2015年5月4日月曜日

台湾 リンゴ輸入規制


 台湾は、青森県産リンゴの最もお得意さんで、輸出も多い。東日本大震災後、放射線被爆の問題もあり、台湾への輸出量も減ったが、ここにきてようやく回復して、以前の輸出量に戻って来た。ところが台湾の食品衛生当局は、今年の5月から全食品について都道府県ごとの産地証明書の添付の義務づけなど、輸入規制の方針を強化する方針を打ち出した。これを実行されるとリンゴの輸出には煩雑な手続きが必要となり、再び輸出量の落ち込みが見込まれるため、規制撤回に向けて国、県はじめ各種団体が運動を開始した。

 青森県は福島原発による放射線被害を全く受けていない地域であり、こういった不可解な規制はもってのほかと考える人も多いと思う。ただ以下のブログで示されているように、これをただのイチャモンと考えるのはよくない。


 台湾では、小さいながら美味しいリンゴが採れるし、隣国の中国からも安いリンゴが輸入されている。価格がその数倍もする青森リンゴが喜ばれるのは、おいしいだけでなく、安全であることが理由であり、ましては贈呈用であれば、こういった安全性は最も大事なことである。今回の台湾の規制の発端は、これまで規制を受けていた福島、茨城、栃木、群馬、千葉からの食品規制を産地偽装したことである。同地からの食品は輸出しないと約束しておきながら、産地を偽装して同地の食品を台湾に輸入したからである。さらに行政の対応もまずく、日本への不信感からこういった規制の方向に向かったのである。責任はこちらにある。

 こちらの非であるなら、まず謝り、相手の要求、今後こういった事態が起こらないように対処するのが筋であり、そもそもの約束が非科学的であるという問題とは別である。約束を守らなかった点が問題となっている。一部の業者による失態であったとしても、その責任はすべてこちらにあり、今後ともおいしく、安全というリンゴを輸出するためには、きちんとした対応、安全を数値で測定し、呈示することが求められる。コストもかかるが、これは青森県、弘前市で独自に農家の負担がかからない方向性で、台湾の人々の不信感を取り除く必要があろう。さらに前述したブログでも述べられているように、世界基準の安全性、生産管理をきちんと行うことで、青森県産のリンゴの価値をさらに高めるきっかけにもなる。

 食品の安全性に対する過敏な反応は、狂牛病での日本人の反応を思い出してほしい。アメリカの輸入牛を食べたからといって狂牛病になる可能性は限りなくゼロであるにも関わらず、一気にアメリカ牛、さらに肉牛自体の消費が落ち込んだ。そのため、日本政府はアメリカに全頭検査を要求したが、アメリカ人からすれば、自分たちは何も考えずに食べているのに、日本人は何て過敏な反応を示したと思っただろう。台湾での今度の反応は、さらに約束を守られず、産地偽装したのだから、当然とも言える。

 私のリンゴが好きでよく食べるが、家内が言うには皮には残留農薬が含まれるので、皮をむいて食べることにしている。もちろん、皮に残っている残留農薬はわずかで健康に問題はない量であるが、それでも皮をむくことでほとんど減らせるなら皮をむいて食べるであろうし、そうした食べ方をしているひとは青森でも多いと思う。ただ世界で皮をむく食べ方は少数派で、皮ごと食べるのが一般的である。こういった観点からすれば、放射能だけでなく、残留農薬などを含めた安全性管理をきちんとした数値で測定し、それを消費者に呈示することは、青森県産リンゴのブランド化には大事なことであり、今回の規制を反対するのではなく、むしろこの規制を活用して積極的な安全性のPRの機会としてとらえる必要があろう。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

私の会社は、食品製造機械のコンサルタントをしております。同時に、台湾に、リンゴジュースを中心とした日本の食品を台湾へ輸出しております。

台湾の新たな食品輸入規制なんですが、主として農林水産省が、県や生産者に、台湾政府の正確な意図や規制内容を公開していないので(今月15から、新たな規制強化が施行されるというのに、どういう神経なんだか・・)、青森県のリンゴ生産者を中心に、”リンゴの輸出に支障が出るのではないか?”という心配をしておられる方が多いようですが、少なくとも、生のリンゴとか、米といった、日本からの輸出前に、農林水産省の植物防疫所の検査を受けて、検査証明書が発給される品物については、この証明書に、原産県名が書かれているのが普通ですので、新たな産地証明書とかいったものは必要がありません。

