2023年2月23日木曜日

アライナー矯正の将来

 






アメリカの株価を見てみると、あれだけ全米で話題になったSmile Direct Club、ショッピングセンター内に店舗を構え、患者さんの口腔内をデジタル印象して、マウスピース矯正装置を自宅に送るというシステムであるが、ここの株価を見てみると、2019年に上場した時の株価が20ドル、その後、10ドルから15ドルの間を行き来していたが、2021年度から急速に下降し、現在は、0.4ドルくらいになっている。株価は、ほぼ1/50になった。また財務を見てみると、2021年からほぼ経常益は赤字で、売上も減少し、赤字が増えて倒産は時間の問題である。一方、本家インビザラインの会社、アライン・テクノロジー社の株価は、2021.9に一番高値、713ドルを記録した後は、急速に下降し、2022.11には197ドルまで下降したものの、持ち直し、最新の株価は304ドルくらいである。ほぼ半分くらいになっている。また財務を見ていると、売り上げが2021年には3952(単位不明)、が2022年は3700くらいとなり、最終益も772から245(予想)と大幅な減となっている。スマイルダイレクトクラブほどではないが、どうも事業としては頭打ち状態となっている。ついでに言うと、サンキンなど矯正部門を切り捨て、新たなアライナー事業を立ち上げたデンツプライシロナの株価をみると、20215月の高値、69.5ドルから急速に下降、2211月のは26.5ドルとなり、今は35ドルくらいになっている。これもほぼ半分くらいである。決算状況をみると、最終益とも2021年度は421の黒字であったが、2022.9には-1077という大幅な赤字を出している。赤字となったので矯正部門を撤退したのか、それとも新たなアライナー事業で赤字になったのかはわからない

 

こうした株や財務には、直接関心はないが、日本より数年早くアライナーが流行しているアメリカの現状を知りたかった。株価でみると、低価格で、簡便なスマイルダイレクトクラブに代表されるアライナーはアメリカではほぼ全滅状態になっていることが株価でわかる。費用は安い(20万円程度)が、歯科医がいっさいチェックしないシステムに患者は不安を持ったのだろう。日本でもクロネコヤマトと提携した「hanaravi」、「キレイライン」、「Oh my teeth」など似たような製品が数え切れないほどある。おそらくスマイルダイレクトクラブ同様に、ほとんど淘汰されよう。一方、元祖であるインビザラインについても、一時的、爆発的なブームは去り、矯正治療の中の一つのオプションとして定着している感がある。日本と違い、専門性の確立しているアメリカでは、インビザラインの治療も矯正専門医で受けることが主体となっているため、患者の不正咬合の種類や難度により、従来のワイヤー矯正とインビザラインによる治療を共存している。見た目が気になり、舌側矯正を選んでいた患者が、インビザラインに流れていったようである。ヨーロッパ、日本では舌側矯正もまだ多いが、アメリカでは急速に舌側矯正はインビザラインに置き換わっている。ただすべての症例がインビザラインで治るわけではないし、治療の効率化、例えば抜歯症例などはワイヤー矯正などの方が楽なので、患者の半分以上がインビザラインに置き換わることはない。軽度の不正咬合の多いアメリカでも、全患者の30%くらいがインビザラインの適用だろうか。口元の突出しているアジア人では、口元の後退を希望する患者が多く、どうしても抜歯症例が多い。おそらく軽度の叢生、上顎前突、反対咬合などインビザラインの適用はせいぜい10-20%くらいでなかろうか。日本人のことだから、工夫をして今後ますますインビザラインの適用が増えていくと思われるが、そうなるとただ単純にインビザラインを渡すというだけではおさまらず、一部にブラケットをつけたり、ゴムを多用したり、頻繁な設計変更など、かなり複雑な治療が必要となり、それがワイヤー矯正よりかえって大変であれば、矯正歯科医はインビザラインを選ばず、ワイヤー矯正を選ぶ。おそらくそうした流れで今後の矯正歯科は進んでいくのであろう。

 

一方、矯正患者の不正咬合は非常に多岐にわたっており、インビザラインだけしか治療のオプションがなければ、外科的症例は自院では治療できないことになる。患者の顔貌の改善に対する要求は強く、昔であれば、外科的矯正の適用は、骨格性反対咬合、開咬、交差咬合などに限られていたが、最近では上顎前突、上下顎前突や顔面非対称などにも広がっており、私のところでも外科的矯正患者の数は、20年前の2倍くらいになっている。こうした外科的矯正を除外した矯正専門医は、これからは経営は厳しい。一方、インビザラインによる技工料金も値上げし、確か30万円くらいになっていたように思えるが、それなら自分のところで専門ソフトと三次元プリンターで作ろうというと医院が増えてきそうである。インビザラインを中心にした大規模な矯正歯科医院では高額な三次元プリンターが導入でき、スケールメリットもあり、インビザラインによる価格を下げる、製作、運送期間の短縮あるいはワイヤーによる矯正治療費も含むなどのサービスもでき、一般歯科医院でのインビザライン治療を価格、サービス面で淘汰できるかもしれない。またセフォロ分析なしでの矯正治療、特に成人矯正においては、ほぼ裁判されると歯科医院側が負けるため、インビザラインによる矯正治療をする場合には、セファロ撮影装置が必要で、これが意外と高額である。年間数百枚撮影する矯正専門医と数十枚しか撮影しない一般歯科医ではコスパがものすごく違う。さらに何より問題なのは、セファロ写真をトレースして、分析、診断するには、大学の矯正歯科学講座で少なくとも2年間のトレーニングが必要で、まず一般歯科医ではセファロ分析は無理なことである。日本でインビザラインが普及してきたのは、ここ34年である。そろそろ治療結果がはっきりする頃であり、同じ費用あるいは安くて、きちんとした治療ができるのであれば、一般歯科より矯正歯科専門が選択されるのは当然であろう。

