2025年7月6日日曜日

来年度NHK朝ドラ 風、薫る 鈴木雅について

 







来年度、NHKの朝ドラは日本の看護師の創始者の大関和と鈴木雅のダブルキャストの物語です。内容については現時点では不明ですが、大関和役には見上愛さんが鈴木雅さん役には上坂樹里さんがキャストに選ばれました。

 

原作は、田中ひかるさんの「明治のナイチンゲール 大関和物語」、脚本は吉澤智子さんということです。鈴木雅さんについては以前、私のブログでも取りあげましたが、今回、もう一度、検索して調べると、横浜フェリス卒業となっています。横浜フェリスは、明治3年、日本で最初にできた女子学校で、当初はフェリス・セミナリーと呼ばれ、明治22年から横浜フェリス和英学校となりました。ただ私が調べる限り鈴木雅さんは横浜共立女学校の最初の入学生であることは間違いなく、最近発刊された「横浜共立学園150年史」でも以下のようになっています。

 

鈴木雅(加藤まさ)

1857(安政四)年生まれ。1872(明治五)年ごろ入学、1876(明治九)年バラより受洗、1881(明治十四)年ごろ修了か、その後、陸軍中佐鈴木良光と結婚するが死別し、看護の知識があったらと痛感して1886(明治十九)年、桜井女学校の看護婦養成所の一期生として入所し、1888(明治二十一)年卒業。東京帝国大学医科大学付属病院の内科看護婦長となった。1891(明治二十四)年慈恵看護婦会を設立して派遣看護事業を始め、1896(明治二十九)年東京看護婦講習所を開き、後進の指導に努めた。1940(昭和十五)6月11日に逝去。83歳、

 

また横浜共立学園六十年史」の中で、卒業生の寄稿文のひとつに小島清子(北川)さんの「思い出を語る」という文が収められています。少し引用すると

 

 「私は姉の北川晴子と弟の北川才太と三人で、ミッションホームが山手四十八番に開設された最初の生徒として入学したものでした。私たちの外に第一回の生徒として入学した人たちには福澤先生のお嬢さ達が三人、又福澤先生のお姪御さんで福澤おきよさん、井上馨(後の侯爵)さんのお嬢さんが二人、木脇お園さん。この人のことを伯爵夫人と渾名していました。中尾さん、名は何と言ったか覚えていませんが何でも芸者をしていたかということでした。苗字は忘れましたがお米さんという三十歳位の人もいました。菱川お安さん、この人は後医者となった。更木お梅さん、更木お金さん、おひささんなどでした。間もなく二百十二番に移りましたが、移ってから入学した者のうちには毛色の変わった人たちがいました。 略 おりょうさん(後栗岡氏に嫁す)、加藤おまきさん(後東京帝大の看護婦長となった)桜井おちかさん(桜井女塾を開いた)井深おせき(井深梶之助博士夫人)おとりさん、お角さん(後医者になった)お貞さん、おりやうさんなどであった。この二人は明治の初年最初の女子海外留学生として米国に往った上田てい子、吉松(益)りょう子さんたちで渡米後間もなく帰朝して共立に入ったのでした。これらは開校当時の事で明治四、五年頃の話ですが、それでも当時の社会においては相当の身分のある人たちの子供が入学したのです。」

 

一期生には他に青森出身でペンシルベニア女子医学校行った西田圭(岡見京)がいます、文中の菱川お安とは、シカゴ女子医学校に進学した菱川安、お角さんはシンシナティー女子医大に進学した須藤かく、そして桜井おちかとは桜井ちかのことで桜井看護婦養成所の開設者です。また宣教医として明治18年に共立女学校に派遣されたアデリン・ケルシーは学校医として働く一方、医療伝道として校外の患者の治療にもあたり、その時の同行したのが須藤かくと阿部はなです。その後、この医療助手に正式な医療を学んでほしいと思い、自分の故郷のアメリカに連れて行き、シンシナティ女子医学校に入れます。

 

