2023年2月8日水曜日

三菱重工「スペースジェット」の開発中止

 




三菱スペースジェットの開発が、とうとう中止となった。アメリカ連邦航空局の型式証明がとれず、2020年には大幅な事業縮小を決め、今回、ついに開発中止となった。一兆円を超える損失で、三菱重工でなければ、これほどの損失はカバーできなかったであろう。

 

開発自体は、順調で2008年に始動し、早くも2014年にはロールアウトし、2015年には初飛行している。その後は、アメリカ連邦航空局の型式証明を取るべき、各種の試験を行ってきたが、ここから何度も設計変更などを余儀なくされ、結果、型式証明もとれないまま、コロナ惨禍に入り、そして全く航空機が売れない状況となり、そのまま開発中止となった。

 

当初は、型式証明取得には、試験飛行時間が大きな要素で、確か3000時間くらい必要と言われ、三菱重工側も型式取得を急がせるために、最大10機の試作機をアメリカに持っていき、そちらで試験を続けてきた。ところが必要とされる飛行時間を過ぎても、なかなか型式証明を取得できず、逆にいろんな指摘を受け、設計の変更を要求された。簡単な修正であれば、それほど問題がないが、ほぼ試験飛行の最終フェーズでの大幅な変更は厳しい。最初に指摘されればまだしも、何度も試験をした上での修正要求は嫌味でしかない。特に2018年のボーイング737-Maxの事故は、さらに連邦航空局による審査を厳しくさせ、ボーイング社でも2011年に就航したボーイング787以降、新たな飛行機はない。同じくヨーロッパでは、欧州航空機安全機関が型式証明を認可しており、これはアメリカ連邦航空局とは相互運用の協定が結ばれており、実質ボーイングはアメリカ連邦航空局の型式証明を得られれば、ヨーロッパで売っても良いし、エアバス社が欧州航空安全機構で型式証明を取れば、アメリカで販売できる。日本、中国、ロシアで型式証明が取れても、こうした相互協定はなく、ヨーロッパとアメリカ以外の会社の排除となっている。

 

確かに三菱重工のスペースジェットについては、こうした欧米による嫌がらせ、ボーイングとエアバズ社以外の新たな航空機産業の進出を防ぐ目的があったと思う。ただボーイングの最新ジェットが767、エアバス社の最近ジェットがA380で、航空会社の引き渡しはそれぞれ、2011年と2014年と、かなり昔のことである。今や本元のボーイング社やエアバス社でも、型式証明を取るのが難しく、それより簡単に型式証明が取れる既存機の改良が主流となっており、何と1968年に運用開始したボーイング737がいまだに10000機以上売れて、短中距離の代表的な機種となっている。

 

最近、テレビで好きな「メンフィスビル」を見た。実際のB-17の姿がリアルに見えるので、同じ題材の「頭上の敵機」より好きである。この映画では最後の出撃で、ドイツ戦闘機に酷くやられる。まず左翼の燃料庫は撃たれて、手動で左翼の燃料を右翼に移す。その後、ボロボロになりながら帰還するが脚が降りず、懸命に手動で脚を下げようとする。また弾薬がなくなると副操縦士が持っていくし、機内に火事が発生すれば、消火器で消すし、下部銃座の乗組員はベルトで上部につながるようになっており、下部銃座が無くなっても、銃手は外に出ない。こうしたさまざまな工夫が施され、乗務員の生還率を高めようとしている。こうした二重、三重の安全対策は、同時代の一式陸攻などの日本の爆撃機にはない。

 

ジェット旅客機自体は、1960年以降、ほとんど性能上(スピード、航続距離)の進化はなく、その後の進化したのは燃費と運転の省力であり、複雑な運転操作をコンピュータに任せて、ほぼ自動運転にするようになってきた。この状況での型式証明とは、他ならず安全に対する検査であり、これは、ある意味、キリがないものであり、ネジ一本の破折が飛行機の墜落に関与するなら、ネジ一本の厳密な検査が必要となる。検査自体に莫大な時間と費用がかかり、今後とも新たなジェット旅客機の開発は、三菱重工だけでなく、ボーイングもエアバスも難しくなり、55年前のボーイング737が、さらに50年使われ続けるかもしれない。

 

軍用機の開発には、こうした型式証明もいらないので、今回のスペースジェットの教訓を、これからイギリス、イタリアと開発するF-3戦闘機の開発に活かしてほしいところである。頑張れ三菱重工!


 

2 件のコメント:

標葉石介改め砂 さんのコメント...

同意します

広瀬寿秀 さんのコメント...

飛行機産業が多くの下請けが必要で、部品生産を期待していた名古屋の中小工場にとっては、残念なことです。