2007年9月8日土曜日

健康保険の適用できる不正咬合 顎変形症


手術をしないと上下のあごのズレを改善できず、かみ合せも作れないような症例では、その術前、術後矯正治療は健康保険が適用できます。一番多いのは下あごが上あごより大きい、下顎前突の症例です。噛み合わせは反対咬合となります。このような症例では、通常上下のあごがずれていても、何とか咬もうと上の前歯は飛び出て、逆に下の前歯は中に入り、上の奥歯が広くなっています。そのためあごのずれが例えば10mmあっても前歯のずれが3mmといこともあります。これは補償作用といいます。検査を行い、あごのずれが10mmと決定すると、今の位置から10mm下げた状態で咬むように手術の前に準備しておくことが術前矯正です。通常、上の小臼歯を2本抜いて、その隙間を利用して上の前歯を中に入れていきます。ブラケットをつけてワイヤーとゴムの力で歯を動かします。大体、術前矯正には1年半くらいかかります。
手術法で一番多いのは上の図にある下顎枝矢状分割術と呼ばれる方法です。もともとは開発者の名前をとってDal Pont-Obwegeser法とされていましたが、日本でも1970年代ころから盛んに使われるようになりました。最初のうちは分離した骨をワイヤーで軽く固定し、骨がくっつくまで大体4-6週間、上下の歯を縛っていました。そのため入院期間は長くて患者さんは大変でした。最近では固定にチタンでできたネジやプレートを使うため1-2週間くらいの入院になりました。大変進歩したものだと思います。
術前矯正は正確なゴールを目指しているため、手術が当初の予定と1mmでも狂うと、かみ合せがくるってしまいます。そのためサージカルガイドプレートと呼ばれるプラスチックの板を用意して、下あごを正しい位置に動かすガイドとして、その位置で固定します。このあたりの手技が大変微妙で口腔外科医の腕によります。
術後の問題として一番多いのは、下唇下部のしびれと触覚の鈍麻です。小さな神経が手術により切られることと、分離した骨を固定する際の圧迫によるものです。多くの場合は自然に解消しますが、鈍麻が続くことがあります。ただごはんつぶがついてもわからないといったくらいのものです。あと矯正医として深刻なのは、固定のズレと術後の後戻りです。ガイドを使ってかみ合せを合わせても、分離した骨を引っ張って固定してしまうと当初の予定とは違ってきます。また移動量の10-20%は後戻りしますので、それによってもかみ合せがくるうことがあります。ガイドを入れて1週間くらいは上下の歯を縛って固定しますが、それを解除する時はいまだに緊張します。
大学時代はすべて自分の患者の手術に立ち会い、一部手術にも手伝わせていただきましたが、大変細かな手術で、口腔外科の先生方も神経を使うと思います。
かみ合せと顔貌が劇的になおる治療法ですが、手術に伴うリスクもありますので、十分に検討して治療を受けられたらいいと思います。

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