2010年6月3日木曜日

山田兄弟26



 先日(5月22日)、NHKハイビジョンで「ハイビジョン特集 孫文を支えた日本人- 梅屋庄吉-」が放送された。

 小坂文乃さんの著書「革命をプロデユースした日本人」で内容は大体わかっているが、こういう形で映像化されると、よりはっきりと理解しやすい。インタビューも適切な人物を使い、全体的には孫文を支える日本人、とりわけ財政的に支えた梅屋庄吉を中心とした構成になっている。当然、山田良政、純三郎も少しだけだが登場する。

 梅屋は総額2兆円以上の革命資金を提供したとされるが、この金額の根拠は不明であり、さすがに今の日活の創始者としても、これだけの金額は捻出できないだろう。といっても莫大な金額を提供したのは間違いない。最後には、孫文の銅像を作るため、金がなく娘に借金するシーンが出てくるが、結果的にこれだけ金を使って形として残ったのは娘の金によるこの像だけというのは皮肉なことである。

 この番組で気になったのは、孫文の革命に参加した日本人のアジア主義者を最後まで孫文を支えた梅屋のような人物と、日本の帝国主義化に伴い孫文から離れていった頭山満、犬養毅などを対比的に捉えた点である。孫文の人物像についてはさまざまな評価があるが、夢想家、場当たり的なところがあったのは否定できず、犬養や頭山のような老獪な政治家からみれば現実を重視せよということになろうか。逆に梅屋や山田純三郎のように最後まで孫文についていった日本人は、孫文そのものの人物にほれたのであり、純三郎にいたっては在上海の日本人からは孫文バカと呼ばれていたくらい死ぬまで強い想いを持っていた。さらに梅屋、山田純三郎ともに、個人として孫文に接しており、特にグループあるいは会といった活動は行っていない。頭山は玄洋社、犬養は憲政党などの政党の長であり、自ずと発言も会の意向とは無関係ではおられない。一方、梅屋にしても事業としては映画があり、その経営をしていたが、こと孫文の支援に関しては完全に一個人として参加している。

 孫文の無節操な態度に梅屋、山田はだまされていたという声もあっただろうし、実際、梅屋は莫大な金額を支払ったし、山田も家族も犠牲にして、日本と孫文、中国のために奔走した。その意味ではだまされたといってもよかろう。この関係は、宗教における教祖と信者の関係に似ているのであろうか。信仰の強い信者にとっては教祖の命令は絶対であり、周囲の人間がいくら教祖の人間性を非難したところで教団内では批判はない。宗教とはある意味思い込みであり、教祖を絶対化することで、周囲の雑音は一切シャットアウトされる。山田、梅屋にとって孫文の存在はこういった存在だったかもしれない。政治家、思想団体のリーダーであった犬養、頭山にとって孫文はあくまで友人、偉大な人物ではあるが、情勢の変化によって何でも受け入れるべき存在ではなく、当時の日本国民、軍部、マスコミの潮流には逆らえなかったのであろう。

 孫文の神戸で行った最後の講演での悲痛な叫び、「今後日本が世界文化の前途に対し、西洋覇道の鷹犬となるか、或は東洋王道の干城となるか、それは日本国民の詳密な考慮と慎重な採択にかかるものであります。」は、現在の鳩山政権の東アジア共同体構想にまっすぐつながるものであり、まさに今日的な課題である。一方の日本の外交戦略の基本である国際協調型外交(欧米重視)は、珍田捨巳、牧野、西園寺から連綿と続くものであり、この両者の考えの出発点に弘前出身の山田純三郎と珍田捨巳が関わっているのはおもしろい。

 今回、NHKで梅屋庄吉を取り上げてくれたが、できれば山田兄弟も特集してもらうとありがたい。梅屋にしても、山田兄弟にしても個人的には金、名誉や地位といったことに一切関わりなく、無私の精神で中国革命に協力した。こういった人物こそ、後世の者がその業績をきちんと評価することが、日中、日台友好の基礎だと思う。

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