2010年5月23日日曜日

第26回東北矯正歯科学会



 本日、第26回東北矯正歯科学会から帰って来た。今回は、岩手県盛岡市のアイーナというところで開催された。えらくモダンな建物で、3階、4階は岩手県立図書館で、少し時間があったため内をのぞいたが、インテリア、蔵書とも申し分なく、うらやましく思った。

 さて今回の学会テーマは「筋の機能を生かした矯正治療」ということで、呼吸、咀嚼、舌の機能と咬合、顎発育との関連を多方面から捉えた発表が集約され、久しぶりにいい学会であった。
5月22日の教育講演では奥羽大学の氷室教授から機能的矯正装置と脳活動の関連などを示す最新の研究結果が報告された。当院でも用いているツインブロックと呼ばれる下あごの促進を行う機能的矯正装置と脳活動、口唇の動き、皮膚のテンションなどの関連を示された。Moss博士のFunctional matrix theoryという有名な理論があり、機能が形態に影響するというものがある。その理論のひとつとして上あご、下あごは周囲の筋肉、皮膚などの機能に成長発育が影響されており、周囲筋活動、皮膚の緊張などにより顎骨の発育が変化するというもので、多くの動物実験ではその理論は証明されている。ただ臨床では、なかなか確実には証明できず、安定した効果的な活用ができないのが欠点である。

 学会2日目には石野由美子先生による「表情筋訓練を取り入れたMFT-モデルスマイルエクササイズ」という講演があった。主として舌、口唇の最新のトレーニング法が紹介された。MFT、主として舌の機能訓練法は随分前から行われていたが、訓練法が複雑な割に効果が少なく、最近では私も積極的にはしていない。今回の石野先生の方法は、例えば歯を矯正治療で後退し、理論的は口唇をそれに伴って後退すべきだが、それほど下がらない場合があり、こういった症例ではトレーニングにより美しい口唇を作ることが可能なようで、是非今後は試してみたい。患者さんは美しい歯並びではなく、美しい笑顔を求めるのであり、こうしたトレーニングは治療の一環として進めるべきものと感じた。

 愛媛のきむ矯正歯科クリニックの金俊煕先生は「乳幼児期の食生活が及ぼす咀嚼機能の発達障害とそのキャッチアップ」というテーマで講演された。金先生は大学の後輩で、個人的には非常によく知った先生だが、0歳の口唇口蓋裂児の患者さんが200名以上いるというのは驚いた。内容的には大学時代、伊藤学而先生ともよく話し合ったものであるが、実際0歳という患者は私も見たことがなく、臨床を通じてより具体的な指導法になっており、全国の保健関係の人にも聞いてほしい内容であった。数年前、私も金先生が開業医でありながら、大学の形成外科と協力して、口唇口蓋裂児の0歳からの管理を実践しているのを聞き、やってみようかとも思った。ただ0歳児から印象をとり、ホッツ床を入れるのは、なかなか難しく、リスクも伴う。なによりも開業医の立場でこれだけ長期に管理するのは経営的、精神的にも大変であり、本来は大学病院で行うべきかと考え、結局は断念し、今に至っている。金先生の努力には敬服するとともに、これだけ実際の乳幼児期の患者をみている矯正の先生も日本ではいないと思われ、今後の研究に期待したい。

 学会最後の講演は東京の近藤悦子先生の「舌、口腔周囲筋、咀嚼筋および頸部筋活動の正常化と鼻呼吸の確率がKey Factor」という内容をそのまま現した講演であった。過去、2度ほど先生の講演を聞き、ガムを用いた舌機能訓練法は私も臨床に取り入れているが、今回より詳細な訓練法が呈示いただき参考になった。矯正治療では、治療後の後戻りという宿命的な問題があり、その解決法として保定装置を一生続けるとうばかげた方法が一般的である。一生使うというのは現実的には不可能なことで、これは後戻りの責任を患者さんの責任に転嫁しているといわれても仕方がない。口腔周囲組織機能の正常化、とりわけ鼻できちんと呼吸できる状態にもっていくのが、後戻りを防ぐ唯一な方法であることを、長期症例を用いて説明いただいた。近藤先生の若々しいパワーに、こちらの方も力を得た気分になった。きれいな歯並びを作ることは、美しい笑顔をつくるだけでなく、口腔、鼻機能の正常化を促し、健康で活動的な患者さんの人生を作ることにも寄与できること改めて教えられ、大きな刺激となった。

 機能の問題は我々矯正歯科医にとっては、重要なものであるが、一方、矯正装置による歯の移動とは違い、研究も臨床も扱いが非常に難しい側面をもち、つい忙しい日常臨床では軽視される傾向がある。矯正治療は形態と機能の正常化を通じて患者さんの幸福、満足を追求する学問であり、医療である。矯正の本場であるアメリカではドライに割り切り、矯正医は形態の改善にのみ責任を持ち、それに対する報酬を得るということであるが、形態を治すだけでいいのかという真摯な臨床態度が今回の発表者の共通した想いである。

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