私には、二人の恩師がいる。一人は鹿児島大学歯学部名誉教授の伊藤学而先生である。鹿児島大学歯学部矯正歯科講座で8年間お世話になった。私自身、多くの教授と知己があるが、中でも伊藤先生は飛び切りの教授であった。そのため日本矯正歯科学会長にも選ばれ、日本学士院会員にも選ばれた。地方の大学から学会長や学士院会員に選ばれることは少ない。
伊藤先生は、よく言われたことで今でも実践しているのは
1.仕事は早く終わらせ、次に回す
何か頼まれたりした場合、つい面倒で先送りすることがある。結局はしないといけない仕事なので、どんどん溜まっていく。さらに仕事が溜まっていくと忘れてしまう。そのため仕事があるとできるだけ早く終えて、次の人に回すようにしている。例えば、メールでの問いわせがあると、簡単でもいいのですぐに返事をする。大抵の場合はこれで終わるが、もう少し時間のかかる仕事でも、できるだけ急いで一週間以内に返事して終了するようにしている。一流企業の会社員はこうしたことに慣れているが、一番ひどいのは学者で、彼らは2、3週間くらいしてから返事をするのが普通と思っている人が多い。かなり長文の資料や著書を送っても、全く返事すらない学者が多い。
2.70%でいい
どんなことでも100%が良いということは少ない。伊藤先生によれば、多少問題があっても70%がよければやれという。実際に、医院経営をしていても、ごく少数者だが、お金を払わないままとんずらする患者がいる。ただこうした患者を基準に規則を作ってしまうと、ほとんどの患者には面倒なシステムとなる。100%を目指すのではなく、70%を目指す方が、楽だし、無理がない。生き方もそうである。
もう一人の恩師は、高校生の時に家庭教師をしてもらった、元龍谷大学准教授の松谷徳八先生である。
1.本を読め、映画を見ろ、そして旅行をしろ
勉強も大切であるが、学生時代にすべきことは、本をたくさん読み、映画もたくさん見て、そして一人で旅行しろ、その中でいろんな人物に出会い、また人生を経験する。確かに人生は一回きりであるが、本や映画の中で他人の人生を追体験することができるし、一人で旅行することで、その土地、海外の人々と交流できることは、社会人になった時の大きな財産となる。私の高校生の時に沖永良部島への旅行、大学生になってからにインド、中国の旅行は大きな影響を受けた。
2.とにかく行動せよ
昔、夏休み終わる頃に、突如、松谷先生から今から一人で旅行しろと言われた。もうすぐ学校が始まるというと、なぜ学校が始まるから旅行にいけないのだ、学校を2、3日休んでも何か問題があるのかと言われる。結局は面倒くさい、一人で旅行するのが怖いというのが実感で嫌がっていただけである。最後はお袋も行けというので、一人で神戸から船に乗って沖永良部、奄美に4、5日行ってきた。学校は2日休んだ。何かをやるときは結構勇気がいるが、実際に行動に移すとそんなにたいしたことがないことが多く、むしろ自分の中で行動に移さない心理的葛藤の方が強い。いまだに“とにかく行動せよ”というのは難しいことであるが、以前に比べると経験が多くなると行動する敷居は低くなる。そして“忙しいから”と答えることはできるだけしないようにしている。世の中、忙しいと言っても大統領や首相ほど忙しいことはないだろうし、忙しいという人で、本当に忙しい人はいない。本当に忙しい人こそ、必要なことであれば、何とか時間を作るものである。