これは、私がそう言ってるのではなくて、台湾の衛生福利局(TFDA)が、新規制に関するQ&Aの中で、明確に、そう述べています。農林水産省は、このQ&Aを見ていることは知っているんですが(当然でしょうけどもネ・・)、なぜか、この点を公表しておらず、(私ら1民間企業が教えてもらえないのは、まぁ、しょうがないんでしょうが)、県、中でも青森県のような、日本から台湾や世界へのリンゴ輸出の9割を占める県の担当部門すら、何も知らされていないようで、8日には、県主催の情報交換会が青森市であったようですが、その席でも、”新たな申請が必要になるようなら、迅速に手続してもらえるよう、国に要望してほしい”というような、私から見れば、全く、的外れの話が中心だったようです。新しい手続というのは、生リンゴに関する限り、(台湾側が態度を硬化させて、今の考えを変えない限り)何も必要ありません。

むしろ問題なのは、植物防疫所のような、国の機関で検査を受けない食品です。

同じリンゴでも、例えば、リンゴジュースについては、輸出に際して、植物防疫所のような国の検査機関が検査をするわけではないので、検査証明書も発行されず、このまま行くと、15日から、台湾へ輸入できなくなる可能性が大きくなります。

今回の新規制については、日本国内の一般的なニュースの伝え方としては、”台湾が生産県を示した産地証明を要求する”という形で伝えられている場合が殆どですが、正確には、その前に、”日本の政府(国、または地方)が発行した”という要件が付きまして、現状では、国も県も、そういった公的な産地証明を出さないので、いくら手続面で頑張ろうと思っても、誰も台湾から要求される産地証明を提出できる人は居ない・・ということが理論的に証明されてしまってる形になっています(現状で)。

インターネット情報を見ると、中には、”商工会議所に産地証明を出してもらえば?”と言っておられる方がありますが、商工会議所の出す産地証明は、あれは、正確には、”原産国証明”であって、従って、”日本(国)産”としか書いてないし、書けないんです。

日本商工会議所の国際部という所に聞いた限りだと、”県名まで書くのは、条約上・法律上、何も問題は無いが、商工会議所が出す産地証明は、国の指示・依頼に基づいて書くものなので、国からの指示が無いのに、商工会議所が勝手に生産県名を書き足すわけにいかない”という説明でした。

新規制の施行まで、あと1週間もないのに、そういった具体的な対応方法が、今も(国から)発表されず、青森県までが、見当違いの右往左往をしているのを見ると、”この国、どうなっちゃうのかネ?”という心配が非常に強くなる次第です。

確かに、台湾の今回の新規制は、規制する地域や産品について、奇妙な面もありますが、とにかく、台湾のお客さんに、日本の食品を買って食べて頂きたいと思う私としては、手続が少々、面倒でも、そんな事は構わないから、要求される産地証明だろうが何だろうが、提出して輸出を継続したいわけですが、今のところ、国も県も、”台湾、ケシカラン!”と言うのみで、何も具体的な対応方針が示されない(示せない?)ということになると、コメントのしようがない印象を受けます。誤解を恐れずに言えば、台湾が要求する産地証明を発行できる権限のある唯一の当事者(国や県)が、他人事のように、”何とか問題が解消しないかナァ・・”と眺めてる・・というのは、何とも歪んだ構図としか言いようがありません。

先人達が大変な苦労して開拓してきた海外の市場を、我々の世代が、消費者無視や台湾の意図に対する理解が不正確なばかりに、対応を誤り、破壊してしまったのでは、先輩達に非常に申し訳ないような気がします。

広瀬寿秀 さんのコメント...

大変貴重な意見ありがとうございます。今回のブログは引用したTさんのブログを紹介する目的でした。農産物の輸出等には全く門外漢の私にすれば、最初、新聞、テレビでの報道で台湾の食品規制を知り、非科学的で何をいまさら言っているのだと考えていましたが、見方を変え台湾の消費者からみれば、高級品リンゴに高い安全性を求めるのも無理ありません。ただ非科学的と反対するのではなく、さらにブランド化するには、逆に積極的に利用すればと考えたわけです。
匿名さんの仰るようなことは、県、市の担当者も知らないようですし、地元新聞でもそういった観点からの報道はありません。杓子定規に考えず、相手が産地照明が必要なら、青森県が独自にきちんと調査して発行すればと単純に考えます。今後の迅速な対応を期待します。

匿名 さんのコメント...

