2025年10月16日木曜日

六甲高校卒業50周年記念同窓会

 




先週、神戸で中高校の同窓会があった。卒業生170名のうち80名くらいが出席した。おおよそ半分の出席率で、これは高い。卒業後50周年記念同窓会は、実は昨年開催する予定だったが、幹事がいなくて今年になった。若い頃はあまり同窓会に参加するのは苦手で、ほとんど出席したことがなかったが、確か20年前の30周年記念同窓会に参加して楽しかったので、その後は東京在住者の同窓会にも参加するようになった。

 

今回は、卒業以来初めて来た同窓生もいて、久しぶりの再会する人もいて楽しかった。胸に名札をつけてもらったので、まあまあ思い出した。一学年、四クラスの170名の学年だったので、必ず同じクラスになっていて、学生当時はほぼ全ての同窓生を知っていた。ただ当時でも友人関係の濃度差があり、あまり親しくなかった人がいて、大まかにいて20名くらいはよく知り、思い出も多い友人で、40人くらいはまあまあ知っている知人、それ以外は学生中もあまり話したこともない同窓生である。

 

あちこちをまわりながら少し話すという感じであるが、50年分を一気にしゃべるので、凝縮した内容となり、いきなりハードな話となる。病気自慢では大腸がんになった、乳がんになったという話から、嫁が亡くなって寂しい、娘が離婚したという深刻な話となる。こちらも大阪人の習性で、同じくらいのインパクトのある話を探すことになる。幸いと言ってはなんだか、私の場合、腹部大動脈瘤の大手術をしたので受け答えができる。何人かの親しい同級生は高校生以降もバンドを作ってライブハウスなどで活動している。今やアマチュアの年配のバンドが演奏をする場所も多く、楽しそうで、羨ましい。またボランティア活動を一生懸命している友人もいて、まだまだ何かやれるかと勇気づけられる。

 

あと気づいたのは、久しぶりに会う友人とは自然に握手してしまう。場合によっては右手で握手をして左手で相手の肩を叩く軽いハグをすることもある。まるでアメリカ人であるが、けっこうそうした場面があった。よく考えると同級生の多くは海外で仕事のため生活した経験を持つので、自然にそうしたことになるのだろう。卒業後、スペインに11年、メキシコに10年、中国に5年とほとんど日本にいない友人もいた。さらに不思議なことは、三次会で隣に座った同級生、茶髪で長髪の同級生が全く思い出さない。そこで正直に「全く思い出せないのだが」というと、高校一年生の時に学校の方針が嫌で転校したという。同窓会の二次会からであるが、転校生も参加していたのである。彼は転校先の関学の同級生とも飲むようで、学校は嫌いだが同級生は好きということで今でも六甲の同級生とよく飲む。まあこの歳になれば、そんなことはどうでもよく、その夜も友人が勧めるSMバーで楽しく飲んだ。

 

男子校の同窓会というと、もちろん女子はいないので楽しくないというが、ある程度、歳をとると、なんでも言える同級生がありがたい。各々会社人間であった頃は、会社での上下関係があり、呼び捨てで呼べる人は少ない。まして会社での地位が上がると、同年輩でもなんでも話せるわけにはいかない。まだ3040歳の頃は仕事関係で同級生と付き合うこともあろうが、極力、なんでも言える関係を保つために、仕事関係の話はしないようになる。ただ例外は、同級生に医師がいる場合、何かあると同級生に中から今の症状にあった知人に連絡する。20人くらいいるので、診療科別に誰かに相談できる。

 

みんないうのは、これから残り10年、元気なうちに楽しくやろうということになった。確かにいつ病気するかも知れず、元気なうちやりたいことをすべきであるが、SMバーはないと思った。個人的には一番金のかからない趣味は、小説を書くことで、今のところ歴史小説、「須藤かく、阿部はな」に関する小説を書いて、何かの投稿サイトに出そうと思っている。数年は楽しめる。来年、福岡でサッカー部の同窓会をすることが決まった。

