2025年9月15日月曜日

県立郷土館の後継

 


青森市にあった県立郷土館が耐震問題で休館しており、今後どうするかが議論になっている。おそらくは従来の建物を改修するのではなく新築するようだが、建築場所を従来通りに青森市にするか、弘前市、あるいは八戸市にするかで揉めている(今の場所は津波で水をかぶる恐れがある)。

 

青森市には県立美術館があり、弘前市には弘前れんが倉庫美術館と弘前市立博物館、八戸市には八戸市美術館、博物館がある。青森市は県庁所在地であるし、これまでの郷土館も青森市にあったのだから、新しく作るとしても当然、青森市以外にはあり得ないし、青森には博物館がないと考えている。一方、八戸市、弘前市からすれば、何で県立の施設が青森市ばかりにつくられるのかという不満もある。どうしても博物館が欲しいなら、弘前市、八戸市同様に青森市立博物館をつくればよい。そもそも郷土館の意義は、青森県のお宝を収集、保護して、県民に見てもらい、学んでもらおう、おおまかにはこうした内容であろう。美術品の多くは県立美術館に移管されたことから、青森県のお宝のうち、美術品を除くものといえよう。

 

美術品を除く青森県のお宝といえば、まず歴史的な資料、これは縄文から現在までの遺跡、考古品、文書、絵図、絵が挙げられる、さらに民俗的な資料としては、祭りや庶民の生活雑貨や家具など、そして自然資料としては、青森県特有の動物、植物などとなる。縄文土器については、八戸市の是川縄文館、青森市の縄文時遊館、つがる市に縄文住居展示資料館があるし、旧郷土館、弘前市立博物館、弘前大学にもある。また弘前藩の資料のほとんどは、弘前博物館と弘前図書館、高岡の森弘前藩歴史館、弘前大学が所有している。そして民具や雑貨は、旧郷土館が一番多く保有し、弘前市立博物館、八戸市立博物館、あおもり北のまほろば歴史館、山車展示館(弘前)、八戸市民俗資料収蔵館、五所川原市市浦歴史民俗資料館、十和田郷土館、十和田歴史民俗資料館などかなり数多くある。

 

一方、現在、世界的に着目されているBOROと呼ばれるつぎはぎのテキスタイルは、田中忠三郎氏のコレクションで有名になったが、青森県にはまとまった展示はないし、津軽こぎんについても、弘前市立博物館やこぎん研究所にそこそこあるが、これもまとまったコレクションとはいえない。ねぶたについては、青森市のねぷたの家、ワラッセ、弘前市のねぶた村、五所川原市の立佞武多の館などがあるが、津軽三味線、尺八、琴、民謡などの音楽資料、あるいは津軽の誇る相撲の歴史資料なども分散して各地に展示されているだけである。またこけしについては、黒石の津軽伝承工芸館、津軽こけし館や弘前市の津軽ねぷた村にあるが、これもまとまった形ではない。また津軽発祥の玩具、例えば弘前の『_弘前馬コ』、「下河原焼人形」の名品などもあまり見かけない。津軽塗り、ぶなこ、弘前木綿、津軽裂織などのコレクションもない。

 

津軽は、美術品を除いても、後世に伝えるべき、優れたお宝をいっぱい持っている。ただそれを大規模に収集して展示する場所は意外に少なく、郷土館が唯一と言ってもよかった。現在、郷土館は休館状態になっており、一刻も早く新しい資料館が必要である。

1.この資料館では、まず県民からの寄贈、寄付を第一として、調査ができる職員数、場合によっては購入できる予算が必要である。これがこれまでの博物館、美術館で最も欠けていたもので、器のみ作り、収蔵、展示までは気が回らなかった。おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなった遺品で珍しいものがあれば、ここに連絡してすぐに調査してくれる環境が望ましい。

2.もう一つは、市民による運営を目指すためには、後援会組織の充実と寄付金が必要であろう。アメリカの多くの美術館は市民による寄付で運用されており、入館料など取らないこともあり、図書館、美術館、博物館がもっと市民に活用されている。

3.さらにこれも非常に大事なことであるが、保管庫の充実が必要で、将来的に拡大も可能な広い敷地がいるだろう。弘前市立博物館や図書館でも収蔵庫が小さく、そのために市民からの寄贈、寄付を断るケースが多かった。従来の郷土館でも同様な問題が発生し、その管理が指摘されたこともある。

4.県民、あるいは県外、国外からの観光客に喜ばれる施設になってほしい。一つの例として、青森市にある三内丸山遺跡にある縄文時遊館、この施設はかなり金のかかったものであり、館内にも多くの展示室があり、それなりに展示の工夫をしているが、あまり面白くない。青森駅前のララッセについても、当初は見学のみでものの10分で見て終わりの施設であったが、いつからか案内の人がいて、説明、あるいは踊りを教えたりしたところ、人気が出てきた。同様に、弘前市のねぷた村も、中はいろんな催しがあり、それこそ10回くらい訪れているが、楽しい。つまり参加体験型の展示が望まれる。

 

弘前市長は、弘前城周辺の市保有地への誘致を表明している。城内は国の許認可が難しく、ここでの建設はない。となると旧青森銀行前の広場なのだろうか。ここは前市長が、追手門広場にあった旧市立図書館、東奥義塾外人教師館を移設するために設けた広場であるが、現市長の号令で中止となり、空いたままになっている。ただここだとすると、やや上記の文化資料を十分に収蔵、展示するには狭い。少なくともれんが倉庫美術館前の広場くらいは欲しいところである。

 

他に細かいことになるが、個人的に最も気になるのは、宙ぶらりんになっている「松野コレクション」で、これは県の方できちんと調査して、予算も組んで、新しい郷土館には展示してほしい。また旧郷土館では、青森の歴史資料の多くがコピーで、原本は弘前博物館、図書館にあるものが多かった。新しい郷土館が弘前にできたとしても、弘前博物館、図書館の協力がなく、同じようなコピー展示で、競合的な施設になるなら無意味となる。さらに小川原民俗博物館のように建物の老朽化で、資料の保管、管理ができない施設が出てきた。ここ以外にも県内に同様な事例はあるだろう。そうしたコレクションを全て引き受けられるような資料保管倉庫のような役割も求められる。

 

 

 


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