2010年7月8日木曜日

デジタルレントゲンはいらない?





 近年、歯科臨床においてもデジタルレントゲンが急速に普及している。フィルムの現像がいらない、処理が早い、被爆線量が少ないなどの利点があり、また何となく最新の機械であるため患者へのアピールも増す。歯科レントゲンメーカもフィルムタイプからデジタルへと製造のシフトを移し、ほとんどの新製品はデジタルタイプであり、この構図はカメラメーカのそれと似ている。患者にとっては、検査を受け、すぐにドクターから結果を聞くことができるだけでなく、ドクターにとっても過去の画像を瞬時に検索できるため、病像の変化をすぐに把握できる。

 一方、2、3年前に阪神技研の同級生に聞くと、従来のフィルムタイプも意外と人気があるとのことであった。歯科の不況のためか、あるいはデジタルレントゲンの価格が高いためか、新規開業以外はなかなか既存歯科医院では買えないようである。

 歯科で使われるレントゲン写真には歯を撮るデンタル写真と、口全体を撮るオルソパントモ写真、主として矯正歯科で使われ、頭全体を撮るセファロ写真に分かれる。またデジタル写真は処理法の違いによりCCD方式とIP方式に分かれる。簡単に言えばCCDとはデジタルカメラに使われるイメージセンサーのことで、デンタルではほぼ一眼レフカメラより少し大きなサイズを用い、オルソパントモではかなり大きなサイズのものを、セファロではこれを上下、横に移動して撮影する。カメラサイズのCCDについてはかなり安くなっているが、それより大型のものは高く、大きなサイズのCCDを使えばそれだけ高くなる。IPはIPプレートと呼ばれるフィルムのようなものにX線情報を記憶させ、それをスキャンして処理をする。医科の多くのデジタルレントゲンがこれを使っている。

 デジタルレントゲンでは被爆線量は少なくなると謳われているが、これはカメラとフィルムのISO感度を考えれば理解できる。ISO感度が高くなれば、それだけ少ない光で写るが、一方画像は荒れる。最新のデジタルカメラではCCDそのものも、画像処理もよくなってかなり感度が高くしても、そこそこの写真は撮れるが、それでもISO100〜200が標準となる。歯科用のデジタル写真の被爆線量が低いというのは、要はフィルム感度を上げただけのことであり、さらに歯科用のCCDそのものの性能、画像処理もデジタルカメラには及ばず、今のところ画像そのものはフィルムに負けている。そのため一部の歯科医ではう蝕や歯槽骨病変の発見にはフィルムの方がよいとしている。ただデジタルデンタル写真の即時性は捨てがいたい魅力がある。歯根の治療の場合には、治療中にレントゲンを撮り、すぐに確認でき、患者にとっても歯科医にとっても重宝する。

 パントモ写真はもともと増感紙を入れて、10-20秒回転させて撮るため、画像自体の鮮鋭度は低く、またブレもおこしやすい。そのためフィルム、デジタルとも同条件であり、即時性、過去の画像の検索性からすれば、デジタルが勝っている。最もデジタルレントゲンが有効な写真であろう。

 問題は、デジタルセファロである。小型のCCDを動かして写真をとるため、5-10秒程度の時間がかかる。これでも早くなった方で昔は30秒かかるようなものがあった。写真を撮るひとからみれば、シャッタースピード、1秒以上でブレなしで撮ることはほとんど不可能なことは周知であろう。30秒というとそれこそ江戸時代の写真である。通常人間が固定していても動かない時間は2秒、できれば1秒以内が望ましく、ほぼ四つ切り、六つ切りの大きさのCCDでなければ難しいであろうし、今後ともこの大きさのCCDは用途が限られ、メーカーは開発しない。その点、IP方式の方がセファロのような大型写真には向いている。医科のほとんどのメーカーはIP方式である。というのは胸部レントゲンなどほとんどのレントゲンは四つ切りサイズ以上であるからだ。フジフィルム、コニカなど写真メーカーが参入している。

 さらに矯正臨床で使うセファロは、デンタル写真、オルソパントモ写真と違い、定量分析を必要とする。デンタル、オルソパントモは歯や歯槽骨の病変をみるという定性的な診断をするが、セファロは角度を図ったり、長さを測ったり、過去画像と重ね合わせたりして診断する。レントゲン像だけでは何もわからないのである。各種の分析ソフトも販売され、モニター画面上で点を入力して角度、線計測を行うが、この点は架空の構造上の点であるため、同定が難しい。例えば、数年の変化をみる場合、歯の形、点の同定は数枚のセファロを参考にしながら行う。歯の形は変わらないが、これを写真上で点として入力する場合、同じひとが入力しても必ず誤差が出てくる。前後セファロを参考にして歯の形、位置を決めて行くことでこの誤差をできるだけ減らす。こういったことがデジタルセファロ分析では難しい。矯正の論文では、セファロの分析値を入れることが多いが、25.31°と小数点2桁まで書いている論文が多いが、著者にはこういった誤差の概念が全くないようでいつも修正させている(0.01°というと0.1mm以下の誤差である)。

 さらにいうとセファロ診断には即時性は全く必要なく、検査を行い、診断し、私のところでは2週間後に患者に説明する。2週間も時間があるわけである。フィルムを現像してプリントにする時間などとるに足りないものとなる。確かにデジタルセファロの方が画像処理で、より鮮明に見える利点があり、引かれるものがあるが、モニターだけではすべて分析できるものではなく、やはりフィルムに印刷したい。印刷したフィルムをトレースして分析した方がかえって早い気がする。特にあごの成長が止まっているかをチェックする一番いい方法は1年ごとにレントゲンをとり、トレース像を重ね合わせることである。ぴったりと合えば、成長はないと見なせる。

 それでは、現行のデジタルセファロでこういったことが解決できないかというと、医科のIP方式、例えばフジフィルムのFCRなどを導入することで、解決できる。鹿児島大学でもすでに20年以上前から導入しており、デジタル化し、モニター上でも見えるし、ドライイメージャなどでフィルムに印刷することもできる。ただ難点は、以前より価格が安くなったとはいえ、相当高く、プリンターであるドライイメジャーは安いソニーのものでも300万円、システム全体でどれだけなるかわからない。一日にせいぜい多くて10枚程度しか撮らない矯正歯科医院では導入に躊躇する。もっと安い歯科用のIPもあり、これにドライイメジャーを繋げる方法もあるが、歯科用のIPは販売数が違うのか、医科用のIPに比べると性能はかなり見劣りする。

 結論から言うと、歯科では歯の疾患が主流であり、デンタル、オルソパントモ写真のデジタル化は今後も進むが、セファロはメインユザーが主として矯正専門医であり、商業的にもメリットが少なく、医科メーカーの参入が難しく、そうかといって歯科メーカーも本腰を入れないのが現状であろう。富士フィルムなどの大手は、大規模病院への導入を完了して、小規模診療所、動物病院への導入を企画しているようだが、値段が下がり、矯正歯科にも導入が可能なものになってほしい。日本だけでは数はしれているが、世界ということになるとある程度の数は見込める。

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