 

あくまで予想ではあるが

 

hanaravi、キレイライン、Oh my teeth、アットスマイルなどDirect Smile Clubに準じた簡単なアライナー治療を淘汰されて、消える。

・インビザラインの爆発的なブームは去り、こうしたアライナー矯正を希望する患者はセファロ分析、診断のできない一般歯科から、ワイヤー矯正もできる矯正専門医院へ移る。

・アライナー矯正については、自院で設計、製作ができれば、従来のワイヤー矯正より技工代、チェアータイム、人件費の削減につながるため、アタッチメントなどの特許の切れる2027年以降には、大規模矯正歯科医院ではワイヤー矯正より安い価格、一症例、60万円以下になるだろう。

・アライナー矯正あるいは矯正治療そのものが、特定商法取引法の対象になるだろう。そうすれば、医療広告ガイドライン、広告規制の上に、特商法の規制がかかってきて、患者にとっては途中解約による治療費の返金が得やすい。

・コロナ禍による歯科矯正バブルは終焉したので、アライナー矯正も減る。





2023年2月22日水曜日

情報収集の方法(郷土史、弘前)

 










昭和30年代の観光都市図弘前市



これまで「明治二年弘前絵図」、「津軽人物グラフィティー」、「日系アメリカ人最初の女医 須藤かく」、「弘前歴史街歩き」など5冊の本を出版してきた。範疇としては郷土史になるので、その内容は弘前、津軽に関する地名、人物などの情報によるものが主体となる。インターネットや本からできるだけ必要な情報を集め、それを選択して、文章にして、本の原稿を書くという流れである。レポートを書く場合の参考になるかと思うので、私の調べる方法を少し話そう。

 

基本的にはインターネットを中心に、例えば、“弘前駅”に関する情報を得る場合、まず“google”による検索が基本となる。

 

1.Googleによる検索

 まず調べたいことがあれば、Googleによる普通の検索で当たりをつける。そこそこ情報の多い人物や事柄であれば、例えば、明治の外交官、“珍田捨巳”であれば、かなりの検索ができるし、動画検索も可能であるが、“須藤かく”のようなほとんど知られていない人物の場合、最初、調べた時は、1件しかヒットしなかった。結果的にはその1件のヒット、「須藤勝五郎の生涯」(佐藤幸一、1992)が出版の契機となった。Googleには他には画像検索もできるので、これにも情報があるし、また書籍検索も重要である。書籍検索は以前よりはマシになったが、それでもかなり、誤字が多く、最終的には図書館で、文献をチェックしなくてはいけない。

 

2.図書館での検索

津軽の郷土史ということなので、利用する図書館は、主として弘前市立図書館の2階の資料室を使うことが多い。図書館には司書という人がいるので、調べたいことがあれば、直接聞いても良いし、google bookなどで検索した本をここで、借り出して閲覧する。検索した本があるかどうかは、図書館のHPに簡易検索が載っているので、前もって調べておく。必要な記事は、図書館のデスクで複写の手続きをして、コピーする。資料によっては、青森県立図書館や、弘前大学附属図書館も利用する。郷土史の本については、開架にある本は比較的探しやすいが、書庫にある場合も多く、書庫にある本はこちらから指定して閲覧しなくてはいけないので、ややこしい。また弘前図書館について言えば、古い本の収集には熱心でないため、古書店の成田書店にしかない本も多く、図書館にはない本があれば、ここで購入している。

 

3.インターネットによる検索

本格的な調査をする場合、最もよく使うのが、国立国会図書館のデジタルコレクションである。これは国内最大のデジタルコレクションで、検索をかけるとその文献そのものを見ることができる。ここではさまざまな検索ワードを使って検索を試みて、すべての本をざっと読んでいく。「弘前歴史街歩き」の場合、例えば、まず“弘前”、“津軽”などで検索していき、ヒットした本をすべて確認していく。さらに「紳士録」や「電話帳」などにも情報が隠されている場合が多い。他には弘前図書館では、古書のデジタル化が進められているのでそれを利用して、例えば、新編弘前市史などもここで全文が読める。絵図なども充実している。「日系アメリカ人最初の女医 須藤かく」では、主としてNewspaper.comという有料であるが、古いアメリカに新聞を読むサイトがあり、これを中心にアメリカ留学時代の須藤かくの活動を調べることができた。また場合によっては、アメリカの図書館に直接問い合わせることもある。阿部はなに写真が欲しかったので、ニューヨーク州にカムデンという小さな図書館にメールを送り、コピーを送ってもらったことがある。あるいは、シンシナティー友人に頼み、シンシナティー図書館に司書に調べたもらった資料は重要であった。感謝している。

 

4.所蔵図書からの検索

図書館にない本やよく使用する本は、購入して持っておいた方がよい。青森県の人物を調べるためには、「青森県人名大辞典」(東奥日報、昭和44年)が詳しい。2002年に出た「青森県人名辞典」より、古い本の方が詳しく、古書店で2000-3000円で売っている。また地名を調べるためには、絵図、地図が有効であり、所有する「明治二年弘前絵図」、「明治八年弘前地籍図」だけでなく、Key Words of Hirosakiという1977年に発行された弘前案内図、ヤフーオークションで購入した明治初期の手書き地図、あるいは大正五年に発刊された「青森県弘前市俯瞰地図」、大正13年に発刊された「大日本職業別明細図之内信用案内図 青森県」、最近では1999年に発刊された「青森県弘前市住宅地地図」(ゼンリン住宅地図)も参考になる。また弘前商工会議所で発行した「昭和10年の弘前の街へタイムスリップ ひろさき懐かし地図」(2011)や昭和30年代の「観光都市図 弘前市」(富士波出版)なども参考になる。地図情報はかなり多いので、古書店やオークションで見つけたなら、できるだけ買うようにしている。今は、明治期の住宅地図のようなものや昭和30年から60年代のゼンリン住宅地図を探している。弘前の街は基本的には江戸時代とほぼ同じなので、その土地に誰が住んでいたか、かなり継続的に見ることができる。

