2018年12月27日木曜日

外国人観光客 夜の弘前



 大好きな番組、ヒロシの「迷宮グルメ異郷の駅前食堂」を見ていると、台湾の基隆のことが放送されていた。いつもの番組では、駅前周辺にあまりレストランがなかったり、地元料理がないため、随分あちこちを歩き回り、現地の人に聞いたりしてようやく、レストランに見つけることができる。ただ台湾ではあまりにレストランが多すぎて、その中からどこを選ぶか苦労するという場面が多い。台湾人は、外食が好きで、まず朝、昼は、ほとんど人が外で食事をとる。朝は出勤途中、家の近所の屋台で、昼は職場近くの食堂で食事をとり、夜も夜市に行って食事をとる家族も多い。朝昼晩の三食、全て外食という家も。さすがに田舎に住む家では三食外食はないだろうが、それでもちょっとした街でも屋台や小さな食堂が多く、外食に困ることはない。

 中国人はどうかというと、ある調査ではほとんど、朝食についてはほとんど毎日外食が34%と最も多く、昼食は週5、6回が29.3%,夕食は週1、2回が45.7%となっている。朝食についていえば、週5回以上は49.3%で、ほぼ半分の人で朝食が外食である。ちなみに日本では朝食を自宅で食べる比率が91.2%高く、外食は7%くらいである。昼食は日本人でも外食が多いが、おそらく夕食も含めて、台湾人や中国人の方が圧倒的に外食率が高いと思われる。彼らからすると日本は、朝開いている屋台や食堂が少ないイメージを持つだろうし、夜も東京など大都会を別にすれば、弘前のような地方都市で食べるところが少ないと思うだろう。

 そういうこともあり、弘前の夜、7時というと店は閉まり、あまり人も見かけなくなるが、その中、一様にアウトドアの格好をした一団を見かける。おじいさんとおばあさん、そして若夫婦とその子供、全部で6名ほどの中国人観光客の集団である。暗い道で盛んにスマホをいじって何かしている。そして駅前のイトーヨカードーに入っていく。7時を過ぎるとヨーカドーも人はまばらになり、食品も割引シールが貼られていく。その中を彼らは焼き鳥や寿司、おやつなどの食べ物を買っていく。せっかく弘前に来たんだから、夜もホテルに閉じこまないで、観光をしたいということなのだろう。

 それでは弘前で、夜7時以降、観光するところはあるだろうか。ヤマダ電機などの家電店は9時頃までやっているが、弘前の中心街にはなく、郊外にある。同様に大型のゲームセンターもそうである。弘前城近くの観光施設、弘前ねぷた村は5時までで、デパートの中三も営業時間は7時までである。中心地の土手町の店も大抵は7時までで、その後はコンビニくらいしか開いていない。逆にホテルが集中する中心街で開いている店を探そう。まずイトーヨーカドーは8時まで、ヒロロも8時まで、MEGA9時まで、ヒロロにあるいきなりステーキ、ツルハドラッグは10時まで、ハッピードラッグは12時まで開いている。あとは駅前、鍛冶町の飲み屋であるが、家族で動く中国人観光客は行きにくい。

 こうした状況に対して、弘前市や商工会議所も手を売っているようで、まず鍛冶町の古くからある城東閣をリノベーションして回遊式の飲食店街にする計画がある。さらに土手町のルネスもリノベーションしており、今後、弘前現代美術館や弘南電鉄、中央弘前駅も新しくなり、弘前駅から土手町さらに吉野町への夜の散策コースができるだろう。できれば美術館周りにはキッチンカーなど、ちょっとした夜市的なものがあれば楽しめる。市がキッチンカーへの改造費用の助成、営業手続きの手伝いや給水などをしてもらえると、若者が開業しやすい。海外からのインバウンドは一時的との声もあるが、青森との直行便がある天津市で500万人の人口がいて、さらにベトナム、タイなどの東南アジア諸国に住む人々も雪や温泉、桜などへの憧憬は深く、経済状態が上がるにつれ、日本あるいは青森、弘前への旅行客も増える。

