2019年12月15日日曜日

マウスピース矯正治療が流行っている

3Dプリンターで簡単にマウスピースは制作できる(ヒュレットパッカードのマルチジェットフュージョン)
一台4000万円くらい

 インビザラインなどのマウスピースタイプの矯正治療が流行っており、一般歯科でも矯正治療を行うところが増えている。もともとインビザライン社は矯正専門医しか講習会に参加できないと聞いていたので、おかしいなあと思っていたが、キレイライン矯正など、おかしな治療法が乱立しており、そうした治療法を一般歯科で行なっている。

 こうしたマウスピースタイプの矯正治療は、適応が限られており、今の所、非抜歯で治療できる軽度から中等度の不正咬合に限られている。ほぼ全ての症例で歯の隣接面を削除するディスキングという方法が取られるために、必ずしも生体に優しいとは言えない。過度の削除により隣接面のう蝕を発生する要因ともなる。さらに患者さんの協力度により治療の成否が関わるために、途中での脱落も起ころう。こうしたことも考えると、マウスピース治療だけで治ればいいのだが、抜歯や通常のブラケットを用いた治療が必要な場合が出ている。問題はこうした治療法の変更ができるかという点である。マウスピース治療を行う一般歯科医の中には、これ以外の治療はできないというところがある。

 また小児のう蝕の減少に伴い小児の矯正治療をうたう歯科医院が多い。早い時期から矯正治療を行えば、本格的な矯正治療がいらなくなるというわけである。こうした咬合誘導という考えは、日大の深田英朗教授が1960年ごろに提唱した概念で、不正咬合になる軌道を早い時期に修正することでその後の不正を減らすというもので、私が小児歯科にいた頃、1980年代も盛んであった。ただその後の40年近い矯正治療経験からすれば、こうした考えは実に魅惑的ではあるが、現実はそうでない。もともとこうした考えは、1950年代頃からヨーロッパ、特にドイツで矯正治療の健康保険制度が開始され、マルチブラケット装置による治療が高価で手間がかかるために取り外しのきく、可撤式の矯正装置が取り入れられたことによる。拡大装置や、機能的矯正装置と呼ばれるものである。優れた治療法、例えばインプラント矯正のようなものは瞬く間に標準的な治療法として定着したが、床拡大装置や機能的矯正装置は80年以上の歴史がありながら矯正歯科医の中で定着していないのは、その治療法に限界があることを意味する。一方、マルチブラケット装置は発明されて100年近くたつが、それでも世界中の矯正歯科医の標準治療となっているのは、これに代わる治療法がないからであろう。

 私自身、一般歯科医が小児の矯正治療するのは何とも思わない。最近では取り外しのできる既製品を使った治療法もあり、こうした簡単な治療法で治れば、わざわざ矯正専門医で治療する必要はない。問題は、料金である。中にはこうした小児の矯正治療に数十万円かかるところがある。マルチブラケット装置による仕上げの治療も含めているのであれば合点するが、あくまで小児の咬合誘導を主とした治療法で、これで治らなければ治療できないという。もちろんここで矯正専門医に行くと全く始めからの治療となり、小児の矯正治療費は無駄となる。マウスピース矯正治療と同様で、これでなおらなければ治療できないという。小児の矯正治療は、矯正専門医の一期治療、あるいは早期治療にあたり、そのままマルチブラケット装置に移行する場合は、この一期治療費が差し引かれた治療費が二期治療費となる。もちろん一期治療で治れば、二期治療は必要ない。

 アメリカのスマイルダイレクトが日本でもいよいよ進出しそうである。これは自宅に印象材のキットが送られ、それで口の型と口腔内写真を会社に送れば、インビザラインのようなマウスピースが送られてくる。店舗型のところも急速に増加し、デジタル印象で資格のない店員が型をとり、それで製作される。費用は20万円くらいで、アメリカでは急速に拡大しており、インビザラインの脅威となっている。多分、導入と同時に、クレームが溢れ、こうしたマウスピース治療そのもの、あるいは矯正治療そのものが特定商法取引法に(http://hiroseorth.blogspot.com/2015/07/blog-post_26.html)に導入されるだろう。むしろその方がおかしな矯正治療を行なっている歯科医院が駆逐され、よいかもしれない。

