2016年5月21日土曜日

国産ステルス機 F-3 開発費から




 自衛隊の次期戦闘機のF-35が、近接模擬空中戦でF-16に負けたというニュースが昨年あった。エンジン出力に対して機体重量が重く、空中操作能力で圧倒的に劣っていた。F-35の開発者は、この機体はドックファイト戦闘機でなく、もともと近接空中戦を想定していないと言い訳しているようだが、実際の戦闘で近接戦はないのだろうか。ベトナム戦争でも、機銃も必要あるまい、ミサイルだけで十分だとしたが、実際のミグ戦闘機との空戦では機銃の必要性を認め、バルカン砲を装着した経緯がある。こうしたことからF-35を失敗作とみる向きがある。国防省の一部では、そもそも海兵隊、空軍、海軍を共通機体にした判断を失敗と考えるひともいる。さらにF-35の後継戦闘機の構想も全く決まらないことから、海軍ではF/A-18をしばらくは主力戦闘機、爆撃機とするようだ。

 F-35については、それ以上に問題なのは開発費の高騰で、すでに50兆円以上かかっており、トラブルも多いことからさらに開発費がかかりそうである。最終的には100兆円とも言われ、基本設計、戦略のミスであろう。開発費は機体価格に転嫁され、当初、60億円程度といわれ、F-22とのハイロミックス構想があったが、高すぎて生産中止となったF-22の機体価格に迫る150億円になろうとしている。同様なことはアメリカの新型哨戒機P-8は、旅客機のB737を母体にして開発費を抑えようとしたが、結果的には1兆円を越える開発費を要し、同時期に開発された日本の哨戒機P-1の4倍もかかっている。ついでに言うと、ドイツ、イギリス、フランスなどで共同開発された輸送機A400Mは、これも開発費が4兆円以上かかっており、日本の輸送機C-2の開発費の実に10倍以上かかったことになる。またもう少しで実戦配備される超音速空対艦ミサイルXASM-3にしても、その驚異的な性能に対して、開発費は300億円程度とされ、非常に安い。従来から防衛省の予算が少なかったせいか、開発企業の三菱重工、IHIや富士重工も、一般製品と同様にコスト管理が徹底しており、利益幅も薄くとっているのかもしれない。


 現在、日本でも国産ステルス機、X-2が実証試験中で、IHIが開発している推力15トンの新型エンジンにもめどが付き、それを搭載した双発の次期戦闘機F-3が期待されている。F-3の開発費に1兆円、実際には予算は膨らむため2兆円くらいとされているが、それでもF-35の開発費100兆円にくらべて遥かに安く、上記したこれまでの兵器開発費を考えると、かなり安い費用で開発できるかもしれない。ただアメリカと違い、戦後、実戦経験が全くない日本では、主力戦闘機を国産化するのは、不安が残る。F-2の時代と違い、F-35が失敗作との評価はアメリカ自身もあることから、日本のF-3開発を邪魔する、例えばF-35の改良型をアメリカ側から提案しにくに状況である。さらにF-35以降の次期戦闘機計画が決まっていないアメリカでは、F-22の廉価版の双発ステルス機をほしいところである。アメリカと共同開発する場合でも、エンジン、機体、レーザーは日本で開発、製作し、アメリカにはソフト面での協力を願いたいところである。できれば正式採用機種の少ないノースロップ・グラマン社あたりと組むのはどうだろうか。コストの削減を強調すべきであろう。韓国は次期戦闘機(KFX)を自主開発しようとしているが、全く技術面の遅れで頓挫しており、もし日本がF-3を開発しようとすれば、すぐに乗っかろうとするが、これは無視である。いずれにしてもX-2の順調な試験が重要であり、その進展を願っている。

2016年5月19日木曜日

子どもの歯科矯正治療を健康保険の適用に 3

イギリスのIOTN(矯正治療の必要性インデックス)の審美性判断
グレード3(ボーダライン)では5番以降が保険適用



 矯正治療を健康保険の適用というとまっ先に反対されるのは、矯正治療は見た目の治療でしょうということです。近年、学会でも、不正咬合は物を咬んだり、呼吸、顎関節症といった機能的障害と結びつけられ、だから医療であり、必要であるとされてきています。確かに多くの研究結果をみていますと、機能障害はあるという研究がありますが、一方、関係ないという研究も多くあり、おそらくあまり関係はないか、あっても少ないというのが事実なのでしょう。実際、患者さんの主訴をみても“ものを咬めない”、“発音しにくい”、“あごが痛い”と悩みは少なく、“歯並びが悪いのが気になる”といったものがほとんどです。逆に機能的障害でこられた患者さんの場合は、我々矯正歯科医は“治るかもしれないが、やってみないとわからない”、“あまり期待しない方がよい”と言うことが多いと思います。少なくとも患者さんが機能的な不満がないのであれば、研究で問題があるといっても必要性は少ないのでしょう。

