2024年2月11日日曜日

アライナー矯正のシミュレーションは医療広告法違反か(誇大広告)?

 




インビザラインをしている患者のYouTube5ちゃんねるなどをみていると、これは小臼歯を抜歯しないと治らないだろうと思われる症例が多い。投稿者は、そこの医院を選んだ経緯なども語っているが、例えば、3軒の矯正歯科医院で小臼歯抜歯とワイヤー矯正の必要性を指摘され、1軒は一般歯科でここでは非抜歯とワイヤー矯正を、そして最後の一軒の一般歯科のところでは非抜歯とマウスピース矯正を勧められたとしよう。通常なら矯正専門医がすべて抜歯治療を勧めるのであれば、それが正しいはずであるが、どうも多くの患者は最後の歯科医を選ぶ。患者からすれば、歯を抜かなくてもいい、目立つ矯正装置をつけなくても治ると言われればそのまま信じるのも無理はない。

 

通常ならここで、おかしいと思うはずである。投資話で、元金保証、毎年20%の配当があると言われれば、これは胡散臭い話、あるいは詐欺だと思うだろう。ところが歯科医が言うのだから、そんな詐欺まがいの話はないと思うだろう。具体的な例で説明する。以前、あるYouTubeの投稿者へ、小臼歯抜歯をしなければ患者の主訴である口元の突出感は治らないと思われたので、コメントしたことがある。セファロ写真を撮ってもらい、その分析値の中のU1 to FH(SN)(上の前歯の傾き)という数値を聞き、これが標準値の110度よりどれだけ大きく、今後の治療でどれだけ変化するか聞いた方がよいと言った。矯正歯科医であれば、最も基本的な分析値であり、国家試験でも問われる分析で、歯科医なら必ず知っておく知識である。その後、投稿者が先生にその旨を質問したかわからないが、このYouTubeは更新されなくなった。

 

このケースの場合、どうやら最初の検査でセファロ分析もしなかったようである。セファロ分析は矯正科に入局すると最初にするトレーニングの一つであるが、半年くらいの学習期間が必要で、まず一般歯科医の場合はここで躓く。つまりセファロ写真も撮らないし、撮っても分析できない。結果、まともな治療計画が立てられないことになる。彼らは何も持って治療計画を立てているかというと、デジタル印象でのデーターをマウスピース会社に送り、その会社がコンピュータ上ででこぼこが治る予想をして、それにしたがってマウスピースが作られる。患者にすれば、画面上で今の歯並びが次第にキレイになっていく動画を見れば、疑わないだろう。実際ほとんどのケースはこの通りにいかない。

 

インビザラインの最も問題点は、治療後の結果をシミュレーションすることで、最初の状態から治療後の変化をコンピューターで見ることができる点である。これはあくまで作図であり、このようにいかない場合が多い。歯は上の部分、歯冠と歯根に分かれ、歯冠の大きさや歯根の長さも歯の動きに関与し、例えば、上顎中切歯は前後の傾斜や挺出はしやすいが、圧下はしにくく、犬歯は歯根が長いために動きにくく、大臼歯についても上顎は下顎より動きやすい。さらに骨が厚い、薄いでも歯の動きは変わる。こうした多くの要素以外にも患者の協力度、特にゴムの使用時間や、舌の癖も治療結果に関係する。そのためワイヤー矯正であれば、毎回、月に一度はチェックしながら、治療方針を変更する。インビザラインで治療を成功させるためには、何度もクリンチェックの変更が必要である。そうしないと目標通りの結果は難しいと思う。もちろんワイヤー矯正でも術前の状態から術後の結果をコンピュータ上でシミレーションすることは簡単だし、ベテランの矯正歯科医になるとほぼ計画通りの仕上げとなる。ただこうしたことをする先生は少なく、それは計画通りにならないこともあるからで、その場合は患者からクレームがくる。以前、顎変形症の治療計画において、術後の予想顔貌を患者に示すことがはやったが、術後、こうした顔にならないというクレームが多いせいか、最近ではあまりされていない。おそらく美容整形の分野でも術後の予想を強調することは少ないと思われる。

 

 医療広告法のガイドラインでは治療前後の写真は、「治療等の内容または効果について、患者等を誤解させるおそれが治療等の前または後の写真などの広告」は禁止事項とされている。また「あたかも効果があるかのように見せるため加工・修正した術前術後の写真などについては虚偽広告に該当する」となっている。ただし限定解除の要件、治療のリスクや副作用などの詳細な説明が必要で、治療前後の写真を掲載するためには、必ずしもこうした結果が得られないことを詳しく説明する必要がある。このことは広告のガイドラインであるだけでなく、もし治療結果についての裁判となれば、説明義務違反となる。患者からすれば、コンピューターのシュミレーションで、綺麗になると言われたので治療を行ったが、そのように動いていないという。インビザライン自体は、日本では未承認医療機器にあたり、よほど説明しても説明義務違反に相当する可能性がある。さらにインビザラインをしている先生の中には治療途中での契約解除は返金できないという人もいるが、契約解除は保証された権利で、それに伴う返金もしなくてはいけない。

 

YouTubeなどで、インビザラインを紹介する動画では、必ず治療前後のシミュレーションがあるが、これは誇大広告、医療広告法に違反していると思われる。厚労省などの正式な回答があれば、YouTubeからインビザラインの動画をなくすことができると思う。日本矯正歯科学会や、日本臨床矯正歯科学会などの団体が、厚労省に問い合わせ、その結果をYouTube側に通達すべきであろう。YouTube2021年には化粧品を中心に薬機法違反と思われ“シミが消える化粧品”、“ビフォーアフターの誇大広告”などの動画、55万件の動画を削除した。個人ではなく、学会あるいは厚労省の正式な回答があれば、シミュレーションを載せたインビザラインの動画は削除可能と思われる。このまま野放しにすべきでない。



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