2019年12月13日金曜日

本場フランスの負けないリンゴシードルを

フランス。ブーヴロン村


  NHKの“世界はほしいモノにあふれている”は好きな番組のひとつあるが、1212日放送の「冬の新定番!極上シードルを探す旅 ブルゴーニュ」はリンゴのお酒「シードル」の世界的生産地、フランス・ブルゴーニュの美味しいお酒をめぐる旅で面白かった。

 フランスのリンゴは、日本のものと違い、かなり小さく、味もそれほど甘くなく、逆に苦味もあるようだ。もちろんそのまま食べるリンゴはもっと大きくて、甘いものだろうが、シードル用のリンゴなのかもしれない。日本では、ようやくワインを日常的に飲むようになったが、それでもリンゴシードルを飲む習慣はない。リンゴは甘くて、ジュースにはいいのかもしれないが、お酒にはどうもという感じであろう。

 リンゴ王国、弘前市でも“シードルの街”として町興しを狙っており、フランスのノルマンディー地方のブーヴロン村と技術協定を結び、その成果なのか、多くのシードルが売り出されている。昔からあるのは大手のニッカのシードルで、これは発砲りんごジュースに近い。リンゴ公園内で作っているKimori、味は本当に美味しいが、やや甘く、食事中に飲むシールドとしてはどうかなあと思う。これに比べてイタリア料理店、サッシーノで作っている弘前アポーワインはアルコール度数も強く(11度)、私としてはもっとも好きなシードルである。ただ値段が高いことと、売っているところが少ない。他には診療所近くのカフェーバーで生産しているGARUTSUというシードルも気になるが、まだ飲んだことはない。他にも日本酒の会社が販売しているシードルもあり、全部で20以上の地元、リンゴシードルがある。日本でも一番、地元シードルの種類の多いところであろう。

 来春にできる弘前リンゴ倉庫美術館にも隣にリンゴシードルを中心としてレストランができるようで、これを契機にリンゴシードルを日本中に広まって欲しいところである。ただ酒好きな私としては、フランスのような甘みがあまりない、苦味のある、酸味のあるリンゴを使ったドライなシードルが是非とも飲みたい。そうなるとリンゴそのものから作っていく必要があり、これまでも食べるためのリンゴとは全く違うシードル用のリンゴを作る必要がある。日本酒でもそうだが、酒造りにあった米がある。どのようなリンゴが美味しい大人のシードルに適しているか、これは是非ともフランスから専門家を招き、吟味してもらう必要がある。リンゴ公園内には今はあまり生産していないリンゴもあり(65種類)、とりあえずはその中から選択し、場合によってはフランスから原木を取り寄せなくてはいけないかもしれない。どうやら単純にリンゴが多くと取れるからリンゴシードルという発想ではなく、将来的には世界のリンゴシードル愛好家に愛されるようなものを作るべきであろう。

 流石にリンゴ王国、弘前にはリンゴ研究所や試験所もあり、こうしたシードル向けのリンゴの開発、生産も何とかなるだろう。あとはリンゴシードルの名産地であるフランス、ブルゴーニュのリンゴ生産もしているシードル専門家を弘前市で招聘し、より良いリンゴシードル生産に向けてさらにガンバって欲しい。場合によっては弘前市役所内にも観光課やリンゴ課が中心となって“リンゴシードル”チームを作り、全国に先駆けて“リンゴシードル”の街として、名乗りを挙げ、テレビやネットを使って情報を広めてもらう必要があろう。リンゴそのものは外国人観光客には防疫上の問題で持ち出せず残念であるが、シードルであれば問題なく、いいお土産となる。是非とも、フランスのリンゴシードルに負けない弘前シードルを作って欲しいものである。

2019年12月12日木曜日

絵本の原画 たばたせいいち

たばたせいいちさんの絵本原画

他の2作品あります

 最近の現代アート作品には、額縁はほとんどなく、キャンバスをそのまま壁にかける。薄い紙に描かれた作品は、少し奥行きのある額縁に浮かせて飾る。額縁の中を壁に見立てて、そこに発泡スチロールを入れて少しかさ上げし、作品が浮いたようにする。あるいは白木、白のシンプルな額に入れ、マットをせずに、絵の四隅がそのまま額の周縁になるようにする。