 一方、医療というのは、命に関わるものもありますが、大部分の医療は患者さんが体の不調で困っているから治療するというものがほとんどかもしれません。例えば、かぜを引いても、ごく一部はインフルエンザのように命に関わるようなものもありますが、大部分は安静にしていれば治るものです。であっても、これは健康保険の範疇でないという人は誰もいないと思います。同じようなことは枚挙なくありますが、矯正治療と関係する事例を挙げます。

 いちご状血管腫、異所性蒙古斑、太田母斑など一部の“あざ”はレーザー治療が健康保険で認められます。当然、こうしたあざは皮膚がんなどの死に至るようなことは少ないし、機能的な障害もほとんどないと思われます。多くは見た目の問題でしょう。それでも本人にとっては深刻な悩みであり、これを健康保険に導入することは、“自分もこうした疾患であれば、治すであろう”ということから、反対するひとは少ないと思います。

 ワキガは臭いの問題ですが、日本人では少ないのですが、欧米人では10人中8名くらいいて、非常に一般的なものです。それでも日本では、子どものワキガがまわりの子ども達から“臭い、臭い”と言われて、いじめの原因になることもあります。そのため、手術によるワキガ治療は健康保険が適用されます。さらに乳がん手術後の乳房再建についても2013年より保険適用となっています。もちろん、患者さんにとっては失礼かとは思いますが、機能的障害というより精神的な障害が大きいように思えます。こうした主として形成分野の保険適用治療は、機能障害というより精神的な負担を軽くすること、つまりクオリティー オブ ライフ(QOL)、生活の質を高めるための治療と考えられます。

 こうした面から、矯正治療を見てみますと、ほとんどの研究結果、ここでは具体例は出せませんが、矯正治療によるQOLの改善は確実に実証されています。矯正治療できれいなかみ合わせになることで、人生を前向きに考えられる、積極的に生きられる、明るくなったなどの効果があります。上記の主として、形成外科分野の例を見てみますと、最近になって保険適用になったようで、厚労省としても生活の質の向上に関わる疾患も財政上は苦しくても、保険適用にするようになってきていますし、患者さんはじめ、国民すべてのコンセンサスも得られています。

 ただこうした見た目の問題については、形成外科でも美容外科との境界は曖昧であり、ここが保険適用と自費診療との適用基準を難しくしているところです。個人的には写真で示したような重度の不正咬合、一般人、10人に判定してもらい10人ともこれは治した方がよいというような症例であれば、保険適用にしても十分に納得してもらえると思います。実際、イギリス、北欧など矯正治療を保険でしている国では、重症度を必要性インデックスとして、グレード1から5までの5段階に分け、4と5については18歳以下の場合の矯正治療は無料としています。日本でもグレード5の一部、口蓋裂の子ども達、あごのズレが大きく、手術の必要な症例については健康保険が適用されていますので、その範疇をもう少し広げることが期待されます。ボーダラインの3については審美性のサブカテゴリーの5以上が保険対象となります。

 30年前までは、八重歯がかわいいという時代もありましたが、今や八重歯がかわいいと人は少ないと思います。多くの矯正患者さんと接していると、お金がないため、ずっと気になっていたが、治療を諦めたという人が本当に多くいます。また子どもの不正咬合が気になっているが、生活が苦しく、治療させてやれないという親も多くいます。放っておいても死にはしない、痛みがなければ、それほど日常生活に不自由しなければいいのではないか、という時代はもはや過去のことです。ましてやこれからは国際化社会で、海外で勉強する、働く人にとっては、不正咬合は大きなデメリットとなります。子ども達の機会均等を望むなら、若いうちにきれいな歯並びにしておくことは大きなメリットとなります。

2016年5月16日月曜日

子どもの歯科矯正治療を健康保険の適用に 2

トム・クルーズ

フェイ・ダナウェイ


 昨日は、第32回東北矯正歯科学会に出席してきた。鹿児島大学でお世話になった黒江先生の講演があるため、朝650分のバスに乗って盛岡に行った。朝一番、“超高齢社会の歯科医療を展望する”題して、国立長寿医療研究センターの角保徳先生の講演があった。齲蝕は20年前に比べて1/5に減少し、歯周疾患も減少傾向にあるという。代わって口腔ケアー、管理を主体とする高齢者型の歯科に移行していくであろうという内容であった。

