2009年3月29日日曜日

世界で最も強いチーム サッカー


 昨日のバーレン戦で何とか勝った日本だが、本当にふがいない。どうやらワールドカップには出場できそうだが、とても予選突破は今のチームでは無理であろう。
 世界で最も強いチームを思い出そう。クライフ率いる1974年のオランダチームやベッケンバウアー率いるドイツチーム、あるいはジーコら黄金のカルテットを要するブラジルチームも強いチームだったが、何と言っても1958年スウェーデン大会で優勝したブラジルチームは強かった(写真)。ペレのデビュー戦でもあったが、個々の選手の能力がヨーロッパの選手を圧倒して、まるで華麗な劇を見ているようなチームであった。この試合は高校のサッカー部の顧問ヒルケルさんの好意で部員一同16mm映画を教室で見た。

 メキシコオリンピックで3位になった日本チームですら、ドイツのクラマーコーチが初めて来たときには、ボールリフティングもできない選手が多数いたようで、エースストライカーの釜元選手ですら、10回のボールリフティングさえできなかったと言っている。当時の日本のサッカーはほとんどの選手が中学校からサッカーをはじめたため、技術は持たず、球をけって走るというもので、ブラジルサッカーのような高度な技術はとても持ちえなかった。それだからこのブラジルチームには衝撃的な印象をもち、当時は日本がブラジルに勝ったり、ワールドカップには出場するなんて、不可能だと誰しも思っていた。

 このブラジルチーム以上にすごいチームは、1954年のスイス大会で準優勝したハンガリーチームで、このチームは決勝でドイツに破れるまでなんと国際試合33連勝、この中には聖地ウエンブリーでイングランドを6-3で勝つというイングランドにとって屈辱的な試合も含んでいる。ワールドカップ後も15連勝するなどそのチーム力は断トツであったが、残念なことにハンガリー動乱でチームはバラバラになり崩壊した。

 実際に試合は見ていないが、このハンガリーチームの強さは、映画「ベルンの奇跡」(2003)からもわかる。スイス大会のドイツチームも決して弱いチームではなかったが、このハンガリーチームにはとても勝てないと思っていたからこそ奇跡であり、国民に希望を与える試合であった。ちなみにこの映画はサッカー映画の中ではきわめてよくできた作品で、終戦後のドイツの状況をうまく描き、おもしろい。是非ごらんになることを勧める。

 おそらくこのハンガリーチーム以上に強いチームは今後もでないであろうし、すでに伝説になっている。

2009年3月22日日曜日

長勝寺構 土塁




 この時期は春の彼岸に当たるため、弘前市民の多くは墓参りに行きます。例年、残雪が多く、墓所をスコップで雪の中から掘り起こすこともあるようですが、今年は雪が少なく、墓所までお参りに行けるようです。茂森にある禅林街もこの時期は車の大渋滞で、家族連れでお参りに来るひとも多く、実ににぎやかです。本当に津軽のひとは信心深いひとが多いと思います。関西人の私が最初にびっくりしたのは、それぞれのお寺が大きく、その中に各家の位牌がびっしりと並んでいる点でした。今でこそ墓所がなく、位牌のみのマンション的なお寺も都会にはあるようですが、ここ津軽では寺の中には位牌堂が外には墓所がある構造に昔からなっていたようです。冬場のお参りには中に位牌がある方がよほど助かり、こういった要望から自然にこのような形式になったのでしょうか。

 この禅林街は、曹洞宗の寺のみが33も集まっているめずらしいところで、寺院がさならが林のように乱立していることからこの名前が付けられています。寺といっても、それは立派で大きなものが多く、中都市でこれだけの規模の寺町はまずないと思います。道幅も広く、とくに冬の寒い夜は、そこに立っているとそれは静かで神秘的な感じがします。

