2023年2月3日金曜日

マウスピース矯正に対する集団訴訟

 






宣伝に協力すれば、マウスピース矯正の治療費が返金されるとして、治療を始めた患者さん、約150名が集団訴訟したことが、テレビで取り上げられていた。モニターモデル制度を利用して、最初に150万円支払い、宣伝に協力して治療を開始すれば、月毎に返金され、実質治療費が0円になるというものだったが、治療を受けていた診療所が突然閉鎖され、治療も続けられなり、今回、訴訟となった。150人の患者が2億円の損害賠償訴訟を起こしたが、実際の被害者は1700名以上、10億円を超えると言われている。

 

マウスピース矯正をする歯科医院では、こうしたモニター制度がよく行われるが、せいぜい20%オフくらいのもので、無料になるのは確かにおかしい。ただ医療広告法では、20%オフといった表現そのものが法律に違反しており、こうしたモニター制度による料金の割引自体が違法となる。日本矯正歯科学会では、認定医、臨床指導医の資格更新において、歯科医のHPをチェックしており、医療広告法に反する記載がある場合、それを訂正しないと、更新できない仕組みになっている。そのため、日本矯正歯科学会の認定医以上の資格を持つ歯科医がいる歯科医院のHPでは、治療患者数はかけないし、インビザライン社が出す称号も出せないなど、宣伝は控えめになっている。逆にHP上で、インビザラインの称号を表示する、モニター制度による割引を謳っている歯科医は、日本矯正歯科学会の認定医ではないことになる。

 

私のところでも、HPを見てマウスピース矯正をしたが、うまくいかないという患者が来院する。多くの場合、歯科医院のHPをみて、その宣伝に惹かれて治療を開始したようだ。確かに矯正専門医のHPでは学会の規制により患者にとっては魅力的な宣伝ができず、逆に一般歯科医院で「当院は年間400症例以上を治療したブラックダイヤモンドプロバイダー」と記載されていれば、経験が多い歯科医と思って、そこでの治療を始めるだろう。このインビザライン社の称号は、全く学会の裏付けもないものであり、HPに載せること自体が医療広告法に違反していて、それがわかっていてHPに載せる歯科医院は問題がある。

 

今回の訴訟の対象となっているデンタルオフィースという歯科医院自体が怪しい。最近、東京、大阪、福岡、仙台など大都市では、マウスピース矯正専門店が次々と開業し、今回のデンタルオフィースX同様に、最初に行くといきなり、デジタル印象をとられ、画面上でマウスピース矯正をすれば、このようにきれいな歯並びになりますと、しつこく説得される。承諾するも、途中で辞めたいと言うと、すでにマウスピースが注文され、途中でやめられないといった事例が多い。こうした歯科医院に務める歯科医師を見ると、ほとんど正式な矯正治療の教育を受けておらず、知識、経験も乏しいし、矯正治療の主たる治療法、マルチブラケット矯正治療はできないであろう。矯正治療は2年以上の期間がかかる治療法であり、治療を習得するのは、少なくとも10年以上の経験が必要である。認定医以上の資格を持つ矯正専門医のところでも、卒業したての若い先生が勤務するマウスピース矯正専門店も、治療費自体はそれほど違いはないのに、なぜ患者は後者を選ぶのか、不思議である。


今回の訴訟の問題点は、一つに矯正治療費のからくりで、矯正治療費がタダになると言うシステム自体が詐欺的な要素を含んでおり、もともと詐欺目的で集客したかが問われる。さらにHP上での集客方法が医療広告法に触れるので、関係した先生に対しては、その罰則は6ヶ月以内の懲役または20万円以下の罰金となっているが、適用してほしい。またこれをきっかけに矯正治療、とりわけマウスピース矯正に関しては、特定商法取引法の対象とし、契約の厳重化とクリーンオフができるようにしてほしい。今回の裁判以外にも、多くのマウスピース矯正の被害者がいるため、いっそのこと特定商法取引法の対象になった方が良く、さらに言うなら、医療広告法の厳密化を図り、違法な広告的なHPの排除を進めなくてはいけない。日本歯科医師会、県の歯科医師会によるHPの確認と修正依頼が必要であろう。

 

実際問題として、今回の事件においても少なくとも1700人の患者が治療を継続できず、路頭に迷っている。インビザライン社との契約は先生が変わっても継続できるので、インビザライン社としても被害にあった患者の要求があれば、ライセンス番号を開示し、次の先生に継続できるようにすべきだし、ワイヤー矯正に変更しても治療を継続したい患者については、私が入っている日本臨床矯正歯科医会などでも、対応することが望まれるし、私も協力したい。


 


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