夜のモデルコース(駅前のホテルに滞在、歩いて移動)
1.     駅前での飲食  日本海庄や(5から7 いきなりステーキ 豪華楼 
2.     イトーヨーカドー(7から8時)
3.     MEGA(8から9)
4.     ゲームフェスタミタマ(9から10時)

2018年12月25日火曜日

矯正治療で治ること、治らないこと




 私は、ビビリなので、病院で検査を受けるとかなり緊張する。いつも血圧は120130くらいだが病院で検査を受けるとこの数値が150160に跳ね上がる。12月に受けた健康診査では最初、測るとなんと180にもなり、後で嘆願してもう一度測定してもらい140になった。それでもまだ高い方である。他の検査結果についても、精査が必要と言われ、MRICTあるいは胃カメラなどによる検査を受けると、その結果が出るまで生きた気がしない。そのため、医師より特に大きな問題がありませんと言われると、本当にホッとする。

 ただ、最近は検診によるガンの見過ごしなどが話題になることが多く、少しでも問題があれば、用心のためかすぐに精密検査を受けるように言われる。先日も家内が毎年の検診で、超音波検査で膵臓の菅は肥大していると言われた。いわゆる膵臓癌の疑いである。すぐにCT検査を受け、結果は特に問題はなかったが、その間の一週間はきつかった。私も数年前に肝臓の管が同じように肥大していると言われ、MRT検査を受けたが、同様に異常はなかった。この時も相当焦った。60歳過ぎて検診で全く問題ない、全てA判定の人はいるだろうかと思うほど、最近の検診はシビアである。血圧に至っては130以上を高血圧とすると半分の人が高血圧患者となる。

 歯科の場合は、疾患がう蝕が歯周疾患というはっきりした病気なので、それほど患者をビビらせることはないと思うが、それでも最近は、患者を不安にさせる歯科医が増えてきた。例えば、歯並びが悪いと、顎関節症の原因となるばかりか、全身の不調につながると唱える歯科医がいる。そして矯正治療を勧めたり、大掛かりな補綴処置を勧めたりする。もちろん高額な治療費がかかる。患者にすれば、将来大変なことになると言われると不安となる。実際、不正咬合と顎関節症との因果関係は証明されておらず、矯正治療や補綴処置で顎関節症や肩こりや頭痛など治る可能性は少ない。人の不安に突き込む詐欺のようなものである。

 不正咬合も、実は機能的な問題は少ない。例えば、歯並びが悪いと咬む能力が減少すると考えられがちであるが、正常咬合に比べて上顎前突ではほとんど咬む能力は差がなく、デコボコでは10%くらい、外科矯正が必要なほど重度の反対咬合で50%くらいである。つまりどんな不正咬合でも正常者の半分以上はあることを意味し、日常生活には支障はほとんどない。発音に至っては、これも重度の反対咬合では一部発音はおかしなこともあるが、ほとんどの不正咬合では関係ない。つまり教科書的な不正咬合の機能障害はほとんどないことなる。もちろんう蝕は歯周病でも不正咬合との因果関係は少ない。唯一、不正咬合による問題点は、社会心理的な問題である。つまり歯並びが悪いと、自分に自信を持てない、笑顔ができない、積極的になれないなどの社会心理的なハンディがあることが証明され、それは矯正治療で改善することは多くの研究ではっきりしている。

 そのため私の診療所では、物がかみきれない、アゴが痛い、発音が悪いなど、機能的な問題の解決を求める場合は、全て矯正治療を断っている。なぜならこうした機能的な問題を矯正治療で治すエビデンスはないからである。一方、社会心理的な問題は形態の治療で改善できるので、歯並びにコンプレックがある患者には、矯正治療は勧める。これまでマイナスであったものが、矯正治療でプラスになり、コンプレックスが転じて、自分の魅力になるからである。もちろんこうした治療を医療ではないという人もいると思うが、実際に歯並びのことで悩んでいる人も多く、そうした人の役に立つなら立派な医療と考えている。医療は決して人も不幸にするものではなく、少なくとも心理的な不安を取り除くお手伝いをするところだと思っている。