 

他には、インタビューをして直接聞き取った情報もあるがが、これに関しては古い記憶なので、かなり間違いも多いので注意が必要である。調べたい項目があると、こうした資料を駆使して、例え一行でも関連することが記載されていれば、ノートに出典とともにメモし、本を書く時の参考にする。膨大な資料を元に執筆し、出版しても、その後、新たな資料が発見され、完全に間違っていることも多々あるが、それは仕方がないものとして諦めている。弘前市立図書館では、古書、絵図を中心にデジタル化していただき、大変助かっているが、弘前藩の士族、卒族の由来などを記載した、「由来書」、「代数調」の公開はまだごく一部である。以前、図書館に方に聞くと、個人情報法の観点から公開できないといっていたが、明治五年の壬申戸籍ではあるまいし、公開してもその子孫に類が及ぶような項目がなく、すべての公開が望まれる。

 




2023年2月16日木曜日

矯正治療は難しい

 


 


矯正治療を本格的にやり始めて40年以上経つが、いまだに矯正治療は難しいと思う。120年前にアメリカのエドワード・アングルが確立した歯にブラケットをつけてワイヤーの力で歯を動かすマルチブラケット治療法は、今日で矯正治療の主力である。私のところの診療所で言えば、治療の80%がマルチブラケット法である。おそらく中学生以上、永久歯が完成後の治療法としては、舌側矯正も含めて全世界で90%以上の患者に使われているものである。最近では、ワイヤーを用いない、いわゆるマウスピース矯正の患者さんも増えており、アメリカの一部の矯正歯科医院では、全患者の半分以上がマウスピース矯正となっていて、以前に比べてマルチブラケット法の頻度が減少したかもしれない。ただこれには理由があり、アメリカでは矯正をする患者数が日本に比べて格段に多く、その大部分が軽度の不正咬合、ちょっと凸凹がある程度の場合が多い。そのため、こうした患者には少し歯と歯の間を削るディスキングという処置が必要であっても、小臼歯などの抜歯を必要とする症例は少ない。あるいは、子供の頃に矯正治療を受けたが、後戻りがあり、それが気になってマウスピース矯正で再治療をするケースも多い。

 

一方、日本やアジア諸国では、もともと口元が出ている上下顎前突の傾向を人種的に持つため、以前から歯並びがいいが、口元を引っ込めたいという患者が多かった。台湾の先生によれば、診療所のくる患者の半分以上がそうした主訴であるという。つまり日本人では欧米の白人に比べて口元が出ているため、非抜歯で、でこぼこを治すためには、ディスキングだけではスペースが足らない。YouTubeでインビザラインの症例が紹介されているが、中には今の治療法では絶対に治らないと思われるケースがある。そうしたケースのコメントに「主訴が口元を入れたいのであれば、今の治療法では治らない。一度、横顔をとる側方頭部X線規格写真をとり、上顎切歯の角度、U1 to FHという項目がある。これが110度が標準値で、これを大きく超えるような角度であれば、抜歯を検討したほうが良い。至急、先生に相談されたら良い」と書く。そうするとこれまで側方頭部規格X線写真は撮っていないという。間違いなく、このインビザラインの先生には矯正治療の知識がなく、確実に口元の突出は治らない。こうしたインビザラインの患者動画は、最初のうちはかなりの頻度でアップされているが、妊娠、出産後にアップされなくなったり、いつの間にか違う話題になっていることが多く、最後までアップすることは少ない。さらに言えば、最後までアップされているものでも、矯正専門家から見れば、口元が突出していたり、咬合が甘い症例が多い。ある上顎前突の患者さんのケースも、終了した動画があり、上下の歯は綺麗に並んでいるが、噛ませると明らかに出っ歯であり、下あごを前に出してかんでいる。二態咬合という失敗例である。YouTubeで有名な尾島賢治先生の症例は綺麗に仕上がっているが、尾島先生も日本矯正歯科学会の認定医の資格がないので、Youtubeで積極的に動画を流せるが、認定医であれば、資格を失う。

 

はっきり言って、ワイヤー矯正においても、簡単と言われる1級叢生の抜歯ケース(小臼歯抜歯)でも、舌側からみて、小臼歯及び大臼歯の舌側咬頭をきちんとシーティングするのは難しい。ましては上顎前突、反対咬合、骨格性不正咬合あるいは中心位と中心咬合位のズレが大きい症例、舌習癖がある症例、骨性癒着歯を持つ症例などは、ワイヤー矯正でもきちんと治すことは難しく、おそらくマウスピース矯正でも治せるだろうが、逆に複雑な治療法となろうし、期間もかかる。そのため日本の矯正歯科専門医ではマウスピース矯正の頻度は確か10%程度で、それもほとんどのケースでワイヤー矯正と併用するようだ。また患者にはより確実で、安全、失敗の少ない治療法として、ワイヤー矯正しかしないという矯正医も多い。

 