2025年10月15日水曜日

ネットでいい矯正歯科医院を見つけるのは難しい


日本でもIT企業を中心に、いわゆるスタートアップ企業が続々と出ている。若い方がこうした新しい試みをすることは、日本にとってとても大事なことである。ただあくまで一部の企業であるが、過剰に業績を強調する会社がある。昔は、世間に認知される手段が、新聞、雑誌、テレビに限られていたし、これらのマスメディアはある程度のチェックが入ってから取材されるので、そこにあまり自己宣伝の要素はない。ところが今やSNSの普及により、ツイッター、フェイスブック、インスタ、You-tubeで簡単に発信でき、かなり誇張したものを流している。もちろんいまだにオールドメディアと称するテレビや雑誌、新聞では、発信にはかなり慎重に精査しているが、ネット上では嘘も含めてある意味、フェイク情報が満載しており、その判断は非常に難しい。

 

こうしたアメリカ的な経営方向、S NSを縦横に使い、会社の価値を実際以上に高く見せる手法は、さらにいうと株価操作とも言える楽天的な将来性を語る手法は、うんざりである。会社業績が悪い会社ほど、より会社の将来性、未来は明るいと言うし、そうした情報を大量に流す。結果、株価が上がることこともあるが、最近では、会社、アナリストのこうした予測を、Googleの口コミ同様にあまり信じていない。

 

一例を挙げると、ここ数年、雨後の筍のように出現したマウスピース矯正、A社はホームページで国産メーカの中でのシェアーは40%を占めているというが、B社のアンケート調査では、A社のシェアーでは全体の6%、国内シェアーの10%しかないとしている。そしてA社は年商60億円を公言しており、これに従えば国内のマウスピース全体の市場は60億円÷0.61000億円となる。

 

厚労省の患者調査によれば、年間の初診の歯科矯正患者数は292000人で、アナリストは歯科矯正の平均治療費は100万円なので、これをかけると約3000億円が市場としている。実態は学校検診や本人が歯並びを気にして、歯科医院に行っても実際に治療する人は少ないし、治療する人は何件もの歯科医院を回るため、矯正歯科の市場はこれほど大きくはない。全国には矯正歯科専門医院が約1000軒あり、それぞれ年間多く見て100名の治療開始者がいると計算して、年間で10万人、平均治療費を80万円として800億円、一般歯科での治療する人も同数いて、少し高いが治療費も同額として80億円、計1600億円くらいが実態であろう。予想値の半分くらいである。

 

1600億円が新規矯正患者による年間の収入だとすると、1000億円規模となっているマウスピース矯正はすでに年間の矯正治療費の52.5%ということになる。アメリカでのマウスピース矯正の普及率は23%で、ワイヤー矯正が77%だが、アメリカより日本の方が、マウスピース普及率が高いことになる。アメリカでも、最大手のインビサラインを扱うアラインテクノロジー社の株価が暴落し、1/6 になっており、その理由として顧客数の減少が挙げられている。スマイルダイレクト社の倒産も含めて、すでにこの業界が下降局面に入っていると思われ、さらに業者の言うようにシェアーであれば、これはもっと厳しい。どこかに統計、アンケート上の嘘があるとしか考えられない。

 

これは私の少し知っている業界の話であるが、同じようなことは今やネット上では当たり前になっており、統計、調査上の嘘をつくことが普通になっている。Googleの高評価の口コミがヤラセというのはよく知られているし、化粧品や健康食品の満足度調査も適当と思っている人も多い。本当に正しい情報を得るのはますます難しくなっている。さらにわかりにくくしているのが、専門医の資格を持つためには各学会での倫理規定を守らなくてはいけない、そして多くの学会では医療広告法に違反する不適切な広告を禁止している。つまりまともな治療を行うところは学会の倫理規定で、ネット上で派手な広告が出せない。いざ治療をしようにも上位検索の多くは、専門医でないと言うこともありうる。どこで治療しようかと検索すると怪しい歯科医院が上位となり、まともな歯科医院は学会の倫理規定で派手なHPは出せず、下位となる。またGoogleの口コミの多くもやらせである。企業競争の激化によりますます巧妙な宣伝手法が取られるようになり、さらにアメリカ式ビジネス手法が広まる結果、倫理のなくなった金と訴訟のリアルな世界に日本も入ろうとしている。難しい時代である。