鈴木雅は同級生が開設した桜井女学校で、イギリス出身のナイチンゲール看護学校を卒業したアグネス・ビッチの通訳をしたことから看護婦養成所に入所して看護師となります。鈴木雅が入所したのは明治19年で、すでに桜井女学校は矢島楫子が校長になっていましたが、母校である共立女学校のケルシーとは面識があり、同級生の須藤かくから医療助手、看護師のことを聞いていたに違いないと思います。また岡見京がペンシルベニア女子医学校を卒業して帰国したのが明治22年(1889,菱川安がシカゴ女子医学校を卒業し、帰国したのが明治22(1889),須藤かくがシンシナティー女子医学校を卒業して帰国したのが、明治30年(1897)で、それぞれ看護師になった鈴木雅とは交流があったと思います。

 

NHKの朝ドラでは、もちろんフィクションで構成されますが、鈴木雅についてはフェリス卒業というのは間違いで、横浜共立女学校の修了が合っていると思います。それなら同級生のうち3人が海外留学して医者になったというすごい状況を考えると、鈴木雅が通訳、看護師への道が無理なく説明できると思います。できれば番組でも須藤かく、岡見京、菱川やす、ケルシーなどの登場してくれると嬉しいことです。






2025年7月3日木曜日

朝ドラ、あんぱんを見て

 

親父の写真 階級章から少尉時代


朝ドラのあんぱんでは、主人公の柳井が軍隊に入隊するが、毎日の上官からのしごきに先は思いやられると思っていたが、幹部候補生試験に合格して立場は変わった。戦争中、旧制の中学校卒業の若者は、上官の推薦があれば、幹部候補生試験を受けることができる。試験は甲と乙の2種類があり、甲の試験に通ると士官学校に入学して、将校となる。乙の試験合格者は下士官になるため、主人公の柳井も軍曹の階級となる。この昇進スピードが速い。

 

うちの父親の場合、東京歯科専門学校(現:東京歯科大学)を卒業し、昭和1721日に入隊する。41日に幹部候補生試験を受け、一等兵に、そして420日に上等兵に進み、同日、甲種幹部候補生に、その後、豊橋の陸軍教導学校に進み、61日は伍長、91日に軍曹になり、1017日に曹長、見習い士官となる。その後、1027日に少尉となり、満州の輸送、測量部に所属した。昭和18年の1130日に現役満期となり、121日に予備役となるが、同日に招集されて関東軍の測量部に所属する。そのまま勤務して、終戦後に、新京の収容所に入り、昭和2012月にモスクワ南部のマルシャンスク収容所に入る。少尉から中尉になるのは通常2、3年かかるので、もう少しすれば中尉になったであろう。結局はポツダム昇進で、軍人年金などでは中尉扱いとなっている。収容所から日本に着いたのが昭和236月で、収容所は戦地扱いになるため、軍隊生活は昭和172月から昭和236月の6年4ヶ月なので、軍人恩給は結構多かった。

 

ただ日本では長男の存在は特別で、長男が戦死すると一家が消滅するため、激戦地には次男、三男などから配属された。親父の場合も長男ということで、輸送部隊、測量部隊と全く実際の戦闘に加わらない部隊にいた。徳島から招集された兵士の多くは、中国大陸から南方戦線に転出されたが、親父だけは中国に残った。こうした配慮は旧軍でも確かにあった。

 

戦争というのは残酷で、家族構成が時代に合ってしまうと、多くの犠牲者を出す。昭和10年くらいから20から40歳の世代が戦争に駆り出された。明治40年から大正10年、もう少し幅をとって昭和元年生まれくらいまでが参戦した世代である。親が明治10年から20年生まれの家では、5人の男の子がいれば、全て戦争で戦死したということが起こり得るし、少なくとも子供の一人くらいが戦死したであろう。一方、家内の父親の場合、7人兄弟で、男が4人、女が3人だが、一番上が昭和5年生まれなので、兄弟誰一人として参戦していない。また祖父が明治38年より前の生まれであれば、招集は免れた。5年か10年の年齢差で男の子全て戦士という家もあるし、出征しなくても良い家もいた。

 

