2017年10月3日火曜日

矯正歯科の特殊性


 「大学病院の奈落」(高橋ゆき子著)は、群馬大学病院第二外科で患者が連続して18人亡くなった事件を詳細に検証しています。結論からすれば、事件を起こした大学助手のドクターの技量のなさと経験数の少なさ、さらに手術死が起こっても反省がなく、そのまま手術が中断されなかった、ことなどが犠牲者を大きくした原因として挙げています。さらにボスである教授が専門外で、助手の先生の手術をやめさせることができなかったことも、事件が長く続いた一因です。18件の事故死は、内視鏡手術ではなく、開腹手術も入っているようで、第三者の検証によれば、開腹手術も満足にできない状態で、内視鏡手術を行い、さらに高度な手術に挑戦していったようです。この先生は、非常に温厚で、やさしい雰囲気の方で、患者はそうした態度を信用して手術を承諾しました。さらに問題なのは、学会にはこうした事故死の患者を除いて症例報告をしていたようです。さすがに助手の手術であれば、他の大学で、このように死亡が多ければ、講師、准教授、教授などから批判があろうと思いますが、群馬大学のこの講座では全く手術結果のディスカッションはなかったようです。教授の手術ミスは、医局員からの批判は難しく、論文で教授になった先生では、こうしたミスが多発し、できるだけ教授には手術をさせないというケースもありました。

 同じようなことは矯正治療でもあり、今はやりの見えない矯正治療、舌側矯正やマウスピース矯正もそうです。腹部の開腹手術が一般的だとすれば、矯正治療でも歯の外側に矯正装置をつける唇側矯正が一般的な治療法です。この一般的な治療法が確実にできてから、特殊な治療法、内視鏡手術や舌側矯正ができるようになります。というのは内視鏡手術でできない症例があるように、舌側矯正でもできないことはあり、その場合は躊躇なく治療法を変更する必要があります。また同じことはマウスピース矯正でもそうで、歯の動きが悪かったり、患者がきちんと使わない場合は、唇側矯正治療に変更します。

 一般歯科の先生の中には、唇側矯正が満足にできないのに、舌側矯正を標榜したり、マウスピース矯正しかしないという先生がいます。これはありえません。腹部手術の例で言えば、開腹手術をしたことがない先生が内視鏡手術をするようなもので、結果は群馬大学のケースと同じものとなります。矯正治療では死ぬことはないため、それほど問題に大きな問題でないかもしれませんが、きれいな歯並びになることはありません。

 認定医、専門医の症例試験は、舌側矯正のケースでも可能ですが、多くは唇側矯正で仕上げたものです。少なくともこの試験に通るくらいの治療技術がなければ、舌側矯正、マウスピース治療は絶対にすべきでないと思います。私の場合、唇側矯正でも満足な結果を得ることはなかなか難しく、とても他の治療法をする余裕はありません。舌側あるいはマウスピース治療を希望される患者さんはすべて断っています。唇側矯正でも最近のブラケットは透明、白いのがほとんどで、あまり目立ちません。それでもこうした治療法を絶対にしたくないという患者さんは、結果に対する要求も高く、唇側矯正以上に細部の仕上げが要求されますし、そのために高額な治療費が設定されます。つまり舌側矯正やマウスピース矯正が唇側矯正より料金が高い理由は、唇側矯正と同等あるいはより優れた結果を得るには、十分な経験と技術が必要なためです。おそらく矯正専門医から判定して、そのレベルに達する矯正専門医は日本でも数十名のレベルと思われます。当然、一般歯科の先生で、そのレベルに達する人は絶対にいません。

 結論から言えば、舌側矯正、マウスピース治療は、一般歯科では絶対にすべきではありません。費用が、矯正専門医の数分の一で、多少仕上がりがまずくてもいいのであればしてもいいのですが、ほとんどの一般歯科では結構な費用を取っています。こうしたところで治療を受けるのは、それこそ群馬大学の内視鏡手術を希望するようなもので、理解に苦しみます。

0 件のコメント: