2014年2月26日水曜日

矯正治療が必要ない患者さん



 さまざまな患者さんが来院しますが、必ずしも矯正治療を必要としない患者さんがいます。私の考える矯正治療の目的は、矯正治療は長い治療期間と費用がかかりますので、そのデメリットを越えるメリットがなければいけません。こういった考えは、費用対効果(コストパフォーマンス)と呼ばれるものです。矯正治療の場合、必ず後戻りがありますので、例えば、元々の不正咬合が30点で、矯正治療で90点になり、後戻りで80点になったとしても、30点から80点の改善ですから治療効果は大きいと言えます。逆に元々の不正咬合が70点で、後戻りで80点なら、効果が少ないと言えそうです。次のような患者さんはあまり矯正治療の対象とはならないと考えます。

1.      下の前歯の少しのでこぼこのケース
 上の歯並びがきれいで、下の歯並びに少しのでこぼこがあるケースがあります。マルチブラケット装置をいれると簡単に直りますが、この状態を一生、保持することは大変難しい。前歯に裏側に細いワイヤーで止める固定式保定をすることになりますが、これとて数十年となるとかなり難しいものです。さらに下あごは成人以降も少しずつ成長することがミシガン大学の研究でわかっており、下の歯並びはでこぼこになる宿命のようなものがあります。うちの娘も下の歯並びがでこぼこしていて、大阪の一般歯科医で矯正治療を勧められました。娘に以上のような理由を説明し、やめるように説明しましたが、そこの先生があんまり執拗に勧めるので、そちらの先生から私の方に治療をする理由を説明するように電話してほしい旨を娘に伝えると、それっきりとなりました。

2.      顎関節症が主訴のケース
 あごが痛い、音がするといった顎関節症を主訴とする患者さんがきます。大学や開業医でかみ合わせが原因なので、矯正治療をした方がよいと言われ来院されます。顎関節症は現在では、外傷、習癖、咬合など多因子による疾患と考えられており、かみ合わせが悪いから顎関節症になるわけではなく、また矯正治療をして不正咬合を直しても、必ずしも顎関節症の治療には繋がりません。こんな歯並びだと顎関節症になり、あごが開けられなくなると患者を脅す歯科医もいるようですが、全くいい加減です。むしろ顎関節症なんてたいしたことない、安心しなさいというのが歯科医の仕事と思えるのですが。
開咬、交差咬合、過蓋咬合などの不正咬合は顎関節症と関係していると言われますが、これも有意差がある程度で、治したからといって良くなるものではありません。たまたま治ったと考えています。

3.      本人が矯正治療をしたくないケース
 中高生で、本人は矯正治療をしたくないのに親が心配して来院される患者がいます。小学生では本人の意思がはっきりしませんので、親の意思を優先しますが、中高校生以上になりますと、本人が治療をいやがる場合は、絶対に治療をしません。矯正治療は成人になってもできるので、本人がしたくなければ、無理矢理治療をする必要性はありませんし、患者の協力が悪ければ、治療もうまくいきません。

4.      治療を急ぐケース
 最近はセルフライゲーションブラケット、超弾性ワイヤーや矯正用アンカースクリューにより治療期間の短縮が可能になってきました。それでも通常、マルチブラケット装置に場合は1年半から2年の治療期間が必要となります。高校2年生の時に来て、卒業まで2年ない場合は、基本的には治療を断っています。青森の場合、高校卒業後に進学、就職のため上京する場合が多く、治療途中になってしまうからです。もちろん転医という手もありますが、治療責任からあまりしたくありません。就職してから、大学入学してから治療しても決して遅くないからです。


 さらに言うなら、これは自己擁護になってしまいますが、医療の不確実性を理解できない患者さんや100%の結果を求めるひとはやめた方がいいかもしれません。医療は人体を扱うもので、その結果には予想できないところがあります。矯正治療でも歯が動かない(骨性癒着など)、歯根吸収、晩期成長など予期できないものがありますし、100%完璧な治療はまずできません。最初に十分に説明すればいいのかもしれませんが、臨床の場面では決して理想的にはできるとは限られません。治療を終了してから、真ん中が0.5mm合わない、前歯の段差(0.3mmくらい)が、気になるという患者さんがいます。すぐに再治療しますが、それでも最後まであちこち細かいところが気になり、結局は不満足なまま終了することになります。

2014年2月23日日曜日

弘前藩領絵図 藩境から




 秋田藩(久保田藩)と弘前藩の藩境を見ていると、現在の青森県岩崎村と秋田県八森の間に御境明神(跡)というのがあります。ここの解説を見ると、昔この明神の左右には小川があり、弘前藩側を「内はらい川」、秋田藩側を「外はらい川」と呼んでいたようです。弘前藩領絵図では明神を境堂とあり、珍しく小さなお堂のような絵があります。また川の名は「ハライ川」となっています。ここが藩境となっていたようです。