また戦地によって扱いはひどく違い。ロータリークラブにいた時、お世話になった方は、召集されてからずっとタイ、バンコクに勤務して、ナイトクラブに行ったり、映画をみたりと結構楽しかったと懐かしんでいた。戦後も早い時期に日本に輸送され、日本の食生活に驚いたとようだ。逆に知人のご主人は、東京大学工学部を卒業後、第36師団として学徒出陣でニューギニアに派遣された。ニューギニア戦線はひどく、戦闘と飢餓で全兵の80%が戦死した。南方戦線は兵の消耗がひどく、中国戦線の方がまだマシだが、戦後、親父のように最初に捕虜になった兵士は、モスクワ南方、ドイツ軍捕虜などの一緒の捕虜収容所だったので生活はそれほど厳しくなかった。一方、中国大陸で捕虜になった兵士の多くはシベリアの収容所に入れられ、厳しい寒さのために多くの日本人が亡くなった。また南方戦線でアメリカ軍の捕虜になった兵士は捕虜生活もそれほど大変でなく、捕虜になるのもソ連、アメリカで違うし、ソ連でもどこの捕虜収容所に行くかでも違った。

 

実際のやなせたかしさんは、戦争中、病気になったり、食糧がなく苦しんだが、暗号係で、実戦経験はなく、捕虜生活もしていない。同じ漫画家の水木しげるの戦争経験とは雲泥の差がある。


2025年7月2日水曜日

矯正治療が高いのは技術料

amazonで売っているブラケット、メタル製で1症例用
6.99ドル、約1000円、もちろんこれでも普通に治せる。技術とはそういうものである。



矯正治療費は高いというのは皆知っているが、なぜ高いということになるとよくわかっていない。歯科医院によっては金属のブラケットと白いブラケットで値段が違うことがあるが、私にいわせれば、差をつけるほど大きなちがいはない。例えば金属製のブラケットが一つ250円くらい、強化ブラスティックの白いブラケットが500円くらい、さらにセラミックのブラケットで1200円くらい、一番高いもので2500円くらいである。抜歯症例でいうと第一、第二大臼歯、第二小臼歯の計12本でメタルのチューブは一個500円×126千円、犬歯、切歯の12本を一番高いセラミックでも2500円×123万円となり、ブラケット代だけなら、せいぜい4万円以下である。さらにワイヤー代もピンキリだが、一般的によく使うステンレススチールのもので200円くらい、超弾性ワイヤーなど使っても2年間の治療期間で3万円以下となる。つまりマルチブラケット装置に材料費はどんなにがんばっても8万円以下、私の診療所でいうならブラケットとチューブで1症例が14200円、ワイヤーはよく交換する方だが、それでも2年間で30回交換したとしてもおおよそ15000円、他のゴムや結紮線、フックなどが5000円くらいで、34200円くらいとなる。もちろんこれ以外にも、人件費、テナント料、光熱費さまざまな費用はかかったが、これは保険診療でも同じである。

 

一方、私のところの基本治療費は40万円なので、40万円マイナス34200円が材料費を除くもうけとなる。また調整料の3000円のうち、ワイヤーや結紮線、ゴムの費用など600円くらいが材料費となり、残りがもうけとなる。材料費はうちの場合、基本治療費で8.6%、調整料で20%となる。もうけはそれぞれ91.4%80%となる。これが基本治療、80万円の場合、もうけは95.3%、調整料が5000円の場合、88%となる。

 

それではこの80-90%のもうけは何の値段かというと、多くは技術料といえる。もちろん銀座で開業すれば、テナント料、人件費、あるいは広告費もかなり高いが、処置としては技術料が大きいと考えて良い。手術を例にすればよくわかるが、ブラックジャックはそのすぐれた手術技術で高い手術料を請求している。日本は極めて特殊な国で、ブラックジャックに手術してもらっても新卒のペイペイに手術しても手術点数は同じであるが、本来技術料というのは、経験、知識、技術の差によって異なるものである。であるなら若手の先生で経験、知識、技術がなければ、ベテランの専門医で同じ技術料を取るのはおかしなことになるし、本来ならそういうことはありえない。若手の外科医がブラックジャックの料金をとっても誰も手術を受けないからである。