矯正歯科医はアメリカの影響を受けて、口元が中に入った顔貌を好むのに対して、一般歯科医はあまりそうした見方はしない。患者さんが口元を入れたいというイメージは比較的矯正歯科医のイメージに近いが、一般歯科医のイメージとは異なるために、最初のガイダンスで、患者が口元を入れたいというと、非抜歯で入るという。この場合の歯科医のイメージは今より1、2mm入るくらいのもので、患者さんが描いているイメージはもっと下げたい。結果、マウスピース矯正では、患者が思ったほど口元が入らず、歯科医も小臼歯を抜きたくないと言って、そのままになることが多い。矯正歯科医の場合は、検査結果を説明する際に、側方頭部X線規格写真(セファロ)のトレース上で、今より切歯がどれくらいはいり、口元がどのくらい入るかある都度は予測でき。術後結果も最初の予想に近いことが多い。そのため、マウスピース矯正をする場合は、必ず、側方頭部X線規格写真を撮ること、その結果のうち、上下切歯の角度、どれだけ標準より前にあるか、それが治療後にどれだけ下がるかよく聞く必要がある。もちろんセファロも撮らずに矯正治療を始める歯科医は、100%ヤブ医者なので、これは絶対にやめるべきである。

 

セファロもない、あっても分析もできない歯科医院は、そもそも矯正治療をする資格はない。矯正治療における標準資料は、模型、頭部X線規格写真(セファロ、側方、正面)、パントモ写真、口腔内、顔面写真であり、これは世界中の全ての矯正歯科医でスタンダードとなっている。さらにCTや機能検査などを補助的に使うことはあっても、とりわけセファロのなしでの診断がありえない。これは全ての歯科学生にも徹底的に教えてきたことであり、国家試験でもセファロを含めた問題が出る。逆に言えば、セファロ分析なしにマウスピース矯正をする先生は、もう一度、大学で勉強してほしい。セファロなしで矯正治療をしたなら、これだけで患者から訴えられれば、裁判には確実に負ける。騒がれているインビザラインの集団訴訟についても、一つは治療費詐欺の問題、もう一つはもしセファロ写真なしで治療を開始し、例えば、出っ歯になったというなら、これは検査義務違反に相当するので、これも訴訟項目に載せれば良い。日本中のすべての歯科大学の教授、矯正専門医で、セファロなしでの矯正治療を認める人は100%いない。

 

インビザラインに代表されるアライナー矯正、マウスピース矯正は数ある矯正治療法の一つであるし、今後、さらなる改良が加わり、適用症例も増えるかもしれない。ただ。その治療の根底には、患者さんの咬合状態を検査、分析し、きちんと診断することがすべての矯正治療に求められる。それをしない治療法は明らかにおかしい。

2023年2月12日日曜日

国立大学教育学部、附属学校は閉鎖すべきである

 


筑波大学教育学類の一学年の定員は35名だが、附属学校は11校もあり、すべて東京にある。つくば市には附属学校はなく、学生の実習には関係していない。すべて閉鎖か、残すなら国立から都立にすべきである。


前回のブログでは、国立大学附属学校の廃止を述べた。よく考えれば、次の天皇と目される悠仁さまが筑波大学附属駒場高校に入学したことが最近、話題になったが、筑波大学、昔の東京教育大学、東京高等師範学校の附属学校のことである。もともと師範学校附属学校の意義は、新しい教授法を実践、練習するための施設であると同時に全国に設立されつつある小学校のモデル校であった(Wikipedia)。あるいは教員養成のための教育実習の場、実験的・先導的な教育課題の研究の場、現代的教育課題に対応した教員養成に関する研究への協力の場などとされている。

 

まず附属学校がなくなったら、どうであろうか。OBからすれば寂しいと思うかもしれないが、元々の上記目的は公立学校での教育実習などで全く問題なくできるし、先導的な教育課題、現代的教育課題では、入試で合格した優秀な生徒しかいない附属学校では研究もできず、落ちこぼれ、不登校、学習、発達障害の子どもたちの教育問題を試せない。つまり無くなっても誰も困らない存在であり、そもそも国が税金を使って金持ち、皇族が入る進学校を運営する意義を全く感じないのである。地元の弘前で言えば、弘前大学教育学部附属幼稚園、小学校、中学校は完全に教育熱心な家の子どもが行く学校となっており、弘前高校に入る近道として小学校から塾に入り、受験勉強をして中学校に入る。筑波大学附属高校など、全国にある国立大学の附属学校も同様であろう。少なくとも教育実習機関であるなら、入試試験をして生徒を選抜する段階で学校の設立目的からアウトである。つまり成績の良い生徒は、別に誰が先生であっても自分で勉強する能力があるし、教師の卵が実際に小学校や中学校に勤務した時の参考にもならないからである。さらにいうと、そもそも教育学部には乳幼児、小中学校コースはあっても、高校教師を育てるコースすらなく、学ぶ生徒もいないのに、なぜ附属高校を作り、そこに皇族を入れるのか、不思議である。

 

全国のほとんどの国立大学附属中学校、高校には入学試験があり、進学校になっているところが多い。ひどい例で言えば、神戸大学には1874年の師範学校からの歴史がある教育学部があった。ところが時代の変化に伴い今では国際人間科学部の中の発達科学部・人間発達環境学研究科となり、また兵庫教育大学もできたため、純粋に小中学校を担当する子ども教育学科の定員はたった50名しかいないが、昔は住吉小学校、中学校と明石小学校、中学校の2つの附属学校があった。さすがに多いと思ったのか、2010年に明石校は閉校し、2009年には住吉校が神戸大学附属小学校、中等教育学校となっている。以前は高校がなかったが、これを機会に中学校を前期課程、高校を後期課程と編成替えをしている。元々の教育学部でも高校教育課程はなく、それゆえ小中学校の教員養成のために附属の小学校、中学校を作ったが、生徒の通学圏、阪神間では私立の中高一貫が多くあり、附属小学校から中学校への進学率が低くなる、あるいは中学卒業後、公立高校以外の進学が難しいなどの、内部の事情で高校を併設するようになったと推測する。まるっきり附属学校を作った目的とは反し、それでなくても激しい阪神間の受験競争を助長しているだけである。それに比べると定員も多く、実質的な兵庫県の教員育成に関与している国立兵庫教育大学の附属幼稚園、小学校、中学は学力選抜していないだけましであるが、それでも附属学校を作る意味は少ない。普通に考えると、神戸大学は定員わずか一学年50名のために、附属幼稚園、小学校、中学校、高校を作ったのだから税金の無駄遣いと言われても、何も言えないであろう。東北大学教育学部附属学校は、宮城教育大学の創立とともに、宮城教育大学附属学校となり、今は学部があっても附属学校はない。神戸大学においても兵庫教育大学ができた時点で、附属学校を閉校すべきであり、変な小細工をすべきでなかった。