2018年12月20日木曜日

大阪万博と舶来もの




 2025年、大阪で二度目の万国博覧会が行われる。今から楽しみであるが、反面、1970年の万博のような熱気は絶対に起こらないであろう。あれほどの時代の熱気はもはや平成になってからは不可能である。あの熱気は、昭和という時代でなければ無理だったと思う。1970年というと昭和55年。これは戦後35年ということになり、終戦時20歳だった成人が、55歳ということになる。つまり当時の55歳以上の日本人は全て戦争経験者者なのである。戦中、戦後の苦しい生活を経験した上の、東京オリンピックであり、大阪万博なのである。あの頃、終戦時のことを思うと、なんと日本は発展してことか、誰しもが思った実感であろう。それゆえ、参加者はかなりの思入れを持って計画、建設、運営に全力を捧げた。19703月から9月までの183日間の会期で入場者数は6420万人、そのうち外国からの入場者は170万人であった。日本人のほぼ半分以上が見に来たことになる。

 1970年というと私は14歳、中学二年生で、確か兄や友人と万博に3、4回見に行った記憶がある。まずアメリカ館とソビエト館が人気の中心であったので、朝早くからゲートに並び、開門と同時にどちらかにダッシュする。ゲートからは少し距離があるので、体力にものを言わせて大人や老人を追い越し、アメリカ館、ソビエト館に走っていく。どちらも30分くらい並んで見られた記憶がある。その後、少し人気にないパピリオンを周り、3、4回でほとんどのパピリオンを回ったと思う。今と違い、当時は外国製のものはなかなか手に入らず、カナダ館ではビーバの毛で作った人形を買ったり、フランス館では本場のランチを食べたりした。他のパピリオンでも併設の食堂やお土産屋で様々なグッズが売っていた。どれも大阪のデパートにもないもので、万博会場でしか手に入らない。また尼崎に住んでいた私は、学校には外国人の神父がいたもので、街で外国人も見ることがなく、万博でも何人かの外国人に声をかけて記念にサインをもらった。あちらも見知らぬ日本の中学生からサインを求められ、さぞびっくりしたことであろう。また夏休みに、母の言うことを信じて当時販売され始めたマドラス柄のトランクス下着を短パンと勘違いしてはいたまま万博に行った恥ずかしい記憶がある(数年後に気づいた)。

 最終日に近づくと、各パピリオンでも装備品の販売を行っていて、確かフランス館の人間の形をした椅子を売っていて、欲しいと思ったが、電車で持って帰るにはあまりに大きく諦めた。今でもそうだが、どうも外国、特に欧米に対する憧れがあり、舶来ものとして喜ぶ癖が私にはある。私の診療所も、3つの歯科用ユニットはアメリカ製が2台、ドイツ製は1台、滅菌器はカナダ製とアメリカ製、さらには2台のエアーフロー機器はスイス製、レントゲン装置はフィンランド製、光重合機はデンマーク製、矯正機材をしまうキャビネットはイタリア製、これだけ舶来品に囲まれている。さらにいうと、矯正機材のほぼ半分はアメリカ製である。私の舶来ずきは、どうもこの大阪万博から始まったのかもしれない。流石にインターネットのストリートビューで世界中どこでも見られる状況では、万博の各国のパピリオンを見てもそんなに大きな感動もないだろうが、それでもこの時しか見られないような驚くような工夫を観客に見せて欲しいものである。

2018年12月14日金曜日

Smile Direct Club 歯科医院に行かなくても矯正治療できる?


こうしたキットで自分で型をとるか、上のスマイルショップで肩をとってもらう


 最近のアメリカの矯正学会で最もホットな問題は、“Smile Direct Club”社による歯科医師が介在しない矯正治療である。この会社は以前、歯の漂白をするためのマウスピース、漂白剤、さらにLEDによる照射装置からなるキットを通信販売、アマゾンなどで79ドルくらいで売り、評価を見てもそこそこ漂白されるようで結構人気があった。

 十数年前からインビザライン社が透明なマウスピースを用いた新しい矯正治療法を開発した。これは歯科医院で型取った模型をコンピュータで解析して、最初の不正咬合から正常咬合までの過程を48くらいに分割して少しずつ動かすようなマウスピースを作る。2週間ごとに患者に与え、1日に20時間程度使ってもらい、少しずつ歯を移動する方法である。比較的簡単な症例であれば、この装置だけで治るために、アメリカでは人気があった。ただ費用は製作費が高額なこともあって60万円以上になった。

 最近、インビザライン社の治療法の特許が切れたため、新たに参入してきたのが、先のSmile Direct Clubである。Smile Direct Clubのホームーページから登録すると、患者さんに79ドルで印象トレーとシリコン印象剤、説明書が入ったボックスが送られてくる。まず患者自身がトレーを口に合わせ、同封のシリコン印象材を練って、それをトレーに入れて上下の口の印象をとる。基本的には2セットとり、他にはスマホで噛み合わせの写真も送る。印象に問題なければ、後日、最初から終了までの48くらいのマウスピースが大きな箱で送られてくる。最初のパックからマウスピースを出して装着し、順次2週間ごとに次のものと交換していく。全くインビザラインと同じであるが、その間、歯科医院には行かない。費用は一括払い1850ドル、分割の場合は最初は250ドル、その後は毎月80ドルの24回払いとなる。治療終了後の保定装置は99ドルとなる。さらに最近では全米各地に、Smile Shopが開設され、ここでは無資格の店員が、30分くらいで各種の説明、口腔内写真とデジタル印象をとる。ここでのミソは、店員は歯科医師、歯科衛生士の資格がないため、口腔内に手を入れることはできず、口角鈎も患者が自分で引っ張り、店員がスマホで写真を撮る。デジタル印象では、デジタル撮影機を口の中に入れて、全体の歯列を撮影して、三次元データーを取っていく。これであれば、店員でも印象が取れるというわけである。費用は全体の治療費の中に含まれる。

 歯科医師会や矯正歯科学会では、かなり反対をしており、訴訟もあったようだが、今の所、禁止とはなっておらず、民間の健康保険会社もこちらの方が矯正歯科医院で治療を受けるより保険会社の負担が少ないため、利用が可能である。最大限保険を使うとなると、1850ドルの治療費のうち、保険会社が1100ドル負担するため、実質の負担額は750ドルとなる。かなり安い。

 こうした歯科医院を全く介さない治療法は何か問題があればと危惧する声も多いが、一方、私からすれば、従来のインビザラインを使っている歯科医院では、患者が来れば、新しいマウスピースを渡して、その経過を見ているだけなので、あまり変わらないように思える。ただ症例によっては、歯に透明な付属品をつけたり、ゴムを併用する必要があるため、コンピュータ上で単純にマウスピースが作られても治らないケースもある。それでもマウスピースのよる治療の最適用が非抜歯のちょっとしたデコボコであるなら、きちんと使えばSmile Direct Clubのキットで十分に治るし、そうした体験者の声も多い。日本では、医療法の問題もあり、こうした治療法は今後も認められないと思うが、それでもアメリカに行く折に、近くのSmile Shopに行って、1850ドルを払えば、日本にキットを送ってもらい、治療も可能であろう。

https://smiledirectclub.com

*アマゾンに矯正用セラミックブラケットが売っていました。一症例分(20歯で)で1091円、むちゃくちゃ安いです。中国製にしても安すぎる。誰が使うのでしょうか。





2018年12月13日木曜日

気道の大きさを調べるCT撮影






 最近では歯科医院でもCTレントゲン撮影機を購入するところが増えている。一時は2000万円以上していたが、最近では簡単なものであれば数百万円で買えるようになった。矯正歯科では、従来から検査のために、レントゲン写真を撮る機会が多く、まず最初の検査で、口腔内全体を見るパントモ写真と顔面形態と歯軸を調べるためのセファロ写真を必ず撮る。初回検査、治療途中、終了後、保定後の4回は撮るだろう。長期の患者では、これ以外の段階で撮るために、診療室ではほぼ毎日、レントゲン撮影が行われる。