なのに患者はどうして一般歯科医で矯正治療を受けるのだろうか。不思議なことである。私自身、それほど器用な方ではないとしても、年間100-150症例、30年間では3000-4500症例、大学で治療したケースも含めれば、優に5000症例は治療した。ところが一般歯科医であれば、普通年間に多くて10症例、30年間で300症例、このうち、マルチブラケット装置での治療と2年間の保定という症例はもっと少なく、さすがに技術的な違いがあろう。ましてやインビザラインしかしない先生など論外であり、さしずめ外科治療もしたことないのに、内視鏡手術をいきなりするようなもので、危険この上もない。

 

矯正治療の値段は、ほとんど技術代ということを述べたが、それでは何をみて判断するかである。まず日本矯正歯科学会の認定医以上の資格を持つ先生のいる歯科医院がよい。さらにいうならその上の資格、臨床矯正指導医、あるいは昨今できた日本歯科専門医機構、矯正歯科専門医の資格を持つ先生がさらによい。また先生の履歴をみて、大学病院矯正歯科、あるいは矯正歯科専門医に勤務したことはない先生はまずマルチブラケット装置による治療はできないとみた方がよい。最近は、暇なのでYouTubeをよくみるが、私がよく知っているあるいは学会でも有名な先生は誰一人でていない。まず認定医の資格すら持っていない先生がほとんどで、少し情けない気もする。美容外科のチャンネルも多いが、少なくとも彼らは正式な形成外科の医局で勉強した先生が多い。それに対してYouTubeで歯科矯正を発信している先生は、私からいわせればほとんど素人で、本当に恥ずかしい。優秀な矯正歯科医のところは、患者が多くて、YouTubeなどしている暇もないし、これ以上患者が来られるときちんとした治療ができないとそもそもホームページすら作っていない先生もいる。


 

2025年6月26日木曜日

素直な性格は生まれつき?

 



私には二人の娘がいて、同じような教育をしてきたが、性格が全く違う。顔形(かおかたち)は遺伝的な影響を受けるのはわかるが、性格が遺伝するのはどうも信じられないが、生まれつきの性格はあるのだと考えたくなる。ただ性格については、遺伝的な要素はあったとしても、環境的な影響はそれ以上に大きく、どのような時代、あるいは家族で育ったかは性格に影響する。

 

ある調査によると「素直でまっすぐな人と一緒に過ごしたいですか」という問いに、「とても魅力を感じる」が65.3%、「どちらかというと魅力を感じる」が25.3%と合わせて90%以上が素直な人に好意を持つようだ。こうした性格は、社会において得をすることがわかる。

 

であるなら自分の子供が素直な性格に育って欲しいというのは、多くの親の希望であるが、残念ながら自分の子供のことを含めて私の家は該当せず、難しいものだ。ただ素直な性格の人を見ていて共通のことがあるように思われるので、あくまで個人的な感想であるが、述べたい。

 

1.お金に困らない家庭で育つ

確かに家が貧乏でも素直に育つ子供もいるが、どうしても金のことで家族がギクシャクして、ひねくれた性格になることがある。また親、特に母親も生活に追われて子供に愛情を注ぐ余裕がなく、愛情を知らないで育った子供の場合、素直になりにくいだろう。一方、お金持ちというと韓ドラでは性格の悪い人物が登場するが、実際のお金持ちの子弟は、いわゆるお坊ちゃん、お嬢ちゃん育ちでのんびりした素直な子も多い。率としては貧乏な家庭より金持ちの家庭の方は素直な性格の子がいる割合が高い感じがする。

 

2.母親が素直でいい人

今でこそ共稼ぎで、母親も働く家庭が多いが、以前は母親が家にいて、子供に接する時間は父親より母親の方が圧倒的に高かった。そのため、母親の性格が子供に反映されることが多かった。母親がいわゆるいい人で、表裏のない素直な性格であれば、子供も同じような性格の場合が多い。今は父親の存在も大きいかもしれないが。

 

3.親子の会話が多い

待合室を見ていると、本当に親子で会話が多い家族がいる。小学生だけでなく、高校生になってもずっと母親、父親としゃべっている。おそらく家でも会話の多い家族なのだろう。こうした家庭では素直な子供が多い。学校で起こったことなど何でも話せる家庭なのだろう。

 