昨日、投稿した者です。

おっしゃる事は、よく分かってるつもりです。
私が言いたかったのは、
●米や生のリンゴについては、今回、何の規制強化もされません。
という事です。

まぁ、台湾への輸入時、台湾での税関検査で、従来、5%くらいしか実際には検査されていなかったのが(抜取検査)、当面、100%、現物の検査をするようなので、時間や費用が全く変わらない・・と言えば、ウソになるかも知れませんが、手続としては、何も変わらない(強化されるわけではない)という事です。

なので、”安全な品物について、わざわざ新たな規制なんかしやがって、台湾、ケシカラン”という話は、全く当てはまらない気がします。

ついでに、今回の新規制の発端になった、台湾での産地偽装問題についてコメントしますと、これは、実にクダラん話で、個人的には、こういうのは、”産地偽装”ではなく、”産地誤称”というべき事件のように思います。

日本で容器に入った食品を買うと、日本語のラベルが貼られています。これを見ると、最低、生産者か、販売者か、どちらかは、書いてあります。
日本のルールですと、販売者が書いてないのは許されませんが、生産者が書いてないのは、特に問題がありません。

全体を網羅して書こうとすると話がヤヤコシィので、一番、分かり易い例で説明すると、例えば、みんな知ってる、ネスレ日本という食品製造会社があります。この会社、本社は神戸(兵庫県)でして、この会社の製品の場合、ラベルには、生産者名;ネスレ日本㈱K、所在地;神戸市中央区・・などと書いてあります。

これを見た”普通の人”は、”あぁ、神戸のネスレという会社が作ってる製品なんだ・・”と思うのが普通だと思います。が、日本の制度では、そうじゃァない・・と・・
この場合、記載されている所在地は、ネスレ日本という会社の本店の所在地(登記上の住所)でして、ネスレ日本㈱の後ろに書いてある”K”というのが、製造所固有記号と言われるもので、実際の製造工場を現しています。公式には公表されていませんが(法的に公表する義務が無いんだったと思いました)、例えば、”K”は霞ヶ浦工場の”K”(茨城県稲敷市)というワケです。

なので、この日本語のラベルを見ただけでは、
●ネスレ日本㈱という会社が作ってる
●その会社の登記上の所在地は、神戸(兵庫県)だ
●実際に品物を作っているのは、”K”という製造所固有記号の工場だ
という事しか言えないわけです。

さらに、プライベート・ブランドなどの商品の場合、製造者ではなく、販売者と製造書固有記号しか書いてないものも多く、そんなのは、何県で誰が作っているか、ラベルを見ただけでは、全く分からない・・という次第です。

誤解を避けるために言いますと、それが、現行の日本のラベルについての制度でして、無論、ネスレ日本が、違法な事をやっているワケでは、全くありません(完全に適法で、かつ、一番、一般的が表示方法です)。

さて・・・
ここで、台湾の食品輸入業者に登場してもらいましょう・・
彼は、日本で食品を仕入れて、これを台湾へ持って行き、台湾で販売して稼ごうと思った・・。そこで、日本で品物を仕入れて、貼ってある日本語のラベルを、良く見て、その通りに正確に中国語のラベル(輸入ラベル)を作成し、貼って、台湾へ輸入した・・と・・
で、どうなったかと言うと、産地として、日本語のラベルに書いてある通り、”神戸産”と書いちゃった・・。だけど、実際に商品を作っていたのは、輸入が制限されてる地域(茨城県)にある、”K”工場だった・・と・・

で、ある日、突然、”オマエは産地偽装した!”と言われてしまった・・・

これが、今回の”産地偽装事件”と言われているものの大多数の例なんです。内閣府の食品安全委員会というもののHPが台湾の衛生福利署(TFDA)が公開している、産地偽装の例の一覧表を紹介していますが、これを見ると、まぁ、私の見るところ、少なく見積もっても90%以上は、こうした日本のラベル表示制度に振り回されて、誤った表記をしてしまった・・という物のように見えます。

