今の弘前大学医学部病院にあった金木屋呉服店は、江戸、明治時代に繁栄を極め、明治14年に明治天皇の御巡幸の折には、天皇はここに宿泊され、その記念碑がいまだに医学部病院の校内にある。明治天皇がこの呉服店に泊まることが決まると、わざわざ宿泊用の豪華な離れを建築して、準備をした。宿泊所の写真もこの記念碑に残っている。もうとうにこの宿泊所は無くなっていたと思っていたが、どうやら弘前市愛宕山の橋雲寺に移築されているようだ。ネットで調べると今は橋雲寺の護摩堂としてあるようだが、明治時代の宿泊所に比べると、随分と形が違うようだ。暖かくなったら一度、自転車でいってみようと思う。
Googleマップで周囲を調べていると、「新岡温泉」というマニアにはたまらない温泉がある。ストリートビューで見ていても、ほぼ民家で、かなり地元民でないと入りにくそうで、いろんなルールがあるのだろう。さらにいくと「丹鶴庵」という名が見える。小さな寺かなあと思ってみると、実はこれ民泊設備で、一棟丸ごと貸し出す宿泊施設である。茅葺の純日本家屋で、室内も和室、自炊するシステムである。周囲には綺麗な庭があり、また宿泊費も非常に安い。大学生ゼミでの利用では6人以上の使用で、一人1500円、6人で9000円という安さらしい。長期に宿泊することも可能で、欧米でよくある田舎の村にしばらく住むような宿泊所である。夫婦2人で5日間の宿泊をすると、一泊目は二人で9000円、二泊目は7200円、三泊目以降は6400円、一週間で41800円、ドル換算で280ドルくらいになる(1ドル150円)。キッチン用品、風呂、寝具も用意されているので、近所のスーパーで食材を買えば、ここで自給できる。弘前に30年住んでいて、こんな宿泊設備があるのを初めて知った。多分、最近話題になっているインバウンドの外国人観光客にもまだ知られていないだろう。イタリアの田舎では、観光客がこうした昔の建物に宿泊させるのが流行っているが、一棟貸しだと一泊十万円以上する。一週間住んでこんなに安い宿泊所はない。
このことを毎週会う英語のレッスン仲間で議論したところ、まず弘前に住む人は全く関心がなく、なぜ田舎のこんなに不便なところに宿泊する必要があるのか、できれば豪華な温泉宿で、美味しいものを食べたいという。もちろんそうであろう。では東京の人はどうかというと、弘前駅からのアクセルと食材の購入が大変ではないかという。レンタカーを一週間くらい借りて、弘前市周囲、青森県の観光地を巡るのはいいとして、帰って、スーパーで食材を買って料理し、風呂を炊いて、布団を敷いて寝るのは大変だという。将来、田舎に移住を考えている人はその予行としてはいいかもしれないが、よほどのマニア以外は、こうした施設に泊まるのは躊躇われるのではないかという。さらに外国人観光客はというと、たとえ一週間とはいえ、外国で何から何まで自活するのはかなり難しい、少なくともあれこれ聞ける友人でもいないと厳しいという。また外国人に宿泊させると日本人のようなルールを知らないので、かなり宿泊設備が無茶苦茶にされる可能性も高いという。
結局、一番いいのは、大学生、高校生、あるいは中学生などの学生が利用することである。最近の子供、特に都市に住む子供は、こうした囲炉裏があり、蚊帳があり、周囲が田んぼに囲まれた生活はしたことがなく、大きな体験にらなると思う。引率の先生は大変かもしれないが、みんなで買い物に行って自炊するのは大きな経験になろう。英語の先生は、青森県に来たALTの外国人教師がみんな集まってこうした宿泊施設に泊まるのは楽しそうで、活用できるかもしれないと言う。
私の意見としては、管理者あるいは従業員がもう少しここでの生活、具体的にいえば囲炉裏の火を起こし、風呂を炊き、食材の買い出しと料理の手伝い、あるいは布団の敷き方を教えるなど、宿泊にサポートしていくのもアリかと思う。特に外国人観光客は、少し厳しいようだが、物品の破損などについては弁償などの署名をもらうとともに、紹介者がいないと宿泊できないようなシステムもいいかもしれない。体験型の旅行を楽しむ外国人観光客も多く、一棟貸しで、一週間の宿泊料金を30万円くらいにして、その分、体験型の催し、農家の手伝いや郷土料理教室、弘前であれば、ねぷた制作、運行、地元酒場、料理店紹介などいろんな工夫ができよう。
泊まったこともないし、行ったこともないところであるが、この「丹鶴庵」は面白そうな施設である。500m離れたところには「新岡温泉」があるし、周囲には小さな神社、羽黒神社、春日神社、愛宕神社、橋雲寺、白山神社、荒神社、十二所神社、稲荷神社、蔵王権現堂などいろいろある。また車がなくてもサイクリングにはいいとこで、岩木山神社や高照神社2、3キロで十分にいける範囲であるし、温泉だって新岡温泉以外にも、3キロ四方でいうと、まずアソベの森いわき荘の日帰り入浴もあるし、三本柳温泉、あたご温泉、桜温泉、百沢温泉など渋めから豪華な温泉が揃っている。歩くと流石に遠いが、自転車なら3キロくらいなら15分くらいでいけるので、JAつがる弘前四季彩館やマックスバリュ岩木店もあるので、食材は何とか購入できる。中古の自転車が2、3台あれば、車なしでも自活はできるし、周囲の渋めの観光地を回れる。
東京や海外の人で、この丹鶴庵に4、5日泊まった感想を聞きたいものである。