2017年8月16日水曜日

未来の歯科医療


 私のところでは、開業以来(1995)、マルチブラケット装置では、大臼歯はバンド、それ以外の小臼歯、前歯はブラケットを使っていた。それがここ数年、大臼歯も含めてすべての歯にブラケットをつけるケースが多くなった。それまで第一大臼歯の90%は何らかの処置、インレーやレジン充填がなされており、充填用レジンとブラケット用接着レジンの相性もあり、なかなかボンディングできなかった。ところが最近は第一大臼歯にウ蝕がない場合が多くなり、大きな大臼歯用ブラケットを使うことが多くなった。

 さらに矯正歯科に来るのが、生まれて初めてという患者さんもここ2、3年現れるようになった。比較的、全国的にウ蝕の多い青森県でも、このような状況であり、東京などの都会では、中高生の半分くらいはもはやウ蝕はない。こうした子供達は大きくなっても、ウ蝕ができることはなく、ようやく歯科治療が必要となるのは歯周疾患が問題化する中年以降であり、それまでの主とした歯科経験は矯正歯科ということになる。

 こうしたことは欧米でも以前からそうであり、未成人では医療保険でカバーされている歯科健診は受けるが、それ以上の治療は矯正治療以外、ほとんどない状況になっている。つまり歯科健診以外で、未成年者、学生が実際に歯科治療を受けるのは矯正歯科だけとなる。大雑把な個人的な推論で言えば、今後、230年後には、歯科健診を除いた実際の歯科治療の総数は今の半分以下になろうし、処置のグレードもより小さな、簡単なものが多くなろう。現在、8020運動はほぼ達成され、今度はさらに、ほとんどの人が80歳になっても20-28の歯があるだろう。こうした時代になれば、補綴、エンド処置は激減し、保存処置、歯周治療が残るだけだろう。

 現在、歯科医師国家試験合格者数、つまり新らしい歯科医数は年間2000人、私たちの頃は3000人を越えていたから、ここ30年ほどで2/3くらいになっている。実際の患者数、処置数が230年後に半分になるのであれば、さらに歯科医師数も半分でいいわけで、合格者数をさらに減らして、1000名以下にすべきであろう。歯科医師会は診療報酬の増加を常に叫んでいるが、その前に疾患そのものが減少し、歯科医同士で少ないパイを取合う競争がますます激化するであろう。実際、弘前で開業した22年前は、年配の先生を中心に90%くらいが紹介患者であったが、最近では50%以下で、患者からの紹介が多い。他の矯正歯科医への紹介が多くなったことによるが、若い歯科医では紹介しないで、自分のところで取りあえずやってみるというところも多い。患者数が少なくて、紹介する余裕がないからであろう。

 最近では歯科疾患と全身疾患を結びつける傾向がある。歯周疾患が心臓疾患、脳血管疾患や糖尿病と関係するというものだが、こうした研究をするドクターには悪いが、私自身あまり信じていない。統計的な関係性はあると思うが、例えば歯周疾患— ○○○—○○○—○○○—心臓疾患というように間のファクターが多く、逆に歯周疾患を治療しても変化は少ないと思われる。う蝕が少なくなったころから、新たな歯科治療の必要性として日本歯科医師会が大規模に提唱したものである。ただ食欲、食事は人間にとって非常に大事なものであり、歯の存在は大きい。今後は、死ぬまで自分の口で食べたと思う人は多く、そうした意味では、老年期の歯科医療にこそ、未来の歯科の主力となるのであろう。

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