うちの父親は、生命保険ではずいぶんお金を使った。保険外交員の言われるまま、いろんな保険に入り、70歳の頃は保険料だけで月に60-70万円支払っていた。節税対策もあったのだろうが、保険外交員から、言葉巧みに次々と新しい保険を勧められ、今、これに乗り換えるとお得だと言われ続け、少しずつ掛け金が上がっていった。70歳になると歯科の売り上げも減り、月の収入の多くが掛け金に変わり、流石にお袋もキレ、全て解約した。年間で800万円くらい、10年間で相当な額の金がほぼ溶けた。父は保険の手数料のからくりについては全く知らなかったのか、いい保険と勧められるとすぐに乗り換えた。ただ私も大人になり、保険に入るようになると、少しずつ保険外交員のカラクリを知るようになった。
今は昔ほどひどくないが、40年くらい前は、個人で保険を扱う、今の独立系の保険外交員ががむしゃらに手数料稼ぎをしていた。普通、手数料というと数%程度のものと思うが、当時の手数料は、ほぼ1年分の掛け金、70-100%くらい、2年目からは5%くらいとなる。つまり親父の場合、月70万円、年間で840万円の保険料のうち、この代理店、保険外交員に入る手数料は契約時に800万円近くになることを意味する。そして次々と新しい保険に乗り換えさせ、手数料稼ぎをする。溶けた金の大部分は、代理店、外交員の収入になった。美味しい客だった。
こうした信じられないほど高い手数料のことを知る人は少ない。今は手数料も下がっていると思うが、AIで調べるとそれでも30-70%の手数料を取るようだ。最近、よくモールやショッピングセンターで見かける複数の保険を取り扱う乗合代理店、例えば「保険見直し本舗」、「ほけんの窓口」などは、保険会社からの手数料をため、基本は販売員に固定給を払うシステム(+歩合)となっているが、基本的には高い手数料を前提としている。つまり、新規保険加入に契約に伴う手数料、月2万円の12ヶ月分、24万円×約40%=10万円を、保険会社から販売代理手数料として受け取り、月に50件の新規契約があれば、500万円の販売代理手数料が入り、そこから販売員の給与、テナント料などの経費を払うことになる。販売員は高い手数料の保険商品を勧めても個人の収入は固定給なので意味がない。客は勧められる数種類の保険商品の中から安くて、いい商品を選ぶことになる。それでも代理店ではノルマと歩合があるため、手数料の高い特定の商品を販売員が売ることになる。
おそらく一番安い保険は、これらの手数料の上乗せが少ない商品で、ネットから申し込み商品や、団体保険がこれに当てはまる。職域の団体保険や、身近なところでは都道府県団体保険、生協コープの団体保険がある、理論的には、個人の外交員=ショッピングセンターの乗合代理店>ネット保険(広告費が保険料に載せられる)>団体保険となり、同じ商品では30%くらい違う。
最近では、若い人を中心としてこうした保険の手数料の高さに気付き、安いネットや団体保険を利用する人が増えてきて、これまで独立系の羽ぶり良い保険屋さんの稼ぎが減ってきた。その稼ぎを補おうと、あるいは金融庁の規制により、いわゆる独立系のファイナンシャルプランナー(FP)への転職が多い。保険だけでなく、生活一般をみる、金融資産の管理もする。金融商品仲介業を兼ねるようになった。ただ保険と金融商品は分けて考えなくてはいけないルールとなっているが、多くのFPは一緒にするために、最近問題になっているソニー生命やプルデンシャル保険の事件はここに起因する。特にソニー保険は社内でのルールをかなり厳しくしている。証券会社では、一時の強引な勧誘に対する金融庁の取り締まりに懲りてかなり厳しいルールのもとで活動しているが、独立系のFPが多いソニー保険やプルデンシャル保険出身者はかなり怪しい活動をしている。個人的な経験では、かなり信頼していたFPから10年、元金保証、4%の利息の金融商品を勧められたが、調べるとケイマン諸島にあるI.Tという会社のものであった。かなりリスクの高い商品であった。これも保険商品と同じく、一年目に高い手数料が代理店に入る商品で、彼らは保険手数料の旨みを忘れられないのである。ただ、今はこうした無認可の金融商品を扱うことは海外の代理店を迂回するとしてもかなりグレイな商品である。
今でも保険会社の主たる新規顧客は、保険外交員、乗合代理店店舗からの場合が多い。昔であれば、この保険に入るとあなたへの手数料は幾らかと聞くと露骨に嫌な顔をされたが、今では金融庁も手数料開示を推奨しており、きちんと聞くのは顧客の正当な権利である。将来的には手数料開示は法律で義務化されることになり、それは親父が被ったような保険詐欺に遭わない良い手段と思われる。一方、これまでこうした高額な手数料について知らない一般の人は、開示される手数料をみて、なぜこんなに手数料を取るのかと質問されるが、それに関してきちんと答えられる保険外交員にならなくてはいけなくなった。多くの誠実な仕事をしている保険外交員にとって、一部の金稼ぎの人たちのせいで規制強化されるようになったのは迷惑であろう。今後は、手数料も欧米のような毎年の平準化、あるいは廃止の流れになるのではなるかもしれない。