 

2025年10月8日水曜日

北村滋という人



安倍政権のことをよく知る人からすれば、北村滋内閣情報官ほど重要な存在はないという。この人は、あまり知られていないが、安倍晋太郎元首相の最側近の官僚で、首相に入るほとんどの情報を制御していた。元々は警察庁官僚で、長い間、警察畑を歩んでいたが、2006年の第一次安倍政権から秘書官として官邸に入り、2011年には民主党の野田内閣の内閣情報官となり、さらに2012年の政権交代後も引き続き、第二次安倍内閣、第三次、第四次安倍内閣でも内閣情報官であった。さらに2019年からはその高度な分析能力が買われ国家安全保障局長として、トランプ、プーチン、あるいは中国高官と会談し、安倍首相の外交政策を影から支えた。20217月に股関節手術のために退官し、現在、読売調査研究機構理事長に就任している。安倍内閣後もこわれて管義偉内閣でも国家安全保障局長を続けたが、岸田文雄首相とは反りが合わないのか、手術を名目に退任したのであろう。

 

いずれにしても2006年から2021年まで、政権交代、首相が変わっても、用いられていたのは、よほど優秀であったからである。逆に岸田、石破政権下で、これといった外交成果をあげられなかったのは、こうした人物の欠如も響いているのだろう。首相官邸にくる情報のほとんど、手紙も含めて、北村内閣情報官により検閲し、そしてその意味も含めて首相に解説するのが彼の仕事であり、首相の行動を決める最重人物といえよう。

 

私自身、文化大革命の失望から、20歳の頃から自民党一本でやってきたが、前回の衆議院選挙では、岸田、石破政権があまりにも酷いので、自民党以外の候補者に投票した。今度、もし高市さんではなく、小泉進次郎さんを総裁に指名されれば、完全に自民党支持を止めようと思っていたので、高市総理誕生は嬉しいことで、新たな日本の保守政権の復活を願っている。さらに高市総理は、安倍晋三元首相の信念を継承すると言っており、それには必要不可欠な存在が、この北村滋という人である。ウィキペディアで調べると、まだ68歳でまだまだ現役で働いてほしい年齢である。アメリカのトランプ、中国の習近平、ロシアのプーチン、これらに伍して、世界で戦うにはまだまだ高市総理といえ経験不足であり、それを補うのが、ベテランで経験豊かな外務大臣と北村滋さんであろう。

 

石破総理は置き土産に先の戦争になぜ負けたかという自身の見解を述べるそうであったが、その一因として名著「失敗の本質:日本軍の組織的研究」に述べられているように、入ってくる情報をどのように精査、分析して、それを指導者に助言するかが重要であり、ドイツのソ連参戦の情報が入ってきても、それがクズ箱に捨てられ、首相の耳に入らなければ意味をなさない。そうした意味では、内閣情報官、さらにその上の国家安全保障局長の仕事は、現在の国際社会においては最も重要な役職であり、外務畑ではなく、機密漏洩も含めたインテリジェンス活動を求められる警察畑の人の方が適している。

 

中国のいわゆる浸透という情報活動は驚くべきもので、政府官僚、政府首脳、野党にも中国政府の協力者、内通者がいるかも知れず、情報漏洩も含めて、総理周囲には、そうした人物を炙り出すような人が絶対に必要である。もちろん高市さんもスパイ法の成立を目指すくらいの人なので、よく知っていると思うが、安倍首相の路線を継続するのは、まず北村滋という人を利用する以外に方法はなく、三顧の礼を持ってでも早急に内閣に迎えるべき人物である。


 

弘前城多聞、白壁の復元計画 中止

 




あまり新聞、テレビでも報道がなかったので、このブログで取り上げる。以前から弘前城城壁修復に伴う白壁、多聞の復元について問題提起をしてきた。それに対して弘前市議の坂本崇市議が議会で取り上げ、質問してくれた。かなり詳細の質問で、市長と担当職員からの答弁については弘前市の動画で見られるので、興味のある方は見てほしい。