 この禅林街に行く時、いつも気になっていたのが、茂森の道路右にちらっと見える、堀のようなものです。高さは3mほどで、その下がトンネルになっている箇所もあり、昔の鉄道跡かなあと思っていました。今回、妻が花を買っているすきに、ちょっと調べてみました。禅林街の横道を進むと民家の裏側に高さ3mくらいの土塁がずっと続いています。300m以上はあるでしょうか。途中、空き地があったので、登ろうとしましたがかなり急なこう配で、足場も悪く、諦めました。土塁の上には松が植えられているようです。それこそ民家の裏に川もないのに土手がずっと続いている奇妙な光景です。

 帰って調べると、昔は禅林街自体がひとつの要塞、出城になっており、弘前城の防衛戦を担っていました。そのため禅林街の入り口に昔ここにあった茂森山をくずし、土塁を作ったようです(長勝寺構)。300年前のもので、そう考えると、やすやすとは登れないようにできていたわけです。ひまなひとは一度登ってみてください。昔の攻めての気持ちがわかるかもしれません。

 何の標識もなく、普通の民家の裏にひっそりとあるだけで、ほとんどの人は気づかないのではないでしょう。せっかくミシュランガイドブックで一つ星に選ばれたのですから、300年前の土塁として標識くらいは立てたらどうでしょう。弘前城のすごいところは城郭だけでなく、こういった周辺構造も残っている点で、最近では若い人の中にも時代ものが好きなひともいるようで、こういったマニアックなものももっと宣伝したらどうでしょう。

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2009年3月19日木曜日

口元美人2




 前回、浅田次郎さんの口元美人について述べた。左の写真のように、口を閉じる時にオトガイ部に梅干しの種のような皺がよる人がいる。これは口を閉じるためには下唇を上の方に無理矢理持ち上げ、オトガイ筋が緊張してできたものである。実際、こういった唇が閉じにくく、口元がきりっとしていない美人はいるかを検証してみた。ここに「キネマの美女」(文芸春秋)という本がある。1920年以降の日本を代表する映画女優296名の写真とプロファイルを集めたものである。最近の女優さんは含まれていない。映画女優はそれぞれの時代の美人観を反映する最もいい素材だと思われる。

 今のアイドルと違い、口元をしっかり結んだ写真も多く、また笑顔の写真からもある程度は判断できる。1枚、1枚じっくりみていくと、驚くことに口元がきちんと閉まらない女優はなんと3人しかいなかった。三村千代子さんと小松みどりさん(あの小松みどりさんと同姓同名)という2人の戦前の女優さんと戦後を代表する大女優杉村春子さんの3人である。それ以外の293人については、どれもきれいな口元をしている。浅田次郎さんの美人観は当たっているといえよう。それも昭和初期の女優さんをみても口元が美しいひとが多く、最近そういった風潮になったわけではなく、ここ90年にわたり口元美人が大衆には愛されていたことになる。化粧法や目元については多くのバリエーションがあるが、上の3人以外には美人女優は存在しないことになる。さらに言うと、杉村春子さんには申し訳ないが、彼女もどちらかというと美人の配役はなく、東京物語のようなちょこまか動く、気の強い、おせっかいおばさんのイメージが強い。

 オトガイ部に緊張が起こる要因としては、まず上下の歯が前に飛び出ていて、口を閉じれない場合が多い。上くちびるは下に下げることができないため、下唇を上の持ち上げるしか方法がなく、かなり意識しないと口が空いてしまう。また下あごが後方に回転していて、オトガイが後ろ、あごが下に長くなる場合も上下の唇を合わせるのに距離があるため、これも口が閉じにくくなる。どちらも日本人には多いタイプである。

 一番下の写真は明治天皇の若いころの写真と言われるものである。かなり下くちびるに力が入っている。おそらく下あごが後方に回転し、後退し、一方下の歯は前に飛び出ているため、下くちびるが突出し、オトガイ筋の緊張があるのであろう。かみ合わせとしては反対咬合と推測される。公家社会では柔らかい食物を咬むことが歴代ずっと続いていたため、下あごが退化してきゃしゃになっているのであろう。天皇自体自分の顔にあまり自信がなかったのであろう、極端に写真を撮られることをきらい、青年以降のものはない。欧州ではハプスブルグ家では今でいう下顎前突、下あごが大きい王様が多く、いかつい印象が強いが、明治天皇はこういった強権的な君主のイメージより、平和を愛する好々爺のイメージが似合う。実際、明治天皇は身近にある食物、金魚、えびなどの細工物が好きだったようで、その優しい性格がうかがわれる。