4.進学校に行っている

私は兵庫県の私立六甲学院という中高一貫の進学校に通っていたが、素直でいい子が多かった。もちろん不良などは一人もいない。さらにいうと女子校の場合はもっとそうした傾向が強い。多分、東京聖心や学習院などのお嬢さんの学校では、いい子が多いのだろう。同じように私が住む弘前のような地方でも、学校ランク順に素直な子が割合に差がある。弘前高校に多い。素直な子は勉強ができるので、こうしたことになるのだが、逆に周りの友人による影響も大きい。

 

5.挨拶ができる

素直な子は、診療所に入ってきてもしっかり挨拶ができ、理解、返事もしっかりしている。予約時間を守り、歯磨きもきちんとし、ゴムもしっかり使う。結果的に早く治療できる。逆に素直でない子は、平気でGoogleで星一つの評価をし、ばれて親にいうと親も逆ギレする。ここまで書いてきて、素直なので、勉強ができ、態度もよく、結果、お金持ちになり、いい家庭になるのか。なら結局は遺伝なのか。

 

大谷翔平選手は、高校時代の恩師から「ゴミを拾うことは運を拾うことだ」という教えを聞いて、今でもグランドのゴミを拾っている素直な性格だ。彼ほど誰からも好かれるスポーツマンは少なくないが、人の話をきちんと聞く姿勢が素晴らしい。若い方は、どうか素直な性格になるように努力してほしい。

 


2025年6月22日日曜日

私の診療所の料金システム

 





矯正治療費は大きく分けて、1。総額制、2。基本治療費制、3。装置代別の3つに分かれ、1の総額制はすべての装置代、調整料を含めた価格で、患者はこれ以上、医院に払う必要はない、例えば、私の知人のところは70万円の総額制になっており、マルチブラケット装置、矯正用アンカースクリュー、ヘッドギア、パラタルバーなどの付加装置、調整料、保定装置料などすべての費用が入っている。そのため、受付は予約のみで会計はほとんどない。2。は日本では一番多いシステムだが、例えば基本治療費が50万円、この中にはマルチブラケット装置や付加装置などが入るが、調整料や保定装置は別料金となる。3は、大学病院などで取られているシステムだが、矯正歯科専門医院ではあまり使っていない。マルチブラケット装置が上下で20万円、パラタルバーが3万円など装置ごとに料金が決まっている。

 

私にところは、この2のシステムを使っており、基本治療費は40万円、保定装置料は4万円、調整料、観察料は3000円にしている。子供場合は、一期治療の基本治療費が20万円、二期治療に基本治療費が20万円としている。総額で見ると、税抜で検査診断料3万円+基本治療費40万円+保定装置代4万円+調整料3000円×30回の9万円、計56万円となる。治療期間の長さで多少変わるし、矯正用アンカースクリューが一本6000円かかるが、それでもだいたい税込みで60-70万円くらいだろう。以前、日本矯正歯科学会の臨床指導医の歯科医院の料金を見たが、安い方かもしれない。なぜこうした費用にしたかというと、1。青森県の県民所得は全国最下位であること、2。できるだけたくさんの人の治療を受けて欲しかったこと、3。家賃、人件費など経費も安いことなどから、この価格にした。もう一つの4番目の大きな理由は、弘前で最初の矯正歯科医院なので、少し安い料金で開業すれば、二番手、三番手が現れにくいと考えた。実際、4番目の理由の影響は大きく、それまで弘前で矯正というと100万円ということになっており、実際この値段で矯正治療をしていた一般歯科医の多くは矯正治療をしなくなったか、料金を大幅に下がった。

 

できるだけ収益を増やすために、家賃の安いビルの3階を借り、従業員0名、家内と二人で診療した。また技工は外注せず、すべて一人でした。家内と一緒に掃除をして、診療をして、技工をした。その後、子供の世話もあり、家内は午前中のみとなり、午後からはパートの衛生士、最終的には常勤の衛生士一名と受付は午前が家内、午後はパートの受付の最小限のスタッフでやってきた。土曜日は衛生士学校の学生にも手伝ってもらった。これでも一日、平日で20-30人、土曜日は40名くらい治療した。また矯正材料は、製品を集約して、業者と価格交渉して安く購入した。こうしてできるだけ経費を減らすように常に努力してきた。

 