 

坂本市議からは、まず弘前城の整備計画の進行について質問があり、職員からはコロナなどの影響で遅れているとの答えがあった。さらに坂本市議から当初の計画にあった弘前城の周囲にあった白壁、多聞の復元についての質問があり、職員の答えは、復元するのに十分な資料がなく、今のところ復元計画は難しいということであった。さらに復元の際に邪魔になる樹齢100年以上の御滝桜の移動も難しく、そうした意味では白壁、多聞の復元は今回の整備計画の中ではないとしていた。つまり復元できる資料もなく、有名な桜の移動の難しいので、現状のまま、白壁、多聞の復元をしないということである。

 

まずこの答弁の矛盾点として、復元に必要な細かい資料、材質、設計図、詳しい写真など、正確な復元ができる資料がないと復元はできないというのは確かにそうである。それではこれまでの復元はどうかというと、ほとんどの復元建築物は正確な資料はなく、ある程度は想像で建築された。一番ひどい例は三内丸山遺跡で、考古学的な資料以外のものは全く残っておらず、あんなものは復元とは言えない。これは極端な例であるが、どこまでが正確な復元と言えるのかは線引きする考えにより異なる。例えば、名古屋城の御殿については先の戦災で消失したので、多くの写真は残っているが、それでもカラー写真はなく、襖絵や内部の装飾については、かなり推測で復元したと思う。

 

さらにいうと、これも最近の事例であるが、熊本城の御殿についても、数枚の遠景写真から推測して何とか復元までこじつけた。報告書があるが、これは執念を感じるほど、少ない資料から復元計画に導いている。相当困難な作業であったと思うが、なんとか文化庁の許可を得て復元した。これに比べれば、弘前城の白壁、多聞の復元など、熊本城御殿の復元に比べれば、よほど簡単なもので、これで復元の正確な資料がないから復元できないというなら熊本の関係者に笑われるだろう。

https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/115386

 

さらにいうと、移植が難しいという本丸にある御滝桜は、大正3年に在弘宮城県人会の寄付によって植栽された枝垂れ桜で、確かに110年を超える名木ではあるが、これが白壁、多聞復元の障害になるというのは、本末転倒である。もし樹齢100年の木が道路予定地にあるとすると、これを迂回して道を作るか考えてほしい。もちろん樹齢300年、500年を超える古木であれば、その保全のために道を迂回することもあるが、計画そのものがなくなることはない。どうしても保全するなら、この部分は作らず、本丸東側の復元だけでも良い。

 

結局、復元というのは思いの強さであり、熊本城本丸御殿の復元計画を見ると、熊本市、熊本県民の強い思い、もちろん観光資源としての重要性もあるが、復元に対する強い気持ちが困難な条件を克服して復元に漕ぎ着けたと思う。

 

今のところ、弘前市長、弘前商工会議所、観光コンベンション協会、弘前市民にも弘前城の白壁、多聞の復元を希望する気配はない。弘前城は弘前の観光資源の目玉で、熊本市における熊本城と同じ存在である。是非とも白壁、多聞を備えた勇壮な外観を望みたい。それでなくとも、観光客にはしょぼい、あれは櫓であると揶揄されている

 


2025年10月4日土曜日

格安マウスピース治療の危惧

 



ここでは格安マウスピース治療の治療上の問題は扱わない。経営的な観点から危惧されることを挙げる

 

1.前金制度

矯正治療は基本的には治療開始時に全額を支払う。これは格安マウスピースでもそうである。美容整形、脱毛など治療期間が短期の場合はこの料金制度は問題ないが、矯正治療のように長期の治療期間(2年以上)になると、治療中の患者がどんどん溜まっていく。1日の診られる患者数が決まると、新規患者数は多くできないことになる。ただ格安マウスピースは通院回数が少なく、またネット上での治療相談をしているので、患者数はかなり増やせるのだろうが、それでも売上の限界がくる。

 

