2007年8月26日日曜日

健康保険の適用できる不正咬合 唇顎口蓋裂


25年ほど前、東北大学の小児歯科にいたころ、口蓋裂チームに所属していました。手術は口腔外科が、矯正治療は矯正科が、う蝕処置は小児歯科が、言語治療は言語治療室がチームを組んで、唇顎口蓋裂児の治療を行っていました。といっても顎口腔機能治療部というところに行き、幸地先生の指導のもとに矯正治療を主としてやっていました。小児歯科からは私が、口腔外科、矯正科からもそれぞれ先生が来て治療をしていました。その頃は、青森や岩手から来る患者も多く、忙しくて大変勉強になりました。ここで矯正治療に興味を持ったため、その後幸地先生に紹介してもらい鹿児島大学の矯正科に行くことになりました。唇顎口蓋裂の矯正治療を私の矯正治療の原点です。
唇顎口蓋裂とは、唇裂(唇のみ)、唇顎裂(唇と歯が生えているところの骨)、唇顎口蓋裂(のどちんこまですべて)、口蓋裂(のどちんこだけ)に分かれます。口蓋裂はさらに軟口蓋裂(のどちんこのみ)と硬口蓋裂(その前に硬い部分も)に分かれます。また片側性と両側性に分かれます。唇の手術はだいたい生後6か月で、口蓋の手術は生後1歳6ヶ月ごろに行われます。施設によっては出生後すぐからホッツのプレートと呼ばれるプラスチックでできたマウスピースのようなものを入れ、ほ乳の手助けと手術をしやすくすることもあります。
唇顎口蓋裂の矯正治療の難しい点は、裂隙のタイプが差があるだけでなく、手術法や術者によって上あごの成長にかなり差が出る点です。通常の矯正治療においても個人差があるのは当然ですが、唇顎口蓋裂では手術による差も出てきます。強引な手術、とくに口蓋裂の閉鎖手術では、傷あとによる上あごのかなりの成長抑制がおこるため、ひどい反対咬合(かみ合せが逆)になります。唇顎口蓋裂や口蓋裂ではいずれも口蓋閉鎖術が必要なため、多くの症例で反対咬合となります。また唇顎裂や唇裂でも前歯に限局した不正咬合がおこるため、その矯正治療には健康保険が適用されますし、自立支援法も使えます。
弘前大学の形成外科からはだいたい2歳ころに私のところに紹介されてきます。この頃は主として歯磨きの仕方(母親)やフッ素塗布などの予防処置をしています。通常は永久歯が萌出するころから、治療を行います。反対咬合のところで紹介した上顎骨前方牽引装置や、リンガルアーチあるい前歯にブラケットをつけて、反対咬合の治療を行います。8歳から10歳ころには裂隙部の骨のないところに腰から骨を移植します(骨移植術)。東北大学が日本でも最初にやった施設だと思いますが、25年ほど前では十分な骨移植ができず、そこに歯を移動するのは難しかったのですが、現在は手術法の改良で十分な量の骨を入れることができるようになりました。糸切り歯が生えるころを目安にしますが、もう少し早くすることもあります。上あごは横にも狭いため骨移植術の前後に上顎骨側方拡大装置を使うこともあります。永久歯列の完成する中学生から高校生ころに全部の歯にブラケットをつけて仕上げの治療を行います。上下のあごのずれが大きい場合は手術を併用して治療します。
開業してこれまで100例以上の症例を見てきました。多くは大学病院で治療されるためこれでも個人の開業医としては多い方だと思います。手術法の進歩により最近では傷あともほとんどなく、ぱっとみてそれほどわからなくなってきていますし、骨移植術や初回の口蓋形成術もマイルドな方法がとられるようになり、ほぼ健常児と同等の仕上げを行えるようにもなってきました。ただ依然として旧来のやり方で手術されている症例もあり、初回の手術による上あごの成長抑制が強いとなかなか矯正治療単独ではうまくいかないのも事実です。いずれにしても2歳から20歳まで見ていく訳ですので、責任も重く、常に最新の情報を仕入れてよりよき治療を受けられるように努めています。親御さんたちも長い通院期間で本当に大変で、頭が下がります。

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