 そこでレントゲン会社が目をつけたのは、こうした矯正歯科医院へのCTの売り込みである。一つは保険診療でCT撮影が認められるのは、非常に限られた疾患であり、その他の疾患に対する撮影は自費料金となる。そこでまず自費診療であるインプラントを多く行う歯科医院に売り込んでいたが、ある程度、行き渡ると矯正歯科医院にセールするようになった。その際、矯正歯科ではインプラントの患者と違い、年齢層が若いため、CTの被ばく線量が問題となった。矯正歯科医からすれば、CTの被ばく線量を恐れたのである。もっともな話である。ところがこれは主としてアメリカの話であるが、一部の矯正歯科医、CTメーカーの宣伝マンであるが、最新のCTは非常に被ばく線量が少なく、一回の被ばく線量は大西洋を飛行機に乗る程度のものであり、全く安全だと言い始めた。全く根拠のない話ではなく、ある一定の条件でCT撮影するとこうした結果も出る。ただ一般的な使われ方では、通常の例えば胸のレントゲンの被ばく線量の数十倍、数百倍となり、極めて被ばく線量は高い。特に小児では放射線の感受性が成人の数倍なので、より危険である。

 ところが今だにドイツのK社は、CT撮影の被ばく線量はパントモの半分以下という研究データーを堂々とパンフレットに乗せて、無知な歯科医を騙している。以前のパンフレットでは、明海大学歯学部放射線科の学会発表データーを、根拠にしていたが、最近、同科でもう少しきちんとした研究成果を出したところ、確かに一部のモードではパントモ写真並みの被ばく線量であったが、一般的なモードでは十数倍であったと報告すると、今度別の外国の研究を引用している。放射線科の先生や他のレントゲン機器メーカーに聞いても、通常の撮影モードでパントモ並み、あるいはその半分というにはあり得ないと言う。CTは立体のものを輪切りに細かく切って撮影するもので、原理的にその一枚の断面、例えば側方頭部X線規格写真より、三次元構築できるCTの方が被ばく線量が少ないわけはない。さらに歯科医師はより細かく調べるため、機器のもっとも精度の高いモードを使うため、なおさらである。以前、一般的歯科医院で使われているデジタルX線撮影機を調べる研究があった。原理的にはデジタルX線撮影ではフィルム写真の半分くらの被ばく線量であるはずが、実際に医院で撮影されている条件では両者の被爆線量は同じか、あるいは上回っているケースもあった。

 歯科医院のホームページを見ていると、CT撮影はパントモの半分、飛行機に乗った時に浴びる宇宙線と同じとくらいの低被曝というメーカーの宣伝文句そのままの載せているところが多い。もちろんこれは間違っており、ヨーロッパ放射線学会のガイドラインでも、ことに小児への使用はかなり厳しい条件をつけている。唇顎口蓋裂、顎変形症、埋伏歯、腫瘍、のう胞など限れた疾患しか撮影は許されていない。ところが最近では、舌の位置(低位舌)や気道の大きさを知るために小児のCT撮影するところがある。さらにこうした研究も多くある。もちろんいずれもガイトラインに抵触している。大学の研究では、大学内の倫理委員会で研究内容、特に被験者の扱いが議論される。小児のCTを撮影して、その被験者のリスクを上回る研究目的があれば、倫理委員会も許可すべきであるが、単純に気道の体積を測る研究でよく倫理委員会で通ったものである。またそうした論文を掲載する専門誌の査読にも問題がありそうだ。

 例えば1500万円のCTを買うとしよう。ガイドラインに推奨されるケースだけを撮影すれば、おそらく年間で撮影回数は100回もいかないであろう。10年間使うとすると、1000回、一回当たり1.5万円となり、とてもペイできない。必然的に買えば使いたくなり、必要もないケースでも理屈をつけて撮るようになる。成人の場合は、まだしも子供では一回のCT撮影で、一万人に一人の新たなガンを生み出すという報告もあり、より慎重にしてほしい。昔、レントゲンが見つかった時に、靴屋が足をレントゲン撮影し、より足にあった靴を作るというサービスが流行った。今の歯科医院のCTはこれに近い状態である。小児がんに罹った子供がいて、前に歯科医院で気道の大きさを見るためにCT撮影し、そこでは被ばく線量は飛行機に乗るときくらいだと説明されたとしよう。仮に親がこの歯科医院を提訴すると、おそらくCTと小児がんの因果関係はわからないという判断にはなろうが、間違った説明でCT撮影をしたことについては何らかの処罰、慰謝料は発生するかもしれない。 

