最近では歯科医院でもCTレントゲン撮影機を購入するところが増えている。一時は2000万円以上していたが、最近では簡単なものであれば数百万円で買えるようになった。矯正歯科では、従来から検査のために、レントゲン写真を撮る機会が多く、まず最初の検査で、口腔内全体を見るパントモ写真と顔面形態と歯軸を調べるためのセファロ写真を必ず撮る。初回検査、治療途中、終了後、保定後の4回は撮るだろう。長期の患者では、これ以外の段階で撮るために、診療室ではほぼ毎日、レントゲン撮影が行われる。
そこでレントゲン会社が目をつけたのは、こうした矯正歯科医院へのCTの売り込みである。一つは保険診療でCT撮影が認められるのは、非常に限られた疾患であり、その他の疾患に対する撮影は自費料金となる。そこでまず自費診療であるインプラントを多く行う歯科医院に売り込んでいたが、ある程度、行き渡ると矯正歯科医院にセールするようになった。その際、矯正歯科ではインプラントの患者と違い、年齢層が若いため、CTの被ばく線量が問題となった。矯正歯科医からすれば、CTの被ばく線量を恐れたのである。もっともな話である。ところがこれは主としてアメリカの話であるが、一部の矯正歯科医、CTメーカーの宣伝マンであるが、最新のCTは非常に被ばく線量が少なく、一回の被ばく線量は大西洋を飛行機に乗る程度のものであり、全く安全だと言い始めた。全く根拠のない話ではなく、ある一定の条件でCT撮影するとこうした結果も出る。ただ一般的な使われ方では、通常の例えば胸のレントゲンの被ばく線量の数十倍、数百倍となり、極めて被ばく線量は高い。特に小児では放射線の感受性が成人の数倍なので、より危険である。
ところが今だにドイツのK社は、CT撮影の被ばく線量はパントモの半分以下という研究データーを堂々とパンフレットに乗せて、無知な歯科医を騙している。以前のパンフレットでは、明海大学歯学部放射線科の学会発表データーを、根拠にしていたが、最近、同科でもう少しきちんとした研究成果を出したところ、確かに一部のモードではパントモ写真並みの被ばく線量であったが、一般的なモードでは十数倍であったと報告すると、今度別の外国の研究を引用している。放射線科の先生や他のレントゲン機器メーカーに聞いても、通常の撮影モードでパントモ並み、あるいはその半分というにはあり得ないと言う。CTは立体のものを輪切りに細かく切って撮影するもので、原理的にその一枚の断面、例えば側方頭部X線規格写真より、三次元構築できるCTの方が被ばく線量が少ないわけはない。さらに歯科医師はより細かく調べるため、機器のもっとも精度の高いモードを使うため、なおさらである。以前、一般的歯科医院で使われているデジタルX線撮影機を調べる研究があった。原理的にはデジタルX線撮影ではフィルム写真の半分くらの被ばく線量であるはずが、実際に医院で撮影されている条件では両者の被爆線量は同じか、あるいは上回っているケースもあった。
歯科医院のホームページを見ていると、CT撮影はパントモの半分、飛行機に乗った時に浴びる宇宙線と同じとくらいの低被曝というメーカーの宣伝文句そのままの載せているところが多い。もちろんこれは間違っており、ヨーロッパ放射線学会のガイドラインでも、ことに小児への使用はかなり厳しい条件をつけている。唇顎口蓋裂、顎変形症、埋伏歯、腫瘍、のう胞など限れた疾患しか撮影は許されていない。ところが最近では、舌の位置(低位舌)や気道の大きさを知るために小児のCT撮影するところがある。さらにこうした研究も多くある。もちろんいずれもガイトラインに抵触している。大学の研究では、大学内の倫理委員会で研究内容、特に被験者の扱いが議論される。小児のCTを撮影して、その被験者のリスクを上回る研究目的があれば、倫理委員会も許可すべきであるが、単純に気道の体積を測る研究でよく倫理委員会で通ったものである。またそうした論文を掲載する専門誌の査読にも問題がありそうだ。
例えば1500万円のCTを買うとしよう。ガイドラインに推奨されるケースだけを撮影すれば、おそらく年間で撮影回数は100回もいかないであろう。10年間使うとすると、1000回、一回当たり1.5万円となり、とてもペイできない。必然的に買えば使いたくなり、必要もないケースでも理屈をつけて撮るようになる。成人の場合は、まだしも子供では一回のCT撮影で、一万人に一人の新たなガンを生み出すという報告もあり、より慎重にしてほしい。昔、レントゲンが見つかった時に、靴屋が足をレントゲン撮影し、より足にあった靴を作るというサービスが流行った。今の歯科医院のCTはこれに近い状態である。小児がんに罹った子供がいて、前に歯科医院で気道の大きさを見るためにCT撮影し、そこでは被ばく線量は飛行機に乗るときくらいだと説明されたとしよう。仮に親がこの歯科医院を提訴すると、おそらくCTと小児がんの因果関係はわからないという判断にはなろうが、間違った説明でCT撮影をしたことについては何らかの処罰、慰謝料は発生するかもしれない。
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