2025年9月2日火曜日

将来的に壊す前提で歯科医院を建てる



最近では、建築費の高騰で、地方で新規に歯科医院を開業するには、1億円以上かかるらしい。近くの歯科医院は2億円かかったと聞いた。保険点数があまり上昇していないし、患者数も減っているので、経営はかなりきついだろう。歯科医の場合、35歳で開業してだいたい70歳くらいで引退するので、現役で開業するのは35年くらいとなる。そして引退すると医院は継承するか、売却することになる。売却の場合、建物は壊して、更地にしか売れないので、開業に費やした資金のうち土地代以外は無くなることを意味する。

 

コンビニは、借地に耐用年数が20年程度のローコスト、短い納期、さらには簡単に撤去できる建物を建てる。建物自体に資産価値を認めず、あくまで減価償却の要素として建物を見ている。簡単に安く作り、儲けて、客が来なくなれば、壊すという流れであり、建築費と撤去費は高くできない。2025年の相場で、建築費が坪25-40万円、内装費が坪10-30万円、といわれ、標準的な60坪のコンビニで2100-3600万円とされている。おそらく歯科医院の建築費の半分から1/3くらいである。

 

歯科医院を開業する若手の先生で、開業の時点で、閉院のことを考える先生はまずいないと思うが、経営的な視点からは35年持つ歯科医院であれば良い。さらにいうなら設備品の撤去、建物の解体期間、費用も安い方が良い。

 

アメリカのA-decの歯科用ユニットは、開業医の平均期間を40年と見て、40年間は持つように設計されている。そのため、共通部品を多く使い、パーツの在庫も徹底し、故障も少ない。日本の歯科用ユニットのメーカーは、例えばヨシダのユニットは製造より10年を過ぎれば、故障しても保証はしないとしているが、これでは困る(実際はもっと修理するが)。一度買えば、買い替えしなくても引退までもって欲しい。実際、私のところでは、このA-decのユニットを2台、20年近く使っているが、故障した場合は、部品を送ってもらい、簡単に修理できた。さらに驚いたことに、いつも世話になっている東京のノーヴランドにこちらの歯科材料屋が電話連絡すると、完全に機械を知り尽くしていて、ここのパネルを外して上から3番目のネジを外して、こうした指導で簡単に修理ができた。何とか閉院まで持ちそうである。

 

家を建てるとなると一生住みたいと思い、できるだけ頑丈な家を建てようとする。最近では中古住宅も注目されているので、途中で引越しがあっても売れるだろう。ただ歯科医院についていえば、継承がなければ壊すしかない運命で、あまり立派に作ってしまえば、かえって撤去費用がかかる。もちろん将来事務所などの他の仕事場に簡単に変更できるような設計であれば、壊さずに済むかもしれない。配管の設備などを考えるとかなり特殊な建物と言える。

 

開業の時点で、だいたい何歳ごろに閉院するという大まかなスケジュールを立てることは大事であるが、新規開業する先生は、そうしたことは考えていないようである。設備についても同様で、デジタルレントゲン、CAD/CAMなどの電子機器は、だいたい10年で、機能、性能が陳腐化するので、安い価格の物を多くの頻度で使い、予想使用率から10年間の収益を算出すべきである。開業時に揃えるのは収益予想もできず、隅に放置されることもありうる。逆に閉院10年前に購入する機器は10年何とか持てばいいので、中古機器で十分である。こうした発想をする先生は多い。

 

さらにいうなら備品については、ものすごく安くて、捨てるのに惜しくないもので揃えるか、逆にブランド品で揃えるかとなる。最近では、物を捨てるにもお金がかかる。例えば事務椅子でも、ハーマンミラーやスチールケースなどのブランドであれば、20年くらい経っても中古家具屋さんで引き取ってくれるし、アルネ・ヤコブセンのテーブルライトであれば、閉院後も家で使ってもいいし、子供にあげても良い。閉院しても、売れるもの、家に持って帰るもの、子供、友人が欲しがる物であれば、経費で落とせる額を考えても購入は勧められる。医院に飾る絵やインテリアもそうである。

 

世の中、断捨離、シンプルライフの時代であり、その点から見ると、歯科医院経営においても、閉院のことを考えて、必要最低限、無駄なく開業することが望まれる。