 治療法は、歯をできるだけ中に入れることか、あるいはオトガイを作り、前に出すことが考えられる。上下の前歯が出ている場合は、抜歯をしてその隙間を使い、できるだけ前歯を中に入れて、口を楽に閉めるようにさせることで、美しい口元が得られる。一方、下あごが小さい、あるいは後方回転していて下顔面が長い症例では、下がった下あごに合わせて歯を下げることである程度は口元がすっきりさせることは可能だが、オトガイ形成術や上下顎同時移動術のような外科的手術を必要とする場合もある。

2009年3月17日火曜日

口元美人

 浅田次郎さんの近著「ま、いっか。」(集英社)の中で、「目だけ美人の氾濫」というエッセイがある。長いこと美人の条件として目が重要と思っていたが、それより重要なのが口元である、いくら目がきれい、肌が白いといっても、口元悪ければすべて悪いとしている。本当の美人は口元がきりっと閉じられ、知的な雰囲気があるが、最近の若者は眼には化粧をぱっちりしているが、口はぽかんと開け、だらしなく、誠にみっともないという内容である。

 美の基準とは本当に難しく、時代や年齢によっても異なり、これが美人という定義はできない。ただ矯正歯科の分野では横顔(プロファイル)の研究が多い。これは横顔のシルエットを、少しずつ変えていき、あごを少し前に、あるいは逆に後ろに下げた何種類のシルエットを被験者にみせ、どれが最も美しい横顔かといった研究である。多少はばらつきはあるが、どのような研究でも、ほとんど同じシルエットに集中してくる。つまり美しい横顔については、ある程度意見が集約してくることになる。鼻とアゴを結んだ線上あるいは前後1,2mmのところに口元がある状態を美しいとされる。

 私的には、口元美人としてまっさきに挙げられるのは、フランスの女優のアヌーク・エーメである。きりりと閉まった口元に知的で、上品な香りがする。とくに代表作の「男と女」は彼女の美しさが随所に出ていて、何度みても飽きない。当時年齢は30歳半ばで、女性としては最も成熟したころで、服装や髪型も、今でも参考になるファッションである。口を閉ざした時の憂いを帯びた表情と、笑って白い歯が見える、このコントラストこそが美人の条件であろう。



 黄色人種では、東南アジアも含めて、上下の前歯が前に飛び出ている、上下顎前突のひとは多い。白人に比べてオトガイの発達していないため、よけいに口元の突出感が目立つ。韓国や台湾などではこういった患者さんも多く、友人の台湾の矯正歯科医に聞くと、約半分の患者が口元の突出感を主訴にくるそうだ。当然、小臼歯を4本抜く、抜歯治療が選択され、抜歯空隙を利用して前歯をできるだけ、後ろに引っ込める治療法が行われる。浅田さんは日本の女性はもっと口を閉じる努力をせよと言っているが、実は構造的に閉じられないひともいて、こういったひとこそ矯正治療で歯を内側に入れることで驚くほど美人になるケースがある。

 日本では、見た目の改善のため健康な歯を抜く事に躊躇する傾向が患者、歯科医双方にあるが、少なくとも、お口を閉じるのにあごの先の筋肉が緊張するような状態で、上下の前歯が出ている状態では、抜歯して治療した方がよいと思う。

