弘前でも団塊の世代が引退する時代となり、毎年のように閉院する歯科医院が増えている。平均すると年間で3、4件の歯科医院が閉院する一方、新規に2、3件が開業するという感じである。徐々であるが、歯科医院数は減少している。一方、患者についていうと、団塊の世代以降が最も歯の問題がある年齢層で、う蝕、歯周疾患、入れ歯などの問題があり、これらの年代の人、具体的に言えば55歳以降の人が、歯科医院のメインの患者となる。一方、40歳以下の人は、あまりう蝕がなく、歯科医院に行ったことがないという人も多い。特に30歳以下の人について言えば、うちに来ている患者さんに聞いても初めての歯科医院が矯正歯科医院という人が意外に多い。矯正治療に伴う抜歯のために初めて一般歯科医に行ったという患者さんも多い。もちろんう蝕は一本もない。
こうした人がこれからを占めるようになると、う蝕はかなり少なく、またう蝕治療技術も進んでいるので、一度治療をするとそれほど悪化せず、結果的に歯科医院に行く回数はかなり低くなる。知人の歯科医に聞くと、十数年前から子供患者が減っていると感じていたが、最近では40歳以下の患者も減って来ているという。ただ歯周疾患については、それほど減少しておらず、平均寿命が100歳になる将来も60歳以上の患者は減ることはないように思える。こうしたこともあり、若者が歯科医院に行くとすると、小さなう蝕か歯並びの治療ということになる。
新規開業の先生を見ていると、診療所は今流行りのおしゃれなデザインで、患者ターゲットを完全に若者に向いている。そして口腔内スキャナー、歯科用CT、さらにCADCAMまで、いわゆるフル装備で開業する先生も多い。インビザラインなどをしようとI-TEROという口腔内スキャナーを導入したりするが、はっきり言って患者は来ることはない。今どきの若者は、かなりスマホなどでじっくりと検討するので、新規開業の歯科医院で高い費用を払って矯正治療をする人はいない。同様に、歯科用CTスキャナーを導入しても保険で認められる疾患はかなり少なく、主としてインプラント向けとなる。これも新規開業の先生のところでわざわざする患者は少ない。またCAD/CAMにしても、主として削り出しのインレーやクラウンなどの自費治療で、これもあまり勧めると、あそこの歯科医院は高いという評判となる。
要するに、若い先生は歯科経営コンサルタントの助言にそって、こうした設備を揃えて開業する。よく考えれば、最初は基本的な設備で開業し、患者が多くなれば、こうした設備を揃えればいいとわかるのだが。最近のこうした設備はほぼデジタル機器で、通常5−7年で陳腐化した、古くなってしまう。そのためにいかにこの5−7年で使いまくり、早く購入費を回収しなくては儲けとならない。以前と違い、現状での新規開業はあまり多くの患者数は期待できず、こうしたデジタル機器は使われないままゴミとなる。また経営コンサルタントは、過去の成功例(自分のところが関与していない)から、予防を主体とした経営システムを勧めるが、これも大概は失敗している。歯が痛くて歯科医院に行っても、まず多くの検査をして、衛生指導を行ってから治療を始めるという塩梅で、さらに一人15分、30分という予約枠を守るために、新規患者を断りながら経営が苦しいという先生もいる。これは完全に自費中心の歯科モデルをコンサルタントに勧められたからである。
これからの新規開業で、まず大事なのは、とにかく働くことである。朝9時から夜7時まで働けと言いたい。受付一名、衛生士一名の二部交代制、いなければワンオペで、半日一回、水曜日くらい休みにして日曜日も働く。そして全ての業務を基本的に一人でし、新規患者の予約は絶対に断らないことも大事である。予約がいっぱいでも何とか押し込み、まず患者の主訴である治療をする。検査などはその後で良い。最初30分かかっていた形成の時間も、人間追い込まれると同じレベルの形成を5分でできるようになる。ともかくいっぱい働くことが治療を早く、うまくなれる。もちろん設備は保険診療ができる最低限のもので良い。場合によっては中古のものを使っても良い。うちの父親は、亡くなるまでの50年間ほぼワンオペで歯科治療をしていたし(受付は母あるいは家政婦さん)、兄もパートの受付一名だけ、私もいまだに受付は家内、それに衛生士一名で治療をしている。兄は中古の歯科ユニットを使ったし、私もタービンなしの一番安い歯科ユニット2台で始めた。開業してどれだけ患者が来るかは、やってみないとわからないので、そのリスクを軽減するためには開業資金を抑えるのが鉄則である。新規開業で受付二名、衛生士三名を募集しているところもあるが、狂気の沙汰である。せいぜい衛生士一人、結婚していていれば受付は奥さんがすれば良い。
この状態で、患者が来て、収入が上がるようになってから、次のステップを考える。ある先生はこうした状態で開業し、しばらくするとさらに大きくと三度ステップアップしている。これが正しい経営である。いかに経費を抑えて収入を増やすか、これに尽きる。多くの若手の開業医を見ると、これと全く逆のことをしている。最初からフル装備の開業をして、多くの従業員を雇い、それでいて新規患者を断り、6時には終わる。そして保険治療を安すぎると文句ばかり言う。日本の医療制度は健康保険を主体として成り立っている限り、歯科医はとにかく多くの患者を診て、がむしゃらに働かなくてはいけない。体力勝負であり、若い先生はこれから逃げてはいけない。逆に将来的に自費中心でやるなら、最初から一切、保険治療をしないくらいの覚悟が必要で、それには10年ほど収入的に厳しい状態となる。
今にして思うことだが、とにかく歯科医院の経営は自分の借金をできるだけ早く返すことが大事で、そうして初めて自分のペース、診療システムで治療ができる。そのためには、保険を主体とした治療を懸命に取り組む。患者にとっていい歯科医院とは、まず1。治療が早くてうまい(ある程度で良い)、2。予約が取りやすい。3。優しい、4。通いやすいなどであり、1については数をこなせば何とかなるもので、2、3、4についてもワンオペ覚悟なら従業員がいなくなった時間以降も、土曜日、日曜日も診られる。若いうちは体力もあるので、30代で開業するなら、このやり方で10年もすれば借金は返せる。その後は、また借金をしてより大きな医院にしてもいいし、そのままでよりゆっくりした診療システムにしても良い。とにかく歯科経営コンサルタントの言に迷わされないことを忠告したい。楽して儲けようとしてはいけない。