2026年5月2日土曜日

日本のオタク文化


以前、昭和12年、イギリス、ロンドンに飛んだ朝日新聞社の神風号のイラストを描いた。太平洋戦争以前の飛行機の方が、機体が洗練されていないので面白い。この神風号については、イギリス側の鮮明な写真は多く残っていて、また副操縦士、堀越賢爾についても興味があったので、以前のブログでも取り上げた。イラストの参考本としては、2007.8に発行された航空ファン「日本人が熱狂した大飛行 神風号とニッポン号」を持っているので、それに載っている写真を使った。東京、立川飛行場を出発したのは昭和1246日の午前2時の真夜中であった。滑走路を強力なアメリカのスペリー社の探照灯で照らし、出発した。この直前の画像が航空ファンに載っている。この写真は朝日新聞社の資料提供となっているが、他の多くの写真は田村俊夫という方から提供された。

 

この田村俊雄という人を調べてみると、東京の会社員の方で、飛行機関係の本を集めるのが趣味で、国内のみならず海外でも飛行機関係の資料を集め続けた。そして「J-Bird写真と登録記号で見る戦前の日本機」という大部の本を出版した。昭和20年までのすべての民間飛行機の登録番号順に機名、愛称、エンジン、所有者などを網羅した究極のオタク本と呼べる。こうしたミリタリーオタクと呼ばれる人は日本には数多くおり、極めて狭い分野の研究を行っている。田村さんは、その一人である。映画監督の宮崎駿さんもミリタリーオタクであるが、それ以上にすごいのは片渕須直監督で、日本陸海軍機塗装の第一人者である。当時の機体内部色を自分で再現しようかというほどの入れ込みで、こうした細部にこだわるアマチュアの研究者が多くいて、ミリタリーものを出版すると多くの間違いが指摘される。

 

他国のことはそれほど知らないが、航空関係の図書は欧米のものが多く、航空史、航空機のアマチュア研究者も多い。それに比べてアジアでは、こうしたアマチュアのオタク研究者は少ないように思える。アジアでは日本が唯一と言ってもよかろう。航空ファンが創刊されたのが昭和27年で、すでに74年の歴史を持ち、プラモデル製作も含めて日本の飛行機ファンの数、年齢層は広い。おそらく韓国でも中国でも飛行機が好きな人は大勢いるが、韓国で航空関連の雑誌が創刊されたのが1989年、中国でもアマチュア向けの世界航空が出版されたのが1999年頃、台湾には民間航空を主として扱った世界民航雑誌が1997年に創刊された。そのほかではタイの航空専門誌は2013年、ベトナムは2025年、インドネシア、フィリピンにはない。日本以外のアジア諸国では、空軍の歴史が短いのが理由の一つである。

 

ここからは勝手な推理であるが、飛行機、ミリタリー関係についてのオタクは日本では古くから大勢いたが、日本以外のアジアでは、ごく最近になって出始めたくらいで、こうしたアマチュアの趣味一般についても、数、内容についてもアジアでは日本が突出しているように思える。書店の雑誌コーナを眺めれば、あらゆる種類の趣味雑誌が並んでいる。そして歴史が長い。自転車専門誌のサイクルスポーツも創刊が1970年、自動車雑誌になるとモーターファンは1925年創刊、カーグラフィックは1962年とすごい歴史を持つ。盆栽に至っては大正十年創刊という盆栽という雑誌もあった。こうした趣味を扱った雑誌の背景には、趣味を楽しむ多くの人が存在し、書店に並ぶ趣味の雑誌を数と歴史を考察すると、日本というのはよほどオタク、趣味人の多い国だと痛感される。

 

日本では、江戸時代という平和で文化的な時代があり、庶民の中にも趣味を楽しむ人が多かった。とりわけ驚くは算術と本草学(博物学)で、どちらもひどく高度な趣味であるが、町人、農民に中にも多彩な趣味人がいて、全国的に盛んであった。もちろん茶道、華道、などだけでなく、三味線や琴も習う人、俳句や短歌を嗜む人、書を愛でる人は普通にいた。こうしたオタク文化は江戸時代に発展した。他のアジア諸国については詳しいことは知らないが、それでもこうした多様多種の趣味を庶民が持つような文化は日本以外になかったのではなかろうか。江戸時代、庶民は絵画を愛し(浮世絵版画)、詩を吟じ(俳句)、草木をめで(園芸)、音楽を奏で(三味線、琴)、演劇を楽しむ(歌舞伎)、贔屓のスポーツを見る(相撲)、お笑いを楽しむ(落語)、ペットを飼う(犬、猫、金魚)、などなど、これらの趣味の多くは今でも残っている。それに対して朝鮮の庶民の趣味といえば、演劇ではタルチュム、パンソリなど素人劇に近いプリミティブなもので、また音楽でもサムルノリ、ミノと呼ばれる民謡のようなもの、文芸においても時講と呼ばれる俳句のようなものがあったが、文盲率の低さで日本ほど活発ではなかった。

 

広い意味では日本文化は今のアニメ、ゲームの繋がるオタク文化の系統である。韓国では伝統文化として日本の俳句に当たる時調というものがあるが、数百万人という俳句人口に比べて愛好者は格段に少なく、ヘグムと呼ばれる弦楽器も日本の三味線人口に全く及ばない。






 

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