2.自転車操業

多くの患者を集めるためには、宣伝広告費にかなり投資しなければいけないし、医院も東京、大阪など都市部の一等地に開業しなくてはいけないため、人件費や家賃は高い。借金をして次々に店舗数を増やし、宣伝も増やし、集客をして、治療費、前金をそれに突っ込むやり方である。コロナバブルの頃は面白いように患者が集まったが、今では宣伝しても集客できなくなっている。新規患者数の落ち込みがすぐに経営に響く。

 

3.医師法、医療広告法、訴訟、オンライン診療

アメリカのスマイルダイレクトクラブのような歯科医師のいない営業形態は、人件費の削減には有効でも、明らかに日本の医師法に抵触する。少なくとも歯科医がいないと治療を提供できない。ただ多くの格安マウスピースを提供する歯科医院では、セファロ分析を含めた治療計画を患者に説明しておらず、シミュレーション結果を見せるだけである。シミュレーション結果は治療計画ではない。患者から治療結果にクレームが出て訴訟になった場合、セファロ撮影をしていない、診断、治療計画もないと負ける。実際、30-40万円程度のことで訴訟をするのは弁護士料などを加味すると合わないが、それでも集団訴訟されると厳しい。また格安マウスピースの歯科医院のホームページを見ると、医療広告法に触れるケースが目立つ。今後さらに広告法あるいは罰則規定が厳しくなると、宣伝しにくくなる。また美容医療を提供する医療機関でのオンライン診療は論議が多い。オンライン診療の枠から外れるかもしれない。

 

4.安いと言っても安くない

Oh my teeth 33万円、ローコストのライトプランで30万円、スタンダードで45万円、確かにインビザラインよりは安い。とはいえ30万円を超える金額は決して安い金額ではない。私のところではワイヤー矯正の基本治療費40万円、調整料3000円でしているが、全ての患者は“高い金を出しているのだから、きちんと治してもらわないと困る”と言う。昔、安売り住宅の営業の人に聞いた話では、安いからといってクレームが少ないわけではなく、お金持ちはそもそも安売りの会社で家を建てないし、安い住宅を建てる人は金がない人だと言っていた。金がないから安い治療を受けるのであり、その人にとっては30万円でも決して安くはない。

 

5.医療業界の壁

アメリカのダイレクトスマイルクラブが潰れた原因として、アメリカ矯正歯科学会とアメリカ歯科医師会が強烈なネガティブキャンペーンをしたことも挙げられる。多くの格安マウスピース業社は、これまでの矯正歯科の既得権を犯すもので、私も含めて矯正歯科医は一切、認めていない。学会でもネガティブキャンペーンとは言えないまでも、警告は行なっている。あまり既得権を犯すようなら、テレビ、ネットでも大掛かりな広報活動を行うかもしれない。

 

6.人気に翳りが出ている

スマイルダイレクトクラブが潰れた他の原因として、顧客の減少が挙げられており、アメリカ矯正学会の調査でも、2022年から2024年の2年間でアライナー矯正の割合が25%から23%に減少しており、以前ほど人気はなくなっている。特に抜歯ケースが多い日本人の成人ケースでは、直せない症例が多く、非抜歯で、それもディスキングなしで直せば、口元の突出感などで患者の不満が残る。安いと言っても、それは言い訳にならず、かなりクレームに悩むことになる。

 

7。専任の.矯正歯科専門医がいない

格安マウスピース医院については、担当医はほとんど公開していないが、日本歯科専門医機構の矯正歯科専門医が担当していることはない。いわば素人が治療しているようなもので、日本では問題ないが、アメリカでは、特に裁判では、そうした専門教育を受けたかが争点となる。簡単な症例を治すとしているが、簡単かどうかは矯正歯科専門医でないとわからない。患者も今はネットでよく勉強しており、セファロ分析も含めてきちんと検査、診断しないと、患者のクレームに対応できない。さらにいうとリスボン宣言では患者は自分の病気、治療に対してセカンドオピニオンを受ける権利を有するが、こうした格安マウスピース医院では、求めに応じて必要な資料を渡せるのだろうか。

 