 

話は脱線したが、こうした全国の国立大学附属学校については、どこもほぼ附属学校としての存在価値はなくなっており、すべて閉鎖すべきである。教員課程の実習は附属学校がなくてもいくらでも実習先はある。そして社会に求められているのは、従来の教育ではカバーしきれていない子供達への教育であり、それが大学における研究テーマであり、税金を投下しても必要なことである。大学の附属病院の存在価値は多くの国民から支持されており、従来の附属小中学校もある意味、大学病院のような存在になってほしい。発達、学習障害、不登校、落ちこぼれ、非行に走る子供達への教育、日本語のできない外国人への日本語教育、知能が高いGiftedの子供達への教育などを行う国立の教育学部附属の教育支援学校センターへの転換、設置を望む。

2023年2月11日土曜日

貧困と教育 教育学部附属学校


 
 





昔、テレビの番組で、貧困家庭の娘が就職試験を受けたくとも、ビジネススーツが買えないので受けられず、仕事にありつけないと嘆いていた。それを聞いていて、何でこの子は、古着屋やメルカリで買うという発想はないのか、あるいは親類、友人から借りるという選択はないのかと思った。また自分の家は貧乏なので、大学に行けないという声もよく聞く。大学に行くには、なるほど金もかかるが、それでも自宅から通える国立大学に行けば、かなりの確率で奨学金をもらえ、あとはバイトなどすれば、何とか生活費は稼げる。おそらく地元の国立大学に行くだけの学力がないのであろう。私の知人に、高校生の時に両親が亡くなり、親類と疎遠になり、その後、一人でバイトして、生活し、大学を出て、さらに大学院、そして教授になった人がいる。また在日朝鮮の知人は、大阪にいた頃、親から手に職をつけなさいと地元の工業高校に行くが、あまりのレベルの低さに、これではダメだと、親に見つからないように勉強し、挙句、北海道に家出した。新聞配達の寮に住み込みながら予備校に通い、弘前大学医学部に入って医者になった人がいる。勉強しているのを見つかると親に殴られたと言っていたが、大学も家庭教師などのバイトをしながら生活した。おそらく昔と違い、YouTubeを活用したり、学校の先生に頼み、先輩が使った参考書をもらったり、NPOによる無料学習塾などをうまく活用すれば、金がなくても受験勉強はできる。

 

貧困になるのは社会のせいで、働いても働いても搾取され、手元にもほとんど残らずに、貧乏になる。こうした社会を変えようというのが左翼の考えであるが、一方、貧乏でも節約して、充実した生活をしている人も多い。タバコは喫う、バチンコはする、酒を飲む、外食ばかりする、そして貧乏で生活が苦しいという。まずはタバコ、酒、パチンコ、外食をやめることが貧困からの脱出の第一歩である。確かに病気などで働けず、生活保護を受けて苦しい生活をしている人は多いが、その家計をチェックして、より豊かな生活をするような工夫すればよい。逆に言えば、自分で家計を工夫できるような人は、何とか生活保護に頼らなくても生きていけるのかもしれない。

 

貧困を考えていくと、どうしても結局は知識、学力という点に帰着する。つまり知識、学力があれば、就職試験に着ていく服は安く手に入るし、勉強したければ、ただで参考書をもらうこともできるし、大学にも親の援助なして通える。つまり貧困と教育格差の楔を断ち切ることが、貧困からの脱出の点では重要となる。現代社会は知識社会であり、学力が低い、知識がないと貧困となる。貧困だから知識、学力がないのではなく、知識、学力がないので貧困になると言ってもよかろう。

 

たとえば、大工さんになるため、工務店に勤めると、会社側から、“木造建築物の組み立て等作業主任者”、“1級、2級、3級建築大工技能士”、“二級建築士、木造建築士”などの資格を取るように薦められる。高校卒業程度の学力がいる。佐官になるためには、“ブロック建築技能士“、”タイル張り技能士“、”1級、2級、3級佐官技能士“、さらには”登録佐官基幹技能士“などがあり、それぞれ実技と学科試験がある。同様にペンキ屋、塗装業でも”一級、二級塗装技能士“、”有機溶剤作業主任者“、あるいは”足場の組み立て等作業主任者“など様々な資格がある。知人の工務店の人に聞くと、昔は勉強ができなくても徒弟制度で技術を学べばよかったが、今では様々な資格が必要なため、少なくとも高卒の人を採用すると言っていた。逆に言えば、現代社会では、何事をするにも、たとえ普通免許取得などの資格が必要であり、学科試験を合格するためには、少なくとも本に書かれたことを理解し、覚える能力が必要となる。基礎的な学力、義務教育の内容を理解し、高校に進学、卒業できるだけの学力が、生活するための最低限必要な社会になっている。

 