 南部藩と弘前藩の藩境は、狩場沢の二本又川(境川)です。ここには二つの塚があり、四ツ森、四ツ塚と呼ばれています。絵図では「ハライ川」のとなっています。秋田藩との藩境の川と同じ名前となっています。「ハライ」は払い、祓い、解除などと読めるますが、どうやら他藩との境の川をさす古語だったのかもしれません。藩を越える場合、この川でお祓いをして体を清めるような気分だったのでしょうか。それともここから他国の人々を追い払ったのでしょうか。その他の絵図で「ハライ川」の名称はないように思えます。

 いずれにしても弘前藩領絵図では、秋田藩、南部藩と弘前藩の藩境には「ハライ川」という名称を用いていることがわかります。ご存知のように弘前藩と南部藩は昔から仲が悪くて、藩境についてもずいぶんもめたようですが、最終的には正徳年間(1714)には幕府の裁定で、藩境が正式に決まりました。両藩の境は四ツ森を除くとほとんどは山の中ですので、石高などは関係なさそうですが、入会権や鉱山開発のため、ごたごたが起きます。藩のメンツもあったようで、境界の決定には両藩で相当もめたようですが、幕府にとってはどうでもよく、きちんとした国絵図を作るため藩境を決定することが大事だったのでしょう。結局は、元禄の国絵図の製作過程で、藩境が決まってしまったようです(1700年ころ)。

 この弘前藩領絵図は、1790年以前のものですが、藩境に関連する記載が多いように思います。先の「ハライ川」もそうですが、それに続く山側の藩境を「此界川より南の方、炭塚山まで峯道南部領国堺(境)」としている。具体的には大烏帽子山、三角嶽、柴森、小川嶽、石倉嶽、膳棚山、芦柄嶽そして灰塚(炭塚山?)の稜線が藩境となるようです。この炭塚山(炭塚森 標高576m)は江戸期、弘前藩、秋田藩、南部藩の3藩の境であり、現在は青森県平川市と秋田県大館市、小坂町の3市町の接点となっています。

 弘前藩領絵図における狩場沢からの藩境、「ハライ川」から続く、山を挙げると、大烏帽子山、三角嶽、柴森、南嶽、小川嶽、石倉嶽(耕田嶽)、檜?峯、横嶽、膳棚山、芦柄嶽、炭()塚、三本杉、逢?吉嶽、石之塔、高倉嶽、泊嶽、女嶽(向白神嶽、奥に白神嶽の名があります)、大鉢森と続き、秋田の「ハライ川」となります。現在の八甲田山は耕田嶽の名称で、南嶽、小川嶽、石倉嶽の3つの山の後ろにあります。藩境付近の山をくわしく記述しています。

 弘前大学所蔵の津軽領元禄国絵図を調べると、藩境については狩場沢の「ハライ川」は「境川」となり、そこから烏帽子山、耕田山、十和田嶽、蛭飼嶽、清水峠、三本杉、湯之沢?山、石之塔、朝然嶽、佛場森、?智嶽、???、?名山、東?打嶽、西?打山、そして境川となっている(崩し字が読めず、すいません)。ハライ川が境川、その他の烏帽子山、耕田嶽、三本杉、石之塔くらいが一致するだけで、大分違います。少なくともこの弘前藩領絵図は元禄国絵図を参考にしたものではなさそうです。

 現在でも尖閣諸島、竹島など国境をめぐる紛争がありますが、江戸時代もこういった藩境をめぐる問題があり、その確認には絵図が最も重要となってきます。



2014年2月16日日曜日

パタゴニアR2とR3



 一昨年に買ったパタゴニアのR2があんまりよかったので、もうひとつ買おうと近所にあるパタゴニアショップに行きました。ところが、2013年度のR2はデザインが変わっていて、サイズも前より、さらにタイトになっていました。店のひとによれば、丈の部分が延長され、ズボンの中に入れられるようになっているようです。以前のデザインが良いといっても、2012年のR2はなかったので、ひょいと横を見ると、R3がありました。R3R2より生地が厚く、より防寒度が増します。

 2012年のR3のデザインは胸ポケットに変な布が貼っており、あまりかっこよくなかったのですが、2013年のR32012年のR2とそっくりのデザインです。R2を厚くした感じです。R2Mサイズでしたが、R3では厚くなった分、Mサイズではややタイトな感じがしましたので、Lサイズがどうもよさそうです。それでもさすがに値段も高く、もう少しバーゲンになってから買おうと、12月の中頃まで待っていましたが、どうもセールはなさそうなので、ネット上の格安店で購入しました。