 私の場合は、一般額よりは奥行きのある立体額というものが好きで、病院で飾っている絵は、白木の立体額にすることにしている。大きさや色、額の種類を統一すると、見た目が美しい。今回は、ヤフーオークションで絵本作家のたばたせいいちさんの“ダンプえいんちょうやっつけた”の原画を4点と日本学童ほいくの表紙原画1点を購入したので、それに合う額縁を買った。“ダンプえんちょやっつけた”の原画はマジックで書かれており、また絵本で文字が書かれているところは空白である。間が空いてしまうので、絵本をコピーしてその文字を切り取り、原画に貼り付けた。原画だけでは、つまらないが、きちんとした額に入れると見違えるほどよくなり、一種の現代アートとなる。白黒の作品はオシャレである。

 原作の“ダンプえんちょうやっつけた”は、100ページを超えるもので、一般的な絵本に比べるとかなり長い。保育園や幼稚園の子どもには長すぎるように思えるが、内容がこうした年齢の子供のツボにハマるのか、1978年以来すでに200刷以上のロングセーラーとなっている。何回かに分けて読み聞かせをするようだが、子供たちはあまり飽きないようである。子供の冒険心をかき立てるのだろう。これまで23枚の原画が売られ、今も4点の作品が出展されている。おそらくは出展者は全ての原画を持っていると思われ、もうしばらくオークションを賑わすだろう。流石に累計で200万部以上売れており、又吉直樹さんや広末涼子さんも推薦する“おしいれのぼうけん”については、草稿用の表紙案が一度オークションにでただけで、本に使われた原画そのものは出ていない。というにはこれだけ人気作品なので、あちこちの会場で原画展示会が行われ、来場者も多く、原画そのものをオークションに出すことはない。

 たばたせいいちさんの作品で次に売れたのが、手に障害を持つ女の子を描いた1985年発行の“さっちゃんのまほうのて”で、これは65万部のベストセーラとなった。この絵本の原画も、国内のあちこちで原画展が行われている関係上、オークションに出された作品は、試作やモチーフにしたものが多く、これも今のところ原画そのものは出ていない。アマゾンで調べてみるとたばたせいいちで検索される作品は7点くらいあり、“おしいれのぼうけん”、“さっちゃんのまほうのて”に順番になっていることから、その次に売れているのが2004年発行のひ・み・つ“で、の次は”ダンプえんちょうやっつけろ“と続く。このうち確実に絵本の原画として出ているのは”ダンプーー“のみである。

 はっきり言って、原画はマジックインクで書かれているために、コピーと全く区別がつかない。唯一の違いは、出版社に渡すときに原画は大きな紙にセロファンテープでとめられており、それが40年の年月で、テープ跡が黄色く変色している。最初、何とか脱色しようとしたが、よく考えれば、それが原画の唯一の特徴であり、残しておいた方が良い。絵本の原画は世の中にただ一つと考えると、欲しくなる誘惑にかられる。悪い癖である。

2019年12月8日日曜日

中村哲医師の死を想う





 アフガニスタンの復興に尽力した中村哲医師が殺された。誰によって殺されたか、今のところ不明であるが、計画的な犯行から組織的グループが関わった可能性が高い。すでにタリバーンは犯行を否定しており、それを信じるならば、最近勢力を増大しているイスラム国支部組織の可能性が高まる。おそらくは外国人のNPO組織や支援団体を殺害することで、国を混乱に貶めて、その混乱に乗じて自分たちの勢力を増大させようとするものであろう。

 個人的にはアフガニスタンの国民のために、人生を捧げた中村医師がこうした形で亡くなることは無念であるし、これまで日本とアフガニスタンとの間を行き来して、日本での募金をアフガニスタンの灌漑整備に回すと言うシステムがこれで消失するかもしれないと言う危惧もある。もちろん中村医師の意思を継ぐ人々が事業の継続に邁進するだろうが、シンボル的な人物を失うことで、事業の縮小は避けられず、さらに言うと日本人のアフガニスタンへの渡航がますます難しくなる。それ以上に現地アフガニスタンで、カリスマ的に事業を行なっていた中村医師がなくなった後、アフガニスタン人の中にそうした事業を引っ張る人物がいるのであろうか心配である。

