2010年2月14日日曜日
歯科医院の感染対策
ひょんなことから2月の歯科医師会の例会で、門外漢ながら歯科医院での感染対策について講演することになった。全く自信はないが、歯科における感染対策について、ここ2か月ほど色々と勉強した。
歯科医院での器具の滅菌消毒は、耐熱性の器材は高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)と乾熱滅菌器、熱に弱い器材は薬液消毒とガス滅菌器によることが多い。このうち耐熱性の器具の滅菌については問題がないが、耐熱性のない器材の滅菌消毒が難しい。破傷風菌や炭疽菌などの固い殻をかぶった細菌はなかなか死なず、これを殺菌するのはかなり強力で毒性の強い薬液やガスが必要となる。ガス滅菌器では使われたガスの排出処理が難しく、また薬液も使用中のガスの発生や皮膚付着などスタッフへの健康被害だけでなく、これもまた廃棄の考慮が必要で、最近では取り扱いの規制がきびしくなっている。消毒液につけた器材は水で十分に洗浄しなくては、万が一患者の皮膚に薬液が接触すれば皮膚炎を起こす可能性も高いし、滅菌水での洗浄、滅菌手袋、作業着の着用が必要であろう。廃棄についてもグルターラール製剤1Lに対して200Lの水で希釈しないと水質汚染につながるとされており、ほぼふろの水いっぱいの水で希釈する必要がある。いずれにしても手間がかかる。
口腔内は1ccに数億以上の細菌があり、肛門以上に汚いところである。こういった環境においては、いくら滅菌した器具を使っても唾液に触れた瞬間に汚染される。また、厳密に言えばすべての器材、器具が滅菌していてもひとつのものが滅菌されていないと台無しになる。歯科器材の中には全く滅菌、消毒できないものもあり、こういったことを加味すると、従来の高圧蒸気滅菌、ガス滅菌と薬液消毒の組み合わせは再考する必要があろう。欧米での滅菌消毒システムが参考となろう。患者さんに使った器具、器材はまず80-90°というウォッシャーディスインフェクターでよく洗うことで、肝炎ウイルスやエイズウィルスなど病原性の高いものはだいたい消毒される。さらに必要なものは高圧蒸気滅菌器にかけて収納する。できるだけ使い捨てのものを使っていく。薬液消毒やガス滅菌は極力使わないことで、環境汚染や従業員の健康被害も防げる。
上の写真はアメリカのa-decの滅菌室用のキャビネットで、赤のライト部が不潔域で、下の洗浄機で洗われ、青ライトの右の部分に移され、必要なものは高圧蒸気滅菌器に入れて処理される。6分、9分で滅菌できるカセット式の滅菌器もよく使われるようで、患者が来てから、その場で滅菌して使用する。ただアメリカ人はおおげさで、歯科医は使い捨てのヘッドキャップ、ゴーグル、手術着を着けて、完全防護の体制で治療している写真をよく見かける。患者さんは普段の格好で、患者から絶対に感染されないといった意識がありありで、日本ではやや引くのではと思ってしまう。また水道水が悪いのか、歯科用ユニット内の水の汚染が話題になっているが、日本では水道水中の塩素のより、水の汚染にはそう心配することもない。
低温プラズマ滅菌という方法も、耐熱性のない器材の滅菌消毒には大変いい方法だが、一番安い器機でも900万円くらいするため、歯科診療所の規模と診療の特殊性を考えると、ウォッシャーディスインフェクター、高圧蒸気滅菌器、使い捨て器材を中心とした消毒システムが適しているように思われる。結核に関しては医療従事者より患者に感染させた例はあるが、一番警戒すべき肝炎ウイルス、エイズウィルスについては、ここ20-30年、歯科医から患者、患者から患者に感染させた例はない(逆に患者から医療従事者への感染は多い)ので、すべての歯科器材を完全滅菌すべきという意見はコストと手間からは過剰と思われる。日本人は清潔好きで、“完全滅菌済みの歯ブラシ”とうたった商品の売り上げが伸びているようだが、この滅菌は100%放射線滅菌(電子線滅菌)で、リスクと滅菌施設の環境汚染のことは考慮されていない。
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