 着心地もまったくR2と同じで、厚さが増した分、より暖かくなりました。1月になると弘前もめっきり寒くなり、近頃ではもっぱらR3が中心になっています。軽くて、動きやすい上、暖かいので重宝しています。あまり着心地がいいので、90歳になる母親にもR3レディースのXSを贈ったところ、大変気にいり、毎日、着ているようです。年寄りにとっては、軽くて、動きやすく、暖かいのがなによりです。うちの娘にも「おばあちゃん、かっこいい」と言われ、ごきげんです。90歳のおばあさんが、パタゴニアR3を着て、何がいけないんだというところでしょう。

 山の雑誌などをみると、最近の山人はあまりフリースを着ないようで、パタゴニアのR2、3もそれほど人気はないようです。こういったフリースは風を通しますので、これを着て、マイナス5度以下の外にでるとそれは寒くなります。風を通さない、ジャンバーなどを上から羽織ると暖かくなります。ナイロンシェルのダウンでは風も通さず、保温性も高く、より寒い状況ではダウンの方がいいでしょう、薄いインナーダウンとアウターダウンのコンビが山男、山女の主流のようです。ただ屋内着として見るとき、ナイロンシェルのダウンはガサガサして、動きにくのが気になります。お袋にもモンペルのナイロンシェルのダウンベストとジャケットを送りましたが、旅行や近所の外出には重宝しているようですが、屋内着としてはあまり活用していないようです。やはり屋内着としてはフリースが最強のようです。

 パタゴニアはシーシェパードに資金提供しており、あまり会社としては気に入りませんが、昔のショイナードの時からのつきあいです。青のドラゴンマークの入ったバックパックを買い、インド、中国を旅しました。思い出深いメーカーです。パタゴニアの製品は高くて腹が立ちますが、最近は体に楽なもので、毎日使うものであれば、多少高くてもいいかと思ってしまいます。逆にいくら安くてもほとんど使わなければ高いものになります。

 R2R3とも山での遭難を意識しているのでしょうか.非常に派手な色です。私も含めて、歳をとると、色使いにはやや抵抗がありますが、それでも軽くて、動きやすいという機能面のよさには軍配が上がります。年配の人こそ、こういった機能的な衣服が適していると思います。もう重いセーターを着ることはありません。

 写真の赤がR2、青がR3です。生地の厚みの差はわずかですが、着てみると暖かさが違います。

*その後、帰省した折に母に尋ねると、もはやセーターはきれない。軽くて、動きやすいので、一日中、着ているとのことでした。早速、2012年度のR2がインターネットで売っていましたので、買って、送りました。より着用シーズンが長くなりそうです。

2014年2月14日金曜日

第41回日本臨床矯正歯科医会


 211日から213日まで、第41回日本臨床矯正歯科医会に参加してきました。今回は、仙台で開催され、東北支部の担当でしたので、大会運営にも多少お手伝いをいたしました。非常にいい大会で、大会長の曽矢先生、事務局長の五十嵐先生は本当にお疲れさまでした。

 この会は、日本の矯正歯科臨床のベストの先生の集まった会で、その高い臨床技術と姿勢にはいつも敬服いたします。私のような田舎の、そして臨床技術の低いものにとっては、いつも大変参考になります。

 今回は、昨年から健康保険に適用になった「6歯以上の先天性欠如歯をもつ不正咬合」にトピックを当てた講演内容となっていました。6歯以上の先天性欠如をもつ症例となると、今回、当会で調べた結果では、矯正患者11972名中57名、0.48%(男性0.66%、女性0.37%)でした。かなり頻度の低いケースです。ことに第二小臼歯の先天性欠如の比率が高く、その空隙閉鎖の方法について、広島の渡辺八十夫先生は、下顎第一大臼歯の近心移動量が3,4mmをすぎると歯槽骨が狭くなり、移動は難しく、歯根の小さな小臼歯の遠心移動となることを示していただきました。よく遭遇するケースです。それに対して、岩手の中野廣一先生は、乳臼歯をヘミセクションし、歯槽骨が狭くならないように工夫して第一大臼歯の大きな移動を達成した症例を展示していましたが、十分に納得のいく方法です。

 また神奈川の石川靖夫先生、布川俊彦先生は、先天性欠如歯の頻度が高い唇顎口蓋裂のケースを呈示し、基本的には補綴処置をしないで空隙閉鎖をすること、場合によっては下顎切歯の再植で対処する方法を示され、ああこういった方法もあるかと、大変参考になりました。先日もうちの患者さんで、欠損部を開けた症例に対して、デンタルインプラントで対応しようとしましたが、後で患者さんの親から費用が非常にかかり、きついと言われました。部分床、ブリッジ、デンタルインプラントなどの補綴的な対処法には色々と問題があり、矯正歯科医はあくまでこれらの方法に頼らない治療法を選択することが患者さん、親にとっても最善な方法と認識しました。

