2024年3月1日金曜日

インビザラインが危ない

 



インビザラインの母体、アライン・テクノロジー社の株価を注目している。昨年の11月に2018年以来最安値の185ドルになったので、一気に下降するのかと思ったが、少し持ち直し、今は313ドルになっている。それでも2021年の高値、737ドルに比べると半値以下である。そろそろ頭打ちしてきたようだ。

 

インビザラインについては、あまり好きにならず、このブログでも批判してきた。そもそも最初の咬合状態から最終の状態までを最初に決めて、アライナーを作製するのは不可能と思った。そのうち、歯につけるアタッチメントや頻回なクリンチェックをするようになったが、それでもワイヤー矯正のような応用や仕上がりは無理と思っていた。ところが尾島先生のYouTubeを見ていると、ここ二年ほど、アライナー矯正も格段に進歩し、まず最初に口腔内スキャナー、デジタル印象で咬合を見て、それをソフトで最終形態になるまで、歯を少しずつ動かしシミュレーションを作る。ここまでは従来のインビザラインと同じである。このあと3Dプリンターで形状記憶の性状をもつ材質で、アライナーを作る。せいぜい4、5回先を予測して作成していくため、症例の経過にそって治療法を変えられる。

 

ワイヤー矯正においてもそうであるが、同じようなフォースシステムを使っても歯の動きが個人によって全く違っていて、患者個人によって治療法は変わるし、ストレートワイヤーテクニックといってもワイヤーベンディングがほとんどの場合に必要である。実際にアライナー矯正においても最初の計画通りに歯が動く確率は50%程度と言われ、何らかの治療方針の変更は必ず必要といえよう。そうであれば、数回ごとに印象をとって、その都度、治療方針をたて、新たなアライナーを作製するのは理にかなっている。

 

さらにいうとアライナー作製の技工料は、今はいくらになったか知らないが、一症例で30万円ほど、ケースが多くなり割引が高くなってもこの半分、15万円くらいかかる。ワイヤー矯正においてはブラケットやワイヤーの材料費は全て込みで10万円かかることはない。通常は5万円以下である。年間百症例のインビザラインを注文すると技工代だけで、年間2000万円かかることになる。これをインハウス、自分の医院で設計し、作製すれば、材料費のみとなり、ワイヤー矯正と同様の材料費となる。

 

調べてみると、まず口腔内スキャナーは300万円程度、画像ソフトの値段はわからないかったが、3Dプリンターは200-300万円くらいで、材料費は12万円程度で、おそらく1000万円もあれば、設備は整えられ、診療室でほぼすべての作業ができる。経営者感覚でみると、毎年100症例のインビザラインケースがあるところでは、ほぼ一年で設備費は回収できる。通常、設備投資、特にこうしたデジタル機材は陳腐化が早いので、5年程度で設備費の回収が必要であるが、おそらく年間20症例以上であれば十分に回収可能である。

 

自分のところでアライナーを作るということは、コストの問題だけでなく、治療精度も高まるし、治療方針修正による発注ロスも減り、ますます個別化が必要な矯正治療分野では、デメリットよりメリットの方がはるかに高い。実際、アライナ社が持つ特許との兼ね合いは不明であるが、今後、世界中のインビザラインユーザー、それも大口の歯科医からの注文がなくなると、アライナー社自体も存続が厳しくなる。年間20症例以下の小口の歯科医院からの注文だけとなる。さらに技工所と連携すると、製作のみを依頼することができ、わざわざ海外の会社に注文する必要もなくなる。

 

私があと10年若かったら、是非とも取り入れたい方法で、おそらくは従来のワイヤー矯正とのコンビネーションも可能であり、抜歯症例、アンカレッジ、埋伏歯の牽引、骨性癒着歯、トルクが必要なケースなど、細かい治療法をアライナー矯正でもできると思われるし、無理なら一部ワイヤー矯正を付加し、それに沿ったアライナー設計をして自院で作れば良い。被ばく線量については気にはなるが、CT画像を組み込めば、より精度の高い治療が可能であろう。もちろん、ソフトを使ってシミレーションをする場合は、ワイヤー矯正についての豊富な経験が必要であり、簡単であるということで参入した一般歯科医は、この時点で排除される。おそらくインビザラインの技工料金は下がる可能性は少なく、矯正治療料金も百万円程度はするであろうが、インハウスによる治療では技工料が下がるために、安い治療費にもできるし、何よりも患者の求める結果により近づける。インビザラインと一緒に一般歯科医での矯正治療も自然と淘汰されていくだろうし、私はそれを望んでいる。

 


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