こうなると、普通は弘前と周辺の矯正患者を独占すると思うが、実際は一般歯科や他の矯正歯科で治療する患者も多い。こう言っては僭越であるが、一般歯科の先生に臨床技術で負けることはありえないし、他の矯正歯科専門医に対しても少なくとも劣ることはない。驚いたのは一人200万円出して東京の一般歯科のところに夫婦で通院していた人がいた。トラブルのため、私の診療所に来たのだが、それはひどい治療であった。私だったら、治療技術が同じか上で、料金が安ければ、迷わずそこで治療するが、実際はそうではないようだ。

 

この理由について、ずっと考えてきたのだが、1。まず世の中には料金が高い=良い治療という人が一定数いる。こうした人は40万円の私にところの治療よりは、200万円の東京、銀座の歯科医院を選ぶのであろう。2に一般歯科、あるいは友人から紹介されると、他のところで相談もせず、そのままそこで治療をするパターンである。こうした人は先生や歯科医院で矯正臨床技術や料金の差はないと考えている。一般歯科で矯正を勧められたら、その先生は矯正治療ができるものと信じている。3は2とも関連し、これが一番多いのだが、全く情報を入れようとしない患者である。矯正治療は保険がきかないのも知らないし、いくらくらい、専門医がいることも知らない。学校検診で歯並びを指摘され、かかりつけの歯科医院に行き、そこで矯正治療を勧められたら、そのまま治療をする。ただこれは子供の矯正治療で、大人の場合は、ネットでかなり調べてくるので、まず私のところにくる患者が多い。医療関係者、例えば歯科衛生士、看護師、医者、医学部学生などは、ほとんど私のところで治療を受ける。1994年から弘前大学医学部の非常勤講師をしているからで、相談する人が周りに多いからであろう。ただ歯科医師の子供で私のところで治療を受けたのは30年間でも5、6人で意外に少なく、これも不思議である。

 

2年前から新規患者を取らなくなったが、器材屋がいうのは新規間業する先生はセファロを設置するし、レントゲン室を拡張してセファロを入れる歯科医院が増えたという。セファロを設置し、矯正歯科医のバイトを入れても、料金的には私のところの治療費に対抗できないため、ここ30年間に新規開業をした歯科医院にはほとんどセファロは設置していない。新規患者の受け入れをやめる前、2022年は子供を一切受け入れない状況(2020年から子供は受け入れず)で、成人患者だけで240名来院した。コロナバブルのせいであるが、それでも通常、子供の矯正患者が半分くらいだったので、私のところだけ年間300-400名の矯正患者がいたことになる。弘前市内には矯正歯科認定医が3人いるが、矯正患者数がそのまま増えてはいないようで、一般歯科に流れた可能性も高く、それがセファロの設置が多くなった理由であろう。

 

結局、日本では歯科医も患者も、矯正治療の専門性を知らないようだ。歯科という小さな分野でさらに専門医制で細分化するのはどうかという声も大きく、単純に矯正歯科くらいは俺だってできると信じている先生も多いし、患者もどの歯科医で治療を受けても同じだと信じている。




2025年6月19日木曜日

倒れる若者

 



先日、知人が高校のミニ同窓会に参加し、そこで話題になったのは、小学校の教育実習生が次々と倒れるという不思議な現象のことである。弘前大学の教育学部では三年生、四年生は、附属小学校で教育実習をするが、最初は教室の後ろに立って授業を見学する。ところがものの1時間もすると実習生が次々と倒れていく。ひどい場合は完全に意識を失って倒れる学生もいるという。今年はすでに5人が実習中に倒れた。こうしたことが起こるようになったのは、10年ほど前からで、それまでは目立ってそういうことはなかったが、一人、次の年は二人と少しずつ増えてきて、今年はついに5人ほどが実習中に倒れたという。同じようなことは歯科大学で衛生士を指導している先生も言っていた。毎年、必ず診療室で見学実習していると倒れる生徒がいる。また医学部の先生も、手術見学中に倒れる学生が多いと言っていた。

 