2018年12月9日日曜日

顎関節症と矯正治療



 昨日も、口腔外科の先生から顎関節症の治療のためということで患者が紹介されてきた。なんでも下の奥歯を虫歯で抜いたところ、頭痛がして口があまり開かなくなったという。近所の歯科医院を受診したところ、口腔外科に紹介され、そこでは投薬と開口訓練を受けた。これ以上は治らない、歯並びが悪いので、矯正歯科で診てもらったらということで当院を紹介された。

 上顎前突の開咬症例で、単純に歯並びだけを直すなら、上下左右第一小臼歯の抜歯とマルチブラケット装置による治療が必要となる。ただ不正咬合を矯正
治療で直しても、顎関節症は治る保証はない。これまでの経験からすれば、変化ないという場合がほとんどで、劇的によくなった症例も経験したが、この症例では、数歯がぶつかってアゴの運動が極端に阻害され、矯正治療で歯の干渉がなくなって、顎が自由に動けるようになったので、顎への負担が減り、顎関節症の軽減に繋がった。こうしたケースは稀にあるが、多くの場合は、何もしなくてもよくなるし、逆に色々としてもなかなか治らない症例は、矯正治療をしても変化はない。

 ここ10年の研究では、顎関節症の原因としては、ストレス、打撲、習癖、姿勢などが挙げられる、咬合との関連はあまりないとされている。一部の先生は、咬合を顎関節症の原因とすると補綴、矯正など、咬合を大きく変化させる歯科の訴訟が増えるため、そうした関連性を否定する研究が多いとしている。30年ほど前、アメリカで矯正治療が顎関節症の原因だとする訴訟があった。具体的にいうと小臼歯を抜歯してマルチブラケット装置による治療を受けた患者が、治療後に顎関節症になり、そのために訴訟を起こした。今でも標準的な治療法である。それに対してアメリカでも非常に特殊な取り外しができる矯正装置をメインに使う先生が患者側の弁護にたち、非抜歯でマルチブラケット装置を使わなければ、顎関節症にならないとした。結果は確か、負けて賠償金を払ったと思う。その後、アメリカ矯正歯科学会が猛烈に反対し、しばらく学会誌は関係がないという研究結果を多く載せた。そのせいもあり、現在では、顎関節症学会のガイドラインでも不正咬合と顎関節症との間には因果関係はないということになっている。

 最近では流石に少なくなったが、それでも咬合を変えると、顎関節症のみならず、体の調子も良くなるという歯科医がいる。肩こり、頭痛、腰痛などの深刻な症状を持つ患者は藁をすがる思いで来院し、噛み合わせを治すとこうした症状が消えると言われれば、高額な治療費を払っても受けるだろう。ただ良くなることは少なく、文句を言うと“他の患者さんは良くなるのですが、どうしたことでしょう”と逃げる。医療の不確実性、治らないこともあるという論理で、訴訟を起こしても厳しい。

 私の診療所では、不正咬合を持つが、顎関節症だけを主訴とする患者さんは断っている。なぜなら不正咬合を治療しても顎関節症が治る可能性は低いからである。不正咬合の形態を治すことはかなりの確率で可能であるが、顎関節症のような機能を直すことは、実際に難しいし、“治るかどうかわかりませんが、やってみましょう”と言うこともダメである。なぜなら矯正治療の場合は、高額な治療費がかかるだけでなく、治療期間も長く(2年)、さらに後戻りのできない不可逆的な治療であるからである。あくまで“治るかどうかやってみましょう”治療は、可逆的でリスクの少ないものに限られる、そうでなければ、やってはいけない。医学には不確実性という事実はあるが、それでも成功率の高低はあり、出来るだけ成功率の高いものを提供する義務があるし、顎関節症の治療としての矯正治療は許されるものではないと考える。

