日本では矯正歯科専門医になるための、一般的なコースとして6年間の歯科大学を卒業し、1年間の研修医を経て、大学の歯科矯正学講座に入局する。私立は研究生という制度があるが、国立大学歯学部では、4年間の大学院に入学することを求められる。研究はしたくない、臨床だけ学びたいといっても、矯正学教室では大学院以外の入局者は受け付けない。そのため、大学、研修医、大学院の計11年間が最低必要単位となる。実際には少なくとも矯正認定医の資格も取ろうとするので、大学院卒業しても2年以上は医員、うまくいけば助手として研鑽を積み、ようやく矯正専門医となる。
翻ってアメリカでは、4年間の一般大学卒業後に、4年間の歯学部で学び、卒業後に3年間の矯正歯科大学院に進む。これを卒業すれば取りあえず、矯正歯科専門医となる。計11年となり、期間的には日本とは同じになる。
ただ日本の歯科大学大学院は、誠に中途半端なもので、主軸は研究、片手間に臨床という形となっている。矯正科の場合でいえば、矯正の基礎的な臨床、知識を学びながら、研究テーマを決め、場合によっては基礎講座に出向して、そこで研究する。病院では配当患者を持たされ、先輩の先生から指導を受けるが、それも一日に一、二人の患者という案配で、それ以外の時間を研究に費やす。そうこうしている内に、データーがでた時点で、学会で発表して、論文にする。最近では英文投稿でないといけないようなので、かなり大変な仕事である。こうして4年間の大学院を終えるのである。一方、アメリカの矯正学大学院は1年目から患者を配当され、朝から晩まで臨床びたりで、OBの著名な臨床医の講義を受ける。最終学年になると臨床に関した研究と発表、論文作成で卒業となる。私の感覚でいえば、日本の大学院生の臨床レベルは、アメリカの大学院生のせいぜい1年レベルであろう。つまり日本の歯科大学、大学院は、こと臨床という点からすれば、非常に非効率で、中途半端である。世界中を見ても、矯正学大学院卒業直後の学生の臨床レベルは世界的にも低い。なぜなら矯正学大学院でみる患者数が非常に少ないからだ。中国、韓国、インドネシア、インド、欧米各国でも、多くの患者を実際にみて、臨床能力を付けさせる教育がなされている。
また日本では歯学博士というばかな制度があるが、医療の一分野として考えるなら医学博士だけで十分であり、歯学部の大学院というナンセンスな存在は、問題が多い。一応歯学部は大学院大学となっているため、文科省の規定人数が定められている。実際は、歯学部の学生は臨床をするために大学に入ったのだが、大学はこの人数を集めるためだけに入局者の大学院進学を義務づけている。つまり他学部の大学院数と対抗するために、あまり大学院生の数が少ないと困るため、大学院に残らないと入局できない制度を作った。私の知る限り、こうして大学院に進学して基礎研究をしても、その後、研究を続けている先生は少ない。
大学院生の研究費は科研費、つまり税金からでている。大学院生は授業料を払っているというが、こうした金額では全く研究はできない。将来の研究者になるための投資として研究費が払われているわけであるが、大学院学生が卒業後、研究、テーマにした基礎研究を続けて、社会に貢献するような研究結果が出ないのであれば、この費用は全くむだになる。さらにいうなら、理学部、工学部の代表されるような理科系大学院では、修士、博士課程とも終日研究しているのに対して、半分は臨床、半分は研究という医科系大学院は彼らにすれば、それじゃ4年は必要ない2年で十分ではないか、3年の博士課程ではなく、2年の修士課程で博士号をとるようなものだと言われだろう。理系学部では修士2年、博士3年の5年で博士号をとるのに、医科系では半分臨床をしながら4年で博士号をとるのかということになる。実際、40年くらい前までは、医科系の大学院では、4年間、微生物、生化学、生理学などの基礎講座に出向して、ほとんどの時間をそこで研究し、その片手間に臨床をする状況だった。それでも医学部の場合は、大病院に勤務するためには博士号がいったため、多少の遠廻りをしても大学院に進学し、卒業後に臨床に精を出すケース、あるいは数年、臨床研修を行ってから入学するケースが多かった。翻って歯科の場合は、まず専門臨床を学ぶために大学院に入ることが義務づけられ、臨床のみを学びたいという人はシャットアウトする。
一刻も早く、日本の歯学部もアメリカ型の専門職大学院に移行すべきで、4年間の制度はそのままでもいいから、臨床を中心としたものにすべきである。そして大学に残り、将来、教員、研究者になる先生が大学院に行き、PhDをとるようなアメリカの制度に一刻も早くしてほしい。
1.
大学院大学から専門職大学院へ
2.
患者数に則った大学院学生数
3.
開業医の臨床実習への参加
4.
大学院卒業時に認定医の資格を
5.
教育用患者の治療費の軽減
6.
常勤教官の削減と兼業(開業)
7.
外国人留学生の受入
3 件のコメント:
その論理だと、歯科大学は研究機関ではなく、理容美容専門学校、調理師専門学校などと同じ専門学校である・・・ということになりますよ。
基本的にはその通りです。私の父が卒業した当時の東京歯科大学は、東京歯科専門学校でした。他の歯科大学もたいていは歯科専門学校でした。東京高等歯科医学校(東京医科歯科大学)の創始者の島峰徹先生は、相当無理して大学昇格を画策したようです。そのため、歯科生理学、歯科病理学、歯科解剖学など、わけのわからないフル講座を作ったのは、昔の医科歯科の卒業生に聞けばわかります。私立の歯科大学、東京歯科大学、大阪歯科大学などはむしろ専門学校であることを誇りに、きちんとした臨床ができる歯科医を育てようと努めていました。辻調理師学校が、優れた調理師を輩出させようとしたのと同じです。
逆に聞きたいのですが、6年間の歯科大学で患者の治療をほとんどしない(見学のみ)歯科大学が世界にあればお教えください。日本の歯科大学ほど学生中の臨床経験の少ない大学はなく、それを各国の歯科医と話すと驚かれます。研究機関と考えているようですが、大学の理学部、工学部、医学部の業績総覧があると思いますが、それを一度見てください。基礎は別として、臨床講座の助教以上の論文数、研究は恥ずかしいほど量も内容もおそまつです。大学として生き残るなら、研究内容、生徒数からも医学部歯学科に改編すべきです。
追加です。アメリカの4年間の歯科大学、3年間の専門職大学院の授業は全く臨床を中心として行われており、研究機関というよりは専門学校化しています。これはヨーロッパおよびアジアの歯科大学でもそうです。ここ10年ほど研修医を受入れていますが、あまりの臨床レベルの低さに危機感を持ち、こうしたブログを書いています。ましてや最近の私立歯科大学の凋落ぶりを知ると、偏差値では薬学部、看護系より下で、果たしてこうした生徒を大学が受入れ、優れた臨床医、研究家と育てることが可能かと心配しています。歯学研究も人々のためにはなるでしょうが、それ以上に歯科大学の大きな目的は優れた医療を供給できる歯科医の育成と思われます。グロバリゼーションを唱えられており、今後は海外からの歯科留学生も増えるかもしれませんが、今のような臨床が学べないような制度では魅力はなく、一刻も早く、日本の歯科大学、大学院も国際的なスタンダードになるべきと考えています。
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