7.特定商法取引法による規制

近日中の出来そうなのは、マルスピース矯正を特定商法取引法に入れる流れである。特定商法取引法の対象になると、書類によるかなり細かな説明、中途解約、クーリングオフ制度となる。例えば歯にホワイトニングの場合、期間が1ヶ月、料金が5万円を超える場合、対象となったが、法規制後はほとんどのホワイトニング業者は料金を安くした。矯正歯科では同様な条件は絶対にできないので、全ての症例が対象となり、その場合はかなりの新規患者減が予想される。

 

8.適用症例が少ない

格安マウスピー矯正の適用は、軽度の空隙歯列、叢生に限られる。私のところの患者で言えば、成人矯正の場合、80%以上は抜歯ケースで、軽度のケースはせいぜい5−10%くらいである。100名の患者を集客して5人しか適用でないなら商売にならない。実際は余程の症例でなければ、来院した患者すべて治療を勧めることになる。いくら経っても治らず、担当医がこうした患者を放り投げて辞めるか、患者が去っていく。

 

9.競合会社が多すぎる

格安マウスピース業者は、どこもアライン・テクノロジー(インビザライン)の特許切れの治療法を使っており、基本的には全て同じである。デジタル印象をして、コンピューター処理して、3Dプリンターで作っていく。材質や分割法の違いがあっても、治療期間、審美性、仕上がりは基本的には変わらない。となると売り上げを伸ばすには、値引きか宣伝となる。製造単価は低いので値引きは可能であるが、同時に宣伝もしなくてはいけないし、銀座など一等地の開業が求められるので、これ以上の値引きは難しく、宣伝が決め手となる。シェアー獲得と認知度アップが生き残りの最重要課題となる。

 

10. 従業員が集まりにくい

ます歯科医にとって、こうした格安マウスピース矯正の医院に勤めるメリットは少ない。矯正歯科をやりたい人は、きちんとした矯正歯科専門医に勤務するし、またマウスピース矯正を本格的に学びたい人はインビザラインを中心して歯科医院に勤めるだろう。おそらく数年で、大まかなやり方が理解でき、患者からのクレームの多さに閉口するだろう。歯科医の多くは将来、開業するが、こうしたマウスピース専門歯科医での勤務は自分のキャリアアップにつながらない。また衛生士も同様で、自分のキャリアアップのためには、ここで学ぶことは限られていて、魅力を感じないし、長年の勤務はないであろう。給料を高くしないと集まりにくい業種である。私が学生時代の頃も歯科矯正講座に残ると一般歯科診療はできなくなるとされ、不人気であった。おそらく格安マウスピース歯科医院では、指導する矯正歯科専門医もおらず、セファロトレース、分析、診断や各種矯正装置の製作、治療、マルチブラケット治療法など、矯正歯科全体を教えるような教育プログラムはなく、また人件費の削減のため、内部でお互いに学んでいくような環境もなかろう。

 

2025年10月3日金曜日

マウスピース矯正の陰り



アラインテクノロジー社(インビザライン)の一部特許がなくなったため、45年前から同じようなマウスピースタイプの矯正治療装置を扱う会社が一気に増えた。中にはヤマト運輸のような他分野の会社も参入するほど、乱立した状況である。

 

その後、こうした会社がどうなったか調べようと考えたが、Googleで検索してもはっきりしない。それゆえ、若者に人気のあるインスタグラムでの反応を見てみた。2022.5.19日のブログでは14社を紹介したが、それぞれについてインスタの最新の投稿日とフォロワー数を以下に示す。

 

Glory Smile: 最新投稿2025.4.27. フォロワー数 2544

We Smile: 最新投稿 2025.2.7.   フォロワー数 592

ローコスト: 最新投稿 2024.8.29. フォロワー数 1554

Be-Setlign: 最新投稿 2025.3.14.  フォロワー数 547

クリアアライナー: なし

Hanaravi: 最新投稿 2023.7.27. フォロワー数 439

Oh my teeth; 最新投稿 2025,9.2 フォロワー数 1.5万人

キレイライン: 最新投稿 2024.4.10 フォロワー数 5584

Depaerl:   なし

Hanalove: なし

SmileTYU: なし

アソアライナー:最新投稿 2020. 10 フォロワー数 6

インビザライン:最新投稿 1日前 フォロワー数 7281

SureSmile:   最新投稿 2日前 フォロワー数 6577

 