 こうした一部の過激派、日本でも過去に連合赤軍などもいたが、基本的な考えは暴力革命を起こし、国を混乱させ、その混乱に乗じて政権を取るというもので、1970年代くらいまで、日本共産党もそうした思想であった。当事者にとっては真剣なものであるが、爆弾テロなどで犠牲になった人々からすれば本当に迷惑な話である。こうした異端の者を警戒するのは近代国家では、正当とみなされ、日本でも公安の監視対象となっている。一方、アフガニスタンのような混乱の地では、あまりに反政府グループが多く、それを取り締まるにはかなり暴力的な手段を使い、それがまた反政府運動を増大させる結果となる。被害を被るのは大部分の普通のアフガニスタン人であり、生活はますます困窮する。

 昔、ネパールを旅行したとき、エベレストの麓のナムチェバザールという所にトレッキングをした。その途中に、日本人の年配の夫婦が経営しているロッジに泊まった。話を聞くと、日本で長年、会社勤めし、老後にネパールに来て、学校をしているという。夕方になるとランプを持った子供たち10数名がこのロッジに集まり、授業開始である。我々も一日先生となり、この人と一緒に授業をした。こうしたボランティアで海外で活躍している日本人は中村医師以外にも多い。ただ不思議なことに宗教とは関係なく活動している人が多いのが日本の特徴である。韓国でも海外ボランティアが多く、存在するが、ほとんどがキリスト教関係の団体であり、欧米のボランティア団体もそうした宗教的な組織をバックボーンとした人が多い。

 大分県のボランティアおじさん、尾畠春夫さんもそうだが、こうした日本人の無宗教のボランティア精神は、どこから来るのか、不思議に思っている。おそらく仏教の善行から来るもので、良い行いをすれば良いことがあり、極楽に行けるという素朴な感情があるのだろう。キリスト教徒である中村医師もこうした古い感情が残っているのだろう。今ではこうした仏教からという概念もないが、それが阪神大震災を契機にボランティアという概念が定着した。今後とも日本人による海外でのボランティア活動がますます多くなると思うそれと同時に、今回の中村哲先生についても残された家族の生活はどうなるのか、心配になる。もちろん生命保険などには入っているだろうが、果たして国民年金や厚生年金などに入っているだろうか。文化功労者には毎年350万円の終身年金が支払われる。こうした日本のために貢献し、犠牲になった人物については、国で特別顕彰を行い、何とか文化功労者並みの残された家族が生活する額の年金を支給したらどうだろうか。誰も反対はすまい。

2019年12月5日木曜日

小児反対咬合を健康保険化へ その2

犬も矯正治療

 前歯のかみ合わせが逆になっている“反対咬合”の患者さんの頻度は、研究により違いますが、56%と言われ、100人中に5から6人の反対咬合の患者さんがいることになります。つまり小学校で言えば、1クラスに1名ないしは2名の反対咬合の患者さんがいることになります。

 前歯は、ものをかみ切って小さくする役目があります。うどんやそばを食べる時のことを考えてください。まず、前歯でうどんを小さくカットしてから奥歯に運び、そこですり潰して、飲み込みます。反対咬合だと、仮に前歯がかんでいたとしても、食べ物、うどんを前歯でかみ切るためには上から口に入れる必要があります。もちろんそんなことはできず、普通は下から口の中に入れます。では反対咬合の方はどのようにして食物を食べているかと言えば、前歯を経由せず、直接に奥歯に運びます。つまりうどんで言えば、長いうどんを奥歯に入れて、そこでかみ切り、すり潰します。前歯は何の役目もしていません。

