2008年9月9日火曜日

理想的なかみ合わせ





 私たち矯正歯科医は、治療を行う上でいつも念頭にあるのは、いかにして理想的なかみ合わせにするかということです。治療計画から始まり、すべての矯正治療のステップごとに、この理想的なかみ合わせに近づいているかチェックします。

 まず最も重要なのが、奥歯のかみ合わせで、基本的には下の奥歯が半歯前に出た、1歯対2歯のかみ合わせを基本とします。これをI級の臼歯関係と呼びます。これに続いて犬歯も同様な関係、下の犬歯の先が上の側切歯と犬歯の間の三角形に十分かみ合っているかをチェックします。奥歯が完全のI級関係であれば、前歯部も上の前歯が下の前歯を2,3mm覆い、真ん中(正中)があったかみ合わせが完成します。

 このあたりの関係をうまく説明するのは難しいのですが、いずれにしても奥歯のかみ合わせをまず基本にもってきます。特に6歳臼歯(第一大臼歯)の位置づけが重要です。その位置を決めるため、抜歯したり、インプラントをうったり、色々なことをして歯を動かしていきます。最も技術を要するところです。

 これらは外から見たところですので、ある程度口の中を毎回チェックすれば確認できますが、中から見たかみ合わせ(舌側からの咬合)は模型をとってみないとわかりません。症例などを学会や専門医試験に提出する際、チェックされる項目で、ワイヤーによる歯の立体的なコントロールが必要になってきます。結構難しく、途中で何度も模型をとり確認すればいいのですが、面倒で、いつも装置を外してから確認することになってしまいます。比較的咬む力の強いひとは自然にこの舌側のかみ合わせも咬んできますが、咬む力が弱く、あごがきゃしゃなひとではなかなか咬みこんできません。またゴムを使って咬ませても装置を外すと、だんだんと開いてくることもあります。

 また口元の突出感も審美的には重要な項目です。上のような理想的なかみ合わせを作っても、口元がもっこりしてサルのようになったのでは、患者さんは満足しません。理想的には鼻の先とあごの先を結んだライン上、あるいは中に少しはいるように上下の口元がくるようにします。また大きく笑った場合、上あごが狭く、奥歯の横の黒い空間があまり多いのも審美的にはマイナスとなります。

 極論すれば、矯正歯科医はいろいろな不正咬合をもつ患者さんすべて、矯正治療後はこの理想的なかみ合わせになるように努める訳です。初期の矯正歯科教育で徹底的に教え込まれます。このあたりの感覚がどうも一般歯科医とは違うようで、一般の歯科医の症例を見ますと、このかみ合わせが非常に甘い症例が多く見受けられます。患者さんからすれば、でこぼこが治れば、いいと考えるかもしれませんが、私たち矯正歯科医はこの理想的なかみ合わせを獲得したいのです。

 この他にも、隣同士の歯の接触している点が連続すること、歯と歯に段差がないこと、歯が捩じれていないこと、歯根が平行に並んでいること、歯根の傾きが適切であること(トルク)など、さまざまな条件があり、試験などではこれらの項目が採点され、評価されます。ただ実際は、治療期間の制約、患者さんの協力度合いなどで、なかなか理想通りにはといきませんが、ともかく最大限の努力をしますし、最も難しく、やりがいのあるところです。また人間相手の仕事なので、機械的に一様に達成できることはなく、機能的な問題、とくに舌のくせなどがからんでくると、本当に難しくなります。

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