日本の高校進学率は、94.1%で、定時制を含めて97.8%とかなり高いものの、中退する率も1.4%となり、高校を卒業する割合は92.7%となり、この比率はここ50年大きな変化はない。人数で言えば、大体毎年12万人が中卒で、高校へ進学しない。毎年、毎年10万人以上の若者が、基礎的学力がなく、社会に放り出される、50年で言えば、500万人の人々となる。もちろん現実は、発達障害、学習障害の人もいて、全員に基礎的学力を持たせるというのは困難なことかもしれない。大学病院は医学生の教育機関であると同時に、高度医療機関として重篤な疾患の治療にあたっている。そうであるなら、大学の教育学部は、学生教育だけでなく、教育の疾患と考えれるこうした基礎的教育が不十分な人々の教育にもっとタッチすべきである。実際は、全国各地にある教育学部附属学校は、むしろ優秀な生徒が集まる進学校になっている。優秀な生徒であれば、どんな先生でも、何もしなくても勝手に生徒が勉強する。むしろ、発達障害、学習障害、登校拒否、落ちこぼれ、非行の多い生徒をいかに指導するかが、教育学部の大きなテーマであり、その実際の研究の場として附属小学校、中学校は、こうした子供たちを中心にした学校にすべきである。もちろん予算や、先生の数、質もふんだんにする必要はあろう。弘前市で言えば、弘前大学教育学部附属幼稚園、小学校、中学校がある。誰が行くかというと、医者の子供など比較的経済的に恵まれ、教育熱心な親の子供が多く、弘前高校の受験予備校化している。はっきり言って無くなっても全く影響はないし、むしろ無くなってほしい。なぜ税金を金持ちの子供の教育に使わなくてはいけなのか。それよりは貧困の問題は教育と関係するなら、普通の公立学校では教育しにくい子供達にこそ最高の教育を受けさせるべきである。確かに弘前大学教育学部でも特別支援学校があるが、調べると各学年3名、小学校全体で18名という規模である。ふざけるなという規模で、大方の児童は県立養護学校に通学している。これは医学部附属病院に当てはまめると、がんの患者を全体で50名しか入院治療できないようなもので、内科の一つの科、たとえば、消化器内科の、さらにその中の上部消化器チームのようなものである。話にならない。

 

県内各地にあるフリースクール、県立養護学校、あるいは児童相談所など福祉サポートセンターなども統合した、大規模、豊富な予算を持つ教育機関はできないであろうか。運転免許、仕事に就く上での最低限の技能試験に合格する学力、もっと言えば、基礎学力がなく、そうした試験に合格できない人々に無料で、その対策を教えてくれるところ、県、市、国の縦割り組織を解体して、本当の意味での教育支援学校はできないであろうか。これからは外国人労働者も多くなり、今は以前の夜間学校が日本語学習の主体となっているが、元々の目的とは異なり、やはりきちんとした日本語教育のシステムも必要である。


2023年2月8日水曜日

三菱重工「スペースジェット」の開発中止

 




三菱スペースジェットの開発が、とうとう中止となった。アメリカ連邦航空局の型式証明がとれず、2020年には大幅な事業縮小を決め、今回、ついに開発中止となった。一兆円を超える損失で、三菱重工でなければ、これほどの損失はカバーできなかったであろう。

 

開発自体は、順調で2008年に始動し、早くも2014年にはロールアウトし、2015年には初飛行している。その後は、アメリカ連邦航空局の型式証明を取るべき、各種の試験を行ってきたが、ここから何度も設計変更などを余儀なくされ、結果、型式証明もとれないまま、コロナ惨禍に入り、そして全く航空機が売れない状況となり、そのまま開発中止となった。

 

当初は、型式証明取得には、試験飛行時間が大きな要素で、確か3000時間くらい必要と言われ、三菱重工側も型式取得を急がせるために、最大10機の試作機をアメリカに持っていき、そちらで試験を続けてきた。ところが必要とされる飛行時間を過ぎても、なかなか型式証明を取得できず、逆にいろんな指摘を受け、設計の変更を要求された。簡単な修正であれば、それほど問題がないが、ほぼ試験飛行の最終フェーズでの大幅な変更は厳しい。最初に指摘されればまだしも、何度も試験をした上での修正要求は嫌味でしかない。特に2018年のボーイング737-Maxの事故は、さらに連邦航空局による審査を厳しくさせ、ボーイング社でも2011年に就航したボーイング787以降、新たな飛行機はない。同じくヨーロッパでは、欧州航空機安全機関が型式証明を認可しており、これはアメリカ連邦航空局とは相互運用の協定が結ばれており、実質ボーイングはアメリカ連邦航空局の型式証明を得られれば、ヨーロッパで売っても良いし、エアバス社が欧州航空安全機構で型式証明を取れば、アメリカで販売できる。日本、中国、ロシアで型式証明が取れても、こうした相互協定はなく、ヨーロッパとアメリカ以外の会社の排除となっている。

 

確かに三菱重工のスペースジェットについては、こうした欧米による嫌がらせ、ボーイングとエアバズ社以外の新たな航空機産業の進出を防ぐ目的があったと思う。ただボーイングの最新ジェットが767、エアバス社の最近ジェットがA380で、航空会社の引き渡しはそれぞれ、2011年と2014年と、かなり昔のことである。今や本元のボーイング社やエアバス社でも、型式証明を取るのが難しく、それより簡単に型式証明が取れる既存機の改良が主流となっており、何と1968年に運用開始したボーイング737がいまだに10000機以上売れて、短中距離の代表的な機種となっている。

 

最近、テレビで好きな「メンフィスビル」を見た。実際のB-17の姿がリアルに見えるので、同じ題材の「頭上の敵機」より好きである。この映画では最後の出撃で、ドイツ戦闘機に酷くやられる。まず左翼の燃料庫は撃たれて、手動で左翼の燃料を右翼に移す。その後、ボロボロになりながら帰還するが脚が降りず、懸命に手動で脚を下げようとする。また弾薬がなくなると副操縦士が持っていくし、機内に火事が発生すれば、消火器で消すし、下部銃座の乗組員はベルトで上部につながるようになっており、下部銃座が無くなっても、銃手は外に出ない。こうしたさまざまな工夫が施され、乗務員の生還率を高めようとしている。こうした二重、三重の安全対策は、同時代の一式陸攻などの日本の爆撃機にはない。