 こうしたこともあり、多くの咀嚼能力の測定法では、上顎前突(出っ歯)や叢生(でこぼこ)の不正咬合では正常咬合との咀嚼能力の差は、研究によりまちまちですが、反対咬合については正常咬合に比べて咀嚼能力が落ちるという研究がほとんどで、これは間違いのないようです。咀嚼能力は、咬合力や咀嚼面積などと強い相関を持つため、反対咬合でも重度になれば、咀嚼能力もより低下するものと思われます。また社会心理的な影響も強く、反対咬合の患者さんでは上くちびるに比べて下くちびるが出ているために、少し怒っているような印象を与えることがあります。また反対咬合の患者さんによってはクラスで“しゃくれ”といじめれるケースもあります。

 現在、保険適用となる不正咬合は、唇顎口蓋裂に起因した不正咬合(その他、先天性疾患に起因したもの)と顎変形症に限られています。いずれも不正咬合の種類では、反対咬合の症例が大部分となります。唇顎口蓋裂児では口蓋の手術の関係で、上アゴの成長が抑制され、結果的に反対咬合となる患者さんが多い。また顎変形症とは咬合の改善するためには手術が必要なくらい顎のズレが大きい症例なのですが、90%くらいが反対咬合の症例となります。すなわち現行の健康保険化された不正咬合は、反対咬合であり、その治療法も一般的な反対咬合の治療法に準じます。

 それでは唇顎口蓋裂や顎変形症の反対咬合の治療が健康保険の適用になるのに、一般の反対咬合の治療はどうして保険扱いにならないのでしょうか。おかしなことです。最初に述べたように反対咬合の咀嚼などの機能への障害が大きいと思いますし、それ故に唇顎口蓋裂や顎変形症も病気とされて保険適用となりました。おそらくは保険適用の範囲を広げることが医療費の高騰につながるためだと思います。

 日本の出生率は約91万人、このうち反対咬合である子供の数は約5万人程度と思われます。すでに唇顎口蓋裂の矯正治療については40年以上の歴史があり、その保険システム、点数も決まっていますし、それをそのまま一般の反対咬合患者に当てはめることができます。保険適用の矯正治療については一般歯科のそれより点数が高く、おそらく1718歳くらいまでの総額は一人、7080万円くらいになります。そのうち30%は本人負担となりますので、政府負担の金額は50万円✖5万人の250億円となります。歯科医療費総額が27000億円ですから、そのだいたい1%くらいになります。どうでしょうか。新型戦闘機F35のだいたい二機分の値段です。

 日本の医療費の総額は、約426000億円。これらのかなりの部分が老人への医療費です。若者にとって、健康保険料の負担は自分たちにあまり還元されないものと思っても不思議でありませんし、現にそうなっています。年金だけでなく、医療費も若者世代が多く負担するとなると、将来的に加入者が減少する可能性があります。まして現在のように子供も虫歯が減少してくると、医療のうちの5%くらいを占める歯科医療については、全くタッチしないことになります。少なくとも子供を持つ親としては、自分たちが支払う健康保険料が少しでも還元されることを望むのは当たり前です。最近の健康保険の考えでは、本人の努力で疾患が発生しないようなものは健康保険の適用から除外するような流れとなっており、ヨーロッパでもう蝕などは注意すれば発生しない疾患として捉えられ、保険適用から除外されるような動きがあります。一方、不正咬合については生まれながらの疾患と捉えられ、北欧やイギリス、フランスなどでは健康保険の適用となっています。

 反対咬合患者の保険適用に関しては、健康保険が適用されている唇顎口蓋裂や顎変形症との適合性や医療費もなんとか捻出できる額にも関わらず、全く話題にならないのは、次のようなことが関係します。まず日本矯正歯科学会および専門医では、保険適用による治療レベルと収入の低下を恐れています。みんなが矯正治療するようになれば、治療レベルが下がるというわけです。ただ現実はすでに多くの一般歯科先生が治療しており、むしろ保険による縛りが働く(個別指導など)と思いますし、今の唇顎口蓋裂の施設基準に“小児の反対咬合症例”の語句を少し付け加えるだけでそのまま使えます。面倒なのでしょう。一方、日本歯科医師会は、反対咬合の矯正治療が保険に導入されると他の歯科医療費が減らされることを恐れています。さらにいうなら矯正治療を行なっている医院のみがメリットとなります。こうした一部の歯科医院のメリットとなる案件より一般歯科全体のメリットとなるものしか日本歯科医会は扱いません。

