2013年5月27日月曜日

第29回東北矯正歯科学会大会


 先日、ようやく大会長をしている第29回東北矯正歯科学会が終了した。この学会は、東北地域の矯正歯科医が集まる学会で、東北にある3大学と青森、盛岡、宮城、福島、山形、秋田の各県が持ち回りに開催する。青森県では過去に青森、弘前、八戸で行い、今回は私が大会長ということで、無理を言って弘前文化センターで行うことにした。弘前では18年ぶりの開催である。

 参加者数は200名前後が想定され、各種の委員会にも部屋が必要なため、弘前で学会が開催できるのは、ここくらいしかない。そのため、医科系の多くの学会がここで行われる。弘前城の側にあり、ロケーションもよく、風格のある私の好きな建物である。古くなるとすぐに新しい建物を立てたがる自治体も多いが、そんな必要は全くなく、古い建物を現状に合わせて改善して使えばよい。そういった意味では弘前文化センターを新築する必要はなく、むしろむかし藤田さんが寄贈した弘前公会堂が今あったらなあと思うぐらいである。

 ただ学会を行ってみて、驚き、失望したのは、学会運営の最も大事な機器、プロジェクターが使えなかったことである。何度、機種を替えても画面の左に黒い線がでる。ウインドウ、マック関係なしである。結論としてこのプロジェクターはあまりに旧式で現行のコンピューターと同期していないということになった。急遽、友人から借りたサブのプロジェクターを用いて学会運営を行った。係に聞くと、こういったことは度々あり、なんせホール備え付けのプロジェクターは20年前に航空電子という企業から寄付してもらったものだという。30万円程度のプロジェクターでも十分にきれいに映るのだが、未だに予算がなく、更新されないようだ。

 弘前市は、文化、観光都市として、県外から人が集まる学会、集会を熱心に誘致している。それにも関わらず、施設の基本中の機器がこうなのでは全くおそまつとしか言えない。改善を期待したい。

 今回の学会のテーマは「Artとしての矯正歯科技の視点からー」とした。これは本来学術大会、つまり学(Science)と術(Art)の大会であるはずが次第に大学主導のScienceに力点が置かれるようになったためで、たまにはArtを主体とした学会もあってもよいかと考えた。

 基調講演には弘前大学名誉教授の松木明知先生にお願いした。大変、感銘深い講演で本当に感動した。アメリカ医学教育の基礎を作り、現代医学でも大きな尊敬を得ているウィリアム・オスラーの言葉に「Medicine is a science of uncertainty and art of probability(1950) 」がある。日本語の訳では「医学は不確定性の科学であり、確率の学問である」とされているが、これは誤訳に近い。松木先生は、これは私の理解した例えでいえば、ピロリ菌と胃潰瘍の関係がはっきりしてから、胃潰瘍の原因、治療法は全く変わった。それまでの胃潰瘍に関する数多くの論文、つまり科学があったが、これが一瞬にして間違いとなったのである。これが医学における科学のuncertaintyである。科学の進歩により、診断、治療法がどんどん変わっていくのである。こういった不確定なもの、さらに日々膨大な科学研究、論文に中から真実を探しだし、それを患者に応用して病気をなおす、これがArtなのである。さらに患者ひとりひとりに人格があるように同じ薬を使っても、その効果はあくまで平均値の結果であり、それを個々の患者にどのように使うかは医師、歯科医のこれまでの臨床経験や技術などのArtの部分が重要となる。

 若い人達にどのようにしてこういったArtの部分を教えるのかは非常に難しく、松木先生の言うように、医学部6年教育、それも1年次から専門教育をするやり方はどうも間違っているかもしれない。アメリカのように一般大学4年を卒業し、教養をつけた上に専門教育4年を受けた方がより幅広いArtをもった医師、歯科医ができるのかもしれない。

 何とか、学会会期中は晴天で、多くの参加者もきていただき、大成功に終わってほっとしている。

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