2016年5月19日木曜日

子どもの歯科矯正治療を健康保険の適用に 3

イギリスのIOTN(矯正治療の必要性インデックス)の審美性判断
グレード3(ボーダライン)では5番以降が保険適用



 矯正治療を健康保険の適用というとまっ先に反対されるのは、矯正治療は見た目の治療でしょうということです。近年、学会でも、不正咬合は物を咬んだり、呼吸、顎関節症といった機能的障害と結びつけられ、だから医療であり、必要であるとされてきています。確かに多くの研究結果をみていますと、機能障害はあるという研究がありますが、一方、関係ないという研究も多くあり、おそらくあまり関係はないか、あっても少ないというのが事実なのでしょう。実際、患者さんの主訴をみても“ものを咬めない”、“発音しにくい”、“あごが痛い”と悩みは少なく、“歯並びが悪いのが気になる”といったものがほとんどです。逆に機能的障害でこられた患者さんの場合は、我々矯正歯科医は“治るかもしれないが、やってみないとわからない”、“あまり期待しない方がよい”と言うことが多いと思います。少なくとも患者さんが機能的な不満がないのであれば、研究で問題があるといっても必要性は少ないのでしょう。

 一方、医療というのは、命に関わるものもありますが、大部分の医療は患者さんが体の不調で困っているから治療するというものがほとんどかもしれません。例えば、かぜを引いても、ごく一部はインフルエンザのように命に関わるようなものもありますが、大部分は安静にしていれば治るものです。であっても、これは健康保険の範疇でないという人は誰もいないと思います。同じようなことは枚挙なくありますが、矯正治療と関係する事例を挙げます。

 いちご状血管腫、異所性蒙古斑、太田母斑など一部の“あざ”はレーザー治療が健康保険で認められます。当然、こうしたあざは皮膚がんなどの死に至るようなことは少ないし、機能的な障害もほとんどないと思われます。多くは見た目の問題でしょう。それでも本人にとっては深刻な悩みであり、これを健康保険に導入することは、“自分もこうした疾患であれば、治すであろう”ということから、反対するひとは少ないと思います。

 ワキガは臭いの問題ですが、日本人では少ないのですが、欧米人では10人中8名くらいいて、非常に一般的なものです。それでも日本では、子どものワキガがまわりの子ども達から“臭い、臭い”と言われて、いじめの原因になることもあります。そのため、手術によるワキガ治療は健康保険が適用されます。さらに乳がん手術後の乳房再建についても2013年より保険適用となっています。もちろん、患者さんにとっては失礼かとは思いますが、機能的障害というより精神的な障害が大きいように思えます。こうした主として形成分野の保険適用治療は、機能障害というより精神的な負担を軽くすること、つまりクオリティー オブ ライフ(QOL)、生活の質を高めるための治療と考えられます。

 こうした面から、矯正治療を見てみますと、ほとんどの研究結果、ここでは具体例は出せませんが、矯正治療によるQOLの改善は確実に実証されています。矯正治療できれいなかみ合わせになることで、人生を前向きに考えられる、積極的に生きられる、明るくなったなどの効果があります。上記の主として、形成外科分野の例を見てみますと、最近になって保険適用になったようで、厚労省としても生活の質の向上に関わる疾患も財政上は苦しくても、保険適用にするようになってきていますし、患者さんはじめ、国民すべてのコンセンサスも得られています。

 ただこうした見た目の問題については、形成外科でも美容外科との境界は曖昧であり、ここが保険適用と自費診療との適用基準を難しくしているところです。個人的には写真で示したような重度の不正咬合、一般人、10人に判定してもらい10人ともこれは治した方がよいというような症例であれば、保険適用にしても十分に納得してもらえると思います。実際、イギリス、北欧など矯正治療を保険でしている国では、重症度を必要性インデックスとして、グレード1から5までの5段階に分け、4と5については18歳以下の場合の矯正治療は無料としています。日本でもグレード5の一部、口蓋裂の子ども達、あごのズレが大きく、手術の必要な症例については健康保険が適用されていますので、その範疇をもう少し広げることが期待されます。ボーダラインの3については審美性のサブカテゴリーの5以上が保険対象となります。

 30年前までは、八重歯がかわいいという時代もありましたが、今や八重歯がかわいいと人は少ないと思います。多くの矯正患者さんと接していると、お金がないため、ずっと気になっていたが、治療を諦めたという人が本当に多くいます。また子どもの不正咬合が気になっているが、生活が苦しく、治療させてやれないという親も多くいます。放っておいても死にはしない、痛みがなければ、それほど日常生活に不自由しなければいいのではないか、という時代はもはや過去のことです。ましてやこれからは国際化社会で、海外で勉強する、働く人にとっては、不正咬合は大きなデメリットとなります。子ども達の機会均等を望むなら、若いうちにきれいな歯並びにしておくことは大きなメリットとなります。

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