 マスコミや政治家が取り上げなければ、なかなか実現が難しい案件ですが、なんとかそうした方向に向かって欲しいところです。

2019年12月3日火曜日

週刊ダイヤモンド 歯医者のホント



 以前、週刊ダイヤモンドから矯正治療の費用や患者数のアンケートがきて、その集計をまとめた雑誌が先日、送られてきた。当院の一期、二期治療費は20万円ずつだが、雑誌では総額の治療費として30万円ずつとなっていた。調整料を含めればそれくらいなるかということか。また1年間の患者数は何人かという質問に対しては、最初は検査まで入った新患数を書いたが、実際に治療した患者数を教えて欲しいという電話があり、数え直し、確か727名と書いた。他の先生でもこの質問には混乱が多く、この数値はかなりデタラメである。

 この雑誌では、ブラケットやワイヤーの費用から、検査機材の費用までかなり詳しく調査していた。このブログでもあまりこのあたりは書いていなかったが、こうした雑誌でも取り上げられるなら、実際の費用について、もう少し説明しよう。

 矯正器材というと真っ先に思い浮かぶのは、歯の表面につけるブラケットと呼ばれるもので、この費用は種類によって異なる。まず最も安価なのは金属製ブラケットで一個が200円から400円くらいである。奥歯につけるチューブも金属製の場合も多いが、これも種類により450円から900円くらいとなる。非抜歯で28本全てつけるとなると、総額で12000円から15000円くらいとなる。接着材料費も含めて、材料代が2万円を超えることはない。白いタイプのコンポジットレジンのブラケットは一個800円くらいなので、全部で23000円くらい、セラミックのものは会社によって違うが、安いもので一個1000円、高いもので3500円くらいする。高いもので換算すると全部で8万円くらいになる。さらに裏側につけるリンガルブラケットの場合は、ブラケット自体は一個1500円くらいであるが、歯につける位置決め用のトレーを技工所で作るのでそれの費用が別にかかる。多分、ブラケット代込みで15から20万円くらいであろう。ワイヤーについても安いのは一本100円くらい、高いので1000円くらいで、他のゴム、結紮線、モジュールなどは数十円程度である。また矯正用プライヤーはかなり高く、一本25000円くらいし、1人に私のところでは4種類のプライヤーを基本としているので、それぞれ20セットくらい用意している。ただこれもカッター類は5年ごとに交換するものの、他のプライヤーは10年以上、楽にもつ。それほど大きな出費ではない。

 週刊ダイヤモンドでも、このあたりのことはきちんと書かれており、矯正治療費が高いのは、こうした材料費ではなく、技術料であると結論している。つまり通常の表側からの矯正治療費が80万円とすると、このうち材料費が占める割合は多くても10%程度であり、人件費、家賃などの経費や減価償却費を含めても40%、残りの60%は技術料であり、一般歯科と比べてもその割合が高いとしている。同じことは美容院でもそうで、シャンプー代やハサミの値段はたかが知れており、その料金のほとんどはカットも含めた技術代となる。それゆえ、原価率が低いのはけしからん、安くしろというものではない。

 こうした技術料という観念は今のネット社会では、不合理なものとみなされがちであるが、実は多くあり、弁護士にしても材料費なるものは存在しないし、家庭教師、塾だってそうである。人が直接関係するような仕事では、この技術料というのは直接、料金となる。ただいずれも人が技術料に金を払うのは、その専門性に対してであり、全く人の髪を切ったこともない素人に高額な料金を払うことはない。いくら高くても結果が良くて、満足するなら、金は出す。こうした点からすれば、優れた矯正歯科医の治療費が最も高いということになるが、日本臨床矯正歯科医会の先生、日本矯正歯科学会の専門医の先生を見ても、平均か、それ以下の料金であることが多い。逆に一症例に数百万円とるような先生でまともな治療、少なくとも上記の優れた臨床技術を持つ先生のレベルには達していない。