2009年3月15日日曜日

1/2400 戦艦クイーンエリザベス





 先月、東京に行った時に渋谷に遊びにいきました。といってもこの歳になると、とくに見たいものがあるわけではありませんが、今回は渋谷パルコにあるポストホビーという店に行ってきました。この店にはミニカーや飛行機、艦船模型がいっぱいあり、お目当てはドイツのNavis-Neptunという会社の1/1250の艦船完成模型で、戦前の客船を一度みてみたいと思っていました。さすがに完成度は高く、精密な仕上がりでしたが、あまりに高くて、買うのはやめました。そこで同じ店内にあるアメリカの1/2400の艦船キット、これはGHQという会社のものですが、第一次大戦のマイナーな軍艦もあったので、これを買ってきました。

 イギリスの第一大戦当時のクインエリザベスとAJAX、および日本の重巡鳥海の3つのホワイトメタル製の模型を買ってきました。艦船を作るのは実に40年ぶりくらいです。小学校のころに作ったきりで、それ以降はもっぱら飛行機のみを作っていましたので、資料もなく、塗装も飛行機用のものしかありません。といってもタミヤのソードフィッシュを作りかけた後、ここ5年ほどは全く模型自体も作っていませんが。

 ホワイトメタルといってもバリとりなどの加工は歯科用の器具を使えば簡単です。ところがさすがいいかげんなアメリカ製というか、前部のマストが折れており、後部のマストも0.3mmくらいの細い線の上に見張り台を乗っけるような構造で、とても脆いものです。さすがにこの部分は0.4mm線を加工して自作しましたが、それ以外はキットのままです。あっという間に仮組み立てが終わり(写真上)、塗装に移ろうと思いましたが、なんせ5年ぶりなので、持っていた40色以上ある塗装すべて乾燥して使えものにならず、また飛行機の資料はいやというほどありますが、艦船に関しては一冊もなく、塗装も皆目見当もつきません。とりあえず軍艦色など何色か買ってきて、まったくでたらめに塗装をしてみました。まずメタルプライマーというものをスプレーし、金属への塗装のつきをよくしてから、ラッカー系の軍艦色、デッキ色を塗り(飛行機と違い簡単です)、その後エナメル系のブラックを薄めて汚し(ワッシュ)、細かい部分を塗り、最後につや消しのホワイトでドライブラシュを行います。飛行機では銀色でドライブラシュすることが多いのですが、GHQのカタログをみると、ホワイトでするようなので、やってみたところコントラストが出てかっこよく仕上がりました。

 出来は食玩もの以下で、お恥ずかしい限りです。全体的にオーバー塗装ですが、1/2400くらいになるとこれくらいにしないとややのっぺりしてしまいます。なんせ小さすぎ、1mmが240cmになるので、あまり凝るのも大変で、適当にごまかしました。もともと1/2400というサイズは日本ではマイナーですが、アメリカでは主としてボード用の海戦ゲームで使われ、色々なサークルがあるようです。こういったミニチュア模型の歴史は長く、チャーチルも子供のころナポレオン戦争の小さな兵隊、騎馬などをたくさん並べて戦争ゲームをしていたようで、私の子供ころもイギリス製のこういった小さな兵隊、騎馬のゲームがありました。GHQ社も艦船模型以外にも、戦車や帆船、兵隊などのミニチュアゲーム用のホワイトメタル製品を出しています。

 一応、完成したので、次の巡洋艦AJAXに取りかかろうと思いましたが、何と艦橋の部品が入っていません。人形でいうなら首の部分がないわけで、がっかりです。会社に連絡して文句をつけようかと思いましたが、面倒なので泣き寝入りです。トホホ。戦艦土佐同様に未完成のまま廃艦です。

 ところでエリザベス女王のフルネームをご存知でしょうか。正解はエリザベス・アレクサンドラ・メアリー・ウィンザーで、また正式称号は「神の恩寵において、グレートブリテンおよび北部アイルランドの連合王国ならびにその他の王国・領土の女王、英連邦の元首、信仰の擁護者にあらせられるエリザベス2世陛下」という長いものです。

