2023年2月23日木曜日

アライナー矯正の将来

 






アメリカの株価を見てみると、あれだけ全米で話題になったSmile Direct Club、ショッピングセンター内に店舗を構え、患者さんの口腔内をデジタル印象して、マウスピース矯正装置を自宅に送るというシステムであるが、ここの株価を見てみると、2019年に上場した時の株価が20ドル、その後、10ドルから15ドルの間を行き来していたが、2021年度から急速に下降し、現在は、0.4ドルくらいになっている。株価は、ほぼ1/50になった。また財務を見てみると、2021年からほぼ経常益は赤字で、売上も減少し、赤字が増えて倒産は時間の問題である。一方、本家インビザラインの会社、アライン・テクノロジー社の株価は、2021.9に一番高値、713ドルを記録した後は、急速に下降し、2022.11には197ドルまで下降したものの、持ち直し、最新の株価は304ドルくらいである。ほぼ半分くらいになっている。また財務を見ていると、売り上げが2021年には3952(単位不明)、が2022年は3700くらいとなり、最終益も772から245(予想)と大幅な減となっている。スマイルダイレクトクラブほどではないが、どうも事業としては頭打ち状態となっている。ついでに言うと、サンキンなど矯正部門を切り捨て、新たなアライナー事業を立ち上げたデンツプライシロナの株価をみると、20215月の高値、69.5ドルから急速に下降、2211月のは26.5ドルとなり、今は35ドルくらいになっている。これもほぼ半分くらいである。決算状況をみると、最終益とも2021年度は421の黒字であったが、2022.9には-1077という大幅な赤字を出している。赤字となったので矯正部門を撤退したのか、それとも新たなアライナー事業で赤字になったのかはわからない

 

こうした株や財務には、直接関心はないが、日本より数年早くアライナーが流行しているアメリカの現状を知りたかった。株価でみると、低価格で、簡便なスマイルダイレクトクラブに代表されるアライナーはアメリカではほぼ全滅状態になっていることが株価でわかる。費用は安い(20万円程度)が、歯科医がいっさいチェックしないシステムに患者は不安を持ったのだろう。日本でもクロネコヤマトと提携した「hanaravi」、「キレイライン」、「Oh my teeth」など似たような製品が数え切れないほどある。おそらくスマイルダイレクトクラブ同様に、ほとんど淘汰されよう。一方、元祖であるインビザラインについても、一時的、爆発的なブームは去り、矯正治療の中の一つのオプションとして定着している感がある。日本と違い、専門性の確立しているアメリカでは、インビザラインの治療も矯正専門医で受けることが主体となっているため、患者の不正咬合の種類や難度により、従来のワイヤー矯正とインビザラインによる治療を共存している。見た目が気になり、舌側矯正を選んでいた患者が、インビザラインに流れていったようである。ヨーロッパ、日本では舌側矯正もまだ多いが、アメリカでは急速に舌側矯正はインビザラインに置き換わっている。ただすべての症例がインビザラインで治るわけではないし、治療の効率化、例えば抜歯症例などはワイヤー矯正などの方が楽なので、患者の半分以上がインビザラインに置き換わることはない。軽度の不正咬合の多いアメリカでも、全患者の30%くらいがインビザラインの適用だろうか。口元の突出しているアジア人では、口元の後退を希望する患者が多く、どうしても抜歯症例が多い。おそらく軽度の叢生、上顎前突、反対咬合などインビザラインの適用はせいぜい10-20%くらいでなかろうか。日本人のことだから、工夫をして今後ますますインビザラインの適用が増えていくと思われるが、そうなるとただ単純にインビザラインを渡すというだけではおさまらず、一部にブラケットをつけたり、ゴムを多用したり、頻繁な設計変更など、かなり複雑な治療が必要となり、それがワイヤー矯正よりかえって大変であれば、矯正歯科医はインビザラインを選ばず、ワイヤー矯正を選ぶ。おそらくそうした流れで今後の矯正歯科は進んでいくのであろう。

 

一方、矯正患者の不正咬合は非常に多岐にわたっており、インビザラインだけしか治療のオプションがなければ、外科的症例は自院では治療できないことになる。患者の顔貌の改善に対する要求は強く、昔であれば、外科的矯正の適用は、骨格性反対咬合、開咬、交差咬合などに限られていたが、最近では上顎前突、上下顎前突や顔面非対称などにも広がっており、私のところでも外科的矯正患者の数は、20年前の2倍くらいになっている。こうした外科的矯正を除外した矯正専門医は、これからは経営は厳しい。一方、インビザラインによる技工料金も値上げし、確か30万円くらいになっていたように思えるが、それなら自分のところで専門ソフトと三次元プリンターで作ろうというと医院が増えてきそうである。インビザラインを中心にした大規模な矯正歯科医院では高額な三次元プリンターが導入でき、スケールメリットもあり、インビザラインによる価格を下げる、製作、運送期間の短縮あるいはワイヤーによる矯正治療費も含むなどのサービスもでき、一般歯科医院でのインビザライン治療を価格、サービス面で淘汰できるかもしれない。またセフォロ分析なしでの矯正治療、特に成人矯正においては、ほぼ裁判されると歯科医院側が負けるため、インビザラインによる矯正治療をする場合には、セファロ撮影装置が必要で、これが意外と高額である。年間数百枚撮影する矯正専門医と数十枚しか撮影しない一般歯科医ではコスパがものすごく違う。さらに何より問題なのは、セファロ写真をトレースして、分析、診断するには、大学の矯正歯科学講座で少なくとも2年間のトレーニングが必要で、まず一般歯科医ではセファロ分析は無理なことである。日本でインビザラインが普及してきたのは、ここ34年である。そろそろ治療結果がはっきりする頃であり、同じ費用あるいは安くて、きちんとした治療ができるのであれば、一般歯科より矯正歯科専門が選択されるのは当然であろう。

 

あくまで予想ではあるが

 

hanaravi、キレイライン、Oh my teeth、アットスマイルなどDirect Smile Clubに準じた簡単なアライナー治療を淘汰されて、消える。

・インビザラインの爆発的なブームは去り、こうしたアライナー矯正を希望する患者はセファロ分析、診断のできない一般歯科から、ワイヤー矯正もできる矯正専門医院へ移る。

・アライナー矯正については、自院で設計、製作ができれば、従来のワイヤー矯正より技工代、チェアータイム、人件費の削減につながるため、アタッチメントなどの特許の切れる2027年以降には、大規模矯正歯科医院ではワイヤー矯正より安い価格、一症例、60万円以下になるだろう。

・アライナー矯正あるいは矯正治療そのものが、特定商法取引法の対象になるだろう。そうすれば、医療広告ガイドライン、広告規制の上に、特商法の規制がかかってきて、患者にとっては途中解約による治療費の返金が得やすい。

・コロナ禍による歯科矯正バブルは終焉したので、アライナー矯正も減る。





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