2024年4月21日日曜日

矯正歯科料金はなぜ歯科医院であんなに違うのか



結論を先に言おう。矯正歯科料金の設定は、全く根拠はなく、歯科医の何となくの気持ちで決定される。

 

通常、どのようなお店でも品物の値段を決定するのは、最も重要なことであり、原価、人件費、広告費、テナント代、そして利益を見込んで、値段を決定するのが一般的である。ところが矯正歯科では、まず診療所を開設するにあたり、最初に料金を決めなくてはいけないが、開業前なので経費の予測が全くできない。そのため勢い、近場の相場で値段を決めることになる。例えば、すでに矯正歯科で開業しているところがあれば、その値段を参考にする。多くの理髪店や美容院などが、この方法を利用し、場合によっては組合員で基本料金を定めているところある。だいたい理髪料金で言えば青森県の場合は、東京の半額くらいである。

 

ところが近場に同業者がいない場合は、どうするかというと、大学の矯正歯科学講座の先輩などに相談することが多く、同門会の先生で値段が近いということも多い。例えば、鹿児島大学のOBではだいたい同じような矯正治療費で、他大学に比べて治療費が安い傾向がある。もちろん東京、横浜、大阪などの都市部では、少し高いが、それでも近医より安い。私の場合も、数名の先輩の意見を聞き、青森県は日本でも最も収入が少ない県であること、さらには新たな矯正歯科医院の進出を防ぐためにも、矯正歯科としては比較的安い値段を設定した(基本治療費40万円、調整料3000円)。治療終了までの総額は50-60万円になる。開業以来、家内はずっと受付をし、実質、人件費は常勤の衛生士1名と午後からの非常勤の受付だけでやってきた。全ての技工物は自分で作ったし、矯正機材は基本的には1年分を一括で注文して、大幅な値下げ交渉をした。年間の患者数は100-150名の規模の矯正歯科医院では、少なくとも受付1名と歯科衛生士、助手4、5名は必要であるが、私のところでは午前中の受付が家内、午後は非常勤の受付、そして常勤の衛生士1名である。このくらいの年間患者数で、1日の患者数は平日で20名程度、土曜日は40名程度となる。これを全て1名の歯科医と衛生士でやるとなると、ワイヤーを外して、曲げて、結紮するという一連の治療を全て歯科医がやることになり、歯科衛生士が衛生指導など他の仕事をやる場合は、セルフでこなす必要がある。30年もこんなことをしていると、特に問題なく回せるようになる。もちろん、年間患者が200名以上になると、こんなことはできず、数台のチェアーを併用する必要が出るため、先生はワイヤーベンディグや指示だけを出して、衛生士にほとんどの仕事をさせる必要が出るために、1名の衛生士では無理となる。

 

大リーグの野球選手と日本の野球選手、さらにいうなら一軍と二軍で給料が違うのは、そもそも選手の技術が違うためであり、一般歯科医と矯正歯科専門医では、矯正治療に対する臨床技術、経験には雲泥の差があるので、料金が違うは当たり前である。はっきり言うと、矯正料金の7割はこうした技術料である。そうした意味では、一般歯科の矯正治療費が矯正歯科医のそれと同じというのはありえないことになる。どうして同じ値段をつけるかというと、単純にこれも矯正治療費はこれくらいという相場で値段をつけただけで深い意味はない。普通の人からすれば、高い治療はいい治療、あるいは同じ値段であれば、治療結果も同じと考えると思うが、そうでないのが矯正治療の怖い点である。5症例しかマルチブラケット装置による治療をしたことのない先生の治療費が100万円、数千症例を経験があり、海外でも講演している有名な矯正歯科医で80万円、こうしたことが普通にある。おかしいだろうが、前者に来る患者は結構いる。

 

院長の経歴を見て、まず大学の矯正歯科教室に長くいて、日本矯正歯科学会の認定医、できれば臨床指導医をとっている先生であれば、できるだけ安いところの方がよいと思う。このレベルになると治療技術のレベルにはあまり差がなく、料金の差は院長の考えによる(儲けたい)。あまり高い料金を取りたくないと思う先生もいるし、200万円をこえる高い料金を平気でとる先生もいる。自信を持っていえるが、東京で300万円の矯正料金をとる歯科医院よりうちの方が臨床はうまいと思う。もう一度言うが、矯正料金は院長の何となくの気持ちで決めるもので、安すぎるところはやめた方がよいと言う意見には根拠はない。さらにいうなら開業歴が長く、患者が多くて、予約が取りにくく、それでいて料金が安いところがよい。昔からの先生で、派手なホームページもないか、あるいは自院のホームページすらない矯正歯科医院がある。こうしたところは借金も全て返し、また宣伝しなくても口コミだけで十分な患者が来るので、金儲け主義とは縁のない良心的なところが多い。本来の自由競争であれば、安くて、技術的にうまいところに患者が集中しそうなものでるが、こと矯正治療ではこの法則は当てはまらず、全く臨床レベルの低い東京の先生のところに300万円の治療費をかけて弘前から通院する夫婦がいた。300円のメタルブラケットが装着された酷い治療であった。こうしたところを選ぶ患者には同情しない。矯正治療料金に100万円を取る一般歯科の先生に、「先生は専門医の私より高い料金を取るのはなぜですか」ときつい質問をしたことがある。答えは「先生の方が安すぎるのです」と言われた。高い治療費に対する責任と、専門医に対する敬意を欠く。誰がしても同じ値段という保険制度に麻痺したのだろう。そもそも天皇の心臓手術をした天野教授と新卒の医師が同じバイパス手術しても保険点数は同じなのがおかしい話である。一般歯科での矯正歯科治療を受けるのは、きついいい方であるが、あえて新卒の先生の手術を受けるようなものである。


 

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