2009年3月8日日曜日

矯正治療費



 矯正治療費については、何度か書きましたが、患者さんにとって一番関心が高いところなので、もう一度述べたいと思います。

 矯正専門医の多くは、トータルフィの料金設定をとっています。これは装置の種類、多さにかかわらず、治療の最後まで請け負う、といった料金体系です。例えば、出っ歯を主訴として来院したとしましよう。検査を行い、治療方針を立てます。多くの場合、マルチブラケット装置という矯正装置をつけることになりますが、それ以外にも機能的矯正装置、パラタルバー、ヘッドギアーといった装置が必要になるかもしれません。トータルフィではこれらの装置代がすべて料金に含まれます。治療に必要な装置はすべて治療代に入ることになります。当然、治療途中で、転居して新しいところで治療を継続する場合は、料金の清算を行うことになります。治療が半分で転医した場合は、全治療費の半分を、1/3で転医した場合は2/3返金することになります。また治療終了しても、後戻りがあり、再治療を希望される場合は基本的には新たな料金を発生しません。最初に設定した料金以上に治療費がかかることはありません。

 一方、一般歯科医や大学病院(国立)では装置ごとの料金をとる方式がとられることが多いと思います。上の例で言えば、マルチブラケット装置はいくら、機能的矯正装置はいくら、パラタルバーはいくらという風になります。装置が壊れたりした場合の再製料金はさすがにとらないとは思いますが、ある装置を使っても効果がなく、違う装置を使う場合は新たな装置代が発生すると思います。当然、転医時の清算はなく、再治療の場合は新たに費用がかかります。

 欧米あるいはアジアのほとんどの国の矯正専門医は、私の知る限り、トータルフィの方法をとっています。これは専門開業すればわかりますが、治療のため、新たに装置を変える、付け加えるのに、いちいち料金をとり、患者さんに説明し、了承してもらうのが難しいからです。ドイツでも昔、矯正治療も保険が適用されていた頃は装置ごとの料金であったようです。保険で安く治療するため、できるだけマルチブラケット装置を使わず、床矯正装置である程度、治療をしようとしたためです。そのためヨーロッパでは床矯正装置(機能的矯正装置)、アメリカではマルチブラケット装置という構図ができたのです。今ではヨーロッパも基本的にはトータルフィ制度になり、装置も自由に選択されるようになっています。
 
 症例によっては非常に簡単な装置で治ることがあります。10年以上経過をみて、ひとつの装置できれいな噛み合わせを達成する患者さんもいます。この場合は、装置代で治療を受けると、大変安く治療できることになります。一方、反対咬合で4歳の時にムーンシールドで治療をし、一応噛み合せが治ったとしましよう。ところが永久歯がでると、再び反対咬合で違う装置で治す必要があると、また費用がかかります。その後、でこぼこの問題がでてきたり、成長により再び、噛み合わせが逆になったりすると、今度はマルチブラケット装置代がかかってきます。結局、患者さんにすれば次々費用がかかるようでは、もういいという思いになり、完全に治らないで治療を中断することになります。

 日本では、歯科治療も保険制度があるため、個々の治療、装置ごとに治療代がかかるという方法(出来高払い)が患者さんには一般的です。そのため請け負い制という方法はどうもなじみがないようです。歯科医の方でも、出来高払いの感覚から抜け出せないようで、装置を作るのに技工代などかかっているのだから、その費用をとるのは当然だ、なぜ転医したら料金を清算しなければいけないのか、患者の都合で転居したのだから、そこまで責任を負う必要はないと言われます。これもひとつの考えで、矯正歯科という特殊な世界にいない限りはなかなか理解しにくいことなのでしょう。

 一方、請け負い制も問題があり、歯科医側からすれば、かなり長期間責任が生じます。例えば、4歳で治療を受けるとなると反対咬合の男子では17,8歳まで責任を負うことになります。そのため、年配の矯正医では責任を持てないから小児の治療を受けないというひともいます。昔、患者さんから先生が死んだら費用の方はどうなるかと質問されたことがあります。かなり失礼な質問かと思いましたが、請け負い制をとる限り、当然こういったことも出てきます。そのため、日本臨床矯正歯科医会でもこういった問題に対して何度も討議され、県あるいは地域の会員が協力して解決できるような方式が提案されています。