2018年12月5日水曜日

中国人の青森観光


藤田健一と孫文

 弘前市でも中国からの観光客を本当に多く見かけるようになった。天津からの定期便が青森空港に来るようになったのも一つの要因かもしれないが、今や中国からの観光客もリピーターが多くなり、最初は東京、京都などを巡るが、二度目からはあまり中国人の来ないようなところを選ぶ。例えば、北海道で自然を楽しみ、その後に弘前市、さらには温泉に来るツアーもある。また青森県内でゴルフやスキーなどを楽しむ人もいる。

 先日、中国から来た留学生と話すチャンスがあった。どこから来たかと聞くと、安徽省からと答えてくれた。安徽省といっても漠然として大きな都市も思いつかないが、ウエキペディアで調べると、中国の東部で、省の人口は6250万人、合肥市は人口745万人、阜陽市が760万人六安市が560万人、他には300万人以上の都市が6つもある。日本の大阪市が269万人、名古屋市が229万人、横浜市が372万人と考えると、安徽省だけで大阪、名古屋、横浜市以上の都市が9つもあることになる。合肥市を含めて安徽省の都市名を知っている日本人はどれだけいるだろうか。私も中国は詳しい方だが、ほとんど初めて聞く都市名である。他の中国人に聞いても安徽省はあまり有名な都市がないと言う。

 現在、青森空港と中国の天津市との間に定期便がある。天津市というと人口は1557万人で、東京を上回る大都市であり、人口30万人足らずの青森市の50倍の規模となる。旅行ツアーを調べると1週間くらいのツアーで大体5000元、日本円で80000円くらいとなる。2016年度の天津の平均月収は5250元であり、日本へのツアー料金はほぼ月収に匹敵する。青森県の平均月収が23.5万円であることから、この金額程度のツアーと考えて良い。多分、青森の人がハワイに行くくらいの感覚で、もはや決して贅沢な旅行ではなくなっている。それでも天津市だけでも1500万人以上いて、まだまだ海外旅行に行った人は少なく、一度は海外旅行したいという人は多い。さらに中国の賃金は上がるにつれ、また為替で元高になれば、ますます海外旅行は気安くなるだろう。

 青森県には中国人の喜ぶものがたくさんある。まずお城。中国にも歴史的建造物は多いが、日本の歴史的なものも好きである。次に桜。弘前の桜は日本一であり、日本=桜のイメージを持つ中国人も多く、有名である。さらに雪、魚(マグロ)、リンゴ、温泉、神社(岩木神社、岩木山)、自然(十和田湖、奥入瀬渓流)、紅葉など、これらは中国にはないものである。さらに言うと、東京などの大都会に比べて物価が安く、旅館、ホテル料金も安い。家の近くにある、メガという大規模ドラッグストアには、中国人ツアーの団体客バスが横付けされ、皆さん店内で買い物をしている。今でも日本人が台湾ツアーにいくと免税ショップなどに案内され、高い買い物をさせられるが、メガのように他で買うより明らかに安いディスカウントショップに案内されるのだから、ぼったくりもなく満足するだろう。

 中国人観光客の多くはスマホ片手に熱心に観光しており、よくこんな店を知っているなあと思われるようなところに出現しているが、それでもまだまだ中国語による発信は少ない。以前、弘前コンベンション協会を通じて、藤田庭園にある洋館に藤田謙一さんと孫文が写っている写真を展示するように求めた。管理している弘前市緑地課で協議することになったが、すでに1年以上経過し、ボツになったのだろう。中国人観光客にすれば、藤田と建国の父、孫文との写真があるのは非常に興味を持つものである。逆の場合も考えれば、日本人が中国に行って、田舎の街の博物館に西郷隆盛と一緒に写った中国人の写真があればびっくりするだろう。同じことである。この集合写真は、撮影場所である田中邸について、その子孫から確認しているし、写真の版権についても神戸の孫文記念館から許可を得ているが、おそらく専門家の確認がなければ、展示できないのだろう。写真は中国の中山大学にも送っており、神戸の孫文記念館でも確認されており、他にどこに確認をするのだろうか。