 

ジェット旅客機自体は、1960年以降、ほとんど性能上(スピード、航続距離)の進化はなく、その後の進化したのは燃費と運転の省力であり、複雑な運転操作をコンピュータに任せて、ほぼ自動運転にするようになってきた。この状況での型式証明とは、他ならず安全に対する検査であり、これは、ある意味、キリがないものであり、ネジ一本の破折が飛行機の墜落に関与するなら、ネジ一本の厳密な検査が必要となる。検査自体に莫大な時間と費用がかかり、今後とも新たなジェット旅客機の開発は、三菱重工だけでなく、ボーイングもエアバスも難しくなり、55年前のボーイング737が、さらに50年使われ続けるかもしれない。

 

軍用機の開発には、こうした型式証明もいらないので、今回のスペースジェットの教訓を、これからイギリス、イタリアと開発するF-3戦闘機の開発に活かしてほしいところである。頑張れ三菱重工!


 

2023年2月6日月曜日

宮本輝 よき時を思う

 



「流転の海」が完結し、お気に入りの朝の連続ドラマが終了したような虚しさと寂しさが残っていただけに、宮本輝さんの新作を心待ちにしていた。本屋に行くと、いつも数冊の本を購入するが、今回は、この本と、「駄菓子屋の(超リアル)ジオラマ」(荒木智、誠文堂新光社)、「世界の金玉考」(西川清氏、左右社)、「独裁の世界史」(木村浚二、NHK出版新書)、「左翼の害悪」(森口朗、扶桑社)、「雪の断章」(佐々木丸美、創元推理文庫)を買った。真っ先に読むのは、もちろん宮本輝さんの小説で、一気に読んでしまった。いつも思うが、宮本さんの作品は読みやすく、理解しやすい。これも作家の才能であり、おそらくは側に優れた校正者、編集者がいるのであろう。

 

つい最近読んだ本、「忘れる読書」(落合陽一、PHP新書)の中にこういった文章があった。「デジタルネイチャーとは、生物が生み出した量子化という叡智を計算機的テクノロジーによって再構築することで、現存する自然を更新し、実装することだ。そして同時に(近代的人間存在)を脱構築した上で、計算機と非計算機に不可分な環境を構成し、計数的な自然を構築することで、(近代)を乗り越え、言語と現象、アナログとデジタル、主観と客観、風景と景観の二項対立を円環的に超越するための思想だ」。落合さんの自書からの引用であるが、ちんぷんかんぷんである。私も若い頃は、難しい哲学書も読み慣れると理解できる様になると信じていたが、その後、40年以上、本を読み続けたが、無理である。落合陽一さんは、35歳で、こうした文章を書けるということは、頭の構造が元々違うのであろう。自分でも本を出す時は、できるだけ読者に理解しやすいよう平易にと意識しているが、それでも読みにくいという読者がいる。ただ、これだけは自分ではわからないので、優秀な校正者、編集者に見てもらい、原稿に赤を入れて、削除あるいは平易な言葉に変更すべきであろう。残念ながら、落合陽一さんのこうした文章を修正なしに出版するのは、PHP新書の校正あるいは編集の人にも責任があろう。そうした点では、今回の宮本輝さんの「よき時に思う」では、文章としては全く平易で、読みやすい。ただ最初に出てくる主人公が住む四合院の間取りがわかりにくく、イラストによる説明があってもよかったかもしれない。確かにネットで調べれば、理解できるが、ネットに疎い年配の読書には不親切である。昔の新聞小説の挿絵が懐かしい。イラストよりは漠然として、小説の雰囲気を壊さない。

 

内容については詳しく書けないが、90歳の祖母の最後の夢、これ以上ない豪華な晩餐会を開催する。祖母の人生の集大成、一夜限りの夢、おそらく宮本輝さんの夢でもあろう。これを読んでいると、デンマーク映画の傑作、「パペットの晩餐会」を思い出す。ユトランドの片田舎、牧師とその娘2人が敬虔な信者に囲まれて、静かに暮らしている。そこにフランスからやってきたパペットが家政婦として働き始める。時がすぎ、牧師が亡くなり、二人の美人姉妹も老け、父親の生誕100周年の晩餐会をすることになった。ちょうどパペットはパリで、宝くじに当たり、1万フランの莫大な賞金を手に入れ、それを全額、晩餐会に使うことにする。運ばれる珍奇な食材に住民は驚き、晩餐会に招かれた年寄った信者は、前もって決められた約束に沿って、食事を味わうことなく、食事の会話もしないことに決める。ただあまりにおいしさに、次第に頬は緩み、数々の懐かしい、楽しい思い出に耽っていく。こうした内容であるが、この食事シーンが素晴らしい。本当に美味しい料理は、人々を幸せにするし、思い出となる。いくらお金を貰っても、いくら高いものを買って貰っても、幸せにならないし、思い出にもならない。一瞬で跡形もなく、胃袋に納まり、糞として出る料理こそ、そうした意味を持つ。現代人は、昔に比べて美味しいものには慣れてしまっており、本書に登場するくらいの特別な晩餐会でなければ、記憶に残るようなものにはならないのであろう。故人を供養することは、仏壇で手をあわせることも大事であるが、心の中で、その人のことを思い出すことこそ本当の供養となる。そうした意味では、こうした破天荒な晩餐会は、祖母に対する一生残る思い出となり、故人の供養となろう。葬式に金をかけるくらいなら、その金で知人、親類に豪華な晩餐会をした方が楽しい。