 以前のブログでもさんざん批判しましたが、「唇顎口蓋裂の歯科矯正治療学」(一色泰成著、医歯薬出版、2003)の症例は、ほぼ骨董的な価値しかなく、この10年の手術法、矯正治療法の進歩は、ほぼ一般矯正と同レベルの治療結果を達成できることは、両先生の症例でみごとに証明されています。もし矯正用アンカースクリューが活用できるようになれば、フェイスマスクのよる上顎骨からの直接牽引や、歯槽骨の垂直的な是正も可能になるかもしれません。いずれにしても石川先生、布川先生の高い臨床技術は、日本、あるいは世界でもトップクラスで、目標にしてがんばっていきたいと思います。

 その他、こういった高いレベルの先生方といろいろとお話ができて、大変勉強になりました。といっても帰ってきた早々は、さあがんばろうと思うのですが、すぐにまた日常のまったりした生活になってしまうのが、私の臨床のへたな理由です。

2014年2月9日日曜日

中国との関係是正


 いまにも日中戦争が起こるといった危機感を煽る方が日本、中国双方にいます。これは現行の日米安保条約を考えればありえないことで、中国がアメリカと戦う危険性はおこしません。その時は、第三次世界大戦の勃発になりますから。

 尖閣列島付近での偶発的な衝突は仮にあったとしても、双方の話し合いで解決せざるをえないことは明白です。先の日中戦争でも、その歴史を見ると、開戦までに多くの日中間の偶発的な衝突がおこっていますが、それでもお互いの政府は、陳謝と損害賠償で決着しています。

 日米防衛協力による指針では有事の際、米軍が自衛隊基地を使用できるのと同時に、逆に自衛隊が米軍基地を利用できます。沖縄にはアジア最大の航空基地、嘉手納基地があり、ここには3700mの滑走路が二本あり、武器、弾薬の補給も十分にできます。もし沖縄付近で有事の際、自衛隊がここを使用すれば、運用上、非常に強い武器となります。一方、中国からはこの基地は絶対に攻撃できない対象となります。攻撃は即、米軍への攻撃となりますので自動的にアメリカとの開戦に繋がります。絶対に叩かれない基地を利用しながら、敵の基地をたたける訳で、他人のふんどしで戦うことになりますが、これは強い抑止力となります。アメリカ軍がいるから抑止力となるのではなく、自衛隊がアメリカ軍基地を使えることが抑止力となっているのです。敵に絶対にたたかれない基地を持つことができるのですから。

 アメリカ政府としては、こういった有事を避けたいのが、やまやまで、そのため日中間の現在の状況を危惧しているのです。お隣、韓国では、前の大統領、盧武鉉は、国内の反米ムードに踊らされ、戦時作戦統制権の返還と基地の国外への移転を求めました。米軍にとっても、お荷物、韓国を切り捨てる覚悟ができたのか、それに従うことになりました。ところが、ここが韓国らしいのですが、ふと我に返ると、米軍がいなくなると抑止力がなくなることに気づき、今になってあれはなかったことにしてくれと泣きついています。

 こういったことを考えると、日中双方でいたずらに危機感をあおることは全く意味がなく、早い時期に日中間の紛争の火種を消す作業が求められます。韓国の例を出すまでもなく、マスコミ、世論に迎合せず、将来を考え、日中のトップ会談を期待したいところです。先の大戦でも、軍部、政府とも戦争回避への努力を行ってきましたが、結局は朝日新聞に代表されるマスコミの世論が好戦的になり、そのムードに呑まれたのが実情でしょう。当時のマスコミの主張は、暴支膺懲(ぼうしようちょう)という言葉に尽きます。生意気な中国はけしからん、懲らしめてやれという考えです。(私は朝日新聞購読歴、57年ですが、この新聞社は先の日中戦争では開戦をたき付け、今は逆の立場をとりながら、慰安婦問題、南京事件など事実と異なる報道をして、韓国、中国との紛争の種をまいています。全く反省のない会社です)。

 粛々とアメリカとの防衛協定を強化し、沖縄米軍基地を使った日米共同訓練を繰り返しながら、牽制するとともに、尖閣については領土問題に触れないという棚上げにして、日中の関係是正を図るのが知恵のあるやり方と思われます。中国のメンツを考えると、何らかのアクションをして、国有化以前の状態に戻すことが求められます。国有化から沖縄県有化、あるいは一切の人工建設物を作らない自然保護区にするなど、日中の落としどころを作るのが老獪な政治家のやる仕事です。