2009年3月2日月曜日

a-dec 300



 a-decからようやく中級品にあたるradius(写真下)の後継機種の300(写真上)が先日発表されました。確か、radiusが開発されたのが20年前くらいなので、随分久しぶりの新機種です。基本は上級機種の500を基に開発されたように思えます。全体的には簡素化と合理化がなされているようで、いい所は残し、ややオーバースペックな点は削り、コストの削減がなされているようです。一方、ヘッドレストなどは新しい概念のデザインになっています。例えば液晶モニターのアームは500ではかなり重い重量、36インチにも耐えられる構造になっていましたが、そんな大きなモニターをつけるひとはいなく、300ではよりライトなものなっています。その他にも全体的にはスリムな設計で、構造もより簡略化されています。ただここがすごいのですが、20年前のradiusも部品を変えるだけでこの新機種に変えられるようです。日本の代理店からの発表はありませんが、実売価格も円高もあり、国産中級機種と同じくらいになるかと思います。詳細はa-decのHPで http://www.a-dec300.com/en/

 昔、国産メーカーのひととデンタルショーで議論したことがあります。彼いわく、日本メーカーのように毎年新しいものを出すやり方が今の時代にあっており、A-decのようなやり方は時代遅れであり、車も日本車がアメリカ車に勝つのは、常に新しいものをだすからだと力説していました。国産のメーカーは毎年のように新しい機種を出し、数百台などのある程度の生産を完了するとそれで生産を打ち切り、在庫を売りさばきます。一方、A-decは機種変更がないので、ずっと生産し続けます。パーツも20-30年保管するのもそれほど難しくはないでしょうし、現にそうしていますが、国産機ではある程度共有部品を使っているとしても、これほどのストックをもつことはできないでしょう。10年、15年使い、故障すれば部品がなく、修理できないから新しいのを買ってくださいという訳です。こういうことを言うと、国産メーカのひとは「商売の主要機具のユニットを10年以上の使うなんて、信じられない。タクシー会社でも車は10年で交換する」と言われましたが、歯科医院もきびしい時代で、これからは国産メーカーの思惑とは異なり、20年以上使うところも多くなってくると思います。またタクシーも60-70万キロ乗って廃車にするようで、10年といってもその走行距離は半端ではありません。

 実際、歯科のユニットといってもただの椅子であり、患者さんにとっては座りごこちがよく、歯科医にとっては治療しやすければいい訳で、それほどハイテクな器材ではありません。極論すれば50年前のものでも削る機械など新しくすれば今でも十分に使えます。そういった意味では車とは全く違うもので、日本車とアメリカ車の比喩は当てはまらないと思います。

 話が変わりますが、今、F4ファントムの後継の次期支援機のことが話題になっていますが、このF4は実に50年前に初飛行した飛行機でベトナム戦争でも活躍したものです。おじいさん飛行機です。また現役バリバリの最新機種、主力戦闘機F15イーグルにしても、開発は30年前になされたもので、防衛を担う最新機種といってもこんなに古い物を使っているのです。開発費に莫大な費用がかかること、そのもの自体が高いということも理由のひとつですが、飛行機というものは安全性、信頼性が最も大事であり、そんなに毎年新しいものに変えるわけにはいかないのです。ただ電子機器などは最新のものには変えられていますが、それでも十分に信頼がおける機器を使用していると思います。同じように民間機のジャンボことボーイング747も初飛行は1969年で今年でちょうど40年立ちますが、第一線で活躍しています。

 歯科ユニットが、車や家電製品のような消費品か、あるいは軍需品か、どちらに近いのかはわかりませんが、アメリカと日本の国民性が現れていておもしろいと思いました。果たしてどちらが、世界の覇者になるのかわかりません。今のところ販売量は一桁あるいは二桁アメリカに負けていますが、日本メーカーもアジア圏内では結構売れているようです。おもしろいことに古い、ベーシックなものを主要商品として出しているようです。生産のコストと部品、修理の関係から輸出品では、それほど多くの機種を販売できないからでしょう。