 小児の齲蝕が減る、あるいはほとんどなくなる時代とは、国民の多くが歯科医院に行かない状況を意味する。ところが、高齢者になって認知症、寝たきりになると、歯の問題が一気に噴出する。歯がなく、総義歯の場合に比べて、歯があるためにかえって口腔内の清掃が難しくなり、歯周疾患や疼痛の原因となる。こうしたことから、通院を主体とした歯科医院での治療から、在宅での口腔内管理や嚥下指導が歯科の主たる活動となる。厚労省の歯科医療戦略は、従来の治療を主体としたものから、管理、ケアーを主体としたものに変化しており、今後とも齲蝕のない世代が老人となる数十年後はさらにこうした流れは顕著となろう。

 実際に、すでに齲蝕がない世代が老人化している北欧では、こうした流れとなっている。演者の角先生は、高齢者型の歯科状況においては、歯科医数は将来的には足りなくなるとしていたが、管理、ケアーと主体とした歯科医療で、果たして10万人の歯科医師が医師なみの収入を得ることができるであろうか。単純なモデルで考えれば、疾患が1/5になれば、それを治す医療従事者も1/5でよいはずである。歯周疾患が減少はそれほど急激でないとしても、歯科医師数はせいぜい半分で十分であろう。残り半分をこうした高齢者型の歯科に移行するには、いくら高齢者の数が増加といっても、管理者は何も歯科医師でなくても、介護士、看護師、衛生士である程度は代用できるため、必然的には医師と歯科医師の収入差はますます広がるであろうし、さらにいうなら、一般の会社員と収入が変わらなければ、高い授業料と期間をかけて歯科医になる者も居ないだろう。実際に多くの歯科大学で定員割れしているのは、その証拠である。

 このような高齢者を中心とした健康保険制度は、一方では健康保険の主たる負担者である若い世代からからすれば、費用の公平性を欠くという異論もでよう。もちろん自分たちの将来の安心という意味では、老後に安心して最高の医療を受けられるというのは大きなメリットではあろうが、直接的な恩恵がない状況もまた納得しにくい。歯科ではさらに、こうした問題は深刻で、齲蝕がなく、ほとんど歯科医院に行くことがない人たちからすれば、少なくとも歯科医療に関わる健康保険の負担分は無駄となる。12 歳児における齲蝕歯、処置歯が0.5本以下となった時代は、成人になるまでほとんど歯科医療費を使わないことになる。使わなければ、その分、負担を減らせということになる。欧米では齲蝕は自己責任という考えが主体となってきており、齲蝕があるのは生活環境に問題があり、普通はならないものだという見解がとられつつあり、国の健康保険から除外あるいは、負担率が上がる動きもある。

 不正咬合に対する矯正治療は、ヨーロッパでは健康保険、アメリカでは民間保険の適用となり、多くの子ども達が治療を受けている。翻って、日本では一部の先天疾患の子どもに対する治療を除き、保険がきかない。結果的には、資産のある子ども達は矯正治療を受け、きれいな歯並びであるが、貧困所帯では不正咬合が放置されることになる。良好な咬合は、単に審美的な面だけでなく、咀嚼や嚥下、呼吸にも関連する。こうしたことから重度の不正咬合については、健康保険の適用になるべきであろう。具体的には小児の反対咬合、上顎前突は成長期から治療することで、顎発育をコントロールできるため、早期治療の意義がある。また重度の叢生についても歯周疾患の観点からは治療対象となろう。


 小児期の齲蝕は減っている。少なくともその減った分の医療費については、矯正治療の健康保険適用分にまわしてほしい。そうすることにより、子どもの教育、生活に費用がかかる世代に対する医療費の軽減に繋がり、健康保険料の公平性、自分たちの負担が老人医療ばかりに使われという不満にも対処できよう。日本矯正歯科学会でも今年から本腰で矯正治療の保険適用に取り組むとのこと。大いに期待するし、応援したい。少なくとも、矯正治療を健康保険適用にした場合の、費用面(医療費)のシュミレーションは学会で行って、日本歯科医師会、自民党、厚労省などに提言してほしいものである。

2016年5月13日金曜日

松蔭室2


回教徒運動に従事してテヘランで亡くなった益子勇
アルアズハル大学留学(日本人初)



