前回、閉院から遡って開業の仕方を考えたが、歯科医院の資産価値についてもう少し触れたい。結論から言うと、開業した瞬間に資産価値は土地価値のみとなる。
例えば、1000万円の歯科用CTを購入したとしよう。開業して5年目に病気で閉院することになり、業者に買い取ってもらうとする。その場合の買取価格は10万円程度で、私のところでのプランメカのデジタルセファロは8年の使用で、買取価格はゼロ円であった。デジタル機器は10年以内で無価値、処分するしかなく、数年の使用しかなくても中古販売するのは非常に難しい。基本的にはPL法の実施により、中古販売するためには製造元がきちんと整備、修理して販売しなくてはいけなくなり、その手間を考えると、製造元はこうしたことはしていない。そのため30年前にあれほどあった中古歯科機材メーカーはほとんどなくなり、歯科の分野でのリサイクはほぼないという状況である。逆に10年を超える歯科ユニット、レントゲン、歯科機材については、撤去、処分料がかかり、ユニットで一台数万から十万円の費用がかかる。撤去費だけで数十万円からテナントで原状回復を求められると3、4百万円の費用がかかることがある。
ついで建築した歯科医院の閉院を考えると、東京では居抜きでの売買もあるかと思うが、青森のようなところでは歯科医院の居抜きはほとんどない。歯科医院の場合、ユニットの設置関係で配管、エアーのダクトを床下に設置しなくてはいけないので床上をしている。そのため、地方では歯科医院や医院の建物は、用途が限られ、不動産として売れることはないし、売る場合も相当に叩かれる。つまり1億円で建てても、十年経つと、壊して土地だけで売買しなくては売れない。
結局、開業して十年での歯科医院の資産価値は歯科機材の資産価値はゼロ、歯科医院の建物の資産価値はほぼゼロ、撤去、解体費に数百万円かかることになり、なおかつ200坪以上の土地は売れない。青森県で200坪の土地、坪15万円、3000万円に、建物、機材合わせて計1億円の歯科医院を建てても、売る場合の価格は、土地がなかなか売れず、実売価格は2000万円程度になる。元金をいくらか返済していても、8000万円以上の負債となる。東京のような都市部は、今後も土地価格の上昇が見込まれ、歯科医院を建てるのもキャピタルゲイン、賃貸費用の高騰を考えると無駄ではないかもしれないが、地方は急激な人口減少が見込まれ、さらにう蝕の減少に伴う患者数の低下を考えると、大きな負債を負って開業するのはリスクが多すぎる。商売の鉄則は、いかに無駄を省き、安く仕入れて高く売るのに尽きる。歯科医院の場合、閉院する時点では土地も含めて資産価値はゼロと考えた方がよく、商売の鉄則からすれば、いかに安く開業し、少ない従業員、少ない経費で、なおかつリスクの少ない方法で経営するに尽きる。十年たてば無価値なものに億単位の金を突っ込むのは余程のリスクを持つ。ましてや会社経営もしたことはない、経営の素人の若い先生が、こうしたリスクを負うのは信じられない。会社経営の鉄則は、これも小さな企業から始めて、試行錯誤をしながら大きな企業を目指すことである。歯科医院経営の規模はピンキリであるが、チェアー4、5台、2億円の開業資金、1日40-50人の集客を目指す歯科医院は、上位規模と言える。平均で、1日の患者数が23名とされており、その倍の患者が来ないと経営できないのであれば、それは無謀とも言える。さらに十年で資産価値がゼロであれば、撤退もできない。
一方、閉院するにあたり、少し失敗したと思うことがある。私の場合5年前から閉院を考え、その間、無駄な経費を減らすために物を極力買わないようにしていた。欲しいものがあれば経費で買い、閉院してからは自宅で使えばよいということを忘れていた。原価償却期間が残っていても、年金収入だけであれば税務上問題はないと思う。私の場合、失敗したのは、6年間使っているマックのパソコンは刷新しておけばよかったし、USMハラーのキャビネットを買ったが、これも医院でも使えるので、経費で買っておけばよかった。逆によかったのはヤコブセンのシティーホールという壁掛け時計を十年前に買ったが、これは今でも重宝している。またスティールケースのGestureやイタリア、ボビーワゴン、ノルウエイのScandia chair、アルテックの椅子などは高かったが、いわゆる名作家具は座り心地もよく、ファッション性も高い。閉院後の欲しいという人が多く、娘、親類にあげて喜ばれた。閉院後も自宅で使う前提で、医院の家具や備品を買うのもいいかもしれない。














