とワイヤー矯正による約2年間が必要だと言われる。さらにここで非抜歯、インビザラインでは治らないと言われて、初めて最初の治療は間違いだったとわかる。以前、You-Tubeで患者の矯正日記というものが放送されていた。インビザライン、非抜歯での治療で、口元は全く変化していない。コメントでセファロの分析値を見せてもらい、上顎切歯とFH平面の角度が何度か教えてもらいなさいとコメントした。110度よりかなり大きければ、抜歯と再治療が必要だ。これは歯科国家試験でも出る内容のもので、もし主治医がこれを知らなければ、大学生の授業を持っていれば私はその学生を落とす。その後、この矯正日記は更新されていないが、多分、主治医はこうした単純なセファロ分析もしていないし、わかっていないのであろう。少なくとも矯正の単位を与えてはいけない学生であり、出身大学の矯正科の教授は反省すべきであろう。
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