10年以上前から知人に誘われて弘前市立博物館の後援会に入っている。たしか年間3000円くらいの会費で、展覧会の入館料が無料になる。特別企画展になると入館料が1000円くらいになるので、年に何回かの展覧会に行けばペイする。ただし通常展については65歳以上であれば、弘前市民であれば無料である。
この後援会では、年に一度、視察旅行を行なっており、魅力的な企画をしているが、私の診療所は土曜日が一番忙しくて、なかなか行けなかった。ところが11月23日(土曜日)が休日で、初めてこの後援会の視察研修に参加できた。昨年度は、最勝院の五重塔の内部を探検するという魅力的なものであったが、当日の豪雪のためにこの五重塔だけの視察しかできす、他施設の視察をできなかった。そこで今回は昨年できなかった視察を行う、題して「弘前の宝を歩いて観よう! 最勝院境内・新寺町編」。
まず最勝院では、修理が終了した仁王像、堀江佐吉碑、キリスト信徒の墓などの解説、案内の後、つい最近寄贈となった青森ねぶた牛頭天王の除幕式に参加した。2023年度のねぶた大賞を取った力作で、頭部と手が寺宝、牛頭天王がある場所に設置された。牛頭天王の名は知っていたが、どういった仏かは記憶になく、具体的なイメージがわかない。ただ病魔退陣を願う仏のようなので、将来的にはコロナ惨禍の記念碑的なものになろう。
その後、弘前高校の横にある。袋宮寺の十一面観世音立像を見させていただいた。以前にも観覧されている観光客がいたので、お声かけして入り口のドアを開けて一緒に見た記憶があるが、今回は中に入ってじっくりと拝むことができた。6m近い大型の仏像で、まずその大きさに驚く。さらに通常、こうした大型仏は、それを安置する建物も大型であるが、この仏について言えば、ギリギリの大きさで、単に周りを建物で囲んだようなもので、お顔を見るのが難しい状態になっている。以前、アメリカの美術館のキュレーターに高照神社にあった江戸時代の絵馬を見せたことがあったが、外の寒気がそのまま入る室内の保管状況を相当心配していたのを思い出す。この仏も野晒しとは言えないが、冬は周りが雪で覆われた寒い弘前では、保存の点からすれば最勝院の仁王像同様に厳しい環境にある。
次に訪れたのは報恩寺、ここの木像の藩主坐像を見学した。報恩寺は、江戸時代、新寺町でも大きさでは大円寺、慈雲院に次ぐ寺で、今は当時の1/3程度の敷地になっている。弘前藩主の墓があり、禅林街の長勝寺とともに寺格が高い寺である明治二年弘前絵図を見ると、入り口には善入院、一乗院、万智院、理教院、観明院、光善院、正善院などの塔頭寺院が見られる。寺内には檀鐘(壇鐘?)、経蔵、本堂、座敷、庫裡とともに御霊家、御影堂がある。ここに安置されていたのが、八代藩主、津軽信明坐像、九代藩主、津軽寧親像、その他である。二体はほぼ等身大の坐像で、特に丁寧親像はかなりリアルで生前の藩主を彷彿させる。徳川家康が東照宮に祀られるように武士像が神式の神殿に祀られるのは親和性があり、問題ないのだが、神鏡が異常に大きく、正面からは藩主の顔が見えない。さすがにこれは、坐像製作当時のものではなかろう。江戸末期の各地で30cmを超える巨大和鏡が作られたが、その流行からなのだろうか。
次に行ったのは西福寺の円空作の仏像で、これも実物はかなり大きい。ほぼ実物大、150cmあろうか。円空仏というのはもう少し小さなものと思っていた。下にはスラムダンクの作者、井上雅彦さんの似顔絵色紙と哲学者、梅原猛さんの色紙が飾ってあった。漫画家の井上雄彦さんは円空の大ファンで、本まで出しており、青森にも円空仏を拝観のために来たようである。
最後は、貞昌寺の釈迦涅槃像を見た。貞昌寺は、山田兄弟の碑があるため、以前はよく行ったし、綺麗な庭も中に入らせてもらったこともあったが、この釈迦涅槃像は初めて見た。2mを超える大型の仏像で、涅槃像の絵はたくさんあるが、像は珍しい。
今回の企画では、なかなか普段行けない、見られないものを視察できて個人的には大変満足している。弘前にはこうしたまだまだ知られていないお宝がさりげなく飾られている。この界隈だけでも、なかなか一般の人が見られないところとしては、まず北新寺町にある「中舘家住宅」がある。先日、訪れたが、中は明治期に建てられた近代和風建築で、今年、国の登録有形文化財に登録された。当主から建物の説明を受けたが、今後、明治期の建物も弘前のお宝になりそうである。貞昌寺から近い加藤味噌醤油醸造元も明治4年の建築で、中はどうなっているか見てみたい。また近くの旧町田家住宅も古い。このあたりには明治以降の近代建築が多い。またお宝といえば、一番小学の朝陽小学校も古い記録があるはずで、見てみたい。和徳小学校については、千葉寿夫先生の研究で、古い教育資料が充実していることがわかったが、そうした資料の展示はない。
今回のコースなどはもっと小中学校の遠足あるいは課外授業で取り入れるべきで、まず街を好きになるためにはお宝を見学するのも一つの方法であろう。身近なところにもお宝はある。
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