2023年7月13日木曜日

世界に誇る日本の奇人

 




NHKの朝ドラ「らんまん」では植物学者の牧野富三郎の半生が取り上げられている。小学校中退という学歴に関わらず、日本の植物学に大きな貢献をし、1957年には日本では最高の賞、文化勲章をもらっている。その人生を見ると、全てが植物学の研究であり、妻子、家族のことは二の次で、一種のオタクと考えても良い。

 

アジアの中では、日本人は突出してこうしたオタクの人が多い。もちろん欧米、特に英米はこうしたオタクが多いが、意外なことにアジア人は少ない。隣国の韓国の歴史を見ても、小学校中退の人が国の最高峰の勲章をもらうことは歴史上でもなく、牧野に匹敵するようなオタクもあまり知らない。一方、日本では牧野に匹敵するようなオタクはそれほど珍しくなく、世界的な彗星ハンターの本田実、関勉なども気狂いじみたオタクであり、身近なところでもテレビで活躍中のさかなクンもそうだし、ムツゴロウさんもそうである。魚、動物オタクである。牧野富三郎に近い人としては、民俗学者の南方熊楠が挙げられる。彼も和歌山中学卒業が最終履歴で、地衣類の研究で、のちには、昭和天皇に進講する名誉を得た。産業界で言えば、ホンダの本田宗一郎は、最終学歴は高等小学校卒であり、パナソニックの松下幸之助に至っては尋常小学校中退であった。二人とも、バイク、クルマあるいは電気オタクで、金儲けよりは、自分の好きなことに熱中した。子供の頃からプラネタリウムを製作していた大平貴之も、プラネタリウムオタクで世界最高峰のプラネタリウム、メガスターを作ったし、恐竜研究の学者は、アマ、プロ問わず、多くは恐竜オタクで、その裾野は広い。漫画家、それも創設期の漫画家、手塚修、赤塚不二夫、水木しげるなども、マンガオタクといえよう。世界的建築家の安藤忠雄だって、最終学歴は工業高校だし、今読んでいる染色家で織物作家の志村ふくみも。完全な染色、織物オタクである。欧米では食器といえば、磁器をさすが、日本では磁器だけでなく、陶器の多くの作者がいる。これほど陶器作者の多い国はなく、全てはその仕事に全力を費やしている。オタクである。」

 

アフガニスタン復興に尽力した医師の中村哲さんも、アフガニスタンオタクと呼んでいいくらい、最後は命も差し出したし、地雷除去に尽力する雨宮清さんも地雷除去装置開発オタクで、何度か死にそうになっている。いずれも宗教とは全く無関係で、もちろん金儲けとは真逆の生き方である。

 

こうした何かに夢中になると、それこそ寝食を忘れて熱中するような人物が、日本人には多い。おそらくアマチュアの天文学者、昆虫学者、植物学者などの数は、アジアでは日本がダントツに多いと思う。隣国、韓国、中国では、こうした金にもならないことに熱中する人も少ないし、何より社会がこうした人に寛容でない。自分の旦那が、毎夜、朝まで天体観測をして新しい彗星を探しているなら、おそらく韓国、中国では妻や周囲の人に理解が得られず、離婚されてしまうだろう。これが許されるのが欧米、おそらくイギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリアなど欧米諸国とアジアでは日本だけであろう。芸術家は、そもそも芸に対するオタクでなければいけないが、それをコレクションするのもまたオタクが要求され、日本にあるほとんどの民間の博物館、美術館はそうした芸術オタクが作ったものである。これについても日本以外のアジアでは個人美術館の数は圧倒的に少ない。

 

江戸時代にも、北斎のような自ら画狂人と名乗るフリークがいたし、伊能忠敬という地図オタク、アマチュアでありながら世界的に見ても高度な数学を研究した和算の関孝和、飛行機に挑戦した二宮忠八、105巻の百科事典、和漢三才図会を編集した医師、寺島良安、世界で始めて全身麻酔に成功した華岡青洲、解体新書を著した杉田玄白、本草学では小野蘭山、その弟子の木村兼カ堂などの業績はすごい。これらは皆アマチュアで、別に成功を望んだわけではなく、あくまで好きで研究していった。

 

こうして見ると、日本のオタクは江戸時代から連綿と続くものであり、ルネッサンスあるいは産業革命から始まる欧米のオタクと重なる。イギリスも多くのアマチュア研究家、蒐集家を生み出す国であるが、長く平和が続き、繁盛したビクトリア時代があったからだろう。一方、韓国では、李朝が長く続き、両班を中心とした階級社会なため、こうしたオタクが出る余地が少なく、それが今でも続いていて、あくまで金になるものにしか人々は興味を示さない。今後、日本も少子化で、ある意味、もはや昔のような繁栄した時代は過ぎてしまったかもしれない。しかしながら、日本のオタク文化は特に欧米人とは似通う面があり、今後とも数は少なくなるが、独創的な研究によるノーベル賞を日本人はとっていくだろうし、インスタントラーメン、カラオケ、コンピューターゲームに匹敵するような新しい概念のものを作り出すだろう。むしろ最近の若者を見ていると、私の時代よりさらに金や地位、名誉に無関心で、好きなことをする人が多く、和食、J-Pop、ゲーム、アニメに代表するソフトコンテンツが世界に広まり、日本はオタク文化の国になっていきそうである。りんごや野菜作りにも、すごい情熱を持ってオタク的に頑張っている人がいるが、これからは世界中から評価される時代が来るかもしれない。


 


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