2015年8月2日日曜日

通常兵器の高騰化

 今日、買ってきた本である。全く脈絡もなく、どんな脳の回路をしているか疑いたくなるような選択である。「弱虫ペダル」は10巻を越えると展開が遅くなり、ここは一気にツールドフランスまでもっていってほしいところである。「ミッドウェイ海戦『魔の5分間』がなければ日本は太平洋戦争に完全勝利していた」。こうしたIFものは、ほとんどナンセンスなものばかりで、この本もざっと見ただけで、突っ込み所満載のおそまつな内容だが、つい買ってしまう。「終戦勅書と日本政治 義命と時運の相克」は真面目な本であるが、安岡正篤がどうかかわっていたか、興味があり購入した。

 新国立競技場の建築費が2000億円を越え、高すぎると話題になっている。前のブログで海上自衛隊の最新イージス艦が1680億円だとしたが、それを考えると森元首相が発言したように、新国立競技場の建築費はそんなに高くない。

 世界各国の軍隊で今、一番問題となっているのは装備品の高騰で、武器があまりに高くて、買えない。F-15の価格は30億円(アメリカ価格)くらいであったのが、次期戦闘機のF35になると、この5150億円以上になるようで、代替わりのF-420億くらいなので、同じ予算で1/7しか買えないことになる。これは最新の武器は電子機器のかたまりで、高度化していることと、ボーイングなどの軍需産業が、開発費などすべの経費を価格に転嫁していることによる。同様なことはロシアでもそうであり、国有工場であったときは、戦闘機、戦車などの価格は低く抑えられていたが、民間企業になると、高くなってしまった。スホーイのSu-35の例では、韓国に出した提示価格は一機、125億円とロシア機とは思えない価格である。おそらく中国ではこのコピー品を安価に作っているようだが、どうしてもエンジン開発ができず、今後はロシアも輸出に対しては強気にかなり高い価格設定となろう。

 戦前は町の有力者や町内で軍に飛行機を寄付することもあったが(報国献納機)、今ではあまりに高くて、こうしたことは全く不可能となった。それ故、北朝鮮のような貧困国では最も安価な核兵器に防衛を頼ることになるし、フィリッピンでも軍事予算が3000億円しかないため、戦闘機は保有していない。他国でも、戦闘機は高くて買えないところが多い。さらに兵器の高度化に伴い、兵士の教育費もかかり、一人の戦闘機パイロットを育てるのに数億円の費用がかかる。

 150億円の戦闘機、500億円の早期警戒管制機、2000億円のイージス艦、1兆円の空母もたった一発のミサイルで破壊されることを考えると、おちおちと使えないし、太平洋戦争のように数年にわたる戦争は、財政上不可能である。それ故、消耗戦になる大国同士の戦争は財政上、難しいし、まして長期戦は武器調達、兵士の教育の点でも厳しい。遭遇戦はあっても全面戦争は無理となる。唯一、それが可能なのはアメリカのみで、多少の損失を覚悟して実戦にこうした高価な兵器を投入できる。また長期戦になってもある程度の武器調達も可能であろう。

 もし中国がアメリカ並みに空母10隻、イージス艦70隻、原子力潜水艦70隻、F-351700機揃えようとすれば、旧ロシアと同じく、国家は確実に崩壊するし、このことは十分に承知しているだろう。それでもアジア諸国では武器が高騰していることと、アメリカ軍の撤退のため、南シナ海を中心として軍事的な空白地帯が発生し、中国の進出を許している。アメリカはすでに軍備費の削減を目指しており、軍需産業も利益率の高いものしか生産しないため、アメリカに変わる国として日本が注目されている。アジア諸国に対する日本からの武器、とくに哨戒機と潜水艦の輸出、供給は、中国にとって脅威となる。まさかあの日本が武器の輸出国になろうとは思ってはいなかったのだろう。安倍首相のこうした政策は、大きな抑止力となっている。

 日本の最新式の哨戒機P-1の価格は100-150億円、これはアメリカ軍のP-8の半額、潜水艦そうりゅう型は600億円、アメリカ海軍のバージニア級は1400億円(シーウルフは2000億円)で、日本の武器は高騰した時代にあって比較的安く、さらに量産効果でもっと安くなる。安全保障上、武器輸出の両者から、くさびのなくなった日本では今後の展開が期待されているが、覇権主義の中国からも、家電、自動車の二の舞のならないことを恐れるアメリカからも反対されよう。また日本の軍需産業ももうけの少ない軍需品の輸出には消極的である。第二次世界戦争以降、正規軍同士の戦いと言えば、湾岸戦争が最後であるが、これとてアメリカ(多国籍軍)とイランという戦力的にはほぼ非対称戦争である。現在のイスラム国は金のかかる空軍、海軍は保持せず、制海、制空権を放棄したゲリラ戦であり、冷戦終了後、各国の軍事対象がテロを中心としたものに移行したのも、こうした武器の高騰が一つの要因である。そこに豊かになった中国が軍備の増強に乗り出したが、さすがにこうした高価な武器を惜しげもなく使えるかというと疑問であり、年金、健康保険などの国内の社会保障費の増大に伴い、今後はかなり難しいと思われる。さらにベトナム、インドネシアなど、南シナ海周辺国も中国の進出に最も効果があり、コストパーフォーパンスの高い、潜水艦の導入を進めており、いっそう中国の海上進出は金のかかるものとなる。アメリカのような空母打撃群を少なくとも2セットもつためには、平時下でも一つの打撃群にミサイル巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、攻撃型潜水艦1隻、補給艦1隻が最低限必要である。さらにカタパルトのない空母では固定機の哨戒機を出せないので、より密度の高い護衛艦が必要であり、一隻の潜水艦のために、途方もない軍備費を必要とする。
 貧者の究極の武器は通常兵器に比べて安い核兵器であり、これこそは北朝鮮だけでなく、イスラム国などテロ活動を行う集団にとっては、一番ほしい武器であり、核兵器の拡散こそ最も心配なことである。

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