これを見ると、現時点でまだ活動している会社はインビザラインとSure Smile、あるいはOh my teethくらいしかない。活発に営業をしている会社なら、SNSに最近の投稿はあろう。

 

それではその母体となる会社の経営を見ると

 

アラインテクノロジー社(インビザライン)  最新の株価は126.192021.8709のほぼ1/6になっており、2025年の7月決算では、インビザラインの販売数が予想を下回ったことから株価が下落した。同社は従業員の削減などのコストカットで対応すると言っているが、少なくとも業績の急激な上昇は望めない。

デンツプライシロナ(Sure Smile);ここの株価はアラインテクノロジー社よりさらにひどい。最新の株価は12.5、これは2021.4681/6となっている。特にここ2年間で42から12.5まで下がっている。一つの要因として、サンキンなどの矯正機材分野を全て切り捨て、Sure Smileに重点を置いた経営方針の影響もあろう。完全な失敗であろう。

Oh my teeth : 100億円の売り上げをめざすスタートアップ企業としてマスコミにも多く取り上げられた会社である。同様のサービスを行なっていたアメリカのスマイルダイレクトクラブが2023,11に倒産しており、キレイラインを主として提供していた東京歯科プラスも倒産して多くの患者に迷惑をかけた。メーカーのいうような急激な発展は厳しいかも。

 

つい最近のヤフーニュースによれば、ニューヨークタイムズの記事で、アメリカではティーンエージャーを中心にメタルブラケットによる矯正治療が流行っていると伝えている。さらにアライナー矯正については2022年から2024年にかけて25%から23%に減っていると伝えている。もちろんこの傾向は成人矯正とは違うと思うが、ようやくアライナー矯正、マウスピース矯正の結果が広まってきて、宣伝するほどきれいに直らないとわかってきた結果であろう。アラインテクノロジー社(インビザライン)の予測では、マウスピース矯正の未来は明るく、いずれ矯正治療のほとんどがこの治療法になるとしている。ただ現実的には矯正治療をメインにしている矯正歯科専門医では全患者のうちマウスピース矯正の割合は10%程度であり、その症例もワイヤー矯正を併用するとしている。歯を動かすという点ではマウスピース矯正は非効率的で、今のところ適用は限られているし、ワイヤー矯正を上回ることはない。一部の優れた先生はマウスピース矯正でかなりのレベルの治療を行なっているが、それでもワイヤー矯正を上回ることはない。アナリストが分析するほど倍々でマウスピース矯正が伸びなかったことで株価の低迷を招いている。完全にアナリストの分析失敗である。ワイヤー矯正は、すでに百年以上経つ古めかしい治療法であり、もっと早く、確実に、痛みがなく、見た目も良い治療法が望まれるが、マウスピース矯正はそうした治療法ではない。矯正治療学の近年の発展、インダイレクトボンディング、超合金ワイヤー、歯科用アンカースクリュー、セルフライゲーションブラケット、リンガルブラケットなど、出現して十年くらいで一気に広がり、その後の進歩は少ない。インダイレクトボンディングにより、それまでの帯冠を介した接着から直接、歯にブラケットを付けられるようになったが、製品そのものはここ40年以上進歩していない。他の治療法もそうで、マウスピース矯正も、アタッチメントの発明と三次元プリントでの製作でほぼ進歩は終了であろう。個人的にはこれ以上の普及は難しいと思う。


 

2025年10月1日水曜日

イスラエルという国



イスラエルというと極東の日本からすれば、よほど遠い国で、ぼんやりした印象しかない国の一つである。ナチスドイツで徹底的に虐殺されたユダヤ人が戦後、自分たちの国として作ったのがイスラエルで、中東という地域に作られたため、数回の中東戦争を経て、独立国として存在している。アメリカの強力な支援がある。防御のために核兵器を持っているが、アメリカは黙っている。などなどのイメージである。またマスコミ、ことに映画関係者の中にユダヤ人が多くいるせいか、ユダヤ寄りのハリウッド映画が多く、古くは「ベンハー」、「栄光への脱出」、新しいところでは「シンドラーのリスト」、「戦場のピアニスト」、「ライフイズビューティフル」(イタリア映画)、などから、可哀想だというイメージを持つ人も多い。しかしながら、最近のイスラエルのパレスチナ人への虐殺については、自分たちが昔ナチスドイツからあれだけ虐待され、殺されたと同じことをなぜ、ユダヤ人はするのか、疑問に思う人も多い。私もその1人で、パレスチナ人犠牲者は2025.9の段階で6.8万人を超え、これは一方的な虐殺といえよう。ひどいことである。