 歯科医の言葉に踊らされ、すぐにそこの歯科医院で矯正治療を始める患者さんがいるが、一旦、治療契約して治療費を払うと、他の所で治療したくなっても、転医はかなり難しく、治療費の返却も難しい。さらにうちの医院もそうだが、多くの矯正歯科医院では、他で治療を受けている患者さんの治療は基本的には行わない。患者を奪ったと勘違いされるからで、遠方へ転住して通院が困難な場合以外は、元の歯科医院でよく相談して治療を続けるように指示する。中には明らかにひどい治療の場合もあるが、職業倫理上、これまでの経過を知らないまま軽はずみに他歯科医院の悪口は言えない。それ故、どこで治療を受けるかが矯正治療では決定的に重要なことになってくる。

2019年12月2日月曜日

イエズス会、フランシスコ教皇



 日本でのキリスト教の最初の布教が、イエズス会の創立メンバーの一人、フランシスコ・ザビエルであることはよく知られており、その後も、ルイス・フロイスなどの優秀な宣教師により日本人信徒も増えていった。有名な天正遣欧少年使節の4名の少年も全てイエズス会員であり、今回、ローマ教皇が訪れた日本二十六聖人記念碑で祀られた殉教者の中には、パウロ三木、ヨハネ草庵、ディエゴ・喜斎の3名のイエズス会員がいる(他には4名のスペイン人、メキシコ人、ポルトガル人フランシスコ会司祭、修道士と17名の日本人信徒がいる)。殉教者に対するローマ教皇の対応は、1629年には23名のフランシスコ会の信徒と3名のイエズス会の信徒が福者に、さらにかなり遅れて、全ての殉教者が1862年には聖人となった。

 明治維新後、イエズス会が再度、日本での布教を開始したのはプロテスタン会派に比べてかなり遅く、1905年(明治38年)のことで、フランシスコ・ザビエルの“日本のミヤコに大学を”という言葉に基づく。もともとイエズス会は若者の教育に熱心であり、欧米を中心に多くの学校を建てた。日本にもカソリックの高等教育機関、大学を建てるために、ローマ教皇からオコンネル司教が派遣され、できたのが上智大学で、1928年の設立となる。プロテスタン系の同志社大学は1875年に創立、大学となったのが1920年、立教大学は1874年創立、1920年に大学、関西学院大学は1889年創立、1932年に大学となったが、青山学院大学は1874年創立だが、大学になったのは戦後、1949年である。大学を東京に作ったイエズス会は、関西の拠点として神戸、六甲学院を1937年(昭和12年)に作った。よくこの時代にキリスト教の学校を作ったものだと感心する。その後できたのが、1947年創立の横浜の栄光学院、1956年創立の広島学院、2011年にイエズス会系となった上智福岡中学校高等学校である。

 今では神父の数も減ってきたが、私のいた頃の六甲学院では、40名くらいの先生のうち134名が神父で、さらにその半分が外国人教師であった。また上智大学からは若手の外国人先生が短期に赴任することもあった。外国人教師は、上智大学を母体として、そこで日本語を学び、専門学科を学び、関係高校に派遣される。逆に高校の教師をしていて、上智大学の教授になることもある。他の姉妹校のことはわからないが、二、三年に一度、六甲高校を卒業後、上智大学神学部に入り神父になる人がいる。私の学年でも、成績が良く京都大学は確実に合格できた長町裕司上智大学教授がいるし、訓育生であった瀬本正之さんも京都大学理学部を卒業後に上智大学神学部に入学し、今は上智大学神学部教授になっている。サッカー部の同級生も東京大学卒業後に民間企業に就職し、その後、神父になろうとした。高校内に修道院のような建物があるせいか、入学時10名くらいしか信者がいなかったが、卒業時には50名くらいは信者になっていた。

 今回のローマ教皇は、カトリック始まって以来のイエズス会出身の教皇で、上智大学のみならず、姉妹校の六甲学院、栄光学院、広島学院でも大いに盛り上がったのだろう。忙しい日程の最後にフランシスコ教皇が上智大学を訪れたのは、この上ない名誉である。教皇の通訳をしていたアルゼンチン出身の神父も一時、六甲学院の教師をしていたようだ。教皇も若い頃は日本に宣教に行きたかったが、健康上の理由で諦めたと述べているが、運命が違えば、上智大学や六甲学院で教師をしていたのかもしれない。

