2012年12月7日金曜日

矯正治療の難しさ




 最近、治療結果に対して非常に厳しい患者さんが増えています。鏡を見て、ここの噛み合わせがおかしい、隙間が0.3mm開いている、真ん中が0.5mmずれている、歯茎が0.5mm下がった、歯の傾きや、なかにはトルク(歯根の位置)がおかしいという方がおられます。

 確かによく見ると、こういった問題点があり、それは術者の責任でもあるし、私の臨床技術の稚拙によるものでしょう。もっと、勉強しなくてはいけません。ただ一方、どうしても歯とあごの関係上、理想的な形にはできないこともありますし、舌の癖や、咬み方により直らないこともありますし、また歯根吸収のように予想できない問題もあります。

 矯正の分野でも、完璧な治療を望まれれば、出来るだけ努力はしますが、実際にそうならないことも多々あり、これを責められると何とも言えません。抜歯をして口元を入れようとしても、舌の力が強く、予想より後退量が少ないことがあります。途中経過で、こういったことを説明しますが、それでも強く責められると、落ち込みます。特に多いのは、後戻りの問題で、保定装置については一般的には一生使うようにと指導しますが、実際は一生、保定装置を使うことなどできず、どこかで使わなくなるでしょう。その場合は、最初に一生使うと言えば、患者さんのせいによって後戻りが起こったと説明できるからです。アメリカで提唱された方法です。私自身は、2、3年すれば保定装置をはずします。当然、ごくわずかな後戻り、下の前歯に起こることがありますが、それが気になるひとは再治療をすることにしています。10年間で3回再治療したひともいます。最初のころは、再治療については抵抗がありましたが、結局、どんなに説明しても納得してはくれないので、ここ10年くらいは希望があれば、装置代無料で再治療します。

 うちの娘は、もともと反対咬合で、それは治ったのですが、下の歯がでこぼしています。しょっちゅう電話で治療したいと言ってきますが、上の前歯がある程度きれいに並んでいて、下の前歯のみでこぼこのケースは、まともな矯正歯科医は治さないと答えます。固定式、取り外し型の保定装置をはずせば、後戻りします。ましては数十年のスパンでみれば、あごの発育もあり、かなりの頻度で後戻りはあると思います。こういうこともあり私は、ちょっとしたでこぼこについては極力治しません。例えば、もとの歯並びが40点、矯正治療で90点にし、それが後戻りして80点になっても前よりはかなりよくなったと言えますが、もともと80点の歯並びを治療で95点にするのは簡単ですが、すぐに90点あるいは85点まで戻ります。ほとんど治療した意味がなくなります。それ故、ちょっとした不正咬合は、治療は容易だが、それを維持するのが難しいということと、こういった少しの不正を気にするひとは、要求も厳しいので、治療はやめます。

 これは言い訳になるかもしれませんが、医療では不確実性という言葉があります。人間を対象にしている限り、リスクがあり、治療をしても治らないことや、逆に悪くなる可能性もあるということです。また完璧な治療を望まれても、できないこともありますし、それを維持できないこともあります。こういった点から、軽度の不正咬合では、メリットに対するリスクが相対的に大きいため、矯正治療はあまり勧めません。理想咬合というのは、100点満点の状態で、一般集団にはまれなかみ合わせです。こういったかみ合わせは100人、いや数百人に一人いるくらいです。通常の正常咬合という概念は、70点あるいは80点以上のかみ合わせをさし、本来、70点以上であれば、治療適用にならないと思います。

 舌側矯正についても、見えない矯正治療に固守する患者さんは、治療結果に対してかなりシビアーです。私の稚拙な技術ではとても対応できないため、基本的には断っています。感覚的な話ですが、専門医試験に出すような症例でも、90点程度、10年後の保定後の状態で95点以上の症例はごくまれだと思います。何らかのケチはつけれます。患者さんは100点満点の治療結果を求めますが、努力はするが、実際には無理というのが現実だと思います。

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