 

このイスラエルの論理をわかりやすく説明しているのが、イスラエルの歴史学者、イラン・パペ教授の解説である

https://nordot.app/1236210441196290377?c=899922300288598016

 

彼の説明によると、イスラエルの国家的核心、シオニズム運動について「シオニズム運動は一種の植民地主義に基づいています。ただ大英帝国によるインド支配のような、先住民搾取が目的の植民地主義と異なり、(米国のように)先住民をその土地から排除することが目的で、歴史家の間では“入植者植民主義”とや呼ばれています」としている。そしてパレスチナ人を追い出す過程として、村落を焼き払い、家屋を破壊し、住民追放や民間人の虐殺をした。まさにナチスドイツが行った民族浄化と同じことをしたとしている。

 

こうした危険なシオニズムの考えは、世界のユダヤ人の間では少数派であるが、イスラエルでは多数派をしめている。建国当時、欧州系ユダヤ人の数が少なかったため、中東や北アフリカのアラブ系ユダヤ人を呼び寄せるも、これらの人を「原始的で非近代的」と差別し、見下した。同じイスラエルにも、欧州系ユダヤ人と外見は周辺のアラブ諸国と変わらないアラブ系ユダヤ人がいて、支配階級は欧州系というヒエラルキーが存在した。これは知らなかった。そして今度は収入の低いこれらアラブ系ユダヤ人が劣等感と承認欲求からアラブ系のパレスチナ人に対して過激で暴力的になった。つまり、イスラエルは、欧州系ユダヤ人>アラブ系ユダヤ人>パレスチナ人という階層にわかれている。

 

欧州系ユダヤ人は左派と右派にわかれ、武力によるパレスチナ人追放を重視するシオニスト右派は、劣等感を抱いたアラブ系ユダヤ人の支持基盤となってきた。比較的、パレスチナとの和平に取り組んでいた左派が2001年の米国多発テロ事件以降、次第に右派に押されるようになり、今日のネタニヤフ政権につながっていった。欧州系ユダヤ人=右派+左派、右派=アラブ系ユダヤ人という構図となる。さらにネタニヤフ政権には、イスラエル国内でも差別的と禁止されていた極右の閣僚がいて、彼らはユダヤ人を反ユダヤ主義から守る名目で暴力を肯定した。パレスチナ人への偏見を容認する学校教育や軍隊教育、マスコミで、国民に浸透している。これが現在のパレスチナ人の虐殺に要因となっており、極端なジオニズム政策が民族浄化につながっている。

 

もちろん世界のユダヤ人の多くは、こうした入植者植民地政策を拒否しているが、ここ20年間のイスラエルは、完全に右派による洗脳で国民の多くは右派が推進する苛烈な政策を支持している。さらに悪いことにどんなことをしてもイスラエルをアメリカは常に支持すると考え、また実際にアメリカ、トランプ政権もこうしたイスラエル右派を支持している。トランプのアメリカも、また開拓時代に西部へインディアンを追い出す入植者植民政策をしていた国だけに、感情的にはイスラエルの政策を理解できるのだろう。

 

アメリカ政府がイスラエルを完全に拒否し、イスラエルの根幹政策であるシオニズムを撤廃させる以外にパレスチナ問題は解決できないのかもしれない。難しい問題である。

 

*欧州系ユダヤ人(アシュケナジム)とアラビア系ユダヤ人(ミズラヒム)の割合は、前者が44%、後者が45%と拮抗しているが、いまだに政治経済は欧州系ユダヤ人が牛耳る。