2019年12月1日日曜日

アートのプレゼントは

マッティ・ピックヤム


丸山直文


たばた せいいち


 新築、開業、結婚祝いなど、誕生日やクリスマス以外でも、プレゼントする機会が多い。子供の誕生日では、洋服や靴でもサイズや好みを知っているので、それでも悩むが、プレゼントする品の種類は多い。前から欲しがったいたものを、デパートや最近ではアマゾンで購入して送ったり、現金が良ければ、それもありと考えている。ただそれ以外の人にプレゼントするとなると、プレゼントの選択は非常に悩む。

 プレゼントする場面でも異なるが、例えば、新築や開業祝いであれば、2万円くらいが予算の限度となる。この予算の中でと考えると、インテリア雑貨が候補となり、デパートや雑貨屋さんに行ってあれこれ悩むわけである。これが意外に難しく、例えば定番の壁掛け時計を考えると、1万円以下の安い時計は結構多いが、それ以上高いのになると、数は少なく、私の好きなアルネ・ヤコブセンの時計となるといきなり4万円以上となる。これは高すぎる。では壁にかける絵はどうかというと、2万円以下となると、版画でそれも比較的小さいものとなる。デパートなどの額縁店に併設されたインテリアアートで可愛い作品がたくさんあり、新築祝いや開業祝いなどには喜ばれる。一時期は、こうしたリトグラフ印刷の可愛い作品をプレゼントに送ることが多かった。

 神戸のMarkkaという雑貨屋さんは、北欧の雑貨を中心に扱っているが、その中でも、フィンランドの絵本、雑誌イラストレーターのマッティ・ピックヤムサの作品を多く手がけている。どういう経路かわからないが、ここでは彼の雑誌や絵本の手書きの原画が出ている。油彩のものもあるが、多くは水彩画で動物や人間を描いたユーモラスな絵で、楽しい。値段も原画にしては安く、数千円から2万円以内で、額縁を購入してもそれほど高くはない。ただ最近では人気があるのか、HPで商品を表示するとすぐに売れてしまう。原画を購入し、大きさに合わせて“額縁のタカハシ”という会社に注文する。オーダフレームを扱っているが、とりわけ立体額の木地のものが好きで、絵の大きさに合わせて額の大きさとマットの大きさを決めて、注文する。普通の大きさで34000円くらいなので、原画と合わせても十分に2万円以下となる。安いといっても版画ではなく、一点ものであり、価値はある。ある人の新築祝いの送り、大変喜ばれた。

 シンシナティーの美術館の方がこられた時には、何か日本らしいお土産と考えて、決めたのが版画である。といっても現代ものではなく、古い浮世絵を考えた。江戸時代のものはコンデションが良いものは高いので、明治浮世絵を検討した。その中で、色使いはいささか派手な点はあるにしても、外国人に喜ばれるということで、揚州周延の浮世絵をヤフーオークションで探した。周延の浮世絵は、数が多いこととから、コンデションの割に安い。といっても通常15000円くらいするので、さらに0円スタートのものを待っていると、二枚、1万円くらいで手には入った。本来なら額に入れれば、よりよく見えるのだが、荷物になるので、折れないファイルに挟んで二人のアメリカ人女性にプレゼントした。これも大変喜ばれた。

 ここ1ヶ月ほど、絵本作家のたばたせいいちさんの原画が大量のオークションで出回っている。雑誌表紙や絵本の原画、草稿画が中心で、作家はまだ在命であるが、どうしたことか、大量に原画がネット上に出ている。もちろん全て肉筆原画で一点物である。その中でも人気の高い絵本、“さっちゃんのまほうのて”、“おしいれぼうけん”、“ダンプえんちょうやっつけた”などの原画の人気が高い。この中では“ダンプえんちょうやっつけた”は白黒の多分、マジックペンで描かれた作品で、シンプルで美しい。カラーの作品に比べて人気も少ないために、数千円くらいで落札できた。絵本原画なので、文字が入る場所が空けられているので、一応、絵本も買って、コピーした文字をそこに足して壁にかけている。なかなかよく、他の人のプレゼント用にもう二つ購入した。
 プレゼントの選択に困っている人は、こうしたオークションを利用する手もある。