少なくとも、今回の産地偽装事件で捕まった台湾の輸入者の大多数は、よもや自分が産地偽装してしまってるとは、夢にも思っていなかったはずです。

日本国内でも、このラベル表示制度は、混乱を引き起こす場合があり、たとえば数年前に、アクリフーズという会社の従業員が冷凍食品に農薬を混ぜた事件では、この商品、マルハニチロという会社の商品として売られていたために、販売者(製造者ではなく);マルハニチロ 製造所固有記号;(忘れました)としか書いてないので、市場で食品を回収する際に、どれがアクリフーズが作った危ない物なのか、区別がつかず、大混乱し、結局、マルハニチロの商品、全部を回収する騒ぎになったりしてます。

去年の国会に、消費者庁が、こうしたラベルの表示ルールを変更する法案を出してましたが(実際の生産者や生産地がわかるようにしよう・・という趣旨だったと思います)、我々が選んだ国会議員の皆さんが、おしなべて反対で、法案、フッ飛んでます。
スーパーなどのプライベート・ブランド商品なんかでは、実際の生産者を知られるのは、非常に具合が悪いことのようですし、生産者の方でも、自分が作っているのを知られるのは具合が悪かったりするらしいです。その他にも、生産者が分かるようになると、大阪名物が、実は石川県で作られているのがバレてしまうから反対という例とか、聞くと面白い話がイッパィありました。
とにかく、日本は、実際の生産者・生産地をラベルには書かない(正確には、”書いてあるとは限らない”)・・って事で、今日に至ってます。

●日本の食品では、ラベルに書いてある販売者/製造者・その住所は、実際の製造者・製造場所と異なる場合がある
●実際の製造者・製造地を公開する法的義務は日本では、無い
●だけれども、台湾の制度としては、一部地域の産品は、輸入を規制しなくちゃいけない

この状況で、どうやって、輸入制限されている地域で生産された食品輸入を防止するか?

結果、台湾は、昨年10月末に、一度、今回と同様の新規制を公告し、今年の初めから、施行することになっていました。しかしながら、今回と同様、”日本の政府が発給した”産地証明を要件にしたため、日本政府の協力が得られず、新規制、宙に浮いてしまって、台湾、困ってたんだと思います。

その状況で、3月に、その(偽装とも言えない)産地偽装事件が発覚したので、そうなったら、そりゃァ、もう、台湾の行政としては、国の制度として存在する規制を、これまで実務上の困難から、実施見合わせして居たところ、産地偽装という実害が発生してしまい、輸入制限地域の産品が、実際に自国に輸入されてきているのが分かった・・という次第ですから、今回は、そりゃァ、何がどうなろうが、規制を実施せざるを得ない立場にあると思います。

日本が逆の立場だったら、きっとそうするでしょう。そうしなかったら、一種の暴動でしょうネ・・

確かに、食品輸入のプロとして、日本の製造所固有記号の意味を知らなかったのでは、無論、落第で、それを弁護する気は全く無いんですが、まぁ、観念的な言い方をすれば、最終的に転んだのは台湾の輸入業者ではあるんだけれども(だから、台湾の輸入業者も悪い)、5mくらい手前で、足をかけて転ばせたのは、日本(のラベル表記制度)のように思えてなりません。

私の会社で輸出しているリンゴジュースには、”日本原産進口”と、大きく書いてあります。”日本で製造し、日本で容器に入れて、そのまま輸入してきました”という意味です。
台湾の消費者の、日本製品に対する信頼感は、決して小さくないんですネ・・
せっかくの信頼感を、日本のラベル制度が元でブチ壊すなんて、実にアホウな事ですが、ラベル制度を改められないのであれば、今回の新規制にある、政府が発給した公的な産地証明を求められるのは、むしろ、当たり前のように思えます。

毎度、長文失礼しました。

広瀬寿秀 さんのコメント...

大変、貴重なご意見、ありがとうございました。早速、地元の新聞社の方にも匿名さんのコメントを読むように依頼しました。すると地元新聞の記事は共同通信の記事をそのまま、載せているとのことでした。こういった事件の奥の問題点としては仰るようにラベル表示制度があり、以前、青森県産リンゴジュースといいながら中国産を使った事件もあり(知人で、その後の経過を見ると可哀想な気がしましたが)、とっくにそういった問題は解決していると思っていましたが、未だに表示制度自体は変わっていないことを初めて知りました。誰が反対しているのかわかりませんが、今後、TPPがらみのことを考えると、消費者からすれば、きちんと生産地の表示をきちんとしてほしいものです。