2019年11月10日日曜日

歯科医師の高齢化



 私も今年で63歳になる。元気なうちは働きたいと思っているが、それでも老眼のため、年々、治療が疲れるようになった。ことに歯科の治療は内科とは違い、ものすごく細かい作業が要求されるため、高齢になって仕事をするのは難しい。うちの父は83歳まで一人で歯科医院をしていたが、だんだん患者さんも減り、また子供として、患者さんに何かあれば大変だと婉曲にやめるように促した。

 弘前の例で言えば、最近では70歳くらいで歯科医の仕事をやめる場合が多くなっている。昔の先生は、歯科も医科も死ぬまで、あるいは病気になって動けなくなるまで仕事をしていた先生が多かった。一方、アメリカの歯科医に聞くと、仕事は金儲けのためにするのであり、金を稼げれば、すぐに引退するという。そして引退後の生活をエンジョイする。知り合いのアメリカ人の矯正医は60歳くらいで引退して、今はアリゾナ州にいる。また台湾の矯正医は55歳で自分の診療所をクローズし、その後は週に23回ほど勤務医として働き、あとはゴルフをしている。

 こうした引退後の生活を考え、最近の先生は死ぬまで働こうとは思っておらず、患者が少なくなった、あるいは機械が壊れたと言った理由でやめることが多い。弘前の歯科医数は100名くらいであるが、60歳以上が半分ほどで、あと10年以内に少なくとも40人近くはやめるだろう。一方、新規に開業するのは年に2軒で、単純計算すれば、10年後は、40軒の歯科医院がなくなり、10軒できるので、差し引き70軒、30%少なくなることになる。医科の場合は、もっと深刻で、開業年齢が歯科より遅いため、開業医の高齢化、あるいは減少は著しい。

 ただ歯科の場合は、若年者のう蝕が減少し、今後、患者数も減るために、歯科医院の減少が大きな問題になることはない。一方、若い先生が増え、歯科治療のレベルが今後、上がるかというとこれは微妙であり、歯科大学の教育レベルが上がらない限り、日本の歯科医療の水準が上がることはない。というのは、日本の歯科大学では、学生の臨床教育は基本的にしないので、実際の患者さんを治療する機会は卒後研修に入ってからである。それも大学病院の患者数の減少に伴い、症例数は誠にお粗末で、研修医で終了しても、臨床レベルはかなり低い。その後、医科のように大学病院などに勤務して開業するなら一定のレベル、ここでは専門医ライセンスを持つが、歯科の場合は、研修医終了後、すぐに勤務医となることが多い。そうすれば、そこの年配の院長以上の臨床レベルになることは難しい。
 
 おそらく日本の歯科医師の臨床レベルをあげるのは、まず国立大学の大学院大学を撤廃し、アメリカ型の三年の専門医コースを作り、そこで各科の専門医ライセンスを取ることであろう。現状のような基礎科目による大学院では、学生は勤務医に流れる。さらに大学病院では、矯正歯科も含めて自費治療に関して一般歯科の半分から1/3くらいの値段にして、学生用患者数を増やすことである。弘前では十年後に70軒くらいになると言ったが、それでも口腔外科の専門医が10軒、矯正、補綴、小児、歯周疾患の専門医がそれぞれ5軒ずつあれば、計30軒の専門医がいることになり、全体のレベルアップにつながる。

 弘前で今、最も不足している専門医は、実は小児歯科で、日本小児歯科学会の専門医は、青森市の土岐先生と三沢市の濤岡先生しかおらず、弘前、五所川原地域には小児の専門医はいない。秋田県が3名、岩手県が8名、山形県が5名、宮城県が24名、福島県11名なので、ダントツに少ない。昔と違い、小児が減り、さらにう蝕が減り、また重症の子供も減った。そのため、新規開業の若手の先生方では、ほとんど小児の治療をしたことがない場合がある。歯髄処置や乳歯冠などできない歯科医もいるし、その他の処置内容もひどい。私も小児歯科の認定医を持っていたので、一般歯科医の大体の治療レベルがわかるが、やはり小児歯科専門医の方が臨床レベルは高いし、ハンディキャップ児の扱いもうまい。ついでに他の科の県内の専門医を調べると、歯科では補綴専門医が8名で、弘前には2名、口腔外科の専門医は15名で、弘前には8名、歯科保存専門医は2名で弘前は0名、矯正歯科学会の認定医は10名(専門医は1名)、弘前は3名(専門医1名)、歯周病専門医は3名で、弘前には2名となる。インプラント専門医は10名で、弘前は6名と多い。糖尿病専門医が青森県で54名、弘前に16名、消化器内視鏡専門医が120名いるに比べると、歯科の専門医は医科に比べると本当に少ない。

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