 

ただ、本の後半部分が、どうも連続性という点ではしっくりせず、不消化に感じた。ごく些細なことであるが、p353に四合院のオーナーの娘、美紀が歯科医と結婚し、「歯科医は過当競争で経営は大変だと言われているが、羽柴クリニックは看護師を三名、歯科衛生士も三人雇って繁盛しているらしい」の記述があるが、これは間違いで、まず羽柴歯科クリニックでなければいけないし、歯科医院で看護師を雇うことはまずなく、歯科衛生士を六名雇っているで繁盛ぶりはわかる。

 

“よき時を思う”。過去に対する思いか、未来に対する思いか。本来なら小説のラストは、90歳の徳子の死で終わるものだろう。徳子は今は元気であっても、年齢から死はそれほど先にあるわけでない。死後、こうした晩餐会の思い出が、自分の愛する人たちに“よき時を思う”になってほしいという徳子の遺言なのだろう。そこを徳子の話から突然場面が変わり、四合院のオーナーの話に持っていくのが宮本輝さんらしいところで、オーナーにとっては、長男との和解、 “よき時を思う”が未来に繋がっていく。

 


2023年2月3日金曜日

マウスピース矯正に対する集団訴訟

 






宣伝に協力すれば、マウスピース矯正の治療費が返金されるとして、治療を始めた患者さん、約150名が集団訴訟したことが、テレビで取り上げられていた。モニターモデル制度を利用して、最初に150万円支払い、宣伝に協力して治療を開始すれば、月毎に返金され、実質治療費が0円になるというものだったが、治療を受けていた診療所が突然閉鎖され、治療も続けられなり、今回、訴訟となった。150人の患者が2億円の損害賠償訴訟を起こしたが、実際の被害者は1700名以上、10億円を超えると言われている。

 

マウスピース矯正をする歯科医院では、こうしたモニター制度がよく行われるが、せいぜい20%オフくらいのもので、無料になるのは確かにおかしい。ただ医療広告法では、20%オフといった表現そのものが法律に違反しており、こうしたモニター制度による料金の割引自体が違法となる。日本矯正歯科学会では、認定医、臨床指導医の資格更新において、歯科医のHPをチェックしており、医療広告法に反する記載がある場合、それを訂正しないと、更新できない仕組みになっている。そのため、日本矯正歯科学会の認定医以上の資格を持つ歯科医がいる歯科医院のHPでは、治療患者数はかけないし、インビザライン社が出す称号も出せないなど、宣伝は控えめになっている。逆にHP上で、インビザラインの称号を表示する、モニター制度による割引を謳っている歯科医は、日本矯正歯科学会の認定医ではないことになる。

 

私のところでも、HPを見てマウスピース矯正をしたが、うまくいかないという患者が来院する。多くの場合、歯科医院のHPをみて、その宣伝に惹かれて治療を開始したようだ。確かに矯正専門医のHPでは学会の規制により患者にとっては魅力的な宣伝ができず、逆に一般歯科医院で「当院は年間400症例以上を治療したブラックダイヤモンドプロバイダー」と記載されていれば、経験が多い歯科医と思って、そこでの治療を始めるだろう。このインビザライン社の称号は、全く学会の裏付けもないものであり、HPに載せること自体が医療広告法に違反していて、それがわかっていてHPに載せる歯科医院は問題がある。

 

今回の訴訟の対象となっているデンタルオフィースという歯科医院自体が怪しい。最近、東京、大阪、福岡、仙台など大都市では、マウスピース矯正専門店が次々と開業し、今回のデンタルオフィースX同様に、最初に行くといきなり、デジタル印象をとられ、画面上でマウスピース矯正をすれば、このようにきれいな歯並びになりますと、しつこく説得される。承諾するも、途中で辞めたいと言うと、すでにマウスピースが注文され、途中でやめられないといった事例が多い。こうした歯科医院に務める歯科医師を見ると、ほとんど正式な矯正治療の教育を受けておらず、知識、経験も乏しいし、矯正治療の主たる治療法、マルチブラケット矯正治療はできないであろう。矯正治療は2年以上の期間がかかる治療法であり、治療を習得するのは、少なくとも10年以上の経験が必要である。認定医以上の資格を持つ矯正専門医のところでも、卒業したての若い先生が勤務するマウスピース矯正専門店も、治療費自体はそれほど違いはないのに、なぜ患者は後者を選ぶのか、不思議である。


今回の訴訟の問題点は、一つに矯正治療費のからくりで、矯正治療費がタダになると言うシステム自体が詐欺的な要素を含んでおり、もともと詐欺目的で集客したかが問われる。さらにHP上での集客方法が医療広告法に触れるので、関係した先生に対しては、その罰則は6ヶ月以内の懲役または20万円以下の罰金となっているが、適用してほしい。またこれをきっかけに矯正治療、とりわけマウスピース矯正に関しては、特定商法取引法の対象とし、契約の厳重化とクリーンオフができるようにしてほしい。今回の裁判以外にも、多くのマウスピース矯正の被害者がいるため、いっそのこと特定商法取引法の対象になった方が良く、さらに言うなら、医療広告法の厳密化を図り、違法な広告的なHPの排除を進めなくてはいけない。日本歯科医師会、県の歯科医師会によるHPの確認と修正依頼が必要であろう。

 

実際問題として、今回の事件においても少なくとも1700人の患者が治療を継続できず、路頭に迷っている。インビザライン社との契約は先生が変わっても継続できるので、インビザライン社としても被害にあった患者の要求があれば、ライセンス番号を開示し、次の先生に継続できるようにすべきだし、ワイヤー矯正に変更しても治療を継続したい患者については、私が入っている日本臨床矯正歯科医会などでも、対応することが望まれるし、私も協力したい。