 弘前市の養生幼稚園の横にある松陰室については以前のブログで少し紹介した。その際、松蔭室にある偉人棚についても触れた。「養生会百年史」に偉人棚にある陳列品について詳しく記載されているので、説明したい。

 この偉人棚は明治4210月(1902)に「偉人の在世中はもちろん其の死後においても、遠く感化を及ぼすものにして、殊に其人に因縁のある物品は多大な感動を与うるものにこれ有り、もしそれ園児冬期において室外遊戯し能わざる時、あるいは遊びくたびれて園内に帰りし時を見はからい、やや年長の園児を集め、その物品について偉人の実歴談や、逸事を説き聞かせ候わば、ただ園児一時の感興にとどまらず、深く脳裏に印象して、他日成長ののち品性陶治の種子ともあいなるべく存じ奉り候」として、作られた。幼稚園児には、趣意に沿った教育は難しかろうと思うが、ここでは養生会、早起き会の若者に対する講演会などがあり、その折に教材として使われたのであろう。

偉人棚には

1.      勝海舟先生の檜皮篭(伊東重氏所蔵) 枢密顧問官 税所篤氏の証明あり
2.      西郷南州先生手製烏賊釣具(伊東重氏所蔵)大島島庁書記 小倉治平氏の証明あり
3.      西郷南州先生の字指(ジサシ 笹森儀助氏所蔵)大島島司 笹森儀助氏宛の証明あり
4.      福澤諭吉先生自筆の原稿(対馬定紀氏所蔵)時事新報社説の原稿
5.      丁汝昌の菓子入(菊池九郎氏所蔵) 清の北洋艦隊提督、日清戦争、自殺の枕元にあったもの、
6.      津軽信政公の御椀(成田彦太郎氏所蔵)間宮家の拝領したもの
7.      乃木大将愛用の碁石(一戸大将寄贈)旅順包囲軍の際に使用したもの
8.      山県元帥揮毫の額(工藤十三雄氏寄贈)松陰先生記念会のために揮毫してもの
9.      山県元帥の軍服(工藤十三雄氏寄贈)日清戦争の陣中に着用したもの
10.寺内元帥(先代)の毛筆及び鉛筆(工藤十三雄氏寄贈)臨終まで使用したもの
11.児玉大将の状箱(工藤十三雄氏寄贈)
12.東郷元帥揮毫の書(蒲田静三氏寄贈)「神清智明」壬子春 東郷書花押あり
13.後藤新平先生揮毫の掛物二軸 特に養生会員のために揮毫された「神心獣体」と其の説明の二軸
 
さらにその後の寄贈品として
14。明治天皇御崩御の際の御床の一部(満川亀太郎氏寄贈)
15。(昭和)天皇陛下御愛用の硯(今あや氏寄贈) 珍田侍従長に親しく下されたもの
16。(昭和)天皇陛下、秩父宮、高松宮御幼時の帽子制服(皇子伝育官であった弥富破摩雄氏寄贈)

 寄贈者について、少し説明を加えると、工藤十三雄(1880-1950)は政治家で18年間、弘前を地盤として衆議院議員として活躍した。対馬定紀(1845-1919)は弘前の実業家で第五十九銀行頭取、成田彦太郎(1867-1952)は新聞記者で弘前新聞社長、蒲田静三(1887-1966)は海軍大佐、第一次世界大戦では地中海方面に出撃、今あやは作家、今東光の母親である。また弥富破摩雄は学習院初等科時代に天皇の伝育係となり、その後、大正12年に旧制弘前高校が開設されると国語教授として赴任した。

 西郷隆盛の遺品については、やや由来は不確かであるが、その他の品については、寄贈者名から本物と思われ、貴重なお宝である。こうした遺品を博物館などで展示するのもいいかもしれないが、創立の趣旨を考えると、その由来と人物像を子ども達に語り継ぐことが重要と思われ、単なる見せ物の終わるべきではない。一方、やや残念なことは、地元の偉人の遺品として、ここに挙げた品以外に“本多庸一の説教原稿”、“陸羯南の書”、“伊東梅軒の書”などがあるが、もう少しあってもよさそうである。珍田捨巳、一戸兵衛、菊池九郎、本多庸一、笹森儀助などは、伊東重とも関係が深く、そのゆかりの品を寄贈してもらうのは容易だったと思うが、おそらくこうした人物は自分を偉人棚に飾られるような人物ではないと遠慮したのであろう。郷土教育が学校でも義務化されるようだが、そうした中で松蔭室ならびに偉人棚が活用されれば、よかろう。