 話が逸れたが、こうした中国人からの観光の流れは、もはや引き戻ものではなく、ますます重要なものとなってくるだろう。東北でも青森県は中国観光客にとって、最も魅力的なところであり、弘前市でも官民一体となって様々な戦略を立てる必要があろう。

*その後、弘前市緑地課のご尽力により、孫文と藤田謙一の写った集合写真は、藤田記念庭園洋館に飾られることになった。弘前コンベンション協会始め関係各位に感謝いたします。5月の大型連休には、洋館内展示室にて展示していますので、一度見てください。

2018年12月1日土曜日

日本の人気画家(現代絵画)





 オークションでの売れ行き=作家の人気ではないが、一つの目安として世界のオークションでどれだけ高値で取引されたかを知ることで作家の人気がわかります。2017年の現代絵画のオークション売上高のベスト500が発表されていて、その中にある日本人作家を書き出してみます。

7 奈良美智 35878411ドル
25  村上隆   8059701 ドル
81  杉山博司   2213086ドル
91  千住博   1778587ドル
131 名和晃平    1111765ドル
146 タカノ綾  958185 ドル
149 石田徹也    9411494 ドル
199 Iwamoto Masakazu  666094ドル
223 サイトウマコト 578242ドル
357 大岳伸朗 317528ドル
368 有元利夫 307660ドル
371 ロッカクアヤコ304378ドル
387 加藤泉    290032ドル
409 五木田智央 270038ドル
457中島千波 236292ドル
469 塚本智也 231487ドル
498 智内兄助211066ドル

 弘前市出身の奈良美智さんが7位に入っているのはすごいことです。現代アート作家として世界的な評価を得ていると言ってもいいでしょう。意外なのは、146位のタカノ綾さんで、10年前くらい前までは、日本で最も個展で早く売れる作家として話題になりました。個展をオープンすると、若い女性が殺到してわずか数分で展示作品がソールドアウトという状態でした。それでも価格は20-30万円くらいだったでしょう。今は多分10倍はしますので、ラッシュして買った方はいい買い物をしました。実は私も6、7年前にタカノ綾さんのリトグラフを2枚、それぞれ1万円ほどでオークションにて買いました。今は数倍するでしょう。彼女も世界的な評価を得ていることになります。

 2020年にオープンする弘前芸術文化施設、設計は現代若手建築家の中では最も期待されている田根剛さん。そこに奈良美智さんの常設の大きな展示があれば、世界中から観光客が来るかもしれません。各地に美術館が建てられ、多くは現代美術館という名称を用いていますが、あそこに行けばこれが見られるというウリが少ないようです。松本市美術館は草間彌生ファンにとっては重要な場所ですし、洋画家の松本竣介の絵は子供時代いた盛岡市の岩手県立美術館に多くあります。是非とも弘前の美術館に来たら奈良美智さんの作品を堪能できたと言われるようになってほしいものです。同時に、小中学校の美術コンクールや養護学校の作品展など身近な行事も、工夫して展示してほしいものである。あまり話題になっていませんが、東京の銀座ナインでも青森県立美術館でもそうですが、最近は雑貨ショップで作家の一点ものの作品が売られています。高くても数万円くらいのものですが、作家にとっては自分の作品がどれだけ売れるかを試すいい機会となります。これまで画廊などでした販売ルートがなかった中、こうした別の販売ルートがあることは作家さんにとってもいいことだと思います。例えば自分の作った農産品を道の駅で売るような、若手の作品を持ち込めるようなショップが弘前の新美術館にあったらいいと思います。

 美術館の別棟には、アップルシードルを主体としたレストランが併設されるようです。これも期待大で、夏には野外映画も是非とも開催してほしいところです。フェデリコ・フェリーニもいいのですが、ここは明るく“ロシュフォールの恋人たち”はどうでしょう。ビール、ワインを飲みながら、最高です。また田根さんが、あのレンガ倉庫にどう改築して、建物と市民が持つ過去の歴史をどう記憶させるか、本当に楽しみです。まったく新築でないため、難しい挑戦ですが、これまで日本に大きな作品がないだけに、田根さんの日本での代表作になるような建物になってほしいものです。