熱中症で具合が悪くなることは毎年話題になっているが、昔は熱射病といったが、今ほど大騒ぎになっていなかった。おそらく昔の子供の方が暑さ、寒さに強かったのだろう。人間の体は案外、外環境に適用するように作られており、昔、南極探検のために白瀬中尉が寒い環境に慣れるために子供の頃から寒くても火に当たらず、千島で越冬して寒さに耐える体を作ったという。これは青森に住んでいる私でも、冬場のマイナスの温度に慣れてしまうと、南の方に旅行して気温が十度くらいになると汗ばむようになる。おそらくロシアの厳冬地、マイナス20度くらいのところに住む人々は、0度は暖かいと思うのだろう。若い人が、朝礼中に倒れると言うのは、医学的には神経調整性失神と呼ばれるが、ストレスや強いショックにより自律神経のバランスが崩れて脳への血流が不足することから起こるとされている。またスマホのしすぎによる睡眠不足や朝食の欠食なども原因とされている。

 

ただ教育実習では、実習生が初めて講義するという特別な状況ではなく、ただ後ろで見学している状況で起こるという。そのため教官は前日に、夜はしっかりと眠るように朝食、昼食はしっかり食べるように指導するものの、あまり実行してくれないと嘆いていた。知人が何かいい改善策はないかと言うので、私が東北大学入学時のことを話した。入学すると受講教科を決めなくてはいけない。体育は必須なのだが、教養部で選べるのはテニスやバレー、卓球、バトミントンなどがあるのだが、最初の体育の授業でまず体力測定が行われる。走力と筋力で、鉄棒の懸垂数をカウントする。私の場合、浪人していたせいか、体力が急激に低下していて、懸垂も3回しかできなかった。そのため、スポーツ部というところに回された。このスポーツ部は体力の向上を主としたもので、週に一回、1時間、走ったり、懸垂をした。たまには100m1500mの記録を測った。終わると汗みどろで優雅のテニスをしている連中の横、スポーツ部はぜいぜいと息をして倒れ込んでいた。それでも1年もこうしたトレーニングをしているうちに、かなり体力がつき、懸垂も20回くらいできるようになった。将来、教師になると、小学校では体育の時間もあるので、学生はこうした体力向上の授業を受けさせたらどうかと言うのが私の意見である。

 

先日、深浦町の町長がトレーニングインストラクターの資格があるので、町内の小学校の子どもたちに本格的な走り方の指導をしていた。生徒は皆、早くなったと言っていたが、私自身、中高大と12年間、サッカーをしてきたし、国体の練習にも参加したが、ランニングの本格的な指導をしてもらったことはない。大学生の体育は今でも必須と思われるが、できれば、すべての学生にこうした体力増加を目的にしたトレーニングを科したらどうであろうか。卒業してもあらゆる仕事でまず必要なのは体力であり、走り方、歩き方、筋トレなど、基本的な体力向上のトレーニングを専門家からきちんと学ぶことは大事なことである。

 

もちろん最近の若者が次々と倒れるのは単純に体力の問題だけではなく、むしろ精神的な要素が大きいが、大学生になると運動部以外の多くの学生はほとんど運動をしていない。実際、1時間以上立つことも、こうしたバイトをしなければ、普段あまりない。栄養士による食事指導とともに、きちんとしたトレーニング方法を大学生のうちに身につけることはその後の人生でもかなり役立てのではないだろうか。社会人になるとお金を出してスポーツジムに通うくらいなら、大学の体育の授業の中にもそうした要素を取り入れ、生活、食事指導なども併せて指導し、実習中に倒れない学生を作ってほしい。


2025年6月15日日曜日

歯科矯正診断の難しさ

 



全ての病気を治すためには、まず検査をして診断をすることが必要である。例えば膝が痛いと整形外科に行くと、まず症状を聞き、視診、触診、X線検査、超音波検査、さらにはMRIなどの検査をして、診断し、その診断に沿った治療を行う。

 

歯科矯正においても、まず患者さんが来ると、詳しい履歴を聞き、まず顔をよく見て、上下の顎のバランス、唇の突出感などを見てから、口に中を見ていく。実際に治療をするとなると、口腔内写真、顔面写真、模型、レントゲン写真、場合によっては顎の運動を測定する。とりわけ診断に大事なのは、模型とレントゲン写真である。レントゲン写真では、口全体をみるパントモ写真と、顔を横から撮った側方頭部X線規格写真、正面から撮った正貌X線規格写真、場合によっては顎関節写真などを追加する。そして頭部X線規格写真(セファロ)については角度や長さを測り(セフォロ分析)、顎や歯の問題などを診断していき、パントモ、模型診断などと合わせて治療計画を作る。

