2010年11月28日日曜日
藤岡紫朗
藤岡紫郎は、明治時代にアメリカ、ロサンジェルスで活躍したジャーナリストで、その生涯をみると、先にTBSで放送された橋田壽賀子原作「99年の愛 Japanese americans」のモデルと似ている。
明治12年(1879)に弘前市徒町川端町に生まれ(明治2年地図では確認できず)、弘前中学校を卒業後は、犬養毅の書生となり、早稲田大学に進む。海外への雄飛やみがたく、明治30年(1897)に渡米した。17歳であった。渡米後、記者になろうと決意し、テンプルカレッジ、コロンビア大学で学び、日露講和会議に際しては「日本新聞」の特派員として記事を送っている。おそらく郷土の先輩陸羯南からの依頼もあったのであろう。その後は、シアトルの日刊紙「北米時事」の主筆となる。藤岡の妻千代子(旧姓 袴田)は弘前女子高等師範(弘前高等女学校の間違いか 現弘前中央高校)卒業後、同校で教鞭をとり、「本校よりは袴田千代子のごとき秀才を生めりとて後進の学生に誇った」と言われるほど優秀な才女であった。
その後は、現在でもまだあるアメリカ最大の日系新聞「羅府新報」の主筆をしていた。妻千代子との間には、12人の子供に恵まれたが、愛情深い家庭だったという。アメリカにいても日本人として生きてほしいという願いを持つ藤岡は子供の教育は日本でと考えた。アメリカ留学時代に親しくなった郷土の笹森順造に相談して、長男の俊朗を弘前の東奥義塾に留学させた。当時、同じような日系二世4名もアメリカからやってきて、東奥義塾に入った。昭和4年のことである。当時、東奥義塾はアメリカに留学していた先生も多く、こういった日系二世を受け入れる環境に恵まれていた。そのため遠山則之、茅野恒司、島野好平などカリフォルニア州を中心とした日系による東奥義塾「維持会」が組織され、変わったところでは俳優の早川雪州など50名ほどのメンバーがいた。ちなみに笹森はアメリカ在住時に、南加中央日本人会会長をしていた藤岡に請われ、その書記長をしていただけでなく、青年会剣道部の師範をしていた。郷土が同じだけでなく、早稲田の同窓という点でも二人は親しかった。
昭和3年発行「青森縣総覧」(東奥日報)には、海外在留縣人状況として、「藤岡紫朗氏 新聞主幹弘前出身 ロスアンゼルスに在って羅府新報の主幹をしている。かっては北米時事新報の主筆をしていたこともある。在留同胞間に人望高く、南加州の日本人会長をしている。また以前農作物種子会社の社長をしていたこともある。在留邦人の便宜を図ることに努力している。現在、東奥義塾と連絡をとり、学生の留学に関して尽力している。在米同胞事情の著述もある。官界すなわち領事館においても藤岡氏の意見を尊重し、種々の外交上のこと等に関して相談をうけている。東奥義塾より早大出身。十人の子福者である。」となっている。出身学校は弘前中学の間違いか。「剣道塾長 笹森順造と東奥義塾」(山本甲一 島津出版 2005)では藤岡の父は明治19年ころに青森県議会議員になったとしているが、「青森縣総覧」に該当する名前はない。明治25年第二回弘前市市会議員選挙で三級当選者に徒町藤岡知言の名前が見られ、おそらく紫朗の父のことであろう。明治2年地図では、徒町には藤岡の名前はなく、富田足軽町に藤岡八十八、茶畑新割町に藤岡鋳吉、上鞘師町に藤岡増三郎の3家しかない。「日系ジャーナリスト物語 海外における明治の日本人群像」(林かおり 信山社)には藤岡紫朗をくわしく取り上げているが、その中で「彼は士族(正確には郷士)の出身であることを誰にも明かさなかった」としていることから、郡部の豪農の出身で維新後に御徒町に住んだのかもしれない。
昭和16年の太平洋戦争においては、日本人会の有力者であった藤岡はその日のうちにFBIに捕らえられ、敵国外人収容所に入れられる。昭和17年7月には胆石が再発、悪化したため、家族のいる強制収容所に移される。四男の光夫は人種差別の不条理に対して、自らアメリカに忠誠を尽くすことで払拭しようとして二世部隊442部隊に入隊し、1944年のヴォスゲヤの戦いで戦死する(テキサス歩兵大隊救出)。収容所での「忠誠登録」のやり取りなど、このあたりがTBSドラマのシーンと非常に似ている。
「義において米国を愛す。情において日本を愛する」という言葉を愛した。最後までアメリカ国籍を取らず、昭和32年に日本人としてアメリカで亡くなった。
*弘前市立図書館にある「青森縣総覧」を見ると、明治33年以降(昭和3年まで)のアメリカ留学生115名の名前が記載されている。山田良政、純三郎の兄弟の二男の晴彦、四男四郎の名前もあり、アメリカに留学したことがわかる。渡米した順番に記載されているようで、四郎に続いて、晴彦が渡米したようだ。二人の兄弟がその後、どうなったか調べているが、全くわからない。
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