2009年6月7日日曜日

弘前のモダン建築




 弘前は戦火をくぐらなかったせいか、古い建物とモダンな建物が混在しています。今回はその中でも私のお気に入りのモダンな建物を紹介します。

 ひとつは市内の繁華街土手町のそばにあるスペース・デネガです。ここはうちからも近く、よく展示会や弘前劇場の公演などが行われています。設計は、北海道の有名な建築家上遠野徹さん(かとの てつ)で、レンガ壁の平屋の建物で、1983年に完成しました。もともとここには病院があり、その先生が私財を投げ打って病院の跡地に、自分たちで音楽や絵画を楽しむ場所、発表する場所として建てられました。「何でもやってもいいんでねーが」ということで「デネガ」と名付けられたようです。冬になると建物の脇に大量のマキが置かれているのを目にしますが、これは暖房がコークスとマキのストーブでとっているからだそうです。真冬でも結構暑く、断熱はバッチリと思われます。上遠野さんの自宅に惚れ込んで、この建築家に依頼したようですが、この札幌にある上遠野さん自宅はデネガ同様のレンガ壁の平屋で、床にはペルシャの絨毯(カシャーン?)、家具は北欧のブルーノマットソンで、見るからにくつろげる場所です。私自身、好きな建物のひとつにフィンランドのアアルトの「ヴィラ・コッコネン」という住宅があります。この建物は友人にコッコネンのためにアアルトが設計したもので、スタジオを除くとそれほど大きな住宅ではないのですが、実に暮らしやすそうな住宅です。この住宅と上遠野さん自宅の雰囲気がとても似ています。

 もうひとつ好きな建物は、有名な建築家前川國男さんの設計した弘前博物館です。前川さんの建物は弘前には初期から晩期まで8つありますが、弘前博物館が一番すきです。ここの後援会に入っているせいか、展覧会に行くことも多く、本日も「琳派・若沖と雅の世界」を見てきました。見学後にここのロビーに座り、無料のお茶を飲み、外の景色を眺めると本当に落ち着きます。まるで自分の家のような安らぎを覚えます。ソファーも座り心地がよく(低座で、おそらくは天童木工?)、ここで本を読んだりします。なにより紙コップでなく、湯のみ茶碗が用意しており、それで飲むと本当においしく感じられます。展覧会のあと喫茶店に行く必要がありません。弘前市は小さな町ですが、身の丈にあったいい美術館だと思います。小さな美術館と言えば思い出すのは穂高町にあった碌山美術館で、もう30年前に旅の途中で立ち寄ったことがあります。本当に小さな小さな美術館で、教会のような荘厳でありながら、実の落ち着いた建物でした(今HPを見るとその後3つも附属美術館が併設されたようでかってのような雰囲気はもうないかもしれません)。

 前川さんの作品は以前、小平市の江戸東京たてもの園にある前川國男邸を見たことがあります。何より感心したのは、その落着きで、明日に住んでも違和感のないような感じでした。寝室は狭く、四畳半くらいでしょうか、暗い空間です。昨今の建築雑誌などではよく明るく広い寝室が紹介されていますが、むしろよく寝る為には真っ暗で狭い空間の方が私の歳になると必要です。いくら遮光カーテンをしても夏場は明るくて起きてしますからです。またダイニングも食事をするだけなので、狭くても問題ありません。リラックスする空間の居間が広くて景色がよければいいのです。前川邸も、上遠野邸も、ヴィラ・コッコネンもここらあたりのつぼは押さえています。前川さんの作品が今での人々に愛されるのは、自宅のようなくつろぎ感があるためでしょうか。

 一方、土手町には中三デパートという建築家毛綱毅曠が設計した建物がありますが、あまり奇抜すぎるし、まだ年月が立っていないのに、メンテが難しいのか、結構汚く、好きではありません。奇抜さ、美しさ、居心地が同時に存在するのは難しいと思います。

 ここで紹介したデネガは中心街に、弘前博物館は弘前城にありますので、こちらにこられたら一度行かれたらよいと思います。ともに自由に見学できます(博物館の収蔵品はたいしたことありません)。

参照文献
Ahaus 2007.3 建築を知れば展覧会は2倍楽しい
Brutus Casa 2004.9 ニッポンのモダニズム建築100
ドコモモ・ジャパンモダニズム建築100選に弘前からは前川國男さんの木村産業研究所と上記の北海道上遠野徹自宅が選ばれています。

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