2009年3月19日木曜日

口元美人2




 前回、浅田次郎さんの口元美人について述べた。左の写真のように、口を閉じる時にオトガイ部に梅干しの種のような皺がよる人がいる。これは口を閉じるためには下唇を上の方に無理矢理持ち上げ、オトガイ筋が緊張してできたものである。実際、こういった唇が閉じにくく、口元がきりっとしていない美人はいるかを検証してみた。ここに「キネマの美女」(文芸春秋)という本がある。1920年以降の日本を代表する映画女優296名の写真とプロファイルを集めたものである。最近の女優さんは含まれていない。映画女優はそれぞれの時代の美人観を反映する最もいい素材だと思われる。

 今のアイドルと違い、口元をしっかり結んだ写真も多く、また笑顔の写真からもある程度は判断できる。1枚、1枚じっくりみていくと、驚くことに口元がきちんと閉まらない女優はなんと3人しかいなかった。三村千代子さんと小松みどりさん(あの小松みどりさんと同姓同名)という2人の戦前の女優さんと戦後を代表する大女優杉村春子さんの3人である。それ以外の293人については、どれもきれいな口元をしている。浅田次郎さんの美人観は当たっているといえよう。それも昭和初期の女優さんをみても口元が美しいひとが多く、最近そういった風潮になったわけではなく、ここ90年にわたり口元美人が大衆には愛されていたことになる。化粧法や目元については多くのバリエーションがあるが、上の3人以外には美人女優は存在しないことになる。さらに言うと、杉村春子さんには申し訳ないが、彼女もどちらかというと美人の配役はなく、東京物語のようなちょこまか動く、気の強い、おせっかいおばさんのイメージが強い。

 オトガイ部に緊張が起こる要因としては、まず上下の歯が前に飛び出ていて、口を閉じれない場合が多い。上くちびるは下に下げることができないため、下唇を上の持ち上げるしか方法がなく、かなり意識しないと口が空いてしまう。また下あごが後方に回転していて、オトガイが後ろ、あごが下に長くなる場合も上下の唇を合わせるのに距離があるため、これも口が閉じにくくなる。どちらも日本人には多いタイプである。

 一番下の写真は明治天皇の若いころの写真と言われるものである。かなり下くちびるに力が入っている。おそらく下あごが後方に回転し、後退し、一方下の歯は前に飛び出ているため、下くちびるが突出し、オトガイ筋の緊張があるのであろう。かみ合わせとしては反対咬合と推測される。公家社会では柔らかい食物を咬むことが歴代ずっと続いていたため、下あごが退化してきゃしゃになっているのであろう。天皇自体自分の顔にあまり自信がなかったのであろう、極端に写真を撮られることをきらい、青年以降のものはない。欧州ではハプスブルグ家では今でいう下顎前突、下あごが大きい王様が多く、いかつい印象が強いが、明治天皇はこういった強権的な君主のイメージより、平和を愛する好々爺のイメージが似合う。実際、明治天皇は身近にある食物、金魚、えびなどの細工物が好きだったようで、その優しい性格がうかがわれる。


 治療法は、歯をできるだけ中に入れることか、あるいはオトガイを作り、前に出すことが考えられる。上下の前歯が出ている場合は、抜歯をしてその隙間を使い、できるだけ前歯を中に入れて、口を楽に閉めるようにさせることで、美しい口元が得られる。一方、下あごが小さい、あるいは後方回転していて下顔面が長い症例では、下がった下あごに合わせて歯を下げることである程度は口元がすっきりさせることは可能だが、オトガイ形成術や上下顎同時移動術のような外科的手術を必要とする場合もある。

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