 

1.セファロ撮影装置がない

セファロ写真を撮るためには、一般歯科医院に通常あるパントモ撮影機にセファロを撮る設備を加える必要がある。これはかなり費用がかかるので、インビザラインをしている先生の中にはセファロなしで治療をする先生がいる。昔、兵庫県のクレーム担当理事が言っていたが、セファロ分析なしで矯正治療をして、クレームがくれば、ほぼ裁判で負けるので示談を勧めていた。インビザラインで多いクレームの一つに治療後、口元の突出感が改善していないというのがある。セファロ分析では上下の前歯の理想的な角度というものが決まっており、この数字よりかなり大きいと、非抜歯では治療できない。セファロ分析なし、非抜歯で治療をすれば、これは診断ミスで、裁判ではまず負ける。

2.セファロ分析できない

セファロは立体的な像を二次元で表し、その中の仮想点を見つける作業がある。これにはコンピュータ画面上で点を入力する方法と、一旦、プリントアウトして、その写真をトレースして分析する方法がある。最近では画面上で直接入力する人が多いが、専門医試験では全て手書きのトレースの提出を求められるので、あまりひどい先生はこの時点で、不合格となる。実際にセファロ写真をトレースできるようになるまで、新人が矯正科に入局して半年くらいはかかる。さらにこのトレースを用いて角度、線分析を行うが、これを正確に解釈するにはさらに二年くらいかかる。矯正治療の難しさは、このセファロのトレース、分析を学ぶのに二年くらいかかる点であろう。

3.診断できない

セファロ分析により正確に診断されたとしても、治療法が限定されると間違った治療になることがある。矯正歯科専門医でも外科的矯正をしない先生がいる。上下の顎のずれが大きい、明らかな骨格性不正咬合の場合は、最初から外科的矯正と診断され、大学病院などの紹介することができる。ただいわゆるボーダラインケースでは、どうしても外科的矯正をしない先生は歯だけで治療する。専門医試験でもこうした症例が提出されることがあり、先生に聞くと、多くは患者が手術を拒否したので、仕方なく歯だけで治療したと答える。これは嘘であり、経験上、手術の話はしていない場合が多い。近年、上下の顎のずれ、これは前後、正面とも、がある場合は、外科的矯正を選択することが多い。以前、30年前までは外科矯正と言えば、骨格性反対咬合に限局していたが、近年は、上顎前突、顔面非対称のケースも外科的矯正で治療されることが多くなった。実感としては2倍くらいになった。なぜなら外科的矯正の方が、患者の満足度が高い上に、理想的な咬合を達成できるからである。

 

矯正歯科専門医試験官として何百症例を評価した結論としては、診断はほぼ収束する、つまり同じような診断になる。卒業して大学や習ったテクニックは違うので、多少は考えが違うものの、診断、治療法が大幅に違うことことは少ない。ただこれは二十年以上矯正専門医でやってきた先生の場合であり、逆に一般歯科の先生では、まずセファロがない、あるいはトレース、分析ができないことから、まず正確な診断、治療法が立たないと思う。インビザラインの一番の問題点は、その治療法ではなく、診断法で、このスタートの段階でミスをすると、患者にも大きな迷惑をかける。インビザラインを受けたいと思う人は、まず歯科医院で検査をして説明を受けたら、先生にセカンドオピニオンを受けたいと言って資料を要求して欲しい。セカンドオピニオンはリスボン宣言で患者に認められた権利で、これを断ることができない。それをもって矯正専門医を訪ねてほしい。多分5千円、1万円くらいの費用がかかるが、必要なことと思う。私のところに相談に来てもらっても良い。ただ実際セファロも撮っていない歯科医院では、矯正歯科専門医に診てもらうというと拒否する可能性が高く、その場合はそこでの治療はやめた方が良い。失敗する可能性がかなり高いからである。