2009年3月1日日曜日

天然ブスと人工美人どちらを選びますか



 ここ2週間で読んだ本、虹色のトロッキー1−3(安彦良和 中公文庫コミック)○、果てしなき渇き(深町秋生 宝島社文庫)○、まほろ駅前多田便利軒(三浦しをん 文春文庫)△、テロリズムの罠 右巻、左巻(佐藤優 角川ONEテーマ21)△、ヤバい中国人(宝島編集部 宝島SUGOI文庫)○、パーフェクトプラン(柳原彗 宝島社文庫)△、天然ブスと人工美人どちらを選びますか(山中登志子 光文社文庫)◎、神器 軍艦橿原殺人事件(奥泉光 新潮社)×です。今、ちょうど読んでいるのがレイテ 史上最大の海戦(ゴッペル 扶桑社ミステリー)です。

 仙台の出張があったため、電車内でたくさん読んだ結果ですが、ほとんど何の脈絡もなく、支離滅裂な読書傾向です。このうち、最も感銘を受けたのが、山中登志子さんの「天然ブスと人工美人どちらを選びますが」で、最初タイトルを見たときは数多くある美人論の一種かと思いましたし、前半はその通りでした。私の読書法はつまらない内容のところはそれこそ速読で、1分間くらいで2ページくらい読む(眺める)のですが、この本も前半はこのペースで読んでいました。ところが中盤以降著者の恋愛遍歴やネット交際などが披露され、読むスピードを遅くなり、俄然おもしろくなりました。そして最後は顔が変わるアクロメガリの病気に著者かかっているのを知り、推理小説の最後の種明かしのような気分にさせられました。先日、ちょうどアクロメガリーの講演を受けたばかりなので、よけいに実感することができました。実に巧みな構成とプロットです。まさか新書でこういった小説のような展開があるとは思ってもいませんでした。さらにネットで著者の画像を検索すると、典型的なアクロメガリーの顔貌で、文中の著者のイメージ(これは文体によるのか読書中いろいろなイメージがでます)、林真理子のようなちょっとハイミスの辣腕編集者のイメージとのギャップに、二重の仕掛けにだまされました。そうしてもう一度最初から読むと、結構重い内容で、明らかにこの構成は著者の意図したものなのでしょう。

 古今亭志ん生の「おいてけ堀」は、さる旗本の殿様の娘、これは3歳のころに疱疹、その後顔にやけどをおい、二目と見られない顔になり、親、周囲からもばけもの扱いされますが、殿様のひいきの傘職人はひょんなことから殿様の家に居候することになります。冬のあまりの寒さに辛抱できず、ついにはこのお嬢様の部屋に寝ることになりますが、そこで関係ができ、妊娠させてしまいます。結局はこの職人はおいてけぼりをくわし逃げ、お嬢様を自殺するという哀しい話です。いまではとても落語のねたには使えないような内容のものですが、これが名人志ん生にかかると、おもしろい話になるから不思議です。話芸と人柄によるのでしょう(落語名人シリーズとしてダイソーの100円ショップで売っています)。

 山中さんも雑誌で鍛えた文章力と持ち前の好奇心、前向きな生き方のため、こういった哀しい経験を持ちながら、笑い飛ばすような、勇気づける内容になっています。外観オンチに対する著者の積極的な生き方、楽天的な考えは、外観を気にする若い女の子には参考になるでしょう。

 ただ本のなかで美容整形に行くと、手術の費用が164万円かかると言われたとなっています。アクロメガリーで下あごが大きく、噛み合わせも逆になっていれば、「顎変形症」の診断で、手術、矯正治療も保険適用になりますので、高額医療制度を使えばこれの数分の一の費用ですむはずです。著者の顔貌をみれば十分に保険適用になりますので、この箇所は誤解かと思います。